野分風 (1)
台風が、近付いているらしい、ひー、ひー、と音を立てて隙間風が入る。寒くは無い。寒くは無いけど、カーテンがふわふわするから、風は入っているんだろう。窓もずっとがたがた揺れている。その揺れ方が、ずっと同じじゃなくて時々、がたんと強く揺れる、その度におれは、素直に驚き、目をさましてしまうので、全然、ぐっすり眠れなかった。
6時だった。
原稿の締め切りのことが、急に気になって仕方なくなった。こうなるとおれは、もう眠れなくなる。体を起こしてみると以外にも軽かった。よし、書こうかな、と思える体の軽さであった。
窓はいよいよ白くなり、それは、だんだん曇り空なんだということがわかった。お湯を沸かして、紅茶を入れて、テレビをつけて、半分まで食べておいておいたスナックパンをまた齧った。紅茶はまずいけど、熱いから、頭がすっきりした気がした。洗面所へいって3回、冷たい水で顔を洗って、そのまま水しぶきをふかず、歯ブラシをくわえて、わざと、水しぶきをぽとぽと落としながら、狭い部屋の中をぐるぐる歩きながら、考えた。
今日、とにかく仮の仮の原稿を仕上げて、それから1ヶ月まるまるかけて、はじめから推敲するとして、のこりの1ヶ月で清書して、まあ大丈夫か。メドはたっている。メドはたっているのに、どうしておれはこんなにも落ち着かないのか。ああ、なんか無性に、最初っから間違っている気がする。
窓ががたがた揺れて、さああっと細かそうな、雨の粒が窓に当たるのを感じた。
天気が悪いからだ、おれはそう思った、おれが今日こんなに弱気なのは天気が悪いからだ。
べっ、と泡をはいたら血がでた。おれはそれをじっと見た、そうしてるうちについさっきまで考えていた事は、すっかり忘れてしまっていた。
要するにおれには、きっと、やる気が無いのだ、生きてくことに、生活してくことに。
野分風 (1)