practice(37)
三十七
噛む雲はある,鼻先に浮かんで欠伸に飛んで,ふわふわと辺りに住み着き始める。鬣のここ,伸ばせば届くそこ,向こうに見えるテントの出入口に象の親子の檻の中でももくもくして,ただ雨を降らせないでいる,日陰を作って一緒に休んでいたりする。読みたいこと,中途半端に閉じたことを開くには都合はいい,ネコ科の背中に重心を移して踵を支えに地に落ち着くように伸びてから,上から乗せた冊子を取った。当たりをつけて開いたら先程も読んだ頁,物語の中で煉瓦の上を風船が離れていった。それを見送るのは人でなく,それを探すひとと出会った一方の子に付き添う旗振りと帽子屋は鳴き声を真似て口を閉じていた。靡き方からして風は強いらしい,そして陽射しは優しいらしい。レンズを変えた写真家が撮ることも忘れて,石畳の上から見るところだった。その街の中で,指を差したところが方角になった。
駆け足が並んで近くを去る,梟は実によく止まる。果物を齧る古い馴染みに軽い挨拶をして,午後の公演の準備状況を聞いてみた。「順調,順調。」と,返って来る答えの側からブランコ乗りが少し慌ててボールを運んでいた。先を行く忘れ物らしい,カラフルな一つが落ちて転がってきて漂う雲の真下の影を過ぎてから,ここを通り過ぎる勢いであった。背中で動く肺の膨らみ,凭れるものとして冊子の続きも開いたまま,空いている胸に乗せてから行く末を視界の届く限りで見届けようとする,果物をひと噛みする古い馴染みもそうであった。その一直線の進行,丁度こちらに向かって来ていた団長も何故かそれを躱して,「今日は宜しく」と声をかけていた。それからジャリっとする音,また足音になっていって向こうからやって来た軽業師も爺さんも,また何も持っていない。上半身の柔軟に励んだり,バグパイプを抱えたり(と爺さんは奏者だったかな,という疑問ももって),それから挨拶は交わされて,開幕の一巻きに力が加わったみたいだった。
色と忘れたボール。
手と戻した冊子にある風の吹き方,楽しみ方には屈託がないようだった。起こす身,離れる前より温かい。
イメージをするより雲が行くから,背中に乗るのは後にしよう。
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