MarbleMarch

卒業の日
空き教室に原色のペンキをぶちまけた

美術室から大きいハケを盗んできて、それにペンキを付けてがむしゃらに振り回した
びたびたと音を立てて壁や床に付いていくペンキを見ながら、那義と二人で笑った

気付いた頃には全身ペンキまみれで床に倒れていた
白いワイシャツはマーブル模様になり
黒いズボンは原色のペンキを吸って重たくなっていた

「・・・やったな、俺たち」
「ああ、やったな」

かかとが潰れて黒くなった上靴に、白いスポーツソックスが眩しい
ワイシャツの下の肌にペンキが触れて、冷たさに溜息を吐く

「・・・なんかさ」
「あ?」
「セックスの後のだるさに・・・似てる」
「何言ってんだお前」
「この腹の重さと疲れと・・・解放感?似てる」
「あっそ」

薄汚れた天井に向かって伸ばした手を那義の顔の上に落とした
べちゃり、という音を立てて、手が那義の顔面ど真ん中にヒットした

「・・・手ェ臭いよ」
「きっと俺ら今、全身臭いんだろうな」
「だね」

だらしなく笑った那義が、青いペンキに汚れた手で俺の手の上に手を重ねた

「・・・アキオ」
「あ?」
「三年間・・・さぁ、ありがとう」
「なんだよいきなり」
「言いたくなっただけ」
「あっそ」

息を吐いて、上体を起こす
床とワイシャツがはがれる、ぴりぴりという音が耳に届いた
窓の外の景色はとてもきれいで、空は青すぎるくらいに青くて腹の奥が収縮した

「那義」
「なぁに?」

顔の真ん中に赤い手形を付けた那義が猫なで声で返事した

「外、走り行こうか」



みんなで決めた合唱曲が響く校舎を後にして、二人で公道を走る
三年間乗り続けたロードバイクは不気味なくらいに体に馴染んでいた
風を切り、誰もいない場所まで走る
足が痛い
寒さのせいで顔も痛い
でも、気持ちいい
この感情に名前を付けるのはとても難しい
だからこそこうしているのかもしれない
この感情に名前を付けたくて、こうしているのかもしれないと
俺は高3ながら思った



「・・・夕日、きれいだな」
「あーもう夕方かぁ・・・」

学校の裏にある山に登って、その頂きから夕日を眺める
きっともう式は終わっていて、大人たちは汚された教室を見て発狂しているんだうと思った

特に何もなかった高1
修学旅行に行った高2
そして今、高3
たいして何もなかったこの三年間
それでも過ぎてしまえば寂しくて切なくて泣きたくなる
コップの中のジュースをこぼした幼稚園児みたいに、大声で泣きたくなる

「アキオ」
「なに」
「三年間ありがとう」

夕日のせいでオレンジ色に染まった那義の横顔が、切なそうな形をしていた
今にも泣きそうなその目には一体何が映っているのだろう

「なんだよ、いきなり」
「別に・・・言いたくなった・・・だけだよ」
「・・・そうか」

2人、汚れた顔を見合わせて、ぎこちなく笑った
夕日はまだ、沈んでいない

MarbleMarch

MarbleMarch

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-01-23

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