幻想
伸ばした黒髪の奥から深い闇が顔を出した
指を絡めていくと 冷たくやわらかい感触と
鼻をかすめていく香りがある
あなたは甘えてくる
わたしの耳たぶを噛みながら
まだ弱い、子どものように
熱を求める
あなたの、潤んだ瞳から零れ落ちる一滴の涙で
わたしの心ははどうしようもなく乱されてしまう
そういう発作のような悲しみは
あなたからわたしへ伝染する
あなたの、わたしを呼ぶ声は
わたしをわたしでなくする。
あなたを守ってあげたいという
うざったいような、そういう気持ちによって
逆に、わたしではあなたを守れないということに気がつく。
もうすぐ朝になる
夜明けの光は好き
わたしを照らしてくれるから
でも、そうでもないかもしれない。
わたしの影が映える
振り出しに戻ってしまった道に
幻想