奇術部に奇怪

私の初の連載作品です。
駄文だとは思いますが少々でもいいので目を通して頂けると幸いです。

ある日からの「私」の新しい一年が始まる

ご機嫌よう諸君。
今宵私がこうして寒い春空の下にさらされているのは他でもなく彼女との約束を果たす為である。
彼女はいったい今どこで何をしているのであろうか。
時は遡り一月前。

私は何時ものように部室に向かっていた。
部室に向かう廊下の途中にある沢山の落書きを何気無く眺めながら歩いていく、そんないつもと変わらない日常に私は久しく満足感を覚えた。
しかしそんな日常は彼女によって打ち破られるのであった。
部室に入ると手品部の面々が揃っていた。

「あら、先輩おはようございます」
そう言って副部長の安藤が私に声をかけてきた。
「おはよう、新入部員は?」
唐突に投げかけた質疑には差し支えて意味はなく単なる好奇心からなるモノであった。
まあ、答えは決まっているな。
「残念ながら有りませんわ、このまま来年には廃部になってしまうのかしら」
そう彼女が呟くこともまた予想の範疇で有った。
「うーん…」
そう私は唸るように考えて一つの答えを導き出した。

「勧誘をしよう」
うむ、我ながら至極普遍的な考えであろう。
「勧誘と仰りましても部員は私達二人だけですわ」
それもまた予想の範疇であった為に返す言葉の用意を怠っていなかった。
「安藤」
「はい何でしょう」

「お前は勧誘というものの具体的な定義を知っているかね」
そう私は安藤に尋ねて見たところでこの論の着地点を見失った。
不思議な顔をする安藤に続けざまに適当に見繕った自論を振りかざす。
「勧誘とは人数が多い方が一般的には効率的だとされている」
「はい」
安藤がいささか適当に相槌を打った気がしたが私は続ける。
「だがね安藤よ俺は一般の定義の中に収まっている様ではこの大義を成し遂げる事は出来ないと思うのだよ」
「と、いうと」
安藤が素で尋ねてくる。
「と、とにかく勧誘に行くぞ安藤」
素の安藤には勝てる気がしなかったので身を引いておく事にした。

「よくわかりませんが勧誘を行なう方向で行くのですね」
「そうだ」
「では勧誘方法についての計画の目処は建っていると」
むむ、この女め。
つくづく痛い所を付いてくる。
「無論だ」
自信なさげに私が言ったからか安藤がそう読みとったのかはわからないが安藤が提案する。
「ではその案は却下して私が独断で勧誘方法を提示させて頂きます」
「む、無論だ」

「では其方の計画の方は放課後にお伝えしますので今回のところはお開きということで」
安藤がそう言うと私は部室に来てからずっと仁王立ちしていた事ともう朝の部活動時間が経過していたことに気づいた。
「わかった、この件は安藤に任す」
「わかりました教室に戻りましょう」
振り返りスライドドアを開け放つとガランとした廊下が見える。

この特別棟は普段は生徒が使用する事はないために基本的に静寂感が漂っている。
古ぼけた落書きが立ち並んでおり、その不思議な落書きの数々はちょっとした絵本を見ているような不思議な感覚を無意識に覚えてしまう。
ただその日は違った。
ドアを開け立ち並ぶ絵本が織り成すファンタジーの中に颯爽と彼女は立っていた。
それはまるで小さな水溜りにあめんぼうを見つけた時のような感覚。
それが彼女と私の出会いだった。

「あ、あのぉ」
かつてない程に私の声はか細く小さかったであろう。
彼女はこちらに全く気づいていない様子である。
あまりの美しき佇まいに幻影ではないかと両の手で顔を拭いて目をゴシゴシとこすった。
しかし彼女はいつまでも其処に存在している、うん幻影じゃないな。
私がワザと大きく咳払いをしてみせると彼女は肩をびくりと震わせて此方をゆっくりとみた。
「手品部に何か用かな」
私は彼女に質問する。
「え、あ…いや」
曖昧な返事をする彼女に不意に見惚れる。

「新入生の子かい」
「ええ、まあ」
「部活は決めたのかい」
「ええ、まあ」
そんな内容のない会話ん続けていると部室の中から安藤が姿をみせた。
安藤はすこし顔を引きつらせて驚いたように私を見つめる。
「なんだ」
「この子は」
安藤が期待したように私に尋ねる。
「知らん」
「はあ?知らんとは」
知らんと言う言葉に偽りは無い、私が彼女について知っている情報など取捨選択すれば知らないも同然だからだ。
痺れを切らした安藤が彼女に尋ねる。
「入部希望の方ですかね」
「あ、はい。まあ」

「まあ!本当ですこと!」
珍しく安藤が大声をあげて嬉々とした表情をみせる。
「では早速入部届けを」
そう言いかけた所で私が安藤の声を遮る。
「時間が時間だからまた業後ということで構わないかい」
「ええ、それは当然です」
彼女が遠慮気味に同意すると同時にちょっとだけ安藤が悲しそうな顔をしていた。
「じゃあ後で」
そう私は言って部室を後にした。
一緒に歩き出した安藤はずっと「やりましたね」とか「嬉しい」などと小言をいって喜んでいる。
耳障りな事この上ない。

しかし私は全く違った。
逆に「何故?」という疑惑の念しか湧いて来ない。
まあ口に出したら安藤が煩いだろうから言わなかったがやはり払拭しきれない部分があった。
そもそも彼女の雰囲気は手品部にそぐわない。
まあ完全に私の偏見だろうが彼女のように美しい女性は手品部などと言った『超マニアック』な部活に入る訳が無い。断じて無い。
私が老け込むように考えていたせいか安藤が顔を覗きこんできた。
「どうかしました」
「いや」
即答してしまったせいか安藤がムッとした顔をして顔に指を突き立ててくる。
「また変なこと考えてませんか。やめてくださいよ余計なことするの」
安藤が釘を刺してきた。
やはりこう長い付き合いになると分かるものなのだろうか。

「分かってるよ」
私は笑顔で答える。
その言葉を聞くと安藤は安心した様子をみせた。
安藤は本当に私の事をよく理解してくれている。
付き合いは中学からになるが今の今まで片時も私に対する理解を感じなかった日は無い。
「あのさ」
「はい?」
「ありがとう」
「なんですか急に」
不意に出てしまった言葉に自らも戸惑う。安藤よりも戸惑った。
私が答えられずにいると安藤はまたしても理解したのか。
「あんまり迷惑かけないでくださいよ」と言ってくれた。

私たちは学年が違うので館が別々だ。
そのため必然的に部室帰りは分かれ道に差し掛かる。
特別棟から南にすっと渡り廊下が伸びていてその渡り廊下を渡った先が二年の教室と一年の教室がある南館、更にその先が職員室と三年の教室がある北館が存在している。
「じゃあ先輩、私はここで」
「ああ、また業後に」
いつもと同じ挨拶を交わした末に安藤はいつもと同じ様に廊下を歩いていき小さくなっていく。
いつまでも見ていると変態扱いされそうなのでさっさと行くとしよう。


こんにちは皆さん。
私は今年この学校に入学した一年生です。
私はこの学校にある目的を持って入学したのですがそれはまだ秘密。
ですがその目的を果たす為には手品部に入部する必要があるので私は今から入部届けを出すために手品部の部室を探すのです。
「どこだろ?」
そう私は呟くとスタスタと当てもなく長い渡り廊下を北へ進んでいきました。
渡り廊下に出るとヒュウっと冷たい風が頬を掠めて行きました。
もう4月と言えどまだまだ空気はひんやりとしていてとても春とは思えません。
下がってきていたソックスを上に引っ張り少しだけ防寒対策をしてみたりしますがあんまり変わらないのでさっさと北館に入ることにしました。

北館に入るとこれまた長い廊下があります。壁にはこの学校の様々な部活が取ってきた生えある賞状の数々が「これが我が校だ!」と言わんばかりに並んでいました。
色々と見ていくと「サッカー部○○地区優勝」「箏曲部全国準優勝」などと我が校栄光の歴史がいっぱいです。
そんなことをしていると「あっ」と気づきます。私は今手品部を探しているんだったと。
とはいえ部室の位置は不明ですのでどうしようかなぁと迷っていると視界に「職員室」の3文字が飛び込んできました。

「失礼します」
そういってドアを開けて中に入ると朝の部活動に行っているのか先生は数人お居りになられませんでした。
「手品部の顧問の松本先生はいらっしゃるでしょうか」
「あー、お前かこっちこっち」
私が入ってきた時点で気づいていたのかわりかし早い段階で返事が聞こえてきました。
「御無沙汰してます松本先生」
「おう、で何の用だ?ウチは結構忙しいんだが」
そういいながらも松本先生はタバコをスパスパとふかしていました。
「手品部に入部しようと思うのですが」
「まじ?お前が?何でまた手品なんだよ」

松本先生はそう言うと怪訝な顔をして机の引き出しをお開きになられました。
中からプリントアウトされた紙を1枚取り出すと仰ります。
「入部届けは本来部長から渡すものなんだがお前に先に渡しといてやるから部長に出せ」
「ありがとうございます」
そういってまだ真っ白な入部届けを両手で丁寧に受け取りました。
「ところで松本先生、部室はどちらに」
「特別棟の3階にある多目的室を使わせてる」
「ありがとうございます」
そういって職員室を後にしました。

特別棟に着くとさっきの物々しい雰囲気とは打って変わってガランとした何処か切なげな雰囲気が漂ってきます。
3階の多目的室と松本先生が仰りったのを思い出し階段を上がります。
階段を上がっている途中にも所々土埃が漂っており鼻をくすぐります。
3階につくとこれまた長ったらしい廊下が続いています。
多目的室と思われる部屋を発見して近づいて行く途中に、興味深いものを見つけて私は立ち止まります。
「落書き?」
壁に沢山の落書きがあることに気がつきふと不思議な感覚に襲われました。

どうしてこの館だけにこんなに沢山の落書きがあるのでしょう。
この学校自体は確か出来て日が長く戦後に設立されたはずです。
それにしてもこの壁の落書きの数は異様でした。
そんな事を考えているとゴホンと大きな咳払いが後方から聞こえてきて肩がビクリと震えました。びっくりした。
ゆっくり振り返るとそこにはすっとした男性が立っていた。

「手品部に何か用かな?」
男性がいきなり質問してきてびっくりした私は「え、あ…いや」と何故か否定してしまいました。私のお馬鹿。
男性が次々と質問してくるので戸惑いながら返事をしていると多目的室の中から綺麗な女の人が出てきました。
女の人は私をみるなり目を輝かせて男の人をみました。

「この子は」
と女の人が男性に尋ねますが男性は冷たく「知らん」と一蹴します。
なにやら色々と話した後に私に再度女の人が尋ねてきます。
「入部希望の方ですかね」
「あ、はい。まあ」
その瞬間に女の人が大きな声で自らの歓喜の声を挙げました。
男の人はなにやら面倒臭そうな顔をしています。
纏めると入部届けは業後の部活動の時に受け取るという事らしい。
かくして私の手品部への入部が決まりました。

奇術部に奇怪

如何でしたでしょうか?
まえがきの方にも書かせていただいた様にたいへん読みづらい文章だったでしょうがここまで読んでいただけたなら誠に陳謝致します。
感想のほうを是非ともお聞かせください。
厳しい意見の方も構いません。

奇術部に奇怪

人員不足の手品部を救うかの様に現れた「彼女」と部長の「私」が織り成す青春ミステリー。 大人しそうな見た目と打って変わり「彼女」の技に惚れた「私」ある日「彼女」とある約束をする。冒頭はその描写であり本編はそこまでの一ヶ月間の冒頭を描いています。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-31

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted