シスタ
明日は、キャンプ・ファイアーを、するらしい。僕は、一人で、先に帰ろうと思った。確か、先に帰ってもいいと、先生は言っていた気が、する。そのために僕は、自転車で来たのだ。
他の人たちは、あれは、キャンピング・カーというのだろうか、それで、グループになって来ていて、僕は、車の免許が無いので、車で来たら、一人で、先には帰れない。だから、自転車で来たのだ。自転車で来た人は、他にも、確か、居たはずだ。僕、ひとりじゃ、無い。
明日は、キャンプ・ファイアーを、するらしいから、やっぱり僕は、一人で先に、帰ることにして、夜、友達に預けてあった、僕の荷物を、無理言って、返してもらった。
僕の荷物は、どこかへまぎれこんでしまったらしく、友達は、探すのが、ひどく面倒臭そうだった。僕、以外、先に帰る人など居ないのだ。どうして僕は、荷物を預けたりしたのだろう。これは、迷惑だ。
僕は、ごめんごめん、媚びるように、笑った。最悪、自転車の鍵だけでも、鍵だけ見つかれば、いいからさ。
他にも、荷物はあったはずである。でも、もう、どうでもいい。鍵が見つかれば。一刻も早く、家へ、帰りたかった。
探しながら、友人は言った。
「先に帰ったら、怒られる」
でも先生は、先に帰ってもいいと、確か、言っていた。
「普通に考えて、そんなこと、出来るわけが無い」
そんな気が、してきた。鍵も、荷物も見付かったが、僕は、帰らなかった。先生に怒られるのは、こわい。
消灯時間になった。僕は、帰るつもりでいたので、どのグループの部屋で眠るか、決めていなかった。必要な紙に、名前を、書かなかったのだ。
どの部屋も、いっぱいだ、と言って、僕を入れてくれなかった。嘘だ。僕は、トイレの前で眠らされても、別にいいのだ。痛いくらい、笑って言ったけれど、誰も、僕を入れなかった。
最後の部屋に居たのは、ああ、どこかで、見た覚えがあると思ったら、僕が高校の時、いじめた女の子だ。いつも、何をされても、にこにこしているから、ある日、無性に憎たらしくなって、いじめた、女の子だ。こいつなら、僕を、入れるかもしれない。部屋は、空いている雰囲気だ。そいつの足には、なぜだか、男のように、毛が、ぼうぼうに生えていて、僕は、何となく、そのほうを見ないようにして、優しく笑って、お願いした。
いいだろ、空いてるじゃない、静かにするから。
自分を、殺したいくらい、恥ずかしかった。この、屈辱。それでも僕は、どうしても、一人でいるのは、嫌なのだ。どこにも、眠るところが、無いのだ。
僕の、いじめた女の子は、昔と同じように、にこにこ笑って、何も言わず、目玉を、右へ左へ、僕と、目をあわせないようにしていた。
出て行け、と言っているのだ。僕は、出て行った。
それから、教会の扉を見付けた。確か、先生が、眠りたい人は、教会で眠ってもいいと、言っていたのを、僕は、思い出して、扉を開けた。
シスターがやって来て、長椅子を使って、眠ってもいいと、言ってくれた。
教会の中は、うす暗かったが、所々、小さな電燈が灯っていて、奥の方に、誰か一人、同じように、長椅子に横たわって、眠っているのが見えた。
なあんだ、一人は、僕だけじゃないや。
僕は、急に元気になって、椅子の上に、あぐらをかいて座った。シスターは、僕の隣に座り、僕と、目をあわせないように、じっと前を見て、黙っていたが、
「あなたは臭い」
ぽつりと言った。
「臭い、とは、体が、ですか、口が、ですか?」
僕は、精いっぱい、何でも無いふりして、聞いた。可哀想に、僕は、今日、風呂にも入れなかったのだ。
「あたなは、臭い」
シスターは、そう、くり返した。
僕は、臭い。
シスタ