壊れた車


それは、長い間倉庫の隅に放置されいた。
何年も何年も…

いつまで動いていたか、もう誰の記憶にも残らないくらいに。
ボディは錆びて穴が、ライトはとれフロントガラスは光がやっと通るくらい。
穴だらけのドライバーズシートに、朽ちてきた内装。
かつて、勢い良く動いていたエンジンも
静かなオブジェ。

それは
いつか見た、廃屋の様。


光も当たらない場所で、遥か未来に自然に還っていくのか。


彼は貰ってきた。
誰もが見放した車を。

一目見た時から忘れられなかった。
それは強制でも同情でもない感情だったはず。


それからの彼は全ての時間を
その車に費やした。


人生に疲れていた彼に、エネルギーが充ちてきた。

車の錆を落とし塗装し、磨きをかけ
部品を交換し……………………

生命を吹き込むために。

そんな彼を私は見ている。
車に嫉妬しそうにもなる。
だけど、イキイキした彼を見ると
私は嬉しい。
嬉しそうに作業の進捗を話す眼がキラキラしている。

車が壊れたままならば、
ずっとそんな彼を見ていられるのに。



エンジンが動いた。
ついにその車は新しい生命を吹き込まれた。

私は涙を流した。
彼も涙目だ。

私の涙は、感動と嫉妬と不安が入り交じった涙。

彼の涙とは違う。

壊れた車

壊れた車

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-13

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