ユグドラシル
1.偵察の少年と少女
「10時方向、約3200ケルメルト。敵艦多数。」
偵察戦闘騎【アウロラ】のコックピット。
その後席でヴァルカが自身の目と感覚が捉えた物体を知らせた。
「了解。」
僕の目線もヴァルカの指した方角を捉える。
赤黒い装甲に、上部甲板の多数の砲塔。
間違いない、帝国の航空艦隊だ。
「黒の下地に紅い稲妻…。帝国“神速”の第7師団……。」
狭いコックピットで身をよじらせ、ヴァルカは望遠鏡を使っている。
「相変わらずすごいね。」
「…。」
望遠鏡を使っているとはいえ、動く敵艦の軍旗を見分けるヴァルカの視力は超人的だ。
素直に称賛したつもりなのだがヴァルカは後ろで黙ってしまった。
このアウロラにともに乗ることになって一週間。いつまでたってもこの調子なので少々やり辛い。
「で、電信を…。」
「もう打った。」
「…。」
まあ、仕事は早いからいいか。
と、思うのだが、僕がこの調子だから進展がなのだろう。
別に深い仲になろうなんてさらさらないが(まったくと言えばウソだが…)、一緒に戦うパートナーなのだから、もっと親しく話してもよいと思う。
「目標、転舵。方位変更右13ケルート。高度変更なし。安定高度空域をミラ(星の名前)の方角へ進行。」
規定通り、ヴァルカは敵艦の動向をメモしている。
真面目だ。
というより淡々としているのが正しいだろう。
この一週間のヴァルカの言動を見ていると何か感情というものが感じられない。押し殺しているというわけではなく、元から欠損しているというような感じだ。
「もうちょっと愛想が良かったらなあ……。」
「なに…?」
伝声管を外して言ったのに、聞こえていたのか・・・。
ちょっと焦るがこちらの方が正論である自信はある。
流れるような白い髪に、青い瞳。顔立ちは小ぶりで愛くるしい。
一緒に軽サラマンダー級哨戒艦【レ・セーネ】に配属された時は艦のアイドルは確実視されていたが、今じゃ誰もが道を開ける氷の女王だ。
「時間…。」
「え、ああ。」
こうして、哨戒時間を終え帰路につく。
5時間もこんな狭いところにいたのに、会話は1分にも満たないだろう。
ユグドラシル