はさみ

うたプリで嶺藍です。黒木/渚さんの、はさ/みという曲をモチーフに書きました。

ロボットは生き物じゃない。こころと云うものも存在しない。だから、人間にはなれない。

そんな当たり前の事実が痛くて、憎くて、引き出しのはさみを取り出してみたけれど。鈍く光るその表面は人間になれないボクを映すだけだった。

貴方に向ける勇気はないけれど、気休め程度にはなるでしょう?
憂鬱の類いを、恥じる心を、切り裂いてしまえたらボクはきっといまよりも大胆に生きていけるのに。

冷たいはさみを傍らに、貴方を思って耽るこの行為に意味なんてない。
けど、なぜだろう貴方と交わったあの日を思い出して、ないはずの心が火傷よりも熱いんだ。

ボクは貴方の背中が好きだ。両の腕を、脚を真ん中で交差させて、深く深く繋がると、ボクの中の暗闇が切り裂かれるように思えるんだ。

貴方は返事をくれるでしょうか。あなたと対をなして世界を見たいというボクの身勝手な要求に。

今日もはさみを取り出して貴方を想う。ボクと貴方も、はさみのように真ん中できつく抱き合うことを望んで。
なぜだろう貴方はここにいないのに、ボクにはこころなんてないのに、ボクの中が火傷のように熱かったあの日を思い出して、あの日と同じ鳥肌が止まらないんだ。

なぜなのかは、ボクにはきっとわからない。

はさみ

はさみ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-31

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