誇り高き武士であれ

誇り高き武士であれ

時は幕末――

女でありながら武士として生き抜いた1匹の妖怪の物語。

零、妖怪

零、妖怪

今は昔。
電灯はなく夜道を照らすのは月と提灯だった頃。
物の怪、妖怪は人間と共に生きていた。
人間は妖怪を敬い、恐れていた。
また、妖怪も人間を恐れていた。
2つのものはけして交わらずしかし謙遜されることなくは生きていた。
しかし、生きるものは時に過ちを犯すものだ。
人間と妖怪。
2つものが交わった。

人間の中でも崇められた巫女と妖怪の頂点に君臨する鬼神。

百姓と鬼。

商人と妖獣。



異物の己を愛すことができるのか。

弐、馬鹿

“用件がある。屯所まで来てくれ”

ただそれだけ書いた紙をまだ冬の寒さが残る今朝飛脚が届けに来た。
差出人は土方歳三。
としろーから来たということは“屯所”は恐らく新選組の屯所を示しているのだろう。
桜川幸(さくらがわ こう)は小さくため息をついた。
土としろーと俺は新選組、壬生浪士組ができる前からの友人だ。
近藤さんの道場に通っていた頃にボロボロになるまで戦ったのを覚えている。
あれから幾年月日がながれたのだろう。
ここ数年会っていないな、と思う。
そうだ、新選組が結成されてからだ。
それから会っていない。
幾年月日がながれたのだろう。
太刀と短刀を腰にさして立ち上がる。
普通は用件があるやつが出向くべきだろとか思ったけどまた飛脚を使うのも面倒くさいので俺が出向くことにする。




「土方歳三殿に呼ばれて参った」

屯所は寺らしい。
大きな門の前に行くと手に槍を持った門番が怪しそうに俺を見た。
おいおい、こいつら殺気垂れ流しだけど大丈夫か?

「証明するものは?」
「あー。証明するものね。ほい、書状」

門番の顔にとしろーから貰った書状を突きつける。

「た、確かに副長の名が入っているが副長から客人が来るとは聞いていない。それにお前のような男、見たことないぞ」

いや、俺も知らないから、お前みたいな男。
さすがに失礼だろうとその言葉は飲み込んだ。

その代わりに

「おーい。としろー、来てやったぞー」
「ちょっ!門の前で叫ばないでください!!」

門番は俺の口を塞ごうと槍を投げ捨てて飛びかかってきた。

「ちょっ!やめてください!!」
「としろー、出てこいよ。ばーかばーかばーかばーか」

途端にぎぃーっと門が開いた。

「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうるせぇなあ。猿か、お前ら」

誇り高き武士であれ

誇り高き武士であれ

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-06

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  1. 零、妖怪
  2. 弐、馬鹿