2.愛は狂気の殺人鬼
愛は狂気の殺人鬼:恐るべき破壊兵器
人間と愛は、密接な関係にある。
人間とは、私たちのことだ。おそらく、これを読んでいる者の大半が人間にカテゴライズされるだろう。
では、愛と何か?
愛とはなんぞや? と問われれば、私はきっとこう答えるだろう。
「愛というものは空想だ。妄想だ。幻想だ。そして恐怖の権化だ」
私は愛が怖い。本当に恐ろしいものだと思う。
愛という言葉を一言聞くだけで、私の背筋は氷付き、大地は割れ、天から隕石が降り注ぎ、結果的に私は崩壊寸前まで追い込まれる。
それほどひどい重度の愛アレルギーなのだ。
では、私がなぜここまで重度の愛アレルギーを持っているのか。
まず一番に、私が愛情を知らないことが挙げられるだろう。
私は愛情を知らない。愛を知らないし、愛が感じられない。そしてなにより、愛は見えない。
知らないものは怖い。感じられないものは怖い。見えないものは怖い。
どうだろうか、生粋の人間であるなら、見えないもの、感じられないもの、知らないものに恐怖するのは正常ではないだろうか。
むしろ正常な人間ほど、恐怖するとは思わないだろうか。
わかりやすく例を挙げるならば、一部の人間が、霊、いわゆるお化けに恐怖するようなものである。
私にとって愛はお化けなのだ。
ここまでで勘の良い人は気づいたかも知れないが、それは大正解だ。私は情けないことに、お化けが怖い。
それは、得体の知れないものからだ。感じられないからだ。見えないものだからだ。
私が見えないことをいいことに、霊が私の周りで悪口を言い合うだとか、恐ろしい実験などをするだとか、そういうことをしてみろ、私は卒倒する自信がある。
だが、そんな霊よりも、ずっとずっと愛が怖い。
それは、霊は人を殺したりはしないが、愛は人を殺すからだ。
近代史において、ヤンデレというジャンルがある。
説明すると長くなるし、今でもヤンデレとは、どこからがヤンデレかという議論が飛び交っている。
なので、私なりの解釈で簡略化すると、「愛ゆえに、お兄ちゃんを殺す」
簡略化しすぎたきらいもあるが、だいたいこんな感じだ。
別に、愛ゆえに殺す対象がお兄ちゃんでなくともよい。
「愛ゆえに、想い人を殺す」でも
「愛ゆえに、妹ちゃんを殺す」でもよい。
もちろん、このよいとは、
この、愛ゆえに殺す対象がおにいちゃんでなくてもよいとは、
決して殺人をしてよいということではない。
この記事は、決して殺人を助長させるものではない。そこを念頭においていただきたい。
ストップ殺人。人は殺してはならないよ。人と人とで恨み合い、争い合うのは、やめよう。
と、軽く世界平和を訴えかけたところで、本題に移ろう。
ヤンデレというジャンルは、驚くことに、愛で人を殺す。
「お兄ちゃんが誰かのものになるぐらいなら…殺す」
「愛していたのに、僕を拒絶したから…殺す」
「ねえあなた、さっき違う女の人と歩いてたわよね? …殺しておいたわ」
「私はあなたをそんな娘に育てた覚えはありません! …だから死んで!」
…狂っている。常軌を逸している。とても人間の所業とは思えない。
人が愛を抱くからこういった悲劇が生まれたとしか考えられない。
愛は人を醜く歪ませる。愛は人を憎しみのループに突き落とす。
まさに混沌、まさに狂気、まさに深淵。
なぜこの国は愛を規制しないのか。
なぜこの国はこんな危険なものを野放しにしているのか。
狂っているのか?この世界は。
なぜ愛をこの世界は保護する?私には考えられない。
愛は危険だ。愛は法律で規制するべきだ。
愛を規制すると、確実に世界は、今よりもっと平和になる。
私は愛が怖い。なぜなら、愛は人を殺すからだ。
この記事を読んでくれた方の中で、愛が恐ろしくなった人もいるだろうと思う。
だが安心してほしい。たしかに、愛は人を殺すが。
あなたが愛を抱かなければ、愛を抱かなければ、絶対に愛があなたに牙をむくことはない。
人が愛を抱かないとなると、愛は実態のないただの"言葉のお化け"になる。
だから人を殺すことはない。もちろん、お化けのように人を呪ったりもしないので完全に無力化することができる。
ストップ愛情。人を愛してはならないよ。人と人とで愛し合い、好き合うのは、やめよう。
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「えー、なにこのチラシ」
黒髪のポニーテールの女の子が、誰かの真似をするかのように無表情でそう言った。声には感情は感じられない。
さっきまで読んでいたのは"愛は狂気の殺人鬼"という記事が書かれたチラシだ。
このチラシは、ネットで取り寄せた服のカタログに紛れ込んでいたのだった。
そして、ベッドでうつ伏せに寝転がり、肘をついて、カタログをひとしきり読み終えたあとに、挟まっていた1枚の大きなチラシを発見したのだ。
そのチラシには、"愛は狂気の殺人鬼"と名付けられた記事が書かれていた。
何気なしに、それを読んで今に至る。
しばらくそのチラシを眺め、鼻で笑う。
そして
「愛が本当に危険なら、人類はとっくの昔に絶滅してるよ」
誰に言うでもなくそう言い、チラシをぐしゃぐしゃに丸める。
「まいこー、ご飯できたわよ! ケーキもあるから降りてらっしゃい」
そこに、彼女の母の声が響いた。
今日は、彼女の誕生日なのだ。
彼女の家では、誕生日を家族みんなで祝うので、母はより一層腕によりをかけて料理を作る。
「はーい! 今行くね」
まいこと呼ばれた、黒髪のポニーテールの女の子は、さっきまで無表情だった顔に笑みを浮かべて母に返事をした。
すぐに起き上がり、立ち上がる。
そして、ドア近くに置いてあるゴミ箱を一瞥し、
「どうやら愛は、感じられるみたいだよ」
そんな言葉を吐き捨てながら、チラシをゴミ箱に投げ捨てた。
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