北の海の魔女13.0,14.0,15.0,16.0
13.0
†††13.0
「それじゃ」
男の子が手を挙げます。オオカミは盲目でもまるで見えているかのように頭を上げました
「それでは、また」
オオカミと男の子は別れました
オオカミは広い野原を目が見えないにも関わらずかなりの速度で走っていき、しばらくすると見えなくなりました
男の子はしばらくそれを眺めていましたが、オオカミの姿が見えなくなると、城に向き直りました。
城まではまだ距離があるもののその迫力は十分ありました。
「大きいなあ・・・・・・」
道なりに進むと城まで小一時間で着くでしょう。そこまで近くに来たのですがその道のすぐそばにはまだ崖がありました。あのオオカミが落ちた崖の続きです。高さは無くとも幅の広い大きな崖だったのです。
男の子たちは道なり、つまり崖の下に沿って歩いてきました。
もう少しです。男の子は十日ほど歩きっぱなしだったので痛む足をこれで最後だと言い聞かせて歩いていきます。
王様のいる町に着けばきっと誰か「北の海の魔女」について知っている人がいるはずです。
そうなればきっと妹を助けることができるでしょう。
†††
14.0
†††14.0
男の子が町に着いた後のことを考えていたそのときです。
がらがらがらっ
どんっ!
すさまじい音があたりにひびきわたりました。
男の子が思わず音のしたほうに走っていくと壊れた馬車が一台ありました。
男の子は心臓がばくばくと鳴っている音を聞きながら近寄ると
・・・・・・ぅうッ・・・・・・!!
うめき声がきこえます!
男の子は無我夢中で馬車に駆け寄ると壊れた木やら金具で持てるものは手当たり次第に投げ捨てながら、声の主を掘り出し始めました。
†††
15.0
†††15.0
「ありがとう。助かったよ」
馬車の中から男の子が助け出した男は地面に座り込んで言いました。
身なりがよく、服装も男の子が見たこともないほど豪華です。
「何があったんですか?」
男の子はなぜ馬車が崖から落ちたのか尋ねました。
「馬車をとめて休憩していたんだが、留め具が外れたらしい。いきなり動き出して崖下へまっさかさまだよ」
なるほど馬車の残骸はあっても馬はいません。馬を放して休ませていたのでしょう。
「もうすぐ王都に着くから休まず行こうかとも思ったんだがね・・・・・・。今回は間違いだったようだ」
男は苦笑いをして男の子をみました。どこかケガをしているのでしょうか冷や汗をかいています。
「どこかケガを・・・・・・?」
「うむ・・・・・・。おそらく何カ所か骨を折ってしまったみたいだ」
そして崖の上を見上げます。
馬があればなんとかなったかもしれない、と考えているのでしょうか。しばらくして男は首を振って男の子に向き直って言いました。
「すまないが王都へ行って助けを呼んできてもらえないか?ちょっと動けそうもない」
†††
16.0
†††16.0
「どうしても動けそうもない?」男の子は聞きました。
「無理だね」
男の子は男の目をのぞきこむようにして言いました。
「・・・・・・この辺りは安全なのですか?」
「・・・・・・・・・・・・いや」
「何が出るのです?」
「オオカミと盗賊。どちらも命取りだ」
「・・・・・・本当は歩くくらいはできるんでしょう?」
男の子は助けたときの男の様子から推測して言いました。すると男は苦々しい顔をして
「ああ」
と言いました。
男は確かにケガをしています。しかしようやく歩くことができる程度で、町まで行こうとすればどうしても男の子の手助けが必要です。もしそうやって進んでいるときにオオカミや盗賊が出たらどうなるでしょう?男はそう考えて男の子だけで行かせようとしました。
もしオオカミや盗賊がこの辺りを通れば何もないこの見通しのよい平野で馬車の残骸などの傍にいればすぐに見つかってしまうでしょう。
「肩を貸します。一緒に行きましょう」
「すまない」
男はうつむいて申し訳なさそうにそう言いました。
†††
北の海の魔女13.0,14.0,15.0,16.0