~cafe 太陽と月のランプへようこそ~

Ⅰ.ある男の注文

カラン、というベルの音がお店に響く。
その扉の内側は月、外側は太陽の絵描かれている。
まるで彫刻品のような美しい扉だ。
店の店長はその音に気付くと、洗っていたカップを置いた。

「いらっしゃいませ」

お客に視線を向け軽くお辞儀をすると、店長は少しだけ目を見開く。
その男は老年のようだ。
深く被った帽子から白髪が見え隠れしている。
しかし、店長は気になったのは白髪ではなく…年老いても尚美しい金髪の方だった。
その髪はまるで太陽のようにきらきらと輝いていた。

「…ご注文は?」


男が店長のすぐ目の前のカウンターに座ったのを確認し、そう問う。
すると男は帽子をテーブルに置きにこっと微笑んだ。

「月の約束を一つください」

Ⅱ.太陽のウェイター

「今日ものんびりしたお昼になってしまいそうですね」

はあ、とため息をついて金髪の青年はテーブルを拭きながらそう呟く。
ガランとした店内に今いるのは店員であるこの青年だけ。
時計はお昼の十二時を少し過ぎている。
普通のカフェなら忙しい時間帯である筈だ。
今日何度目か分からないテーブル拭きを青年が始めようとしたとき、
ベルの音が響き店の扉が開かれた。
青年はパッと顔をあげて心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「いらっしゃいませ!」

入店してきたのはスーツ姿の若い男だ。
男性は青年の挨拶に驚いたのか瞬きを繰り返している。

「お好きな席へどうぞ」
「あっ…は、はい」

男性は戸惑いながらもカウンターに座った。


「コーヒーと、あと何か食べるものってありますか?」

何処を探してもメニュー表がみつからない。
だから隣に来た青年に聞くしかなかった。

「何でもご用意いたしますよ」
「…え?」

青年はメモとペンを持ったまま平然と答える。
まるで当たり前のことを聞かれたかのように。
男性がポカンと口を開けるが、クスッと笑ってみせた。

「じゃあコーヒーと、僕の食べたいと思っているものを持ってきてください」

せっかくだしこの明るい店員の冗談に乗ってあげよう。
男性はそう思い注文するものを店員に任せることにした。
今はとても空腹だ。
余程不味そうなものでなければ、店員が何を持ってきても完食出来るだろう。
男性はそう思っていた。

「かしこまりました。必ずご満足いただけるものを持ってまいります」

青年はニコッと微笑むと、厨房に入っていった。

~cafe 太陽と月のランプへようこそ~

~cafe 太陽と月のランプへようこそ~

太陽のような明るさに、月のような優しさに触れてみませんか?

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-14

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  1. Ⅰ.ある男の注文
  2. Ⅱ.太陽のウェイター