狸の穴について、なんとなく興味をもったのは、国営テレビの日曜夜7時半の自然番組を観てからだ。
それ以来気になっていたので、9月の連休に思い切って静岡県にある狸の穴センターへ行ってみた。
恰幅の良い管理人さんへ入園料を払って中に入ると、管理人さんも付いてきてガイドをしてくれると言う、実際に山に入るのには驚いたが管理人さんに言わせると、林の中の丘のようなモノなんだそうで、間近に狸の穴が見える所で解説してくれた。
藪に隠れた私たちの前で、それに気づかない子狸たちが遊んでいる。

「狸は一つの穴に代々住み続けているんですよ、この穴は約500年続いている穴です、狸にしては新しい穴ですが、すでに戦国時代にこの穴はこの場所にあったわけです。全長は14kmほどになります。」
「えっ  14kmってすごいですね、あと500年てのもすごいなあ、今の狸は何代目位なのか分かりますか?」
「正確なことは分かりませんが、狸の寿命から考えて80世代は超えていると思います。」
「おお。」
「あはは、そんなに驚くことではないです、数万年つづいている狸の穴もあるんですから。」
「ええっ数万年ですか!」
「あります。山形県と鹿児島県にあるんですが、炭素14を使った年代測定法によると山形に3万年続いている穴があって、鹿児島に2万年続いている穴が発見されています。どちらも総延長数百キロ、巨大な地下構造物と言っても差し支えありません、何千世代と住んでいるので、穴を輪切りにした写真をみるとまるで巨木の年輪のようですよ。私は一つの都市なのではないかと思います。両方とも今も生きた穴で100を超える狸の家族が住んでいます。」
「本当ですか?」
「本当ですよ。別料金になりますが今度ご案内しても構いませんよ、後でパンフレットを差し上げましょう。」
饒舌な管理人さんの顔が狸に似てきたような気がした。



何世代も住んでいるというキタキツネの穴と
原始人たちが数万年も住み続けた洞窟をヒントに書きました

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2010-10-01

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