正常です。

今日も僕の世界は正常です。
大好きなお父さんとお母さん。犬のモモ。クラスのみんな。
みんながいてくれるだけで僕はとってもしあわせです。

だけど今日の朝はちょっと変でした。いつもの食卓。3人分のごはん。
それなのにお父さんとお母さんはケンカしています。どうしてかな?

いってきまーす!

…ケンカしてて聞こえなかったみたい。
モモ、いってくるね。

ワン!

モモは元気に尻尾を振って見送ってくれた。

いけない、ごはんをゆっくり食べ過ぎて遅刻してしまった。
あれ?いつもはすっごく怒るのに今日はせんせい何にも言わないや。

あ、急いだせいでお弁当わすれてきちゃった。
仕方ないからよるごはんまで我慢しよう。

おひるやすみ。いつもならみんなでサッカーをするのになんだか今日はみんな元気がないみたい。話しかけてもうつむいているし…。どうしたんだろう、心配だな。

放課後、帰り道でぼくはとても綺麗な人に会った。ぼくの家の近くでなにをしてるんだろ。
どうしたんですか?

その人は少しだけ驚いた顔をしたあと、ぼくを見てこう言った。
「貴方には貴方のいるべき場所があるはずです。迷子になったことに早く気づきなさい。」

どういう意味かはわからなかったけど、その人の悲しそうな顔がすごく頭に残った。

家に帰るとお母さんが泣いていた。

どうしたのお母さん。大丈夫?ぼくがいるよ!


その言葉は、ぼくと一緒にお母さんをすり抜けた。

ああ、ぼくはようやく理解した。


…「菖蒲さん!いま誰と話してたんです?」
「なんのことですか?それよりも早く職場に戻りましょう。少し、気分が悪いです。」
「大丈夫ですか?それにしても、あのお母さん可哀想でしたね…息子が亡くなったことを受け入れられないなんて…」
「そうですね。だけど迷子なのは生きてる人間だけじゃないようですね。」
「? 」

正常です。

菖蒲さんは視える人。


自分の居場所がわからなくならないように、ひとりで居るとわからなくなりますよね。

正常です。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-18

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