Outside≒Inside

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プロローグ

結局、親は意見を曲げてくれない生き物だ。何だかんだで離婚の結論を出した母にも、それを無感情で呑んだ父にももはやどのような感情も募ることはなかった。いずれこうなることを解っていたかのように。オヤジがオフクロ以外の女と遊んでいることは薄々気付いていたのだ。もはやそれだけが原因かも解らないままこうなって、今、住み慣れた家を後にした。
これからは母方の姓を名乗ることになる。有永 純として生きていくことになり、そのことが今までの自分―六菱 純―を否定して生きることのように思えて、ますます感情が薄れていく気がしてしまう。
今はまだ言い聞かせる。
―早くここを去れば前に進めるに違いない。

不意にスマートフォンの通知音が響く。
From:紅月 愛子(aikostans@sofdbank.ne.jp)
Title:無題
本文:あたしと遼平とさっちゃん
とゴンザレスもう駅来てる
から!!早く来い( `△´)
遅れても知りませんぞ!!

「ったく何処から情報漏れやがった…」
まだ予定より30分以上あるが、純の足は既に走り出していた。
俺の引越し先は大自然に恵まれたプチ田舎町らしい。特急で直接アクセス出来るような大きな町ではないため、列車を乗り継がなければならない。だから出来ればそれまでに疲れるようなことはしたくなかったのだ。愛子はいつも無計画だから困る。まあ、その無計画に付き合う純はあまり癪に障っていないのか、いつも「やれやれ」と思いながら、気づけば言う通りに従っている。
大通りに出る十字路を曲がったところだった。
「純!!」
とてつもなく大きな声が後ろから降り掛かった。半ば驚きつつ振り向いた。
「…桐原?」
「そんなに急いでどうした?愛子の招集にいつも一番乗りで到着するのお前だもんな!!」
にやっと、不揃いの歯を見せて笑った。筋肉質な頬が緩んで、目が細くなった。
「一番乗り云々は関係ねぇだろ。愛子の招集は正解だけどな」
というかお前も招集されてるんじゃねぇのかよ、ゴンザレスってのは桐原尚久のはずだ。
「俺はさっき愛子と駅行って今帰りだよ」
帰り?てっきりこいつも俺を送り出してくれるのかと思っていたが違うようだ。
「俺は愛子の任務を今お前にあったことで果たしたから用済みなんだよ」
「へー?」
「何だよ駅で『達者でなぁあああ!!』とか言って送り出して欲しかったのかよ」
「…アホかお前。別にそんなんじゃねぇよ。ここで遭遇出来て良かったと思ってたとこだってば」
本当は少し残念に思ったことは内緒だ。その感情がただ漏れにならないように背筋を伸ばす。
「そか、ならいいんだ。俺お前を見送れねぇけど、向こうでも元気でやれよ!!」
「おう。またメールするわ」
「了解ーっ」

スマートフォンの時刻表示に目を落とすと11時16分だ。メールを受信してから大分経ってしまった。愛子に怒られることを思うとこれ以上油を売ることは出来ない。

尚久が見えなくなってから、また走り出した。

第一章 別れ≒始まり

駅に着いてみたら不機嫌そうに腕を組んで、入口の近くの壁に持たれている団子頭の女がいた。
「おっっそいわよ!!メールしたのに返信ないのはいつものことだから目を瞑ってあげるけどもっと早く来てよね」
「何故電車の時刻には普通に間に合ってるのに駅でお前に怒鳴られねぇといけねぇんだよ…」
うっかり小言を呟いてしまった。
「はぁ…でもまたあんたが一番に来たわね。その点は褒めるべきよねっ」
「あーはいはい、大変ありがたく受け取りますー」
「もー、なんなのよ…」
お決まりのパターンである。褒めるべきよねなんて口走っても大抵直接褒められやしないのだ。
愛子と純は幼稚園からずっと同じ学校に通っている。それで純が引っ越すと聞きつけて(情報源は定かではないが)、駆けつけたのだろう。
愛子がスマートフォンを弄っていた顔をあげる。
「…あのさ、純」
「ん」
ポケットに突っ込んできたガムを口に放り込んで答えた。
「…ごめんね」
「………え?」
滅多に人に謝罪など使用としない強気な女に突然謝られた。これで動揺しない奴は神様か何かだ。
「……あたし昔っから純のこと連れ回してばっかで」
ますます不可解だ。それにそれは半ば日常化していることなのだ。今更どうこういうことではない。
「あたしに宿ったこのルビーの力を制御できくなったときにさ、純はあたしを守りながらあたしと闘ってくれたんだ。あたし、そのこと、ずっと忘れないから。」
あぁなるほど。つまりそれを言いたかったのか。俺も忘れてない、と心の中で呟く。
「俺の石の力だってそうなってたかもしれねぇし、可能性も十分あるから気にすんなよ。五分五分ってやつだ」
「…うん」
気のせいか愛子の頬が紅潮しているように見えた。俯いてしまったのでよくわからないままになったのだが。
「あ、ゴンザレス今日用事あるからって伝言頼まれてるんだけど」
「桐原にさっき会ったけどな」
「なんだよーじゃーどうせ同じこと言われてるよ。元気でやれよってさ」
「おう、お前からよろしく伝えてくれ」

口に入れたガムの味が薄くなる頃合に、沙耶香と遼平が揃ってやってきた。
姿を捉えた途端に、愛子のさっきまでの素直な表情が一瞬にして変化した。

「遅くなってごめんねっ!!」
はぁはぁと息を切らしながら、緩やかに波打った髪が、足元に揺れている。
「間に合ってよかったわー」
と、ツンツン頭の遼平が笑う。
「間に合ってないわよ、あたしの召集命令から何分かかっt」
「純っ!!田舎行っても俺たちぁダチだぞ!!約束だ!!」
「テンションたけぇなお前」
横で愛子が沙耶香になだめられている。
おもむろに沙耶香が口を開く。
「ほんと、でも、元気でね、それと…」

「ダイヤモンドは守りきって。」

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  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-21

Copyrighted
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  1. プロローグ
  2. 第一章 別れ≒始まり