砂丘に花が咲くようです
ブーン系小説という特殊な表現方法が用いられています。
興味を持たれた方、もっとブーン系小説について知りたいという方は検索されてみるといいかと思います。
川 ゚ -゚)「砂丘と砂漠は違うんだよ」
あの日の放課後、彼女は俺と会うとすぐに力説を始めた。口調にはわかりづらくても目が爛々と輝いていたから、興奮しているのがすぐにわかった。
川 ゚ -゚)「砂漠っていうのは、もうその地域全体から水気がなくなっちゃってることをいうんだ。
気温の差も激しい内陸部の乾燥地帯のことを言う。
それに対して、砂丘っていうのは砂の積もった地形の名前でしかない。
砂の下の地面が湿る場合もあるし、水気だってあっていい。鳥取砂丘とかは海岸沿いだよな」
('A`)「……それ、また調べたの?」
川 ゚ -゚)「ああ、部活の合間に携帯で調べてやった」
('A`)「ご苦労なことで」
俺らは不思議と気が合った。話す話題が似通っているわけでもないけど、お互いあんまり騒がしいのが好きじゃないっていう共通点が合ったんだ。
同じクラスで浮いていた者同士が、賑やかな連中を冷ややかに眺めてぶつくさいっていたら、話すようになっていた。
お互い別々の部活に所属していたけど、終わる時刻は大体同じだった。
そしていつの頃からか、駅までの帰り道を一緒に帰るようになった。
俺は基本受け身だ。彼女はというと、同学年の人が到底聴き続けていられないような蘊蓄を、さも楽しそうにずっと話し続ける人だった。
知識を得ることそのものに喜びを感じる人だったらしい。
いつも面白い話題と言うわけにはいかなかったけど、無駄なレスポンスをしなくていいから、俺としては楽なだった。
川*゚ -゚)「ああ、いいよなあ。砂漠。行ってみたい」
そのときの彼女は恍惚とした表情を浮かべていた。それが物珍しかったから、俺は少し驚いて、それからこれまた珍しく、自分から質問をした。
('A`)「直接砂漠を見に行くの?」
川*゚ -゚)「そうだ。ネットで調べるのと、実際にみるのじゃ雲泥の差だろうからな。
何かを学ぶということは体験することなんだ。
私はまだ若い。ゆえに経験が足りない。もっともっと、体験をしたいのだよ」
彼女の舌がぐるぐると回って、長々とした文章を放っていた。俺は顔を引きつかせて、「はあ」と溜息をついた。
そんな話し方をするから、友達も碌にできないのではないかな、そんな本音は、伝えずにおいておく。
川 ゚ -゚)「こら、若い者がそんな疲れ切ってちゃいけないぞ」
彼女は全く別の意味に受け取ったらしい。
('A`)「若い若いって、高校生の俺らが言うことじゃねえよ。もっと年老いてから言うものだよ」
川 ゚ -゚)「ふむ……君は相変わらず覇気が無いな。
私がこれだけ世界にありふれたまだ見ぬ知識と、それを抱え込めない有限の時間との、埋めきれない差に嘆いているというのに」
その日の彼女は明らかに熱中していた。それまでもそれからも、彼女がそこまで興奮する様を見たことはなかった。
どうもその悩みで嘆いていたこと自体は本当だったようだ。彼女は唸ったのち、何事かを閃いた様子で指をピンと一本突き立てた。
川 ゚ -゚)「そうだ、ドクオくん。君、私の代わりにいくつか経験をしてくれないか?
そしてそれをレポートにするんだ。そうすればいくらか知識を得られる」
(;'A`)「ええ、巻き込む気かよ」
川 ゚ -゚)「まあまあ、簡単な奴でいいからさ。今気になっているもののリスト、ここにメモしてあるから」
彼女は携帯の画面を俺に着きつける。見ると多種多様な言葉が羅列されていた。
確かにそれらの言葉を聞いたことはある。けど、実物を見たことのないもの、やったことのないこと、そんなものばかりだ。
川 ゚ -゚)「さあ選べ。ドクオくん」
(;'A`)「へーへー、わかったよ。んー」
嫌がりながらも断れなかったのは、長期休みが近いために余裕が合ったからだ。
碌な友達もいなかったので彼女の気まぐれに付き合うことができる。
それに彼女と触れ合っている時間は、それほど悪いと思っていない。
そこまで意識していたわけじゃないが、彼女が異性であることは間違いなかった。
一介の高校生として、異性との交遊が嬉しくないなんてことはない。同性愛者か機能不全でない限り。
('A`)「それじゃこの糠味噌漬けで」
川 ゚ -゚)「よし、ありがとう。ちゃんと自分の手でかきまぜてくれよ。菌の繁殖具合から食材の味までな」
(;'A`)「わかったよ。ちょうどばあちゃんちにあるから、休み中にいろいろやってみるわ」
俺は適当に返答したのだが、彼女は心底うれしそうにガッツポーズをしていた。振るわれる腕の、陶器のような白い肌を俺はぼんやりと眺めていた。
川 ゚ -゚)「陶器」
('A`)そ「え?」
川 ゚ -゚)「いや、次に私がやるものを選ぼうと思ってな。今一番、自分の中で陶器が熱いんだ」
(;'A`)「あ、ああ。なるほど」
川 ゚ -゚)「真っ白い陶器を作ってやるさ。できたらお前にあげるよ」
こうして、俺は彼女と約束した。糠味噌漬けのレポートという、若者が話題に取り上げないような、地味な内容だ。
そして、俺がそのレポートを発表する機会は、ついぞ訪れなかった。
彼女からの連絡が来ない休みを過ごし、登校日がやってきて初めて、彼女が某県の地方都市へ引っ越してしまったことを知った。
高校二年の九月のできごとであった。
* * *
俺は某県の大学に進学した(別に彼女のことを追っていたわけじゃないし、そもそも彼女の記憶はどんどん薄らいでしまっていた)。
適当な受験勉強をしたせいで、適当な大学に入ってしまった。
気のない授業や人間関係をのらりくらりと過ごしているうちに、俺の精神は根本から揺らいだ。
気がつけば学校をさぼってパチスロや麻雀に興ずることも週に何度もあった。
バイトはしていたけど、お金もどんどん減っていく。ひどい毎日だ。
暮らしていたのは古い商店街沿いのぼろいアパートの一室だった。
その日、俺は深夜に帰宅するとすぐに荷物を投げ捨てて床に転がった。
いつものごとく財布の中身をすり減らしていたのでいらいらしていたのだ。
('A`)「あーあ、なんかつまんねえな。毎日」
ぼやくことが日課になってしまっている。自分の居場所が、自分のものでない、そんなずれ。
のそのそと身体を動かして、テレビをつけた。
見たいものもないが、BGMが欲しかったのである。
数秒画面を眺めた後、室内の一区画に異動した。
床に四角い縁取りがされており、取っ手が付いている。床下収納だ。
身をかがめてそれを開くと、真っ白い陶器が出てきた。
蓋を開けるとねばねばとした物体が表れる。
糠漬け。
彼はこの趣味をもう三年間続けている。
これをいじっていると自然と心が落ち着くのだ。
そもそもこのぼろアパートを選んだのも、自家製の糠漬けを持ちこめるからだ。
大家さんが、寛容で、糠漬けにも非常に理解ある人だったのである。
大家さんの料理も漬けることを条件に、床下を糠床とすることを許してくれた。
普通なら匂いとかですぐに嫌な顔をされるところ、俺としても感謝している。
この街に来てから、俺は毎日しっかり糠床をかきまわしている。
数日怠れば人体に悪影響を及ぼす雑菌が繁殖して腐敗が始まってしまうから、忘れるわけにいかない。
幸いなことに、ほとんど毎日いらいらするできごとが起きた。
それを思い返して、ぐるぐるいじる。手のひらに粘液が絡みつき、心が落ち着く。
糠漬けが広まったのは江戸時代前半と言われている。ご先祖様が編み出した食材保存の方法だ。
そして俺にとっては精神安定効果もある素晴らしい発明なのだ。
この日、俺はふと、どうしてこんなにも落ちつくのかという疑問を思いついた。
習慣だったからこそ、その点について気にしたことが無かったのである。
作業を続けながら自分に問いかけ続けて、やがて高校二年のときにいなくなった彼女のことが思い出された。
俺は糠漬けを彼女に言われて始めていた。何年も、俺の前に現れていない彼女との、唯一の繋がり。それが糠漬けなのである。
思いついて、俺は俄然力強く糠を捏ね繰り回した。
隆起が繰り返され、そのたびに彼女の影が頭の中でちらつく。イメージする彼女は未だに高校生のまま。
あんなに美しい人がそばにいたと言うのに俺は無気力に何をしていたのだろう。何と愚かだったのだろう。
やる気は枯れ果てたといいつつ、そんな憤りだけは一丁前に成長していた。
『――こちらが今朝発見された現場です――』
テレビから流れてきた音声が、そのとき耳に届いた。
いつの間にかニュース番組に変わっていて、今日起きた事件等を再編集しておさらいしているようだ。
画面にはこの街のとある公園が映し出されている。今朝から流れているある事件の映像だ。
俺は興味を抱いて、意識を向けることにした。
スタジオに画面が映り、眉根を顰めたコメンテーターが唸り出す。
となりにいた女性アナウンサーはやっとのことで言葉を見つけ出した様子だった。
『いったいなんなんでしょうか、あれは』
『いやあ、正直わけがわかんないんですよね。どうして急にコンクリートが陥没して“砂地”になってしまったのか』
荒唐無稽な話だが、事実である。
映像は全国ネットで流されているし、いたずらだという情報も聞こえてこない。
県内の国立公園周辺の道路が、今朝突然陥没して砂だらけになったのである。
公園の砂なのではないかという話もあったが、それにしては量が多すぎるらしい。
場面が再度代わり、ひげを蓄えた丸っこい専門家が表れる。昼間に収録した映像の再放送だ。
『コンクリートの成分、セメントとか、用いた砂利とかが、砂地から発見されまして。
ええ、そうです、それらは“砂になっていた”んです。
そもそも“砂”というのは具体的定義があるわけじゃないですからね。
物体が一定の大きさに細切れになったのを砂と呼んでいるんですよ』
専門家は両手を動かして山を何度も作り出し、堆積を表現していた。
『――大まかに言ってしまえば、あの砂が自然と溜まれば砂丘となります。
それがもっと根深くなり、水分さえも寄せ付けないものとなって地域的影響を及ぼせば、砂漠となります。
もしかしたら、これは日本の砂漠化の前触れなのかもしれません。いやはや、なんとも考えにくいことですが――』
それから専門家は、長々と砂漠化の危険を話していたようだが、VTRは中断されてしまった。
音のない口の動きだけ僅かに残り、場面がスタジオに戻る。
コメンテーターが何事か話し始めても、俺の頭の中には先程専門家の話で出てきた砂丘と砂漠の話がじんじんと響いていた。
何か引っかかる、そう思って悩んだ結果、ようやく過去のあの出来事を思い出した。
彼女、素直クーと最後に会った日、彼女は砂丘と砂漠の違いを説明していたのである。ちょうどさっきの専門家と同じように。
砂漠に焦がれているといい、それを言い残して姿を消した彼女。
ただの引っ越しと言っていたが、その引っ越し先は確か、この街の――
('A`)「何を考えているんだ、俺は」
馬鹿げている、俺はそう思って、頭に浮かんだ妄想を一蹴した。
テレビを無視して、糠漬けをしまい、さっさと支度を済ませて眠ってしまうことにした。
脳裏に浮かぶ彼女の姿は、なぜだか急にその影を濃くし、しつこく俺につきまとってきていた。
専門家の懸念は当たった。
砂漠化は日に日に進行したのである。
騒ぎは某県ばかりに収まらず、他県、全国、そして世界へと発信されていった。
様々な憶測を述べる人たちが現れた。
ただのでまかせという説から、地軸の乱れ、地震の前触れ、海底の運動、宇宙人からのメッセージ
本当に好き勝手言いやがった。
砂漠化に関する特集も様々なメディアで行われ、危機感を煽りに煽って人々を震え上がらせた。
砂漠というものに恐怖を抱く人が現れ、砂を連想させるワードがタブーとなり、『東京砂漠』が発禁となった。
しかし砂漠化は事態として日に日に深刻さを増していった。
(;´∀`)「こりゃあ国家の一大事モナ。緊急会議を開くモナ」
砂漠化はやがて本州全土に広まり、関東にも影響するかもしれない。
そんな懸念が国会で追及され、総理を急きたてるにいたったのである。
数日間、内閣府で救急の会議が行われた。
会議の終わった翌日、不安がる某県民、そして全世界の人宛に緊急発表が放送された。
(;´∀`)「某県住民を他県に避難するモナ。
そののち、県境に海水循環装置を設置して湿潤を一定に保ち、砂漠化を食い止めるモナ。
我が国の内閣府と各大臣、及び各専門家技術家軍隊などなどがアップを始めたモナ」
言ってしまえば、某県を孤島として隔離するプロジェクトである。
どこにそんなお金が余っていたのか、総理はものすごい速度で人員と装置を準備し行動を始めた。
当然ながら、某県中はパニックに包まれることになった。
* * *
('A`)「こうも世の中は変わってしまうのか」
街を歩きながら、俺は驚きを隠せないでいた。
買い物と散歩からの帰り道だ。空は曇っているが、それ以上に周りが鬱屈している。
あれだけ賑わっていたこの地方都市も、今ではすっかりゴーストタウンだ。人がいないし光も少ない。
砂漠になる下準備が着々と整っているようで不気味なことこの上ない。
例のぼろアパートもすっかり住民がいなくなっていた。
詳しく関わっていないが、もう片手で数えられる程度しか残っていないと思われる。
俺がその玄関を開けると、やつれた様子の大家さんが駆けこんできた。
(´・_ゝ・`)「やあドクオくん、ちょうど良かった。君、いつ出ていけるかな?」
(;'A`)「あ、とうとう来ました? その手の話」
(;´・_ゝ・`)「すまないね、国の方針にこんなアパートは逆らえないよ。
なるべく住民を裏切る真似はしたくなかったんだけど、私にも生活があるからね。
帰宅できる日が分かれば教えてほしいんだ。なるべく融通は聞いてくれるはずだから」
('A`)「……あの、最大でいつまでになりますかね」
(|!´・_ゝ・`)「え? 多分あと三カ月くらいだと思うけど……どうしたんだい? まさかぎりぎりまで残るとかじゃ」
(;'A`)「いえいえ! 決してそういうわけではなく」
顔を青ざめる大家を背に、俺はさっさと自室へ戻っていった。
俺はできることなら残っていたいと思っていた。しかしそれを言ってしまうのは、大家さんに悪い。
なぜ残りたいかといえば、この街が、素直クーの引っ越した街でもあったからだ。
もしかしたら、クーはこの街にまだ暮らしているかもしれない。
連絡先も知らないけど、暮らしていたらまた出会えるかもしれない。
そんな直感が俺をここに居座らせたいと思わせた。
今までは気にしなかったのに、気にしだした途端にやっかいな執念を生ませてしまったのだ。
街が枯れ果ててから、急に散歩が趣味になった。
クーに会えるかも知れないという淡い期待が彼を突き動かしていたのである。
今日もまた、その散歩から帰ってきたところだ。
いつの間にやら、いささか体力もついてきて、日に日に行動距離が延びている。
どうしても出ていかなきゃならないと言われるまで居座ってやる、そんな豪胆さも抱くようになっていた。
荷物を整理し、再び糠漬けを弄ろうとしたとき、玄関で物音がした。
どうやら郵便らしく、ポストを動かす音がする。
気になったので、糠漬けはまた元に戻し、玄関へと足を進めた。
郵便受けを確認すると、真新しい封筒があった。
室内に入り、封筒を破る。
丁寧に折りたたまれた手紙を、ぐいっと広げた。
('A`)「……え?」
書いてあったのは、街外れのとある住所。
それ以外のヒントが書いてなくて、反応に困ってしまった。
もっとヒントはないだろうか、そういう思いで封筒の中を覗く。
果たして、それはあった。
('A`)「あ」
手のひらを広げ、その上に封筒を逆さにして中身を出す。
白い小さな欠片が、ころんと転がった。
('A`)「……陶器の破片?」
ぴしりと、音が鳴った気がした。
記憶が再び蘇る。彼女の最後の言葉。
真っ白い陶器をお前にやる、と。
指定された住所は、思いのほか、俺が通っている大学に近い、丘の上だった。
まだ誰もいなかったので、とぼとぼと歩いて眼下の街を見下ろした。大学、商店街、住宅街、何もかもが寂れている。
そう見えるのは、砂漠化地帯から飛来する砂のせいでもあるのだろう。
目線を動かせばすぐにその拡大する砂の山が見えてくる。
国立公園から広まったその現象は、道路もビルも押しつぶし、今や街の一角にまで広がっていた。
人類の文明が衰退する未来予想図を一挙に見せられた気がする。決していい気持ちのするものじゃない。
ひどい草臥れを含んだ溜息が毀れたとき、背後で音がして、俺は顔を向けた。
('A`)「…………やっぱり、そうなのか」
川 ゚ -゚)「うむ」
彼女は、再び俺の前に現れた。
現実感もなにもない、からっからに乾いた再会だ。
('A`)「あれ、全部クーがやったの?」
俺が砂漠を指さすと、彼女はすんなり「うん」と、首を縦に振る。
('A`)「なんでそんなことしたんだよー」
川 ゚ -゚)「砂漠を見たかったからじゃないかなあ」
('A`)「どうやったんだよ」
川 ゚ -゚)「なんか、念じていたら、できた。ははは」
クーの右手には手袋が嵌められていた。それを彼女は左手で外す。現れた真っ白い指が、「えい」と地面に触れられる。
すると、僅かに残っていた草花がみるみるうちに萎んでいった。緑が茶色へ、黒へと変わっていき、芯が崩れて砂と化す。
川 ゚ -゚)「な?」
('A`)「うーん、できてるなあ。怖いなあ」
それから、俺とクーは別れてから後のことを報告し始めた。
といっても、そんなに熱心に話題が合ったわけじゃない。
俺は普通に進学して普通に落ちぶれたことを淡々と説明した。
面白くなかったし面白くしようとも思わなかった。
彼女の方は、転校してからあんまり良い想いをしていなかったらしい。
はっきりとは明言していないけど、集団に溶け込めないでいる彼女の姿は容易に想像がついた。
川 ゚ -゚)「遠くへ行きたいとそればっかり考えていたよ。でもそんな簡単な話じゃない。私は親を悲しませるようなことはしたくなかったしね。
だから本を読んだり調べ物をしたり、そうして妄想だけを繰り返して日々を過ごしていた。
そうしている間は幸せだった。自分の惨めな人生なんて考えなくてすんだからね。
思えば私は昔からその手のストレスを抱え込んでいたのかもしれないな。それで、学ぶこと自体が目的になっていた。
その証拠に、いろんなことを知ろうとして、どうしようとしていたのか、とんと思い出せないんだ。酷い話だろう」
川 ゚ -゚)「そのことに気付いたのはひと月前で、私はそれなりのショックを受け、夜中に自室に籠っていた。
本もパソコンも聞かず、布団にまるまってぼーっとしていたな。
それで、ふっと思い出したのが砂漠のことだったんだ。『砂漠を見たい』って、高校生のときに言っていた、そのことが、なぜだか頭に思い浮かんだ。
気が付いたら、布団はしわしわになっていた。私は怖くなって外に飛び出した。公園にいてガタガタ震えていたら、そこもどんどん枯れていった。
まあ、わけはわからなかったよ。理屈じゃない。できちゃうことは受け止めなきゃならない。私は触れたものの水分を奪う力を持ってしまったんだ」
('A`)「それが最初の事件、か。でも、それならどうして砂漠が広まっているんだ?」
川 ゚ -゚)「ん、そりゃあ、広めているからだな」
('A`)「……なんでさ」
川 ゚ー゚)フッ「なんでだろうな、わからんよ。広めたくなったのさ。この辺一帯砂漠になったら気持ちよさそうだなってね」
そうして彼女はへらへら笑う。空中を舞う砂粒のの流れが微かに乱れ、またすぐに元に戻ってしまった。
('A`)「お前、普通じゃないな」
俺が指摘すると、彼女は目を瞬いて、それからまたにやりとする。
川 ゚ -゚)「そんなの、わかっていたんじゃないのか? 高校生のときからさ」
そうかもしれない、俺もそうだったのだから。
とはいえ、そんな返答は心で思うだけにして、やるせない吐息だけを返しておいた。
川 ゚ -゚)「で、だ。話は進むのだが、私はやれることならこの街を、国を、世界を砂漠にしてやりたい」
('A`)「おーおー、でっかい夢をお持ちなようで」
川 ゚ -゚)「この力はな、私が思っていることを実現させてくれる究極の力なんだ。できないことはない。やがては世界を滅ぼすだろう」
('A`)「…………」
川 ゚ -゚)「君は、どうする? 一緒にいたいか?」
気軽に返そうとした俺の、息が詰まる。動揺が顔の筋を引きつらせた。
(;'A`)「……やめようぜ。こんなの、まるっきり悪役のすることじゃねえか」
川 ゚ -゚)「答えになってないな」
(;'A`)「だ、だって」
川 ゚ -゚)「いたいか、いたくないか、どっちかだ。さあ」
彼女の顔からは、もう笑みは消えていた。漆のようにまっ黒な瞳に、人間的な感情は見えず、死に際に足掻き暴れる魚のような獰猛さだけを携えていた。
そんなものを、俺は抱え込めなかった。肯定も否定もできず、冷や汗をかいて黙りこくる。
ややあって、彼女が目を伏せ口を開く。
川 ゚ -゚)「そうか、残念だ。もういいよ、私と誰かの関係なんて、もう必要ないってことなのだな」
言い放つ、その言葉によって、ようやく彼女の真意がみえた。
違う、と俺は叫ぼうとした。言葉が一挙に喉の奥までせり上がり、押し出されようとした。
だけど、気付けば彼女の姿は消えていて、言葉は行き先を見失い、飲み込まれてしまった。
こうして彼女はまた消えた。砂漠に浮かぶ蜃気楼のような、儚いイメージだけを植え付けて。
* * *
失意ばかりが、胸に広がっていた。
息苦しさと、吐き気が、徐々に肥大してくる。
どうやって帰宅したのか、ほとんど覚えていない。頭の中は彼女でいっぱいで、その全てが俺を責め立てていた。
アパートに戻ると、ちょうど大家さんと鉢合わせした。
(;´・_ゝ・`)「げっ、ドクオくん!」
('A`)「どうしたんですか」
(;´・_ゝ・`)「い、いやあ実はさっき国の役人が来てさ、結構な補助金と住居が出るみたいだからさ、じゅ、住民ももういないしさ」
('A`)「……出ていくと?」
(´・_ゝ・`)「そうそう。そうなんだよ悪いね。というか、もう他の人も出ていったよ。残りは君だけさ。
鍵は全部開放されているから、あとは好きな物取っていってくれ。自己責任だ。じゃ、さよならー」
ぴゅーっと、大家は道を行く。何もかもが忙しない人だった。
声をかけても良かったが、とてもそんなテンションではなかった。
補助金を出してまで転居を促すとは、いよいよもって国はこの県を見捨てにかかっているのだ。
そんな危ないところに暮らす方が悪い、そう言われているみたいなものだ。
アパートはすっかりがらんどうだ。砂漠に埋もれたら、ものの数日で自然に還ってしまうだろう。
自室に戻って荷物を整理し始める。
確かにここに残っていても、もういいことはない。
クーとだって、せっかく会えたのに酷い別れ方をしてしまった。
彼女は全てを砂にしてしまう気だろう。
あの最後の質問は、俺に猶予を与えていたんだ。
唯一彼女と交流した、俺に対して、砂になるか、ならないか。
俺は答えられなかった。関係を肯定できず、タイムアップだ。
どうしてすぐに答えてやれなかったんだろう。今更になって苛立ちが募る。
(#'A`)「……んなこと言われても、どうすりゃいいのさ」
吐き捨てて、床に寝ころんだ。もう本当に、何もやる気にならない。このまま砂に埋もれてしまいたい。
ごうごうと音がする。砂が壁にぶつかっているのだろうか。それにしてもうるさくて、まるで砂嵐でも起きているようだった。
ひょっとしたら、彼女が砂漠化のペースを速めているのかもしれない。もはやこの世に未練などない、そんなこと、彼女なら平気でやりそうだ。
(#'A`)「…………」
('A`)
('A`)...
苛立ちが、徐々に引いた。
彼女がどうして暴れているのか、詳しく知っているわけではない。
でも、そうなるだけの理由があって、彼女なりに苦しんでいたのだろう。
関係なんて、もう必要ない――彼女が最後に言ったことだ。
彼女に残った唯一の関係が俺だったんだ。それが無くなり、絶望した。そうして世界を滅ぼそうとしている。
彼女を止めなきゃならない。でもどうしよう、もう彼女と会う方法なんて。
('A`)そ「あ」
ふとした閃きが、俺を駆り立てる。
床下収納を開き、糠味噌を掴みだす。するとそのとき、外から猛烈な轟音が聞えてきた。
砂嵐は益々威力を強めているようだ。人々の残した痕跡を、跡形もなく消し去るために。
(#-A-)「うおおおおおおお」
俺は糠味噌を下腹部に押し当て、必死に抱え込んで耐えた。
どんな音や振動が伝わってきても、決して動こうとすることなく。
目を閉じ、動かなくなり、時間が過ぎていった。一際大きな音が響いて、空気が流れるのを感じた。
屋根が飛んだのだろうか。だとすれば、もう、長くは持たない。
* * *
俺が目を覚ましたのは、いつのことだったのか、はっきりとはわからない。見当たるところには時計どころか、壁も、何も無かった。
外の砂の上に、俺は寝転がっていた。太陽は高く上っているので、お昼付近であることがかろうじて認識できた。
上半身を起こして、もう少しよく周りの状況を確認しようとする。口に入った砂を数回吐きだして、前を見据える。
どこをどう見ても、砂しかなかった。
動かした右腕が、こつんと何かに当たる。
見ると、砂に半分埋もれた容器があった。あの糠味噌だ。俺は慌てて腰を入れ、それを取り出す。
側面にこびりついた砂がさらさらと下に落下していく。
恐る恐る蓋を開いてみたが、砂は入りこんでいない。幸い蓋の部分が埋もれていなかったので、浸食されなかったのだろう。
('A`)=3
安堵した俺は、肩を落として、それから立ち上がる。
糠味噌の容器は、それほど大きくない。家庭用の小さなもので、胸の上に抱え込める程度の、白い陶器の壺だ。
('A`)「よいしょっと」
その陶器を、俺は持ち上げる。重さも大したことはない。体力に自信はないが、激しく動くわけでもないので平気だろう。
こうして、俺は歩くことにした。彼女を探すために。
からっ風が吹き付け、砂粒が頬に当たる。
日差しも赤々と地面を照らす。冬であったのが幸いした。夏だったら、熱量が尋常ではなかっただろう。
土地勘も何も無かった。目印はない。砂の山があるだけだ。
時折街の残骸の、鉄骨や看板が目に入ったが、とても場所を特定できる代物ではなかった。
そこにおいては、世界は滅んでいた。
しかし、諦めてなどいない。俺は緩めることなく一歩一歩踏みしめた。
歩いているとときおり湿った場所にも遭遇した。
おそらく埋もれる前は水源とか、潤いのある場所だったのだろう。
よく見れば、草花だって僅かに残っている。砂に晒されても、芯はまだ折れていなかった。
そうした場所で砂をかきわけると、水にありつけた。
汚さとか気にしている暇もなく、飲む。束の間の癒しが訪れる。
彼女の能力では、本格的な砂漠化には至れないのだろう。おそらく、まだ。
('A`)「へへ、これは砂漠じゃない。砂丘に過ぎない。なんてね」
彼女は十分浮世離れしている。でもまだ決定的じゃない。錯覚のような安堵が、俺を奮い立たせた。
時計が無いと、時間の流れは遅く感じる。明確に道筋がわからないので、なおさらだ。
ただ、徐々に赤みを帯びる陽光に晒されることでのみ、時間の過ぎゆくのを感じた。
(;'A`)フウ、フウ
適度に休みは取っていた。
時折見かけるビルの残骸の陰に隠れたり、水気のある場所に腰をおろしたり。
それでも、疲労は蓄積されていった。
(;'A`)「ああ、もう、さっきやすんだばかりだと思うけどな」
瓦礫の山を見つけ、日差しを遮る場所に上手く入り込んで、俺はぼやいた。
汗を拭って、顔を振るう。焦っちゃだめだ。焦ってもいいことなんてない。
どうせほとんど絶望的なのだ。急いだところで何ができるわけでもない。
そう、心に言い聞かせる。いきり立つ気持ちは静まったが、代わりに虚しさが大挙して押し寄せてくる。
自分の行いが、全くの無駄で終わってしまうことの恐怖。
(#'A`)「ええい!」
一声叫んで、それから立ち上がる。
どうせこんな場所じゃ長く生きてなどいられない。だったら力尽きるまで歩こう。
足元に置いた糠味噌に手を伸ばしたとき、一陣の風を感じて、目を細めた。
('A`)「…………え?」
そう、不思議そうな声を出したのは、風の中に一枚の白い花弁を見受けたからであった。
遠くからでも、彼女の姿はよく見えた。
服の裾から覗く白い肌が、日差しに照っていたからだ。
彼女は屈みこんで、花を見ていた。真っ白な花弁を有する花。あいにく俺はその名前に疎い。
だけど、先程風に流れてきた花弁がその花のものであることはすぐにわかった。
砂丘の花はそれだけ貴重な存在だったのである。
彼女は花を右手で触っていることに、俺は遅れて気がついた。
水気を吸い取る右手は、花を枯らせていないでいる。
俺はその光景を見て、一つ確信が生まれた。
あの右手の能力は、大雑把に言ってしまえば、彼女の願いをかなえるためのものだ。
彼女が欲するものを消し去ることはできない。俺はそう仮説を立てていた。
その仮説を信じていたからこそ、俺はここまで歩いてこれたのである。
今、彼女は何らかの理由があってあの白い花に興味を抱いているのだろう。
だから花は、枯れることなく咲き誇り続けている。
理由はともかく、それは仮説の正しさを証明しているのだと、俺は思った。
川 ゚ -゚)「むっ」
歩み寄る俺に、彼女はようやく気付いた。俺は彼女に笑いかけるけど、頬が軋んだ。思った以上に疲れていたようだ。
手を振りたいけど、抱えるものがあるのでできない。代わりに俺はその壺を彼女に向けて突き出してみせた。
('A`)「ほらよ」
彼女は、それを欲していた。過去を思い出したから、俺はあのアパートでとっさにその陶器の壺を抱え込んだのだ。
('A`)「糠味噌漬けの話、してやるよ。報告する約束だっただろ」
('A`)「現代の形の糠漬け(糠味噌漬けとも言う)の起源は、江戸時代初期にまでさかのぼる。
穀類を使う漬けものが奈良時代からあったのだが、それを米糠(精米づくりの際に出る皮等のこと)で代用したのだ。
糠に含まれる栄養素ビタミンB1が野菜にしみこむため、江戸患いとも呼ばれた『脚気』予防に効果を発揮したという。
その糠漬けの作り方だが、一度煮沸した米糠に食塩水を加え、やや固まる程度まで放置。唐辛子や昆布などとともに壺に納め、均せば糠床の元となる。
これに野菜の屑を入れ、一週間ほど漬けこみすれば、野菜の乳酸菌が繁殖する。毎日続けることで風味が増し、2~4ヶ月程度で糠床として熟成する。
この糠床には手入れが必要だ。糠床の空気に触れる部分は菌のバランスが崩れるので、腐敗やカビの増殖が起こりうる。
それを防ぐためには毎日底からかき混ぜて表面部分を底面へと押し込める必要がある。回数は人によって違うし、暑ければ増やす必要がある。
また、野菜から水分がしみだすので、放っておくと糠漬けが水っぽくなってしまう。だからこれを掬い取る必要もある。
この糠床の手入れには個人差がある。だから、糠漬けの個性がもっとも出るポイントなのだ。
さて、この糠床の感触だが、発酵が進めば進むほどふっくらとしてくる。
かき混ぜるときに湧きたつ芳醇な香りも、時間がたてばたつほど濃さを増していく。
食材の保存場所に過ぎないのに、自分の手入れでどんどんキレをまし、成長していくのである。
当然ながら、相手は菌という立派な生き物なのだ。それを自らの手で育むというのは、植物を育てる人の快楽に通ずるものがある。
じっくり成長を見守るタイプの人なら、きっと嵌まるだろう。
この糠床に、塩揉みした野菜を漬ければ糠漬けが出来上がる。糠を洗い落として、食卓に並べられる。
漬けこむ最適の時間は野菜によってことなるが、たとえ風味が足らなくても調味料でごまかせばいいし、ありすぎたら刻んで他の食材の風味付けにすればいい。
こうした糠味噌漬けの文化は、300年以上経過した今でも、この国のどこかでひっそりと続いているのである」
('A`)「――以上だ」
川 ゚ -゚)「お前すげえな」
砂丘の上で、俺たちはまた語らった。
二人とも早口気味で、あまり一般的によくは受け取られない話し方だったけど、気に留める人などいなかった。
話したいことを好きなように話し続けることが、とてつもなく楽しかった。
彼女はよく口元をにやりと動かしてくれた。彼女にとっては十分すぎる笑いの表現だ。
俺はそれに気を良くして、ますます話を盛り上げた。ときどき舌を噛みそうになる。不慣れすぎて、俺までおかしくなった。
いつの間にか、彼女の右手が俺の手に握られていた。彼女もほとんど無意識の行動だったらしい。
気付いたときには驚いたけど、俺は水気を吸い取られていないし、枯れても消えてもいない。
俺はほっとして、もうその力を何も気にしないようになった。
足元に、いつの間にか白い花が咲いていた。
あのとき彼女が見ていた花と同じだろうか。
そう聞こうかと思ったが、花が次々と、砂の下から盛り上がってくる様が異様で、魅入ってしまい、聞く機会を失った。
川 ゚ -゚)「はは、なんだ。この砂、こんなに薄かったんだな」
('A`)「地久砂漠化計画は断念だな」
川 ゚ -゚)「うん。いいさ、この景色ももう飽きた」
やがて、陽光がますます赤みを増し、崩れかけの砂の山の向こうに落ちようという頃になって、俺は遠くの空に黒い点を見受けた。
それは徐々に近づいてきた。空気を切り裂く音がする。ヘリコプターだと気付いたときには、もうその物体から梯子がぶらさがっていた。
後で聞いたことなのだけど、砂嵐の発生を把握した国が自衛隊の派遣を決意し、残された住民の救助のために動き出していたそうだ。
ヘリコプターに詰め込まれたあとは、バタバタしていて、若干頭が混乱した。
彼女もいっしょになってあわあわしていた。こうしてみると、彼女は本当にただの少女だ。右手は普通に素肌で物に触れていたし、やはり何も起きないでいた。
こうして、俺たちは救助された。
あの砂を始めてみたときは、広大な砂漠にすら見えた。
でも、実際にニュースとか新聞とかで調べてみたら、あれはごく一部の街で起きた局所的な出来事に過ぎなかったとわかった。
この世界は、一人の少女にはいささか広大過ぎたようである。
街の砂はひと月もすれば海へと流れた。風でみんな吹き飛んだのだ。街の残骸も徐々に片付けられ、復興が進められている。
物体そのものが砂になっていたので、邪魔なものがなく、割と簡単に事が運んでいるらしい。
とにもかくにも、あれはただの砂丘に過ぎず、わけのわからない事件への興味も次第に薄れつつあった。
あまりにもあっさりしすぎていて、あれは全部夢だったのではないかと思ってしまえるくらいに。
(;´・_ゝ・`)「げっ、ドクオくん」
とある街で、大家さんに出会った。
ここは国から勧められた移住地の一つだったから、確かに出会う可能性が無いわけではなかった。たまたま今まで会っていなかっただけだ。
('A`)「大家さん、なんですか『げっ』ってのは」
(´・_ゝ・`)「いやいや、すまない。条件反射みたいなものだろう。あと、私はもう大家さんじゃないよ」
('A`)「あ、確かに。あれっすね、条件反射っすね」
二言三言、言葉を交わす。
あのあと大家さんも、ちょくちょく元住人にあっているらしい。全員無事に生きている。
そもそもあの事件、死者はほとんど出なかった。もっとも事情を知っている俺からすれば、その意味はわかる。
彼女は別に他者の死を望んでなどいなくて、ただ接したくないと思っていたにすぎないのだ。
なんとも、傍迷惑な話である。
大家さんと別れた俺は、また歩き始めた。
この街にも丘があった。巻きつくように坂が伸びていて、そのうちの一本を俺は今上っている。
眼下に広がる街が、少しずつ遠ざかっていく。あのゴーストタウンとは違う、活気ある街。砂が無いせいでそう見えるのかもしれない。
辿りついた場所には、神社があった。今はまだ閑散としているが、もう数日もすれば初詣の人でにぎわうらしい。
その入口に、彼女はいた。
川 ゚ -゚)「寒いな!」
('A`)「まだ冬だからなー」
簡単な挨拶を交わした後、俺たちは神社を歩き始めた。
真冬にやることじゃない。
そう彼女に何度も訴えてはいたが、彼女は聞く耳持たず、無理やり俺をここに連れ出した。
川 ゚ -゚)「さあ、この神社、探索するぞ。初詣前の下調べだ」
('A`)「へいへい」
気になることがあれば、調べる。それが彼女の性格だ。
あまりにも身勝手なので、いろんな人に敬遠されがちなのだろう。
その身勝手さに、今俺は付き合わされている。別に敬遠したいと思ったことはない。
上手くは説明できないけれど、何故か居心地がよかったからだ。せっかくの居場所を捨てることもあるまい。
一つ、寒々とした風に、俺は震えながら目を閉じた。
ゆっくり開くと、視界の真ん中で、彼女が両手を広げて突っ立っていた。
寒さに負けないことのアピールらしい。
ふっと、頭に浮かんだのは、あの砂丘の白い花。
そうか、だからあの花は枯れなかったのか。
俺はようやく思い至った。
砂丘に花が咲くようです