やるせなきもの
わたしは 寺山修司になりたかった
わたしは 中原中也になりたかった
ただ あこがれだった
わたしは 三日三晩、月の光をながめていた。
四日目の晩には ちょろちょろと
窓ぎわへ痩せさらばえた 鈴虫一匹
甚だ以て 手持無沙汰にちょろちょろと
したたかに押黙っているあり様にして
終には、もくもくと月夜を浴びているよう
凛とした触角は 気に病んでいるふうである
わたしは 若輩な鈴虫であった
それも ぼんやりと、軽薄な。
みてくれは ヒビ割れた砂時計のようで
粘っこい苦汁ばかりを 滴らせるふうである。
電信柱の風景が わたしの頬を通過してゆく
秋風は 知らぬ随にカレンダーを巡っている
「おーぉい、おーぉい、」
幻想の方舟に、とおく先祖らの声がきこえる。
鎮座した波間では 蒼すぎる寂しさが、
ゆれる シルエットには羽音の翳りが、
けれでも彼らは 一心不乱に寂寥の果てをみつめ続けてきた
不格好な輪郭を ひたすら懸命に風雨へと靡かせていたのである
わたしは もはや
わたしでは無いものに
わたし自身を 託さねばならない
時代の息吹が 暗がりで墓穴を掘っている
ガラクタばかりが 夕闇へと沈んでゆく
雑踏はつねに忙しなく、
そうやすやすと息の出来ようもない
わたしはまるで 虫籠のやわ肌にしがみつく
怯弱な鈴虫の顔つきをして、
明日とも知れぬ 月光の繭を編んでいる。
やるせなきもの