私とアルルの秘密のメール
普通、の一日。
「ふああああ~。眠~い…。って、もう7時?!ちっ、遅刻しちゃう!!」
私の名前は、三神月奈。魔法にあこがれる、普通の小学6年生。小さい頃に魔法使いが出てくる本を読み、それからというもの、魔法に夢中。
今大好きなのは、「魔法少女の秘密」。昨日もこれのせいで夜更かししちゃったんだよね…。
と、とにかく今はいそがなくっちゃ。
「い、行ってきまーす!!」
学校に着いたなり、仲良しの川島杏(かわしま あんず)に話しかけられた。
杏の噂
「おはよっ。魔法オタクっ。ってか聞いた?」
「なにを・・・?って、オタクにしないでよお。」そのとき・・・
きーんこーんかーんこーんと、授業開始のベルが鳴った。
「やば、またあとで!」と杏は自分の席に戻った。
私は社会の授業中ずっとそのことを考えていた。もちろん、杏が言ったことを。杏はクラスでも噂になるほどの情報ツウだ。また新しいことを聞いたのだろう。私にわざわざ言う、ということは魔法関連だろう。なんだろう。そのとき、担任の声が聞こえた。
「はーい。きょうはここまで。今日のまとめは各自家で書いてくることー。」げげっ。よりによって、このタイミングで。まあ、いいや…。私にはいざという時の学級委員長さまが付いているんだから。と、その時、
「おーい。お待たせっ。さっきのことなんだけどね…。」と杏が話しかけてくれた。
「うん。なあに?」早く知りたい。魔法のことなら、何でも。
「うまくいったら、魔法使いに会えるかもよってことなんだけど…。」
「えーーーーーーーーーっ!!!!!!」みんながおしゃべりをやめて、こっちを振り向き、にやにやと笑った。ああ…。はしゃぎすぎちゃった。もう、最悪。その時、クールな声が聞こえた。
「フフっ。さすがの根暗でも魔法にはまいっちゃうのかしら?」いらっときてふとそちらを振り返ってみると…。
「梨理華っ!」学級委員長の上原梨理華(うえはら りりか)がいた。栗色の巻き毛、長いまつげ、ツンとした口調。まさにお嬢様、って感じの子。
「まーったく!どうかしてんじゃないの?魔法なんて!」梨理華は言う。
「い、いいじゃない!魔法好きだって!現実ばっか見てたら頭壊れるよ!!」と私は言い訳(?)を言った。
「そーいうの、現実逃避っていうの知ってたのかしらねえ。ったく。今日もどーせ授業中に妄想してたんでしょう?上の空だったわよ、月奈。」グハッ…。思いっきりばれてる~。最悪、最凶ー。杏がため息をつき、口を開いた。
「ま、こういう大人ぶっているのは放っておいてと。夜中の12時11分ぴったりにね、<魔法留学生>って入れんの。もちろん、ネットでね。んで、その抽選にパスすれば…。」
「会えちゃうってわけ?!」
「ピーンポーン。ま、やってみたら?月奈ほどのオタクなら、パスすんじゃない?」
「わ、わかった。やってみる!」ずっと話を聞いていた梨理華が口を開いた。
「ばっかみたーい。そんなのただのうわさでしょう?月奈、こういう馬鹿の話は真に受けないこと。わかった?」杏はかみついた。
「な、何がばかみたいなわけっ?!あんたこそそんなふりふりの服着ちゃって。きもいから!!」梨理華もかちんときたらしい。この二人は犬猿の仲なのだ。
「あら、もうそろそろ学級委員長限定の話し合いの時間ね…?まあ、馬鹿には無理よね~。では、ごめんあそばせ。おほほほ~。」と、梨理香は教室から出て行った。
「何なのよ、あのぶりっこは!!!」杏は怒り狂ってる。こ、これはやばい…。いそいで逃げなくては。
「あ、ありがとね杏!サンキュ!やってみるよ!」と私は言い、その場を去った。うーん、魔法留学生かあ…。気になるなあ…。だが、その話題は図書室に入った瞬間吹っ飛んだ。ファンタジー本がずらりと並んでいたからだ。興奮したら忘れる…。それが、三神月奈なのであった。
夜中の検索
キーンコーンカーンコーン。学校の授業終了を告げるベルがやかましく鳴った。生徒たちがワイワイと学校から出てくる時刻だ。私もその群集に交わって下校した。近所で、町内がいっしょの杏と帰る。
「ねえねえ、杏、あんな情報どこから入手したの?また未美(みみ)から?それとも、優輝(ゆうき)サンから?」未美、というのは杏の妹だ。優輝は、杏のお姉さん。どちらもやはり、情報ツウなのであった。未美であれば幼稚園から話が舞い込んでくるであろうし、優輝サンであれば高校から話が来る、というわけだからだ。
「ん?ああ、優輝の友達の星歌(せいか)から。星歌サン、超情報ツウだしね。」杏は何でもないような顔をして答えた。
「ふうん。ありがとう、わざわざ。」私はお礼を言った。こんなチャンスめったにないし。
「いいんだって!あ、今日、うち、ピアノあるから。また、あしたね。ばーいばーい!」杏は走って行った。私は手を振ると家に向かって全速力で走った。
夜、さっそく12時11分にタイマーを設定した。・・・、これでいいかな…。何もすることがないので、ごろんとベッドに横になった。
ぴぴぴぴぴぴぴぴ・・・・・。耳をつんざくような音が鳴った。
「はぁっ!!留学生、っと…。」かちかち・・。検索ボタンを押した途端、「エラーです」の文字が出た。
はあ。やっぱ、無理かあ…。梨理華の言うとおり、なのかな。そのとき・・・
<魔法学校>の文字が画面に浮かび上がった。
「こ、これっ!!」私はクリックし、みてみた。何て素晴らしいの…。私はうっとりと見つめていた。その時、
<留学生のお知らせ{ホームステイ}>とあった。これかあ!応募するに決まってんじゃーん。が、次の瞬間、ショックを受けた。
<ただいま、35267819名様より応募が届いております。この中のお一人様ですので、御了承下さい。>なーんて書いてあったからだ。
「ぶっ(ふきだしている)はぁっ?!35267819人?!…。」へこたれるものかっ。私は、自然と*応募する*のところをクリックしていた。
<ありがとうございます!結果は、一週間後、お知らせいたします!>と浮かび上がったと思うと、パソコンがふっと消えた。
…魔法だ。夢かどうか確かめるため、頬をつねってみる。やっぱり、本物だ。うれしくなって、ベッドに倒れた。瞬間、寝ていた。
翌日。私はまだ興奮が冷めないまま学校へ向かった。杏と、梨理華に知らせるため急ぎ足で。ところが、学校へ行ってみると杏の下足箱には靴がなかった。おっかしいなー。いつも一番に登校するくらいなのに。その時、妹の未美が話しかけてきた。
「あれえ?三神さん?お姉ちゃん、風邪だってさ。だっさいよね、こんな時期に。ネットのしすぎでしょ。」と言った。
「杏があ?!風邪?んなわけないわ、バカは風邪をひかないってよく言うじゃない?おーほっほっほっ。バカでないことが分かって、良かったんじゃないのかしらねえ?」と、通りすがりの梨理華が言った。
「あら、月奈。あなた、昨日はどうだったの?魔法やら。どうせエラー表示が出たんじゃないの?」私は、思わず言ってしまった。
「えっ?!梨理華、知ってんの?やったん?」と。梨理華はかっとなり、
「ふ、ふざけないでちょうだい!私が?上原財閥令嬢の私が?ネット検索ですって?」と憤慨した。ああ、そうだったんだ。梨理華が私と友達になってくれた理由は、これだったの?なーるほど。
「ちがういますわっ!私、これで失礼いたしますわ!これ以上ここにいるのは、私のプライドが許せませんことよ!」と踵を返して、どこかに行ってしまった。はあ。というか、杏大丈夫かな?帰り、お見舞いに行くか。
魔法力
ピーンポーン。杏の家のチャイムを鳴らした。
「はあい、どなた?」杏のお母さんの声だ。
「あっ、三神月奈です!杏ちゃんのお見舞いに来ました。」ほがらかなこえが
「ああ、月奈ちゃん。どうぞ、おはいり下さいな。」と答えた。
「失礼しまーす」杏の家は、かなり立派で広い。(私の家に比べると。)杏のお母さんが
「まあ、すみませんね。杏は自分の部屋で寝込んでいますの。帰る時、一言いってください。おやつ、いりますか?」と聞いてくれた。
「あっ…。すみません、じゃあもらいます。」と私は告げると杏のもとへと向かった。
「杏ー。月奈だよー。入るねえ。」といい、杏の部屋に入った。
「ああ、月奈…。けほけほっ、ありがとー。ごめんね。ところで、どうだった?」と言った。
「うん、うまくいったよ!風邪大丈夫?どうしちゃったのよ、杏らしくないなあ風邪ひくなんて。」
「うーん、いきなり具合が悪化したの。ビックリだよ、自分でも。あはははっ。ごほんっ、うつったらやばいから、もう行ったら?ごめんね、せっかく来てくれたのに。明日は絶対学校行くから。バイバイ、月奈。アリガトウ。またね。けほん、けほん。」
「あ…うん、じゃあね。」
私は杏の家を後にした。杏が風邪なんてちょっとびっくりだ。もしかしたら…。まさか、神聖なる魔法のことを口外で発表したから…?ネットに流したんじゃないよね?それのせいで・・・?
夜ー。
杏に電話をかけた。
「もしもし、杏?風邪大丈夫?というか…もしかして、あのことネットに流したりしなかった?」
{ああ、流したよー。だってその方いいじゃん。}
「マジで?!」
{え?あ、うん。}
「…じゃあね、また明日。」
{うん、じゃあねー!ばーいばい!}
ヤバい。これは魔法?それとも単なる偶然?背筋がぞくっとした。なんでだろう、ほんとに魔法なのかな。怖くなったからベッドにもぐりこんだ。
一文だけのお知らせ
一週間後ー。
月奈はドキドキしていた。通知が来るから。ー…大丈夫かな。ちょー気になるんですけど。はらはらしていると…。
「月奈ー?お知らせよー。なあに、この、<モンデッシャル・ユーガワリオン女学院>って?」と母の声が聞こえた。
「ああ、ちょ、ちょっと待って!!!今行くーー!!」弾丸(わたしからしたら)のような速さですっ飛んで行く。受け取ると、部屋で開けた。
<おめでとうございます!>という一文だけだった。えっとー…。つまり…んーと。
「やったー!わーい、うれしいな♪ってか、いつ来るのかなあ??」といった瞬間ー。
紙から、しゅるるる~っと煙と出てきた。
「ひやぁああああぁぁぁ?!おかーあさーん!たすけーてー!だれーかーぁあああ!」
ぼんっ。煙が少しずつ消え、人影が見えた。
「ひょええ?誰?誰?不審者?け、警察!警察!」人影が見えてきた。女の子?
「うふふふっ。日本、東京在住、歌川小学校六年三組、図書委員会副書記、三神月奈さん?」ええええ?
「誰?!」煙が完全に消え、人影がくっきりと見えた。黄緑色の長い髪、青いサファイアのような美しい二重の目、すらりとした体型。誰、この子…?その子が口を開いた。
「こほんっ。国際魔法モンデッシャル・ユーガワリオン女学院、留学生のアルル・ミラーシャです。よろしく。」それだけ言うとブツブツ唱え始めた。急にベッドやらなんやらがどっからか出てきた。
「え?!ちょ、うわああ~!!なにこれー!なんですかー!あのー!すいませーーん!」私は叫んでた。彼女の方を見ると…。めちゃめちゃつまんなさそうだった。全部出し終わると
「あーー!やってらんなーい!ちょーめんどーーーい!!」と叫んだ。えええ・…。どうすればって…。んん・・?なんか話した方いいのかな…。
「あー。別に話さなくってもオッケーだよ。めんどいでしょーー??」とアルルが言った。
「そうだ。私こんな髪色だから、ちょっと変装しなきゃいけないんだー。あなたのいとこのお父さんのお爺さんの孫の娘ってことにしとくね?別にいいでしょお?」というなりまっくろのつややかな髪、茶色の二重の目という美しい小学生になっていた。
転校生、藍山亜瑠留(あいやまあるる)
次の日ー。アルルは転校生として歌川小学校六年三組へやってきた。キーンコーンカーンコーン♪チャイムが鳴った。
「エー、今日は転校生がいます。藍山亜瑠留さんです。じゃ、どうぞ。」アルルがさっそうと教室にやってきた。みんなは美しさに息をのんだ。お嬢様の梨理華でさえぽかんとしたくらいだ。
「藍山亜瑠留ですっ。好きな教科は体育と算数、嫌いな教科は家庭科と保健体育です。よろしくお願いしまーすっ。」最後のウィンクで男子はメロメロになったみたい。みんなアルルのことしか見ていなかった。アルルはむっとすると
「なんでみるの?やめてくれないかな、そういうの。」と言った。みんなはますますアルルのことを見つめた。
その日の給食。アルルが始めてみる納豆が出た。私はあのねばねば感が大好きで、梨理華から一個もらう約束をしていた。と、突然
「え???なにこれーーーーっ!」と給食当番の杏が叫んだ。え?なになに?とみんなが寄る中、私はやっとの思いで覗いた。なんと、納豆の袋の中にはうさぎがぐっすりと眠っていた。
「ええ?なにこれ?」
「ちょちょちょ、まじ?!どうすんの?」そこで梨理華が、
「あら、うちの家のコックでも呼ぶ?フランス料理にはよく、うさぎが出るから。」なーんてさらりと言ったのでみんなかたまってしまった。
ふとアルルの方を振り向いてみると、にやにやと笑っている。私はまさかと思いアルルを問い詰めた。
「ちょっと!これは何?まさかあなたがやったんじゃないんでしょーねー!」アルルはサラっと言った。
「え?だってつまんないから楽しい方がいいかなーーーっと思ってさ!どう?良いハプニングっしょ!」私の心臓がこんなに丈夫でありがたかった。
「えええ、どうすんの?私の納豆は?ねえ、私大好きだったのにいーー!」
「え、じゃあ変えてあげるよ」言うが早いか、うさぎをあっという間に納豆に変えてしまった。みんなは
「ええ!なんだったのいまのうさちゃんは!」
「幻覚?あれ、ええ?!~~~っうっそおお!」などと大騒ぎ。私は、というと卒倒直前で、杏に支えてもらって立っているのが精いっぱいだった。アルルは、大爆笑していた。これからいったい、どうなるんだろう…。考えただけで倒れそうだった。
ホームステイ中の亜瑠留
アルルが私の家に来てから数週間がたとうとしていた。アルルは、相変わらず授業中にチョークを思いのまま動かし、{この授業はつまらない!}など落書きしてみたり体育の時間に鉄棒を伸ばしてみたりしていた。
アルルはなんだかんだで一緒にいる梨理華と私、杏のグループに入った。杏は
「亜瑠留って、さいっこうに楽しいー!」と言ってはいるものの、たまーに怪しげな眼でこちらを睨むのだった。
そんなある日、家に帰るとアルルあてに手紙が来ていた。
「なに、それ?よく読めないんだけど…。あ、もしやっ!魔法界からのお手紙?!」
「うん、そうみたいね。なになに…。って!やだ!やだよ!なに、これっっ!!!」アルルは手紙を投げ捨てた。
「え?!ちょ、アルル?!待ってっ…!」アルルはバターンとドアを閉め出て行ってしまった。残された私はぽかんと口を開けた。そして、手紙を拾ってみた。
<アルルへ
いかがおすごしでしょうか。こちらはみんな元気でやってます。ジューマリア塔のみんなはあなたの帰りを心待ちにしております。(マールインガブリエル塔は違うけど。)だから、カッジェ先生があなたを後一週間後に帰させる、とお決めになられました。ジューマリア塔、ワーラリミッシェル塔、ユインカールヘラ塔のみんなが待っています。早く帰ってきてね。
あなたの親友レイン・アロー・フジャンより。
追伸 私が代わりに代表生やらせれてるんですけど。超めんどいね。やばいわ、マジで。 >
という文だった。
私はショックでその場に立ち尽くしてしまった。アルルが帰る。帰ってしまう。私の、親友が行ってしまう。…。アルルの、ばかっ。ばかばかばかーーーーーっ。気がつくと、涙がこぼれていた。とにかく、アルルと話をしなきゃ…。私は全速力でアルルを追いかけた。たぶん、いるとしたら、噴水公園だ。あそこは、私とアルルと私のお気に入りの場所だから。
噴水公園に行くと、案の定アルルがいた。ただ、茫然と、ブランコに座って。
「アルル…?あのさ、えーっと…。」私は言葉がつまった。アルルが口を開いた。
「ああ、月奈…。あれ、読めたの?すごいね、月奈!天才!あれさ、魔法界の文字なのにさ。」と明るくふるまった。
「アルル、あのね…」言葉が出ない。涙が頬を伝うのがわかった。
「まあ、そういう事。もうそろそろ行かなきゃ。今まで、ありがと。いろいろと。じゃ、また、いつか。」それだけ言うと、アルルはくるりと踵を返し、どこかに行ってしまった。
「あ、ちょ、待ってよ!アルル!ねえ!……」
「月奈!さよなら…。またいつか、会おう!また来る!」
アルルはどこかへ消えてしまった。
私とアルルの秘密のメール