ハナマル‼︎

ハナマル‼︎

私は小学一年生の時から、姉と一緒にお寺の書道教室に通っていた。

お寺という異空間に小学生の私の心は弾んで、毎週楽しく通っていた。
今思えばお坊さんに書を習えるなんて、とても有難く、希少な経験だったと思う。

その教室では、まず鉛筆で字の練習をさせられた。鉛筆の練習がある程度上手くなったら、いよいよ筆でのお稽古が始まる…のだか、私は下手だったのか、なかなか筆でのお稽古をさせてもらえなかった。

姉や一緒に始めた皆が筆でのお稽古を始めているのに、私はいつまでたっても鉛筆…
なんだか永遠に筆でのお稽古が始められない気がしてきて、悲しくなって泣いてしまった。

そんな私を見てお坊さん先生は可哀想に思ったのか…
「そうやなぁ、鉛筆ばっかりやったら飽きてくるわなぁ。ミヤちゃん、次から筆でお稽古始めよか」

やったー!私は心の中でガッツポーズ!嘘泣きではなかったけれど、抗議する事の重要性をこの時に小学一年生の私は学んだ気がする。

書道教室では、お坊さん先生の見本を見ながら書いて、それを先生に採点してもらうのだけれど、上手くない字は朱色の筆で何回もお直しが入る。

ここはもっと伸ばして、ここは力強くはねて。

なかなか上手く書けないが、時々パーフェクトな字を書く子がいる。そんな時にお坊さん先生に書いてもらえるのが花丸だ。

みんなの憧れ朱色の花丸。

私も花丸が欲しくて何枚も何枚も書くけれど、下手な私はいつもお直しの嵐…
しかも当時練習している字が「鳥」で、かなり難しい。このままでは一生花丸をもらえないんじゃないかとまた悲しくなった。

そこで私は閃いた。お坊さん先生の見本を写せば上手に書けるから、写して書いたやつを見せれば花丸がもらえる!

私がこっそり見本を写して書いた字をお坊さん先生の所に持って行くと、
「ミヤちゃんすごいなぁ!めっちゃ上手い!お直しする所ないやん。すごいすごい、花丸やな」お坊さん先生は大絶賛。でも私のズルは姉の密告によってあっさりばれてしまう。

「それ先生の見本写して書いてんで、せやから上手いねん。ミヤはズルしてんで」

私はズルをばらされて顔から火が出る位に恥ずかしかった。
でもお坊さん先生は、がははと笑って、
「ユキちゃんなかなか考えたな。わしのを写したんやったら、そらお直しする所無いわな〜。今回は特別に花丸や。次からはズルしたらあかんで」
そう言って大きな花丸を書いてくれた。

ズルでもらった花丸だったけれど、小学一年生の私は大満足だった。
生まれて初めての、大きな花丸だったから。

ハナマル‼︎

ハナマル‼︎

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-08

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