百合結び

構想から執筆終了まで2時間程度を目安に
ざっと見用に書いたものです。
未完なので本編はまだまだ増やせます。

本編をざっと見用に詰めまくった試作

その日は大雨だった。
空気を裂き、大地に打ち付ける無数の雨粒が怒号となって押し寄せていた。
僕は特にやる事もなく、早々に眠りについたのだった。

翌日、前日の雨が嘘のように快晴となった。
寒い冬が別れを告げ、暖かな小春日和に包まれた街は小鳥のさえずりと同時に一日の始まりを告げていた。
私立風見原高校に入学した僕は両親の仕事の都合でこの街に引っ越して来たばかり。
知り合いなど居るわけでも無く緊張した面持ちのまま学校へと向かった。

-うう…緊張するな…友達出来るかな。-

入学式は何事も無く終わり、ホームルームへと移った。
各々が自己紹介を済ませひと段落した。
皆、個性的ではあるが私立というだけあって素行の悪そうな奴は居ない。
「それでは今日はここまで。皆、明日から授業始まるから、しっかり準備してくるようにね。」

ありきたりな担任の一言でお開きとなった。
「うーん疲れたな。とりあえず帰るか。」
早々に家路につくことにした。
元々身体の弱い僕にとっては、あまりエネルギーを使うような行動は極力避けたいところなのだ。
クラスメイトとニ、三言葉を交わし校門を出た。
僕の家は両親共不在である事が多々あるので直ぐ家に帰っても面白く無い。
「…ちょっと寄り道するか。」
独り言をちびちび言いながら裏山へと向かった。
昔から人と接するのが苦手だったので、こうして一人で行動する事が多い。
これが、後に人生を大きく左右するとは思いもしなかったけど。


~ あなたは誰?~

裏山の展望台に着き、芝生へ腰を下ろした。
ほどよい暖かな日差しと柔らかいそよ風、鮮やかな花の匂いが広がる。
「良い天気だなぁ。お昼寝にはもってこいだな。」
そっと目を閉じ物思いに耽っていた。
住み慣れた街を離れる事に抵抗はあった。正直なところ、高校も地元が良かった。
両親の仕事の都合なら仕方ないのだろうが、まだ割り切れないでいた。
「ホームシックってやつなのかな?」
弱い微笑みを浮かべつつも、優しく訪れた睡魔に意識を預けていた。

どれくらい眠っていたのだろうか。
辺りがひっそりと夕闇に包まれていた。一日の終わりを告げているようだ。
「あ、寝てたのか。疲れてるんだろうな…。帰らなきゃ。」

重い腰をあげ、歩き出そうとしたその刹那…
-誰かいる?-
直感で悟った。誰も居ないハズなのに誰かに見られている気がした。
「誰か居るの?」
小さく問いかけたが、返事は無い。
-気のせいか-

寝ぼけてるんだろうと一人納得し裏山を下りていった。
彼が眠っていた場所には一輪の百合が佇んでいた。

翌朝、いつもより少し早目に目が覚めた僕は学校へノロノロと向かっていた。
「ねむ…。」
目をこすり、あくびをしながら道を歩いていると急に足を止めた。
-また誰かいる…?-
しかし、周囲には誰も居ない。
「あれ?」
なんだろう、この不思議な感覚。
気味が悪い。
ピッチを少し速めて足早に学校へと急いだ。
彼が通った歩道橋には一輪の百合が供えられていたが、彼は気付いていなかった。

「では、次の問題だが…そうだな…恭介、解いてみろ。」
僕はそつなく解いた。
勉強だけは割と得意な方だった。
しかしどうもコミュニケーションを取るのが苦手で、会話をするのも苦手だった。

放課後、一人教室に残って課題を進めていた。
家に帰っても親は仕事でまだ居ないだろうし、何よりも家で勉強をするのは億劫だったから。

ふと顔を上げてみる。
黒板には薄っすらと授業の痕跡が残されていた。
「ちゃんと消さないと駄目だよね」
一度意識すると無視せずには居られない。
黒い無機質な板へ歩み寄り綺麗に消し去った。
恭介は再び自分の席へと戻った。
課題を終え夕焼けが差し込む教室を出た。
彼はまたも気付いていなかった。
教壇に置かれた一輪の百合に。

その夜、恭介はベッドライトを付け小説を読んでいた。
ジッドの狭き門だ。高校生にしては複雑な内容ではあるが、文学に多少の嗜みを心得ていた彼はこういった小説を読むのが好きなのだ。
キリの良いところまで読み、ベッドライトを消した。
間も無くして彼は眠りについた。
机の上には月光に照らされた百合が輝いていた。

翌日は休みだったので、恭介は町へ出かける事にした。
既に誰も居なくなったリビングで少し遅めの朝食を済ませ、部屋で着替えた。
ふと何か甘い香りがしたように感じたが彼はあまり気に留めなかった。
机の上には百合が佇んでいたが彼は気付いていない。

見知らぬ町を歩くというのは案外楽しいもので、彼は辺りを見回しながら気になる店を冷やかしながら彷徨うように町を練り歩いていた。
その時だった。
「あの、すみません。」
声をかけられた。
ふと目をやると同じ年頃の女の子が恭介の横に居た。
「どうかしましたか?」
恭介はそこそこ勇気を出して話しかけた。
「風見原高校は何処ですか?」
そう尋ねられた。
地元の子じゃないのだろうかとあまり気にも留めずに恭介は返事をやった。
「風見原高校は僕の通う学校ですけど…どうかしました?」
その女の子は少し間を置いてこう言った。
「用事があって行きたいんですけど、場所がいまいち分からなくて…よかったら案内してくれませんか?」
見知らぬ女の子に話しかけられたばかりか、道案内までお願いされ少し戸惑ったものの、お人好しな性格でもある恭介はその役を買って出た。
2人並んで並木道を歩く。
特に会話があるわけでもなく半歩後をついてくる女の子。
恭介は内心緊張していた。
綺麗な黒髪に白のワンピースという絵に書いた和風美人な女の子と歩いているだけで胸が高鳴った。
-この子高校生なのかな?それにしては美人だよな。-

学校へと辿り着くのにはさほど時間はかからなかった。
「ここが、風見原高校です。」
目的地へと到着し女の子に目を向けると、その女の子は居なかった。

-あれ?今さっきまで後ろを歩いてたよな?-
呆気に取られていたが、お礼も何も言わず姿を消した女の子に対して少なからず憤りのようなものを感じていた。
「なんなんだよ…一体」
仕方なく学校に背を向け歩き出した。
校門には一輪の百合が風になびいていた。

その日は両親共仕事が早く終わり、皆で外食へ出かけた。
久しぶりに家族揃ってゆっくり食事が出来る。恭介は嬉しそうだった。
「恭介いつもゴメンねぇ。お父さんもお母さんも仕事忙しいから寂しい思いさせて。」
昔は寂しくて留守番をしているのが苦痛だったが、もう高校生なのだ。
今はむしろ一人で居る事の気楽さが嬉しい。
「仕事だから仕方ないよ。僕も高校生だしね。大丈夫だからさ」

そう返し、それから何の変哲もない家族団らんの会話を繰り返していた。
その時だった。
-また…。誰か見てる?-

車窓から外を見つめるも特に視線の主らしき人物は見当たらない。
気のせいかな?と考えていた時、信号待ちの為車が止まった。
その時恭介は信号機の根元に花が供えられているのを見た。
-白い百合か。交通事故でもあったのかな…-

あまり見ていて気持ちの良いものでも無い。視線を前に移したその時たまたま見てしまった。

昼間出会った女の子だった。
白いワンピースが映える黒髪をたなびかせ横断歩道を歩いていた。
-あ、あの子は-

そう思った瞬間だった。
信号無視のトラックが恭介達の乗る車をめがけて突っ込んで来たのだ。
考える暇は無かった。
あっと思った瞬間には世界は暗転していた。

信号機に供えられていた百合は枯れていた。


どれぐらいの時間が流れたのだろうか。
ゆっくりと目を覚ました。
目の前には天井が見える。身体中が痛い。
頭もボンヤリしている。
-お父さんとお母さんは?-
頭に浮かんだ疑問を解く暇も無く再び意識を手放していた。

窓を叩く雨粒の音で目が覚めた。
傍には叔父と叔母が居た。
「お父さんとお母さんは?」
まず二人にそう問いかけた。
返事は無かった。代わりに沈痛な表情を浮かべた叔父が真っ赤に泣き腫らした目を向けた。
「恭介、お父さんとお母さんだがな…。」
そこで言葉を詰まらせ首を横に振った。
-死-
両親共に即死だったらしい。
後部座席に座っていた恭介だけかろうじて怪我で済んだ。
もっとも軽い怪我などでは無かったが。
トラックを運転していた男性は居眠り運転だったらしく、こちらも意識不明の重体とのこと。
叔父も叔母も一旦席を外し、恭介だけが取り残された。
窓から差し込む月明かりが冷たく感じた。
月光に染まった百合が活けられていたが恭介は見ていなかった。

-あの女の子も巻き込まれたのかな?-
そう思ったが、両親の死を実感出来ない思考では何を考えても無駄だった。

恭介は目を閉じた。
-あの女の子は誰なんだろう-

眠れるわけは無いが何も出来ない今の状況では他にやる事も無い。
身体は痛い。
両親の死に直面したのに感情が麻痺しているのか悲しくは無かった。
ただただ白いワンピースの女の子が頭から離れなかった。

数日後に両親の葬儀がしめやかに行なわれ初めて涙を流した。
突然の死別は耐え難い哀しみだった。
近所の霊園に墓を構えて納骨した。
色鮮やかな花が供えられた。
一輪の黒い百合が隠れるほどに。

それからほどなくして学校へ通い出した。
腕にはギプスをはめていたが幸いにも利き手が使えた為勉強にはあまり支障は出なかった。
もっとも勉強など全く頭に入るわけも無く、窓から外を眺めるだけの時間を送っていた。
すると、人影がある事に気が付いた。
校庭の隅に鎮座する影。
目を凝らすとそれは紛れも無く『あの』女の子だった。
-また居る-
不気味にすら感じた。いても立っても居られなくなり、保健室へ行くと嘘をつき教室を出た。
真っ直ぐに校庭へと向かって。

-誰なんだあの子は。どうして僕の近くに居るんだ。どうして、どうして、どうして。-
疑問を解かなくてはならなかった。

教室から彼女を見かけた場所へ足早に向かうと、その女の子は居た。
綺麗な黒髪に白のワンピース。
見慣れた格好だった。
恭介は意を決して話しかけた。
「君は、誰?」

~ 過去 ~

とある小さな町にそれはそれは可愛らしい少女が居た。
少女の名前は結希。
大人しく清楚な女の子は大人からも子供からも人気だった。
成績も良く運動も出来た彼女は将来を有望視されていたが、ある日事件に巻き込まれてしまう。

小高い丘に遊びに来ていた結希は頂きにある展望台の手すりから転落。そのまま麓まで滑落してしまった。
その姿は見るに耐えられないほどの損傷を受け、散らばった身体の部品を集めて繋げてから棺に収めるほどであった。

若くして命を落とした少女は夢を抱いていた。

『お花屋さんになりたい』他愛もない普通の夢だった。
少女の棺には沢山の花が入れられた。
色とりどりの無数の百合が。

儚く散った命と夢と百合と。
遠い夏の日に。


~ エピローグ~
恭介は高校を卒業し、風見原市内の製薬会社に入社した。
小さいながらも仕事は山のようにある。
とても忙しい日々を送っていたが、彼のデスクにはいつも百合が佇んでいる。
同僚や上司からは茶化される事もあるが、恭介は決して百合を絶やす事はなかった。

「相変わらず忙しいな…。たまにはゆっくり地元に帰りたいぐらいなんだけどな。」
愚痴を零すも真面目な恭介は休まず働き続ける。

彼は時折視線を感じたり見てしまう事がある。
『あの』女の子だ。
視界の隅に少しだけ、白いワンピースが踊った。目を向けると消えていた。
「またか」

この現象は日に日に起こる間隔が短くなっている気がする。
いつの日か白いワンピースの女の子で世界が染まるのかも知れない。
しかし、恭介はもう迷う事も驚く事も無い。
-百合が消えたら、終わる-


「私は百合になりたいな」
真っ白な百合になりたいし、黒くて綺麗な百合にもなりたい。
女の子はそう言い遺してこの世を去った。
白い百合をワンピースに、
黒い百合を綺麗な黒髪に変えて。

今日も町を歩きましょう。
小鳥が唄い風か踊る。
そんな世界が待っていたのに。
百合は枯れた。

あの男の子が背中に敷いて潰してしまったのね。
いけない子。

-お仕置きしなきゃね-

あの時から運命は定められたレールに乗ってしまったのだろうか?
それとも、単なる偶然なのだろうか?
少なくとも、あの日校庭の隅で目を見つめた女の子はただただ微笑んでいた事が記憶に深く刻まれていた。

季節外れの百合だった。

百合結び

頭が痛い。
文章を考えるのは頭痛との闘いでした。
本編すっ飛ばしの略式も略式ですが初作品でした。

百合結び

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-31

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