ピエロな彼女

ピエロな彼女

コロコロ変わるピエロは人を魅了する。

僕もその中の一人にすぎない。

けれど

君にはそんな僕が見えていた。

春先から夏の頭まで


春先から夏の頭まで僕はずっとサークルの仲間と遊んでいた。

単位大丈夫か?と友人に言われ気が付けば留年が決定した後だった。

その事を母親に伝えれば怒鳴られ父親からは仕送りを止めると物静かに言われる。

一年の時は何とかしようとしていたバイトも親に甘え2年の頭でやめた。

貯金もないままATMに行けば本当に仕送りがされていなかった。



「まじかよ…」



コンビニ先で残り少ないお金でバイト募集雑誌を買ってまっすぐ帰宅した。

乱暴に放り投げたカバンから小銭の音がしてありったけのお金を集める。

532円を手の平に並べる。

これでなんとかやろうと思ってる自分は本当に怠け者になったなと実感する。

適当にキッチンの棚を開けてインスタント麺を取り出した。

久しぶりに見るガスコンロは新品のように綺麗だった。

あれから


あれから誘われる飲み会や合コンを断りバイトを始めた。

1年の時働いていた居酒屋にダメもとで行くと気さくな主人が喜んで採用してくれた。

奥さんもいい人でまかないやら残ったご飯をくれたりと、感謝の毎日。
いつも仕事終わりにスーパーの袋に入ったまかないを受けとるとまた明日頑張ってね、と肩を叩かれた。

当時働いていたバイト仲間は居なく、本当に1年の頃を思い出させる。

皿洗いも懐かしいなと頬をほころばせながら今日一日、厨房に閉じこもりお皿を洗ったのを思い出す。

久々に働いて汗をかいて、充実してるなぁと呟く。

別に遊ばなくたって生きていけるんだ。

喉が乾いて


喉が乾いて近くの公園に設置されている自販機に小銭をいれる。

ピッと機会音の後にコーヒーが落ちてくる。

近くのベンチに座り蓋を開けて一口喉に流し込む。

乾いていた喉が潤されてベンチの背もたれに体重をかけた。

空にはうっすらとだが星が綺麗に輝いていた。

気が付いたときには星の数を数えていてハッとして瞬きを数回繰り返す。

ため息をひとつ吐いて公園の真ん中にある噴水に目を向けた。



「ピエロ…」



街頭がぽつりぽつりとあるなかでひっそりと浮かぶシルエット。

ぼんやりと眺めていたら目が人影を捕らえた。

まさにピエロだ。

白い生地にまばらに画かれた赤い星マーク。

真っ白い顔に赤い鼻。

その赤い鼻に負けじと口紅で塗られた大袈裟な口が少しだけ恐怖心が煽った。



「こんばんは」

「…」



ゆっくり歩み寄って挨拶をする自分に驚く。

尚、驚いたのは身長だ。

小柄で華奢な体つきを見る限り女性じゃないかと思う。

実際胸は確認できなかったが、ピエロは歩く姿勢で止まっていた。

両方の足は地面についているものの手は歩き出しそうなほど胸の位置にある。

まじまじと見るがまったく微動だにしない。

目もじっと前を見ている。

しかし何でこんな時間に?と頭をかいて携帯を上着のポケットから取り出す。

時刻は23時を過ぎたばかり。

いくら真夏の涼しい夜だとしても危ないだろ、と思ったのも事実だ。

そうしているうちに少しだけ怖くなって残っていたコーヒーを一気に飲んで空き缶のゴミ箱に捨てた。

最後にちらりと後ろを振り返ったがピエロは身動きせず佇んでいた。

ピエロな彼女

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  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-11


  1. 春先から夏の頭まで
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  3. 喉が乾いて