人生です。

 ある朝、鳥はいつものように目覚める。いつもの洞窟の中だ。すると、
「おう、起きたのか。今日もいつも通りあそこ行こう。」
薄暗い洞窟の奥へ、二匹の鳥はいつもの餌場へ向かう。洞窟の奥は太陽の光は当然届かないが、そのおかげか多くの光るコケが生えており、そのコケ目当てに幾種類かの虫たちも生息していた。じめっとし、ひんやりとしてはいるが、鳥たちには恰好の餌場なわけだ。他にも何匹かの鳥たちも来ており、二匹の鳥たちもいつも通り食事をした。その餌場のさらに奥には、鳥たちの死体置き場があった。
 
 その鳥にはいつも気になることが一つだけあった。それは洞窟の外のことである。洞窟の外を一望できる出口のような入り口のような所は存在する。しかしそこから外の景色は一望できるものの、足元から下は高い崖になっており、地面とおぼしき着地点はまるで見えない。見える景色と言えば、雲がかった山々と、雲とも霧ともつかない大気、そして太陽だけだった。
 
 鳥には翼があった。たまにバサバサと羽ばたく仕草を洞窟内で幾度もしたことがあり、少しだけ浮いたり、洞窟外から入り込む時折の突風にうまく翼を合わせると、風をつかむように浮くことができた。その鳥は外の世界が気になっていたのだ。いつものように外の景色を見ていると、時折言われる。
「やめとけやめとけ、ここから落ちたら絶対に死ぬ。」
その鳥もそう思っていた。飛ぼうなんて思わなかった。

 ある日、いつものように外の景色を見に行った。するとすがすがしいほどの青空である。そしていつもと明らかに違う風を感じた。今まで羽ばたく仕草を何度かした経験から、今までで一番風をつかむことができると感じたのだ。

 次の瞬間、体は宙に浮いていた。自覚か無自覚か、意志か無意識か、洞窟の外に飛び出ていたのだ。すると洞窟内で感じていた以上の風があり、翼への抵抗、強さを感じる。崖に叩きつけられないように、急降下しないように、何とか何とかゆっくり下降していく。頭の中が真っ白だ。気付くとだんだん地面が見えてきた。どうやって着地すればいいのか、こればっかりは全くわからなかった。

 しかしどうだろう。他にも地面付近には、自分と似た鳥が何匹も見える。幸運にも、空から着地する方法が見えた。翼を羽ばたき、体を立て、地面に対し扇ぎながらゆっくり降りるようだ。見よう見まねでそれを行い、どうにかこうにか着地できた。転びつつのひどい体勢でである。すると近くにいた鳥が、
「やあ、君も食事に来たのかい?」

 そこは赤い木の実のなる背の低い植物が生い茂っており、それに集まる虫たちが多い地上の鳥たちの餌場だった。そこは自分が暮らしていた洞窟のある崖のふもとだ。一つ気付いたことがあった。餌場の近くの崖のふもとの地面には、多くの鳥たちの死体があった。死因は様々だろうが、明らかに落下による傷を負ったであろう鳥もいた。ここには多くの鳥たちが食事に来ている。しかし誰も死体を気に留める者はいなかった。

 太陽がまぶしく、風が心地良い。その鳥は、そのことを感じながら食事をした。その日から、空を舞い、着地をし、食事をした。そんな毎日を繰り返し、いつの日か鳥は、崖のふもとの死体の一つになった。

今の私から見た人生です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-22

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