カフェ「バナナボート」

わたしと彼女の話

カフェ「バナナボート」には毎日、いろんなお客さんが来ていた。私はここで働くウェイトレスのみずき。水に希望の希で水希。どこにでもあるような名前だけど、漢字が平凡すぎていまいち好きになれない。ここにやってくるお客は私に何かと相談を持ちかけてやってくる。なぜなら人が良すぎる私はその相談に親身になりすぎるからだ。マスターからは「いい加減にしないと身が持たないぞ」と言われてしまうほどだ。わかっていてもなぜか手助けをしなくてはいけないように感じてしまう。
うちの店はドアのところにマスターがこだわりで付けた牛の首につけるような鐘が鳴るようになっている。
「カランコロン」
とその鐘が鳴ると 私は自然と
「いらっしゃいませ」
と、笑顔になってしまう。
なんだかその鐘の音には憎めない何かがあるように思えてならないのだ。
いつものように注文を聞きに行くと
「・・・あの・・・水希さんは?」
と聞かれて
「はい、私ですが・・・」
と答えると、相談開始。
ほとんどが身の上話だった。
「うちの嫁がね・・・」
から始まり、
「本当、うちの嫁は姑をどう思っているのか!!」
と、怒りまでもらってしまうことになってしまう。
このおばあさんはこのカフェ「バナナボート」の常連さんになっていた。
そのおばあさんが帰ったと思えば、また相談相手の来客が待っていた。
「カランコロン」
と鐘が鳴り、私は
「いらっしゃいませ」
と笑顔で迎える。
この明るい笑顔がいいという評判だとマスターはいう。
そんなものかなと思って、できる限りの笑顔でお客さんに接した。
毎回、私との会話を楽しみにして来てくれてるお客さんも嬉しいことに定着している。
中には変な顔をして、無言で接してくるお客もいた。
そんななか、その女性はこのカフェ「バナナボート」に来た

「いらっしゃいませ」
お水を持って、その女性に持っていった
女性はジーンズに薄手のカーディガンを羽織っていた。
メニューのなか、彼女は悩んで
「ホットチョコ」
とか細い声で言った。
「はい。ホットチョコですね。」
と、私が立ち去ろうとしたとき
「あの・・・」
と、何かを言いかけたけど
「あっ、何でもないです・・・」
とすぐに口を閉ざした。
その女性のことは気になっていたが、すぐに仕事に戻った。
マスターもなんだか気になっているようだった。
他にもお客がいたので、接客をしているうちにその女性は帰っていった。
何かを感じずにはいられない
そんな女性だった。
「今の人 綺麗だったね」
マスターが呟いた。
確かに綺麗な人だったし、男性客も何人か振り返るほどだった
なんとなく気になってしまい、追いかけてしまいそうだったけど
さすがに仕事中にマスターをおいてけぼりにしてはいけないと思い、やめた。

次の日もその女性はカフェ「バナナボート」へ来た
またホットチョコを注文して・・・。
彼女はどこか寂しそうで、何かを言いたそうにこちらを見ていた。
「いかがですか?うちのホットチョコ」
思わず私は彼女に声をかけていた。
でも 彼女はうなずくだけで
何も言わずにいた。
彼女には何か悲しみを抱えているかのように私には見えていた。

次の日も、その次の日も・・・。
彼女は来てくれていた。
でも話はしなかった。

そんなことがあっても 人生相談を持ちかける人はいつものように来ていた。
私は彼女のことが気になりつつ、ほかの相談にのっていた。

なんどか声をかけてみたけど、反応は同じだった。
それから1週間後
彼女にまた何気ない話をしてみた。
「私はここでいっぱいドジやってるんですよ。マスターは笑ってばっかりで私を罵ってるし・・・」
なんて大げさに話をしている時だった。
「・・・実は、あなたに話を聞いて欲しくてここに来てたんです。」
やっと彼女の口から話が聞けるようになった。
「実は彼が・・・。」
そこまで話して、彼女は涙を流していた。
「彼は私に何を言って欲しかったのか、私に電話をしたあとに川に身を投げて・・・。」
彼女は嗚咽を漏らしながら とぎれとぎれに話をしていた。
それはまるで今まで黙っていた分を取り戻そうとしているかのように・・・。
彼女は大切な彼を自殺で失ってしまった。
彼自身が何を悩んでいたのか まったくわからなかったという。
仕事も順調だったし、交際も問題なかった。
それが突然、そうなってしまったのだ。
自分を責めずにいられなくて、話を誰かに聞いて欲しくて
このカフェ「バナナボート」にきていたということだった。

その気持ちは私にも覚えがあった。
「実は私も彼を事故で亡くしているんです。」
そういうと 彼女は少し驚いたように私を見た。
「まぁ 自殺ではないんですよ。仕事中の事故だったんです。でも私彼と喧嘩してる最中で、仲直りできないまま亡くしてしまったんです。」
そこまで話すと 彼女はまた涙を流していた。
「彼は私を許していたのか、怒っていたのかわからないままの別れになってしまいました。ここで働いているのもほとんど彼との時間を忘れないためでもあるんです。」
彼女は
「一緒ですね。私も彼の言うことをあまり本気にしてなくて・・・」
二人共 大切な人をなくしたという悲しみを分かち合う形になっていた。
マスターは気をきかせたのか お店を閉めてくれた。
そのタイミングでお客も彼女だけになっていたので
ちょうどよかったのだ。
しばらくして私は思った。
「あぁ、本当に話をしたかったのは私の方だったのかもしれません。
じゃなければ、あなたのこと気にならなかったのかもしれません。」
と彼女に言った。

そういうと彼女は私に
「同じですね。」
と言って、泣いてくれた。

それから何日か日が経って 彼女は常連のお客さんになっていった
私も彼女と話すことが楽しみになっていた。
彼女の名前は 奏さん
そして 私とは親友となっていた。

カフェ「バナナボート」

初めて短編に挑戦してみました。
まだまだ下手ですが、ぜひ読んでみてください。

カフェ「バナナボート」

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-07

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