報われないシンデレラとワルツ

12時に魔法が解けると言って城を出た。途中で脱げてしまったガラスの靴、取りに行く時間は十分にあった。でも取りに行かなかった。そう、わざと取りに行かなかったのだ。王子様がガラスの靴の持ち主を探して私を尋ねてくれることを信じて…

…我ながらいやらしい女だと嘲笑する。あの夜会から3日経った朝。王子様はまだ来ない。

古ぼけた屋敷にお姉様私との2人暮らしである。私は2階の寝室で生活してる。1階に降りると埃を被った大きなグランドピアノがある。ふと、あの夜会で踊ったワルツを思い出す。美しく優雅で引き込まれるようなメロディだった。
「んーたった、んーたった…」
口ずさみながらおもむろにピアノに手を伸ばすと。
「ちょっと!私のピアノに勝手に触らないでよ!」
お姉様だ。ろくに弾きもしないくせによく私のものだと言えたものだ。
「罰として今日の朝ごはんは無しよ。掃除でもしていなさい!」
いつも通りのいじめ。もう慣れっこである。
(いつもいつもいびってばかり。子供ですか?あなたは誰かをけなしていかないと生きていけない弱い人間なんですよね?最低ですね。)
そう、思うだけ。言うことはできない。私はほうきを手に取りにいく。

昼になっても掃除は終わらず、掃き掃除をしていると遠くから馬の足音が聞こえてきた。馬の姿が見えると私の胸の鼓動が急に高鳴っていく。そう王子様がやってきたのだ。手にはガラスの靴を持っています。
(あぁ。ついにやってきたのですね王子様!そのガラスの靴は私のものです。早く私を連れて行ってください…)
私はほうきを捨て、外に出ようとしたがお姉様に突き飛ばされる。
「あんたはここでお留守番していなさい!」
そう言って私を屋敷に閉じ込め、外から出られないように鍵をかけて出て行きます。私は気がつく。
(そうか、私は夢を見ていたんだ。あの夜会も、あのワルツも、王子様も、全部夢だったんだ。)
「…ははっ」
魔法だとか、王子様だとか、そんなくだらない妄想にすがっていたのだと思うと笑いがこぼれる。でも…
(私の中には確かに在る。魔法にかけられて初めてドレスを着たこと。大きなお城を見て感動したこと。目を刺すようなシャンデリアの輝き。嗅いだことのない美味しそうな食べ物の香り。王子様と踊ったワルツ。そして、王子様の手の温もり…)
私は引き込まれるようにピアノに手を伸ばし、ワルツを弾く。あの夜を証明するように。
(思い出せる。あの夜会も、ワルツも、王子様も、私の中には確かに在る。これほどの幸せな空間が他にあるだろうか。このまま…溺れるように…堕ちて…)
ドンッ!ドンッ!
窓を叩く音が聞こえる。私は身体を硬直させる。恐る恐る音のする方向を見るとそこにいるのは
…王子様だ。
「おい!そのワルツは私とシンデレラ嬢が踊った曲だ。貴様、それをどこで知った?」
王子様の疑いと期待の視線に胸がじわじわ焼かれるようだ。
(言わなければ。これはチャンスだ。「私があなたとこのワルツを踊ったシンデレラです。あなたが手に持っているガラスの靴は私のものです。」と、言わなければ…)
しかし肝心のところで声が出ない。きっと普段から本音を隠して生きてきたからだろう。そして私はあることに気がつく。王子様の後ろ。嫉妬に狂った女性の視線。屋敷の扉の鍵を開けようとする音。お姉様がもうすぐくる。
胸が苦しく、背中が溶けていくような感覚に陥り行き場のなくなった私は
つまらない嘘をついてしまう
「は…母が教えてくださった曲です…」

続く

報われないシンデレラとワルツ

初めて小説を書きました。文書をただ置いていってるような脈絡のない話になってしまいました。
ご都合主義はあんまり好きじゃありません。ハッピーエンドはもちろんすきですが現実的な終わり方じゃないとしっくりいきません。
この話はあと2話ほど続けていくつもりです。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございます!

報われないシンデレラとワルツ

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更新日
登録日
2014-01-28

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