滴がおちた

滴がこぼれおちた

滴がこぼれ落ちた

虚空をみた
薄暗がりに墨色の波紋がうねった
無限の広がりに耳をすませた
ゆっくりと両腕をひらいた
闇を探り かき回していた

静寂のなかで 両耳をふさいで縮こまっていた
遠くで雨音が聞こえる
どこかで霧のような雨が地面にふりそそいでいる

両手のひらで慎重に雨音をあつめた
手のひらを胸に押しあてた
大切な滴がこぼれ落ちた
滴は素足の指にぽたりとおちた
滴のにじみを 人差し指でなぞった

目をつむって縮こまった
眠っていたときの夢を思い出した

老木があって そこには光が溢れんばかり そそいでいた
老木に話しかける老人がいた
老人は木をいたわっていた
木の周りをぐるっと回って
帽子をとり いまだ生命あふれる 老木を見上げた
老人は木漏れ日のやさしい光のなかにたたずんでいた

わたしは木漏れ日のやさしい光のなかにたたずんでいた
頬が温かい
まぶたが柔らかく 何度も瞬きをした

風が巻き起こった
風が長い髪を洗った
木の葉が激しくざわめいた
頭上で風の唸りがきこえた
老人が 遠く 木漏れ日の中にいた
わたしはぎゅうと眼(まなこ)をつむった
滴が 儚(はかな)く こぼれおちた

闇をかき回すのはやめた
ゆっくりとゆっくりと 背をのばした
闇に腕をまっすぐにつきだした
手のひらを 開いて
静かな 虚空を見上げた
目を大きく見開いた
首をめぐらして 凝視した
滴がひとつぶ おちた
ぽとりと 足の指をぬらした

夜空があった
空気が 水のふくよかな匂いをはらんだ夜だった
夜空には光がちりばめられている
地面には届かない小さな眩しい光の群れが
果てしない天蓋をあらわにしている

穏やかになって 天をながめていた
いま わたしはここに眠る
世界が暗闇に紛れて黒い霧と化し 
そして まもなく 光の中に産まれ出でる様を目にするために
そこに美をみつけるために
心ふるわすために
涙するために

くりかえす 

滴がおちた

滴がおちた

涙と希望とをイメージして言葉にしました。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-20

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