血液型何型?
俺にはある不満がある。
その不満とは、人間はやたらに血液型を知りたがるということだ。
「人間をたった4種類で分類できるわけがない」というようなセリフは過去にも誰かが言っていそうなものだ。
しかし頭ではわかっていても、実際は違うのだ。多かれ少なかれ、相手の血液型を知ると、一般にその血液型の性格と言われている枠の中に、無意識のうちにでも相手を位置づける人間が多いように思う。
そして、付き合い方も相手の血液型によって変えたりすることもある。心を許したり、距離を置いたり。
そういうのが許せない。
「B型だよ」俺がそういった後の相手の反応は、若干引き気味になり「そうなんだ」とだけ言う。そしてその後あまり深い話にはならない。
うんざりなんだ。たまたま両親から受け継いだ血が、Bだったというだけだ。別に俺のせいじゃない。その前に、B型だからどうしたというのだ。俺は俺なんだ。世界にただ一人の、貴重な俺じゃないか。
合コンでカラオケボックスに来ている。人生で何度目かも忘れてしまった。
みんなだいぶ酒がまわり、各々の時間を過ごしている。空気を読めず、マイクを離さない奴がいる。いまだに料理を取り分け続ける計算女がいる。ホストクラブみたいな盛り上げ方をする男がいる。カップルも何組か出来ているみたいで、二人の世界に入って何やら会話をする男女。
料理を取り分けていた女がその手を止め、おもむろに俺の隣に腰を下ろしてきた。
「一人ぼっちじゃん」いきなり女は俺にそう言った。
その馴れ馴れしい口調はあまり気持ちのいいものじゃなかった。しかし確かに事実だった。俺は一人ぼっちだ。
「人見知りなんだ」と返してみた。人見知りのくせに合コン?!とか言われそうだ。
しかし次に女が発したセリフは、違うものだった。聞きなれた、セリフ。
「血液型何型?」
やはり、そうなのだ。人間はやたらに血液型を知りたがる。B型が人見知りでは悪いのか。
普通に事実を述べるのは癪に障る。では、どうすればいいか。そして俺は、なぜ今まで気づかなかったのだろう、と思った。
B型をやめてしまえばいい。俺は俺だ。なんの型にもはまらない。言ってみれば、そうだ、「俺型だ!!」
つい大声を出すと、女は意表を突かれたように目を見開き、口をあんぐりと開け、次に俺のそばから離れた。気がふれた人間を遠くから見るように、俺を見ている。まわりの人間たちはみな、俺を怖がっているみたいにも見えた。もう何もかもどうでもいい。酒でも呑む。
俺は酒のせいでしばらく意識を失っていたようだ。目を開けた時、自分が寝転がっている場所が、どこなのかわからなかった。カラオケボックスじゃないことだけは確かだ。辺りは暗い。何かのライトがところどころで光っているのが、ぼんやりだがわかる。
そして次の瞬間、自分のいる場所をはっきりと認識した。
道路だ。真ん中だ。トラックが俺めがけて走ってくる。
俺は必死に逃げようとした。とにかくここから転がってでも移動しなければ。死ぬには早い。俺は価値ある人間だ。貴重な俺だ!!
命を取り留めたことだけはわかった。
意識は朦朧としてはいるが、俺はわずかに目を開けることができた。ここは、どこだ。俺は次々と移動している。あまりに忙しいじゃないか。
「輸血して下さい。Bです」
誰かが言った。
俺の腕を誰かが掴んでいる。輸血。
「俺はB型じゃない!俺型だ!!」無意識にそう叫んでいた。
俺は暴れた。状況は定かではないが、Bを輸血されては困る。決めたんだ。俺はどんな型にも収まらない。俺という貴重な、世界でただ一人の人間なんだ。俺は俺型なんだ!!
俺はこのまま死ぬのかもしれない。しかし、Bの血を注がれるくらいなら、そのほうがよっぽど良い。本当の意味で、生き残る人間になれるはずだ。
死の直前、急にどこかから誰かの声が聞こえた。
「俺型の特徴、その1。型にはまるという恐れを必要以上に抱き、周りが見えていない」
声は徐々に俺に近づいている。
「俺型の特徴、その2。型にはまることを恐れ、その型から出ようとするほど、型にはまっていく。本人はそれに気づかず、自分を自由だと勘違いしている」
徐々に、徐々に。
「俺型の特徴、その3。本当に大事なことを見失っている」
どういうことだ。
「俺型の人間は、自分の俺型の特徴を自覚していない」
そんなはずは。
「俺型の人間は、以外と多い」
まさか、そんな。
「俺型の人間は、俺型の性格から、無意味な死を迎える」
俺の目の前に、誰かの顔が大きく映し出された。
「お前は、真実を知ることが出来なかったんだ」その誰かが言った。
もう目を開けていることが出来ない。何だ。結局真実って、何なんだ。
完全に目を閉じる瞬間に、俺は確かにその顔を見た。
その顔は・・・・・・・、もう思い出せない。
血液型何型?
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。