一涙の盃
一涙の盃
流れる三弦の響きは
妓と供に艶やかなれども
柳風に汐の香無く
川面に浮かぶは
病葉のみか
器に誘う箸は蒼く
肴は錦なれども
芳しく薫る長物淡し
伏し見る美酒に楼華は散り
久方の峰に灯は輝けども
墨堤珠鍵の賑わいに遠く
祭礼の囃子は一社なり
一涙の盃に東空を眺むれば
遥かに過ぎゆく渡りの群れ
( 内容解説の一例)
聞こえてくる三味線の音色は
それを弾く芸妓とともに美しいけれど
柳に吹く風には 内陸のため海の汐の香りがない
河幅は狭く 水量もない為に浮かぶ船は小さく 少ない
食べ物は繊細な盛り付けで綺麗だけれど
味は淡く、鰻の香ばしさや濃いたれの味が懐かしい
地酒も、さくらの花も、祭りもあるにはあるが
墨堤の桜や、両国の花火の賑やかさにはほど遠い
祭りにも神輿はなく一社だけである。
一滴の涙が零れ落ちた盃を手に、東の空を眺めていると
遥か彼方を目指して、渡り鳥の群れが飛び去っていった。
(征四郎疾風剣 〔Ⅱ〕 ー花流の章ー より)
一涙の盃