死神の鎌

一人の死神、一人の人間、どちらも同じ心を持っていた。

死神と人間

一度死を迎え、人の心を失った死神はある一人の人間に出会った。
その人間は重い運命を背負わされた独りの女性だった。
彼女の家系は代々悪霊を除霊するエクソシストで、近日両親は仕事で亡くなっていた。
「私が...やらなくてはいけなくなったのです。」
死神は人の心は持たないまでも、彼女のそう言った表情があまりに悲しげで無い心が揺らいだのだった。

「さまよえる魂を回収する役目を負っているが、悪霊が増え、俺は仕事が出来ないでいる。貴女の仕事を手助けするかわりに、俺の仕事にも協力してくれないか。」
ほんの…暇潰しで言った言葉に彼女が泣きそうに頷くのを見てまた心が揺らぐ。
そうか…この女は独りで、泣きたくても泣けないのだ…と。だから、俺の言葉を優しさとして受け取ったのだと。
馬鹿な女だ。俺は自分の仕事をする上で貴女が都合が良いというだけなのに。
「簡単に了承するんだな。俺は貴女を利用すると言っている。やはり、一人となった人間は寂しいものなのか。」
「寂しいですよ…だから私も貴方を利用します。」
少し笑った彼女の顔は俺はこの先ずっと忘れないと思った。そのくらい、人間にしては悲しく笑った顔だった。

それから俺はエクソシストという役名で彼女と行動を共にした。
彼女は身の丈に合わない鎌を仕事の道具としていた。
その鎌の刃を見れば、いかにエクソシストが危ないものか分かるだろう。
現に悪霊の霊力は日に日に増しているようで、彼女は何度か死にかけもした。
だが、決して彼女は俺に助けてとは言わなかった。
だから俺は助けるしかなかった。
人間が死ぬのはどうでもいい。ただ、彼女のありがとう、という言葉がなぜか俺の心をざわつかせた。だから興味本意で助けただけだ。

彼女は両親を殺した霊を探していた。
「私が…やらなくてはいけなくなったのです。」
彼女のやりたいこと、それはその悪霊を除霊することだった。
彼女がやっと探し出したその悪霊は、とてつもない負をまとっていた。
何十人も人を殺してきたようだった。
「やめておけ。これは貴女が除霊できるようなものではない。俺がやる…貴女の代わりに。」
俺はそう言って彼女を止めた。
「死神は魂の回収以外認められない…そうでしょう?」
悪霊を消す行為、徐霊は死神にとって禁忌。
それでも俺は…かまわないとさえ思った。
しかし、口から出た言葉はうらはら。
「死んでもかまわないと…?」
「ただ死ぬのではないですから。」
俺は黙ってみていた。彼女は決して助けてとは言わなかった。だから俺は、助けなかった。
除霊のすえ、彼女は呪われた。
「俺の目で言わせてもらうと貴女の命は残り1ヶ月…この先どうするつもりだ。」
「1ヶ月…ですか。では、残りの1ヶ月私の仕事を手助けしてくださいませんか。貴方の仕事を手伝うかわりに。」
俺は無言で頷いた。自分の言葉がこれほどまでに心を揺さぶるのか。
それとも、彼女の笑顔にだろうか。

彼女は死ぬ間際に言った。
「優しくしてくれて、最期まで傍にいてくれて…ありがとう。」
そして俺の頬に触れた。
「死神も…泣くのね。」
そう言って涙を流した彼女は息を引き取った。
静かに彼女の髪を撫で、頬に口づけた。
俺が本当に貴女の言う通り優しければ、貴女を死なせはしなかった。
馬鹿だと罵られるべきは俺だったのだ。
知っていた…何もかも。
貴女の両親が殺されてから全て決まっていたシナリオ。
貴女が死ぬのを知っていた。
本来なら貴女が死ぬのを待って、回収の時のみ接触するはずだった。
だが俺は声をかけた。
両親が死んで一度も涙を見せない強い瞳に俺は惹かれた。
いや、彼女に惹かれてしまったからだ。
今さらその感情に気づいた。

彼女の胸にそっと手を当てる。
まだ温かい、俺は唇を噛んだ。
彼女の鎌を自分の手首にあてがい切った。
一種の契約、自分のものとして認めるために血をつける。
「いつか貴女に会えるまで。俺が預かる。」
彼女の魂をしっかりと抱え、鎌を携えた。


「あいつのあの鎌、なに?」
「人の物らしい。いつか返すんだと。」
「いつ転生するかも分からない人間を待ってるのか。」
他の死神は怪訝そうに鎌を見る。
俺に人間の心が戻ったことなど知るよしもなく。
何百年でもいい。何千年かかってもいい。
もう一度会えたら、人として優しくしたい。
人として抱きしめてやりたい。


俺は人の心を忘れないために…
彼女を忘れないために…
今も鎌を握っている。

死神の鎌

この作品はだいぶ幼いときに書いたものを引っ張り出して、ちょっとアレンジを加えたものを小説としてまとめました。なので、若干、いやかなりぶっとんでるなと思います。ファンタジーと呼んで良いのやら。
設定など作者の創造で、死神ってこんなだよってことではないので一応ご注意です。
死神ってなんで鎌持ってるんだろ…ってところから幼心に書き始めたんだろうと思います。

死神の鎌

貴女の命に触れることを許してほしい。 それが役目であり、願いだから。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-31

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 死神と人間