一涙の盃

         一涙の盃


  流れる三弦の響きは

  妓と供に艶やかなれども

  柳風に汐の香無く

  川面に浮かぶは

  病葉のみか

  器に誘う箸は蒼く

  肴は錦なれども

  芳しく薫る長物淡し

  伏し見る美酒に楼華は散り

  久方の峰に灯は輝けども

  墨堤珠鍵の賑わいに遠く

  祭礼の囃子は一社なり

  一涙の盃に東空を眺むれば

  遥かに過ぎゆく渡りの群れ



  ( 内容解説の一例)

  聞こえてくる三味線の音色は
  それを弾く芸妓とともに美しいけれど
 
  柳に吹く風には 内陸のため海の汐の香りがない
  河幅は狭く 水量もない為に浮かぶ船は小さく 少ない

  食べ物は繊細な盛り付けで綺麗だけれど
  味は淡く、鰻の香ばしさや濃いたれの味が懐かしい

  地酒も、さくらの花も、祭りもあるにはあるが
  墨堤の桜や、両国の花火の賑やかさにはほど遠い

  祭りにも神輿はなく一社だけである。

  一滴の涙が零れ落ちた盃を手に、東の空を眺めていると
  遥か彼方を目指して、渡り鳥の群れが飛び去っていった。

  

  (征四郎疾風剣 〔Ⅱ〕 ー花流の章ー より)

一涙の盃

一涙の盃

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted