あやかし討伐記録

あやかし

――某日 討伐完了日

「ミク、行くぞ。」

「お兄ちゃん、待ってよ!すぐ行くから!」

「早く来いよ。」

「うん!転移魔術使うね?」

「ああ。頼む。」

「うん。転移魔術・家!」

――家

私の名前は及川ミク。

私には2つ年上のお兄ちゃん、及川悠里がいる。

私はまだ15歳だけど家業を継いでる。

及川家は代々中卒で家業を継ぐ。

だって、家業が陰陽師だもん。

要は妖怪を退治する家業。

虫をベースにした妖怪は嫌いだけど、この仕事は好き。

「おい、ミク。なにボケッとしてんだ。行くぞ。」

お兄ちゃんはとっても口が悪い。

でも大好き!

「おい、いい加減にしろ。」

「いてっ!」

うーっ!小突きされた!

「さっさと家入れ。」

「はぁーい。ふんっ。お兄ちゃんのせっかち。」

「あ?最後何言った?」

「別にー!お兄ちゃんには関係ないもんねっ!」

「・・・・・・さっさと成果報告するぞ。おい、お袋、入るぞ。」

「悠里、口の悪さは治らないのかしら。」

「はっ?治す必要ないだろ?」

「はぁ・・・。」
「はぁ・・・。」

「二人とも同じタイミングで溜息つくなっ!ま、いい。成果報告だ。あそこは妖怪のたまり場だったみたいだ。怪異の原因となりうる妖怪は封印してきた。」

「そう。お勤めご苦労。そうそう、あなたたちの部屋で依頼人がお待ちよ。新しい依頼をしたいとか。」

「わかった。お兄ちゃん、部屋へ急ご!」

「ったく・・・、一人で行って来いよ。」

「うるさい!いくよ!」

――ここ、及川家はとっても広い。

陰陽師としての名もあり、屋敷が構えられている。

しかし無駄に広い。

時々迷うよぉ~。

「おい、なにボケッとしてんだ。さっさと入れ。」

「わかってるってば。失礼しますね。」

「あっ、こ、こんにちは。」

「えっと・・・、依頼人の方ですよね?」

「はい。そうです。」

いや、どう見ても小学生じゃん・・・。

あ、お兄ちゃんも同じとこで突っ込んでるみたい。

「えっと・・・、お名前お伺いしてもいいですか?」

「あ、はい。私、関口琴音といいます。」

かわいい依頼者

「関口琴音ちゃんだね。私は及川ミク。よろしくね。」

「よろしくお願いします。男の人のお名前は・・?」

「俺は及川悠里。依頼があるならさっさと言え。」

「あ・・・はい。実は私の家に変なことがいっぱい起こってるんです。」

「変なことか・・・。」

「はい。お母さんがかすり傷だらけになったりお父さんがぶつぶつ独り言を言ったり。とにかくおかしくなっちゃったんです。」

「おかしくなった・・・か。ここにいること、お母さんに言ってある?」

「いえ、友達の家に行くとしか言ってません。」

「そうですか・・・。お母さんにしっかり事情を説明しないと依頼は受けられないね・・・。琴音ちゃんは今何歳?」

「10歳です。」

「未成年か・・・。やっぱりお母さんの許可が必要だね・・・。」

「では、家に来ていただけますか?」

「え?それはちょっとまずいんじゃ?」

うん、かなりまずいよ。

本当に妖怪が住み着いていたとして、私、つまり家の者以外が入ったら急激に力を強める場合もあるしね。

ほとんどの妖怪は依り代(よりしろ)を求めて住み着くといわれてるし。

「えぇと、お母さんはOK出してくれると思います。今から連絡しますね。」

「あ、そういう問題じゃなくて・・・」

「もしもし、お母さん?ちょっと頼みがあって。・・・・・・ごめんなさい。でも、変なことを解決したかった・・・。・・・・・・うん。わかった。今から行くよ。・・・あ、ミクさん、OK出ました。行きましょう。」

「ま、いいか。」

いざとなったら浄化すればいいしね。

「悠里はいく?」

「いかねぇよ。勝手に行っておけ。んじゃーな。」

「なんつー、口の悪さ・・・。まあ、行こうか。」

「あの・・・、その恰好はかなり目立つと思いますよ。」

あ、確かに。ぼろぼろの陰陽師服、それに髪も乱れてる。

「ちょっと直してきます。少しお待ちくださいね。」

「あ、はい。わかりました。」

私は急いで化粧台に向かい、服を着替え、髪もすばやく直した。

「…ミクさんですよね?」

「・・・ええ。そうですが。」

あ、いきなり服を着替えたからかな?

妙な陰陽師服から一般的な中高生のファッションをしてみたし。

かわいい柄のTシャツにミニスカ、それにハイソックス。

髪はツインテールにまとめて。

「印象変わりすぎです・・・。あ、行きましょうか。」

「そうだね。あっ、ちょっと待っててください。」

陰陽道具(おんみょうどうぐ)を持っていくの忘れちゃった・・・。

陰陽師にとって命の次に大切な陰陽道具。

陰陽道具には五つ、種類がある。

一つ目は妖鏡(ようきょう)。妖怪を映し出す鏡。

二つ目は封魔杖(ふうまづえ)。妖怪を封じる杖。

三つ目は塩。盛り塩のための塩。

四つ目は糸。糸結界を張るために必要な道具。

五つ目は消滅機。携帯くらいの大きさの機械。妖怪を消滅させてくれる。

以上、五つ道具。

「あった。さあ、行こう。」

「それは何ですか?」

「陰陽道具って言ってね、妖怪を封じるのに必要な道具のことだよ。」

「なるほど・・・。そうなんですか。」

「はい。琴音ちゃんのお家はどこですか?」

「あそこの曲がり角を右に曲がったところにあります。」

「そう。あ、ここ?」

「はい。ここです。」

ピンポーン

「――はい。関口です。」

「お母さん、陰陽師の人を連れてきたよ。」

「そう。玄関は空いているから入ってらっしゃい。」

「はーい。」

「ちょっと待ってて・・・。糸結界・怪異検索・・・・・・ん、大丈夫。入れるよ。」

「では、こちらへ。」

ガラララッといい音を出しながら関口家の玄関口が開いた。

「こんにちはー。」

「ミクさん、こちらです。」

「失礼しまーす・・。」

「あら、その方が陰陽師の方で?」

「うん、そうだよ。」

「そう。琴音、部屋に戻ってなさい。」

「あ、いや、一応依頼主なので・・・、ここにいてもらったほうが・・・。」

「だったら。ここにいなさい。」

「はーい。」

「それでお母様にあるお話がありまして。」

「なんでしょうか?」

「琴音ちゃんからある依頼をいただたんですけど、こちらでは未成年のご依頼は必ず親権者の方の同意がないとできないことになっておりまして・・・、手っ取り早い話、お母様が依頼を承諾してくださればいいんですけど・・・。」

「・・・・・・ええ。わかりました。お話をお聞かせ願えますか?」

「はい。琴音ちゃん、さっき話したこともう一回話してくれる?」

「あ・・・はい。ちょっと前からこの家で変なことが頻発してて…。お母さんの体は傷だらけになるし、お父さんはぼそぼそなんか言ってるし・・・。気味が悪くて・・・。」

「そういうことなら一言お母さんに相談なさい。今回は構わないけど・・・。」

「ごめんなさい・・・。

「・・・!妖怪が近くにいるね・・・。だいぶ強いけど・・・!」

「え!?じゃあどうすれば・・!」

「ちょっと待っててくださいね。糸結界・範囲防御!」

「ミクちゃん・・・!」

「ここにいてね。消滅機!」

「ぐうおおおおおぉおおおお!」

「きゃあっ!」

「いやぁ!なにこれっ!」

「必ず、私のそばにいてください!お兄ちゃんもつれてこればよかった・・・!あ・・・!結界で・・・!」

「怖いよ・・・」

「大丈夫。糸結界・範囲封じ 圧縮!」

「あああああああぁぁぁっ!何をするっ!何をするのじゃ!愚かな人間よ!」

「怖いよ・・・変な声が聞こえるよ・・・。」

「私のそばについてれば大丈夫・・・!」
「入るぞ!」

「!?お兄ちゃん!」

「やっぱりか・・・。お前の陰陽道具にGPSつけててよかった。」

「勝手につけたの?最低!」

「あんだと・・・?まあいい。ミクはこの母娘を守れ。」

「うん、わかった。」

「結界術・封!」

「・・・・・・」

「消滅機!」

「ふふふふふふふふふふ・・・!あはははははははっ!ああ、面白い!楽しませてくれるじゃないか・・・!そうさ、もっと楽しませてくれ!」

「舐めてやがるなこの野郎・・・!」

「お兄ちゃん・・・!」

「くっそ・・・、ミク、その母娘安全なところに避難させろ!」

「わかった!家に連れてく!」

「ああ!頼むぞ!」

「うん!琴音ちゃん、お母様、ついてきてください!」

「う、うん!」

「まて・・・、逃がさんぞ・・・!」

「・・・っ!琴音ちゃん、家の場所わかるね?」

「はい!わかります!」

「お母さんと一緒にそこ行って!私も後で追いかける!」

「わかりました!お母さん、こっち!」

「あ、ええ!」

この妖怪の名前は【仮人女(かにんじょ)】。

人間をしつこく追いかけるねちねちタイプの妖怪。

人間を捕まえれば捕まえた人間の顔を完コピして成り済ます。

のっぺらぼうの派生だ。

「盛り塩を盛れ!奴を出すなよっ!」

「でもお兄ちゃんが・・・!」

「うるせぇ!さっさとやれっ!死ぬぞ!」

「お兄ちゃん・・・。わかった!必ず戻ってくるから!」

「ああ、頼むぞ。」

「・・・・・・よし。すぐに戻るから!」

琴音ちゃんたちを追わなきゃ!

はぁ・・・はぁ・・・走るのはキツイね・・・。

そんなこと言ってられないけど・・・。

・・・あ、琴音ちゃんたち!

「琴音ちゃん!」

「ミクさん!悠里さんは・・・?」

「応戦中!早く家に!こっちだから!」

「あっ、はい!」

家が遠く感じるっ・・・!

早くっ、早くついて・・・!

「あ、ここが家だよ!」

「そうだね。開けるよ!・・・お母さん!緊急事態!」

「・・・?ミク。そう騒がないで。順序立てて話してちょうだい。」

「うん・・・。依頼主の家で仮人女が暴れてて・・・お兄ちゃんが応戦中!この人たちをいったんここへ置いて・・・」

「そういうことね。どうぞ、お入りください。」

「ありがとう!私は加勢してくる・・!」

「必ず・・・戻ってくるのよ。」

「うん。わかってる!」

お兄ちゃん・・・無事でいてよ!

お願い・・・お願い・・・!

・・・っ!?痛っ・・・

「あ、すみません・・・。」

「おいおい・・・、姉ちゃんよ・・・、俺にぶつかってただで済むと思うか・・・?」

こいつは街一番のヤンキーグループの頭領、赤羽武だっけ・・・!

どっちにしろ厄介ごとに巻き込まれそう・・・!

「おい・・・、なんか言えよ。謝罪の一言も言えないのか・・・?」

「てめぇ、離せよコラ。」

「あぁ・・・?誰だテメェ。」

「あ・・・、東条さん!」

「ミク、先に行け。ヤバいんだろ?」

「ありがとうございます。」

よかった・・・、東条さんが来てくれた・・・。

たぶんお母さんが呼んでくれたんだ。

あ、東条さんは私の恩人の人。

死に掛けた時に助けてくれた人。

とっても頼もしい人。

そんなことを考えながら走っていると関口家にあっという間についた。

「お兄ちゃん!」

「ミ・・・ク・・・!近寄るんじゃねーよ・・・!」

お兄ちゃん・・・?

傷だらけ・・・!

助けなきゃ!

「来るんじゃねー!」

「でもお兄ちゃんが死んじゃうよ!」

「おい、悠里。お前はこんなに弱いのか?」

「・・・!東条!んなわけねーだろ?」

「だったら戦え。」

「んなことわかってるよ!」

「ミクも行きたいんだろ?究極術・破滅」

パッキィーン!

そう音を立てながら敵が張った結界が割れた。

割れた結界はガラスとなり周りに飛び散った。

「行くぞ。―――――――――だ。この作戦で行くぞ。」

「はい。でも東条さんが危なくなってしまいます・・・。」

「気にすんな。行くぞっ!」

「・・・っ!はい!」

「仮人女。こっち来いよ。正々堂々戦ってやるよ。」

「ふふふ・・・。威勢の良い人間の男は好きよ・・・。さ、かかってらっしゃい。」

「かかったのは貴様だ。ミク、いまだ!」

「はいっ!封魔!」

「ぎいいいいいいあああああああっ!」

「なんて声・・・!」

思わず耳を塞ぎたくなるような叫び声を出して消滅していった。

「・・・・・・帰るぞ。家の前に車を停めてる。乗ってけ。」

「ありがとうございます。」

仮人女を仕留めた作戦ってのは至ってシンプル。

東条さんが囮になって敵が集中している間に封印するという作戦。

これに騙される妖怪はあまりいないけどねちねち系妖怪は騙されやすい。

「乗れ。家まで送る。」

「ありがとよ。」

「・・・フッ。」

「何だよ。」

「いや。ちょっとかわいいと思ってな。お前が礼を言うなんて。」

「・・・・・・。」

「着いたぞ。お前らの母親に用があるから家に入れろ。」

「どうぞ。」

「あ、ミクちゃん、悠里さん。」

「琴音ちゃん、妖怪は退治してきたよ。これで怪異はなくなるはず。もしまた起きたらここへきてね。」

「はい!」

「おい、美由紀さん。入るぞ。」

あ、美由紀さんってのは私のお母さんの名前。

「あら、東条さん。お久しぶりね。」

「ああ。呼んだか?」

「ええ。あなたにお話があって。」

「そうか。」

私たちはこの先、どういう運命になるかは知る由もなかった。

ミクの過去

―――10年前

及川ミク 5歳
及川悠里 7歳

ここは裏倉庫。

人身売買のオークション待機所。

そう、今から私たち、ミクと悠里が売られてしまう。

「うわあああん!」

「うるせぇ!誰か来たらどうすんだ!」

「お兄ちゃんは怖くないの?怖いよね?」

「怖いよ。でもな、俺たちには母さんがいるんだ。安心しろ。」

「・・・・・・。うん、お母さんがいるもんね。」

「今更母親が助けに来るとでも?ははっ!どこまでも愉快なガキだ!ああ!面白い!」

ガタッ!

「・・・!誰だっ!」

「テメェら・・・、うるさくて外まで聞こえちゃってるよ。ああ、自己紹介をしなきゃね。俺は東条正輝。よろしくな。」

「東条・・・?聞いたことねぇな。まあ俺らの姿を見た以上死んでもらわなきゃな。」

「死ぬ・・・?ここはテメェの墓場になるんだぞ?何が死んでもらわなきゃだ。」

「・・・?何言ってんだ。お前の墓場のいい間違いだろ?」

「そうか?じゃあ、試そうじゃないか。どっちが合ってるか。」

「上等だ。こっちには武器があるからな。」

「ほう・・・。銃を出すとは・・・。卑怯だな・・・。」

「卑怯もクソもねぇよ!」

バン!という音を立てながら銃弾は東条に向かっていった。

「お前にいいこと教えてやる。銃は引き金を引くタイミングさえ見極められれば銃弾は避けることができる。ほらな。」

東条は銃弾を見事にかわし、銃弾は壁にめり込んだ。

「なっ・・・!?交わした・・・?くそっ・・・こうなったらやけくそだ!」

「ふん。そんな撃ち方だと敵に隙を見せることになるぞ。な?」

銃弾をするりと避け、敵の腹部に蹴りを入れた。

「がぁっ・・・!」

「答え合わせだ。お前は間違えてる。0点だ。」

「て・・・・め・・・!」

「まだ生きてんのか?ま、ガキの前だから殺生はやらねぇが・・・。お前を警察に突き出すことくらいしてもいいだろ?」

「け・・・いさ・・・つ?ふ・・ざけ・・んじゃ・・・ね・・ぇ・・・よ!」

「もしもし・・・?はい。・・倉庫裏で少年少女を監禁してる人がいますよ。・・・・・・はい。そうです。・・・・・・わかりました。」

「・・・あの、お兄さん。」

そういって話を切り出したのは兄・悠里だった。

「なんだ?」

「なんで僕たちの居場所がわかったんですか?」

「すまんがお前らを尾行していた。あとお前らを連れて行きたい場所があってな。」

「僕たちを連れて行きたい場所?」

「ついてきてくれるか?」

「どうする?ミク。」

「・・・・・・お母さんに聞いたほうがいいと思う。」

「だよな。・・そういう訳です。一度お母さんの元まで連れてってください。」

「いいぞ。車停めてあるから乗れよ。」

ちなみに始めのガタッという音は東条が裏倉庫の扉を蹴り飛ばした音。

「わぁ・・・!すごい車・・・」

東条の車は黒塗りの高級車。

お値段は1000万を超えるとか。

「ほら、乗ってけ。」

「はい。ミク、おいで。」

「あ、うん。・・・・・・ちょっと乗りにくい。」

「あー、ガキにはちょっと高かったか?」

高かったか?というのは車高のことである。

「乗せてやる。」

「ありがとうございます。」

「乗ったか?」

「「はい」」

「んじゃ、出るぞ。」

数十分後、及川家についた。

「美由紀さん。東条です。」

「あら・・・、東条さん。どうかされたの?」

「ガキ共を連れて行きたい場所があるんだが・・・。」

「どこかしら?」

「ケーキ屋だ。そこである話をしたい。」

「ある話・・・?・・・!!」

「あんたの思ってるとおりさ。いいだろ?」

「ちょっと早いかもしれないけどまあいいわ。」

――ケーキ屋

「好きなもの頼めよ。」

「んー、じゃあショートケーキ。」

「僕はチョコケーキ。」

「そうか。すいませーん。」

「はい、いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

「はい。ショートケーキとチョコケーキください。あとホットコーヒーも。」

「はい、わかりました。少々お待ちくださいませ。」

「・・・それで、お話って?」

「ああ。お前ら、自分に力があること、自覚してるか?」

「力?なにそれ。」

「・・・・・・・・・っ」

「ほう・・・。悠里は分かってるようだな。」

「・・・・・・ああ。」

「お兄ちゃん、力って何?」

「・・・7つの祝いをすればわかる。」

「7つの祝い・・・?」

「よくわかってるじゃないか。」

「お待たせいたしました。ご注文の品でございます。」

「ん、ありがとう。さ、食べろ。」

「うん!」

「なあ、東条さんだっけ?なんで今その話を・・・?」

「ミクに自覚させるためだ。少なくともその力を手に入れれば普通の生活は出来ない。もっと悪く言えば若くして死ぬかもしれない。そういうことは早めに言っておくべきだ。」

「だけどよ・・・。」

「お兄ちゃん、ケーキ食べないの?私、もう食べちゃったよ?」

「あ・・ああ。そうだな。」

「ま、7つのお祝いをしなくても力は開花するさ。」

「ああ・・・。そう言ってたな。」

「”陰陽師”の力を欲する者は世にたくさんいるだろう。そいつらは陰陽師を殺せば手に入れられるという迷信を信じちゃってる。これはもうどうにもならない。」

「おんみょうじ・・・?なにそれ。」

「・・・・・・ほかの人にはない、特殊な力。陰陽師は霊能力も持ち合わせている。イタコの力も併せ持っている。だから世の中から嫌われ、追放され、疎外されるんだ。世間は皆、口をそろえてこういう。『この子は忌み子だ』。とね。」

「れいのうりょく?いたこ?なんなの?」

「霊能力っていうのは幽霊が見える力。イタコは幽霊とおしゃべりできる力。わかる?」

「うん、分かる。」

「そうか。分かるならいい。また、2年後会おうな。」

「うんっ!」

「東条さん、御馳走様でした。」

「礼儀がいいな。約束だ、2年後だぞ。んじゃあな。」

「うん、バイバイ!」

――2年後 ミク視点

今日は大事な入学式の日!

小学校に入学するんだ!

いっぱい勉強して、賢くなるんだ!

あ、東条さんも入学式に来てくれるんだって!

「よう、ミク。」

「東条さん!」

「ミクちゃん、だあれ?」

「あっ、雪美ちゃん!」

えと、私の幼稚園の時の友達の葉島雪美ちゃんだよ。

「ああ、俺はミクの友達・・・?なんだろう?」

「東条、その辺にしとけ。もう始まるぞ。」

「お前、9つのくせに生意気だな。」

あっ!お兄ちゃん!

来てくれたんだ!

「ミク、楽しみだな。」

「うん!」

「・・・おい、悠里。」

「なんだ?」

「入学式が終わり次第7つの祝いをしに行くぞ。礼服は用意してある。」

「・・・っ。もうそんな時か・・・。小学校で普通に生活できるといいが・・・。」

「もう時間だぞ。ミク、先生の所へ行っておいで。」

「うん、じゃあね!雪美ちゃんもいこ!」

「そうだね!行こう!確か先生はあっちにいたよ。」

『新一年生の入場です。6年生の皆さんは拍手で迎えましょう!』

わぁ!みんなが拍手してくれてる!

『では、座ってください。次は、新入生氏名読み上げです。1年1組――――』

めんどくさい・・・。

『1年2組及川ミクさん』

「はい!」

『1年2組―――――』

はぁ・・・。早く終わってほしい。

『次は校歌斉唱です。』

「♪~~」

『これで、入学式を終わります。先生の指示に従って教室に移動しましょう。』

「1年2組の人!こっち来てね!」

「わかんない人はこっちきてねぇ!」

「いかなきゃ・・・。」

「みんな揃ったね?じゃあ、先生についてきてください!」

「「「はーい!」」」

「・・・・はーい、ここが新しい教室ですよ。机に名前が書いてあるので、自分のお名前が書いてある机に座りましょう!」

「「「はーい!」」」

「えっと・・・、ここだ!」

「みんな座ったかな?私は、1年2組の先生の田村優香です。よろしくね!」

「「「よろしくねー!」」」

「はい、今日はお母さんお父さんにいろいろ渡すものがあるので、必ず渡しましょうね!」

「「「はーい!」」」

「まずは、PTA新聞です。次はPTA手帳です。」

「PTA手帳・・・?」

「PTA手帳には持ち物などが書かれているので必ず渡しましょう。そろそろPTA会合が終わるかしら・・・。」

―――東条視点

チッ。なんだよPTA会合って。

ま、一応親として参加するか。

美由紀さんは参加できないって言ってたし。

確か依頼があったんだっけな。

娘の入学式くらい参加してやってもいいだろ・・・。

「それでは、PTA会合を始めさせていただきます。私は学年主任の中岡と申します。」

男か。

「それで・・・、話し合いの目的ですがお子様の学校生活におけるマナーや持ち物等を再確認したいと思います。」

「・・・・・・間に合うか?」

「それでは、持ち物等を確認していきたいと思います。教科書やノート類は学校のほうで一冊目は用意させていただきますが、2冊目以降は各自でのご購入をお願いします。それと上履きと体育館履きですが、かかと部分に名前を記入するようお願いします。」

それから10分くらいちんたら説明してた。

ほとんど聞き流してたな。

「ではPTA会合を終了させていただきます。ありがとうございました。」

「・・・・・・ああ、時間やばいな・・。」

ぴりりりり

「ん・・・?電話?・・・もしもし。・・・ああ、悠里。今からならギリギリ間に合いそうだ。礼服ならお前の家にあるだろ?机の上に置いてあるはずだ。ついでにミクの分も持って来いよ。・・・・・・ああ、結良も呼ぶ。」

「あ、東条さん!」

「おお、ミク。今から家に行って7つの祝いをするぞ。いいな?」

「うん!あのさ、七五三と7つの祝いは違うの?」

「ああ、違う。」

「違うの?」

「ああ。・・・もう時間がない。早くいくぞ。」

「うん!」

あとぎりぎり間に合うか間に合わないか・・・!

・・・・・・おし、間に合った。

「車に乗れ。・・・あ、悠里。来たみたいだな。」

「東条!結良さんとはあっちで落ち合った。」

「愚弟!久しぶりだなっ!」

「チッ、呼ぶんじゃなかった。」

「テメェ、なんか言ったか?」

「いいえ、別に何にも?」

「そうか。んで、用はなんだ?」

「ミクを着替えさせてくれ。あと7つの祝いに付き合え。」

「そうか・・・、もうそんな年か・・・。」

「ああ・・・、時間がない。早く着替えさせてくれ。服は持ってきてるはずだ。」

「あ、これです。」

「ん、ありがとうな。車借りるぞ。」

「乗り逃げすんなよ。」

「するか。」

「・・・・・・悠里、ナイフ。もってけ。」

「ああ・・・。また、傷が一個増えるな。」

七つの祝いは前も言ったが陰陽師の力をより早く開花させる儀式のこと。

そのためには親近者の血液が必要。

まず、悠里は兄だから当然。俺も美由紀さんの年離れの姉の息子。つまり、いとこになるのか?

ま、よくわからねぇがつながってるってわけだ。

そして結良は俺の姉貴ってわけだ。

「着替え完了だ。さっさと車を出せ愚弟。」

「愚弟愚弟うっせーんだよ。姉貴。」

「うるさい、姉にはすべての権利があるんだ。愚弟を愚弟と呼ぶ権利も。」

「・・・さ、行くぞ。悠里も乗れよ。」

「ああ、わかってる。」

―――八代神社

「神主さん、どうも。」

「ああ・・・、東条さんですか。・・・7つの儀式ですね。いいでしょう。こちらへどうぞ。」

「物わかりがいいですね。」

「確認ですが、皆さんはすべて血縁者でいらっしゃいますね?」

「ええ。みんな血縁者よ。」

「そうですか。ではこちらへどうぞ。」

「ミク、ついてきなさい。」

「はーい。」

「・・・・・・では、こちらにお座りください。」

「ミクちゃん、正座しようね。」

「え・・・。はーい・・・。」

「では、血液をこちらに垂らしてください。」

そういわれて差し出されたのは朱色に塗られ、光沢を放つカップだった。

「悠里、手順はわかってるな。」

「ああ。・・・ミク、手を出してくれ。」

「・・・?うん。」

「ちょっと痛いぞ。」

ピッ

「痛っ・・・何するの?」

「・・・東条さん、どうぞ。」

「ああ、・・・・・・!次、姉貴。」

「おう。・・・・イテッ!次、悠里。」

「ああ。・・・・・・いってーな・・・」

何をしたかというとナイフで指を浅く切った。

「これで全員の血液が集まりました。少々お待ちください。」

「はい。」

「・・・陰陽の神よ、依り代へと移り、変われ。力を、力を。・・・・・・・・・これで、大丈夫ですよ。」

「・・・・・・・・・終わったぞ。今日はもう帰ろうか。」

「・・・そうだね。」

「ねぇ、何でみんな暗いの?変だよ、今日のみんな!」

「・・・そうか?いたって普通だが。」

「・・・・・・?」

「ま、帰るぞ。」

「あ、うん。」

―――翌 学校にて

「おはようございます!みんな、私の名前覚えてるかな?」

「えーと・・・、田村先生だっけ?」

「正解でーす!さっそく覚えてくれたんだね。ありがとう!じゃあ今日は自己紹介をしていこうか。1番の人から順に、名前と好きな食べ物を言っていこうか。」

「「「はーい」」」

「1番の―――――」

長くなりそう。

あ、私の番だ。

「7番の及川ミクです。好きな食べ・・・あれ?」

変なのが見える・・・?

なんかくらくらしちゃうよ・・・

なんか変なものが笑ってる気もするし。

「ミクちゃん!?ミクちゃん!?」


しばらくすると光が差してきた。

「あ・・・れ・・・?」

「・・・・・・まずいぞ・・・」

「ああ・・・、大分な・・・。」

「結良お姉ちゃん、東条さん。」

「あ、ミク。ミクちゃん!大丈夫?」

「うん、もう大丈夫。でもなんでここに?」

「いや、倒れたっていうからさ。あのさ、ミク。一つ聞きたいことがあるんだけどいいか?」

「うん、いいよ。」

「倒れた時、変なもの見えたか?」

「うん、見えたよ。あれ?あそこにもあるよ。」

私はそう言って保健室天井の角を指した。

「視えるのか・・・。」

「え?何が?愚弟、答えろ。」

「あやかしさ。」

「失礼します!3年1組及川悠里です。妹の様子を見に来ました。」

「あれ?お兄ちゃん?今は授業中じゃ?」

「ううん、もう帰る時間だよ。でも倒れたって聞いたんだけど・・・。」

「うん、心配かけちゃったね。もう大丈夫だよ。」

「良かった・・・。ミクはこのまま帰るのか?」

「ああ、帰すつもりだ。ランドセルとかは悠里、持ってってくれるか?」

「あ、うん。いいぞ。」

「んじゃ、帰るか。ミク、立てるか?」

「うん、たぶん立てる。」

「良かった。たぶんまた変なものが見えるかもしれないが大丈夫だからな。」

「うん、わかった!」

「あ、玄関口ホールはこっちな。」

「おう、ありがとな。しっかし小学校に来たのはなん10年ぶりだか・・・。」

「キョロキョロするな。不審者に思われかねないぞ。」

「うっせー!」

「なあ、東条。ミクにいつ陰陽道具(おんみょうどうぐ)渡す気だ?」

「おい!悠里!」

「おう!健人!」

「誰だよ。こいつら。」

「てめぇ・・・!目上の人に向かってこいつらだとぉ・・・?」

「姉貴、恥ずかしいからやめろ。小学生相手にむきになる大人もどうかと思うぞ。」

「ぐっ・・・!今回は勘弁してやる。」

「なんか変な人だね。」

「ははは・・・」

「あ、悠里、今日遊べる?」

「あー、ごめん無理!」

「遊びに行きたければいいぞ。ま、どうせ少ししか遊べないと思うが。」

「ああ、たぶんな。だから無理。」

「そっかー。んじゃ、また今度な!」

「おう!」

「・・・・・・なんか気分悪いよ・・・。」

「ああ、ちょっと我慢しな。すぐ戻れるからな。」

ぴりりりり

「ん?美由紀さんか。もしもし?・・・・・・・・・・ああ。今学校だ。それとな、一つ、確信できたところがあったんだ。―――――――。・・・・・・まあな。俺も知らんからな。・・・・・・・・・・・そうか。切るぞ。」

「東条、やっぱり俺話すよ。隠すのはもうごめんだ。」

「そうか・・・。もう小学生だ、現実を知ってもいいだろう。」

「ああ、そうだな。・・・・・・ミク、あのさ、ちゃんと聞いてほしいことがあるんだ。」

「なあに?」

「・・・ミクは昨日の祝いで陰陽師の能力を開花させた。現にあやかしが見えてる。このまま現実から目を背け続ければやがて精神的に追い込まれて死んでしまうかもしれないんだ。だからさ、ミクには陰陽師としてしっかり働いてほしいんだ。」

「え・・・?どういう意味?」

「陰陽師になってほしい。」

「それって働けって意味?」

「ああ、そういう意味だ。俺も陰陽師の役目を果たしてる。」

「お兄ちゃんがやってるなら・・・。」

「やるんだったらこれをやる。」

「これは・・?」

「陰陽道具って言ってな、陰陽師に必要不可欠な道具だ。」

「ああ。まずは学校を出よう。ううっ・・・」

「・・・ああ。長居しすぎたな。」

「悠里、泣いてるのか?」

「そ、そんなわけあるか・・・!」

「まあどっちでもいい。悠里も一緒に帰るからな。」

「ああ。」

「それと、ミク。お前にまだ話してないことがある。歩きながらでもいいから聞いてくれ。」

「あ・・・、うん。」

「ミクは陰陽師の力をもらった。だけどほかに付加能力がついてしまったようだ。たとえばそこ。」

そういって何もない空間を指し始めた。

「東条、何やってんだ?」

「あ・・・!きれい・・・!」

「やっぱりな。妖精を見る力もあるみたいだな。」

「妖精?マジで?」

「ああ、マジだ。それだけ覚えておいてほしい。」

「あ・・、うん。」

新たなる依頼

深々と過去を振り返ってみた。

いろんなことがあったなぁ・・・。

確かに、あやかしも、妖怪も見れる。

初めて見えたとき、倒れちゃったんだね。

「おい、ミク。どうした?」

「え・・・?あ、ごめん。」

「・・・?まあいい。依頼者が来てるぞ。」

「本当?どこにいる?」

「客間にいる。行くぞ。」

「あ、ちょっとまってよ!」

「待つか。行くぞー。」

「もう!」

「ん、失礼しますよ。」

「あっ、こんにちは!」

「こんにちは。ご依頼の方ですね?」

「え、あ、はい。そうです。」

「緊張されなくてもいいですよ。」

「そうですよね。だいぶ解れました。」

「それはよかった。依頼内容を話していただけますか?」

「はい。実は首に変な模様が浮かび上がっちゃったんです。」

「模様・・・ですか。見せていただけますか?」

「あ、はい。これです。」

彼女の首には龍をかたどったであろう刺青のようなものが浮かび上がっていた。

「うーん・・・。」

「なあ、これってさ、狐の仕業じゃね?」

「女狐?確かにそうかもしれないけどさ、まだ判断するには材料が無さ過ぎる。」

「だよな・・・、まず名前聞いてもいいか?」

「あ、そうですね。私の名前は森崎美琴です。」

「年は?」

「19です。」

「19ってことは・・・大学か?」

「はい。能吏大学に通っています。」

「能吏って言ったらすげー大学じゃねーか。あんた賢いんだな。」

「あ、どうも・・・。」

「お話し中申し訳ないけど怪異の原因を突き止めなければいけません。このままにすれば体内で何らかの異常が起こるとみて間違いないでしょうし。」

「そうだな。まずはあんたの家見せてくれ。」

「はい、わかりました。」

「あー、外観だけでいいぞ。」

「でしたらなおさら。今から行くんですか?」

「ああ、今からでも大丈夫だろう。俺が行くつもりだがミクはどうする?」

「私もついてく。いい?」

「ああ、いいぞ。そういえば東条の話長くねぇか?」

「そういえばそうだね・・・。どうしたんだろ。」

「ま、大丈夫か。行くぞ。って言っても家の場所がわかんねぇか。どこだ?」

「この家の裏手にあるマンションです。」

あやかし討伐記録

小説をご覧くださってありがとうございます(*・。゚ァリガトゥ゚。・*)○Oo(人´∀`*)

初小説ですので、訳分からないことがあるかもです。

すみません(;ω;*)ゴ・ゴメンナサイ

あ、あとあやかしは本来水上や海上にいる妖怪のことを指しますが、本作ではすべての妖怪のことをあやかしと指します。

ご了承よろしくです。

あやかし討伐記録

  • 小説
  • 短編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-20

Copyrighted
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  1. あやかし
  2. かわいい依頼者
  3. ミクの過去
  4. 新たなる依頼