サラスヴァーティー賛歌

   


       初春の 座敷に淡し膝衣

       抱えし棹は紅木の

       白像張りし三弦を    

       打ち鳴らす撥は琥珀にて

       皮の響きも古の  

       石川かくやと聴こえたり

      
       艶やかな 謡も澄にし清滝の

       流れに浮きし 一枝の

       楼華の如く匂いたち

       美酒の香りに酔い痴れて 

       夢見る如く甘美にて

       飛天の声かと粉うなり


       竹を柱に立つ者は

       筝の弾き手を供ないて

       金銀五彩の扉をば

       開けて拝さん翡翠なる

       弁財天の功徳をば

       受けんと今日も集うなり

       受けんと今日も集うなり       

       

    (歌詞の内容解説の一例)

      新春の新居披露に招かれた、その弾き手は
      
      淡い着物の膝を曲げ、真新しき畳の座敷に座ると

      棹は紅木で、糸巻は白い象牙で作られた三味線を構え
      
      琥珀色をした鼈甲の撥を右手に握ると 、一礼の後
      
      静かに、白い皮の上に張られた三本の弦を打ち鳴らし始めた

      その音色は、その昔名人と言われた石川という人が

      弾いているのでは、と思われるほど見事なものであった


      唄いだしたその声といえば

      澄みきった滝の水のように透明で

      その流れに浮かぶ 一枝の桜の花のような

      華やかさと 気品に溢れていて

      聴く者を 忽ちのうちに 銘酒の酔いにも似た

      あの夢みるような 心地よさへといざない

      まるで 天女が唄っているのではと思わせるほど

      甘く 切なく 美しく 人々の胸に響いた          

            
尺八を志す者や 琴の演奏家たちはこぞって

      弁財天の化身ともいうべきその人の門を叩き

      是非とも一緒に奏でんと 今日も長蛇の列を成し

      その勢いは 留まるところを知らなかった


 


       〔 我が三弦の師に捧ぐ〕



      *サラスヴァティーとは、弁財天のインドでの呼び名
      



    

サラスヴァーティー賛歌

サラスヴァーティー賛歌

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-19

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