なんとなく書きたくなったものなので
意味は解りませんが
読んでいただけたら光栄です

1人暮らしを始めて、1週間が経った日の夜
その日は雨がひどくってなかなか眠れなくて、仕方ないから観たくもないアニメを観て眠気が来るのを待った

チャイムが鳴ったのは、そんな時だった

「?はーぁい」

甲高いチャイム音に首を傾げながら、ドアを開けると、見知らぬ男が立っていた

「・・・どちらさま、ですか?」
「泊めてもらえませんか」

「あぁ、はい」と
何の躊躇いもなく「泊めてくれませんか」と発した男に心の中で返事した

「あ・・・え、まぁいい・・・ですけど」
「すみません、ありがとうございます」

雨に濡れた頭を下げて、男が中に入ってきた
よく見れば身に纏っているのはロードレースの時に着るジャージにレーパンで
軽々しく担いでいるのはロードバイクだった

「あの・・・自転車・・・中に入れるんですか」
「盗まれると、困るんで」
「あ、はい」

ごもっともだと思い、ドアを閉めた


その男がシャワーを浴びている間にテレビを消し、好きでもないココアを入れた
唇の皮が中途半端にめくれて痛いから、何度か唇を噛んだ
「こんな雨の中走っていたのか」と窓の外に目をやると、男がシャワーを浴び終わって出てきた

「すみません、借りました」
「いいですよ」

「風邪ひかれる方が困るのよ」と言う本音を飲み込んで、ココアをカップに注いだ

「もし良かったら・・・どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

ぺこり、と頭を下げすぐに上げた男を見る

髪もまつ毛も黒くて長くて
肌は白くて
身体は細いしとてもロードをやっている様には見えない

「・・・ロード、やってるんですか」

ぽつり、と呟くと男が弾かれたように顔を上げた

「わかります?」
「自転車持ってるし、服装も・・・それっぽかったから」
「ああ・・・」

ず、とココアを啜りながら男がとつとつと話し始めた

「2年くらい前からやり始めて・・・家追い出された時に自転車関係のモノだけ持って出て来て・・・・・・」
「ちょちょちょ・・・え?なんですか?」
「だから、追い出されたんです 家を」
「自転車だけ持って・・・どう生活していたんですか」
「路上生活です」

「平たく言えばホームレスじゃないの」という本音を再び飲み込み、「大変でしたね」とだけ言っておいた


「寝てもいいですか」と男が言ったのは、それから2時間経ってからだった
敷き布団とかけ布団が1人分あったから、それを床に敷いて寝てもらった(私はベッド)

「痛くないですか、体」
「大丈夫です、雑魚寝には慣れてますから」

「ああ、そういえば路上生活者だったな」と心の中で呟いて部屋の電気を消した
窓のカーテン越しに差し込む月明かりが、少し眩しくて目を細めた

「・・・なんで」
「?」
「何で家、追い出されたんですか」
「・・・つまらないですよ」
「・・・聞きたいって言ったらダメですか」
「・・・・・・嘘、ついたんです」

なんで聞きたくなったか分かんないケド、何故か口を突いて出た言葉がそれで
男もそれにこたえて、またとつとつと話し始めた

「嘘?」
「ちょっと人には言えないような嘘、ついたんです」

男が静かに足をすり合わせて、鼻を啜った

「父はそれを信じたけど、嘘ってわかった時、俺に出てけって」

私は何も言わずに、少しだけ震えているその声を聴いていた

「嘘つきは嫌われるって分かっているんですケド・・・ついてしまって 小さいうちに嘘でしたって言えばよかったのに」
「・・・言わなかったんですか」
「父は怒るととても怖い人でしたから」
「怖い?」
「殴る蹴るなんて当然の様にしてくる人でしたから・・・怖かったんです ほんとの事言って、怒られるのが」

「まあ、なんて女々しいんでしょう」と
なんか綺麗なお伽噺なら言うところなんだろうけど、生憎私はそういうのが嫌いだから言わなくて
その男の背中を見ながら、ぼんやりとした心持で聞いていた

「そうですか」
「・・・すみません」
「別に、いいですよ」

「私にもそういう時期がありましたから」という言葉を、私はまたまた飲み込んだ

「だから、帰る場所もないし・・・住んでくれる人もいないし」
「・・・お母さんは?」
「いませんよ 浮気して・・・出ていきましたから」
「・・・・・・」

重たい沈黙
それが破れることは、朝までなかった


「お世話に、なりました」
「ああ、いえ・・・いいですよ」

ぺこりと頭を下げて、男が自転車を担いでドアの外に出た
ジャージとレーパンはまだ濡れていて、「乾いた頃に取りに来る」という事で、住所と部屋の番号を書いた紙を手渡した
昨日の話が何だかまだ心の中に渦巻いていて、もやもやする

「それじゃあ、また」
「はい、お元気で・・・」

パタン、とドアの閉まる音がして、男の姿は完全に消えた
雨はすっかり上がっていて、空は透き通る様に青かった

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-15

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