狐の嫁入り

ある昼下がり
午前授業で早めに門をくぐって、帰路に着いたときであった。

突然、晴れているのに霧雨がさらさらと降ってきた

私も友人も傘を持っていなかったので、セーラー服をぬらしながら、チャリンコを飛ばして雨宿りの場所を探した。


「嫁入りね。狐の」


そうね、


嫁入りの話は、何度か祖母から聞いたことがあった。



狐が嫁入りをするとき
花嫁が美しく見えるように、必ず晴れた日を選ぶそうなのだ

美しい花嫁に、見とれないものはいない。
家族にとって最高の喜びである

母親以外は。

ある掟があって
どんなことがあっても、嫁入りしてしまったら実家に帰ってはいけないというものがあった。


今生の別れである。

悲しみのあまり、母狐は涙を流す
もう二度と会うことのできない娘のために歌を詠む

昼下がり耳朶ぬらす霧雨の涙にみゆるひとすぢの粒



それからキツネノテブクロの花に、変わらぬ母の愛を添えて送り出すのだという。


ここにふる雨は、娘を思う母の涙であったのか



「ねえ、お稲荷さんに行こうか」


雨はまだまだ、やみそうにない。

狐の嫁入り

短文。

狐の嫁入り

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-07

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