きみのただしさ
電器ストーブの前でコーヒーを飲みながらきみをあきらめた。
涙が出ないのは不思議じゃない。かなしみはいつもあとからやってくる。
ぼくが思っていたよりも、それは単純で正しいことに思えた。
き み の た だ し さ
夏をすぎたあたりからコーヒーが苦くなったのは、けしてぼくの気のせいなんかじゃなかった。
知らないあいだにすっかり酸化してしまっていたのだ。言うまでもなく。
「まずい」
つぶやいた言葉は白く窓の外にのぼる。
「まずすぎる」
酸化したコーヒーはとても苦い。
ぼくはそれを少し迷ってから瓶ごと捨てた。苦くて舌がぴりぴりした。
「 」
馬鹿げたことに、あきらめた瞬間でさえもきみをおもってた。
ぼくはきみの言う言葉を信じすぎる。
どれがきみの本音なんだか嘘なんだか優しさなんだかがわからなくなって振り回される。
酸化。
しびれて痛いのと、麻痺して何も感じなくなるのと、いったいどっちが先なんだろう。
それぞれどれほど続くのか。いつになったら元のように治るのか。
この苦味に、このままずっとつきまとわれたらどうしよう。
きみのことをおもうあまりに
きみのことばがすべてただしい。
きみのただしさ