Manuscript paper Short story

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 例えば、流れ星が見えるそんな夜に傍にいてもらいたいとか、あと5分寝ていたい朝に優しく起こしてほしいとか、ボクにとって愛とはそういうことなのだ。何でもない日々に、ただキミにそこにいてもらいたいのだ。どれだけ言葉を重ねても、どれだけ強く抱きしめても、数えきれないキスを交わしても、きっとボクの想いの全てをキミに伝えることはできないだろう。ボクですら量りきれないほどなのだから。
「アナタがどれだけワタシを想ってくれているかなんて、そんなこと考えたこともないわ。だって考える暇もないほど、アナタは私に愛をくれるもの。でもね…」
 キミのその言葉の続きを聞いて、ボクは思わずその体を引き寄せた。ああ、ボクはこんなにも愛されている。誰よりも愛おしい人に。
「でもね、アナタのことはどんな時も考えているのよ。」

言い訳

 だから、でも、もし、なんていくら言ったところで終わったことは終わったことなのに、どうして人間は過去を取り繕うとするのだろうか。そうした結果、余計に深みに嵌り抜け出せなくなると経験しているというのにも関わらず。不利な状況になると、平常時よりも饒舌になり、次から次へと言葉が出てくる。すぐに綻びを指摘され更に言い訳を重ねることになるのだ。なんと情けないことか。
「じゃあ、アナタはそんな言い訳はしないで素直に謝ってくれるわけですね。」
 まさに饒舌になっていたボクの言葉をカノジョが遮る。遅刻したボクは絶賛言い訳中、いや弁解しているのだ。遅刻したのは悪かったが、いろいろと不運が重なったからで全面的にボクが悪いわけでは無い。これは決して言い訳ではないのだ。
「悪かった。悪かったって思うよ。でも、」
 ああ、まだまだカレの口は止まりそうもないわ。

 「急に仕事が入っちゃったんだよ。デートだって言っても聞き入れてもらえないだろ。」
悪いな、と言いながら煙草を手に取るアナタ。心の中では悪いなんて少しも思っていないくせに。ワタシ知っているのよ。アナタが他のヒトと笑い合っていたこと、手を繋いでいたこと、キスをしていたこと、その先も全部全部…。それでも、どれだけ裏切られてもアナタの傍を離れられない。アナタのことが愛しいから傍にいたいと思うの。
「仕事じゃ、仕方ないもんね。」
寛容なオンナの振りをして嘘を吐く。アナタの嘘の数だけ、ワタシは心で泣いているのよ。それでもいいの。いえ、それでいいの。アナタの口から、真実を聞かされたら、ワタシはきっと…。どうか嘘を吐き続けてください。アナタの愛すら嘘だとしても、全て受け入れるから。都合のいいオンナでも構わない。だから、永遠に終わらない嘘を交わしましょう。

笑顔

 まるで太陽のようだ、ただ素直にそう思った。太陽に照らされてボクまで暖かい気持ちになったのだ。ボクのことなど何も知らない筈なのに、アナタはアナタでいいのだと言ってもらえている気がする。ホッと肩の力を抜くことができる。我ながら単純だと思うが、それだけでいいのだ。言葉など交わさなくてもいい。ただ笑ってくれるだけでいい。いや、やはり話すことができたらもっと嬉しい。どんな日も変わらず笑顔で迎えてくれるキミは、悲しむことなんてあるのだろうか。もし、そんなことがあったら、その時はボクがキミの太陽になろう。ボクの笑顔では太陽どころか豆電球にも勝てないかもしれないが、少しでもキミの心が晴れればいいと思う。願わくば、キミの笑顔が陰ることのないように。さあ、今日もキミに会いに行こう。このガラスの扉を抜けたらキミはきっと言ってくれるだろう。
 「いらっしゃいませ。」

 トントン、と心地よいリズムが聞こえる。グツグツ、ピッ、トントン、アチッ、と良い匂いと一緒にいろいろな音が耳に届いてくる。隣を探ればもうすっかり冷えてしまって、キミの温もりは残っていない。それでもこんなに心が温かいのはキミの出すその音が聞こえてくるからだろう。いつも静かだったボクの部屋が賑やかになったのはいつからだったか。自然にボクの空間に入り込んできたキミはたくさんのことを教えてくれる。キミからの着信音も、すやすやと立てる寝息も、怒ったときの甲高い声も、聞こえないとなんだか寂しくなる。独りの時にはそんなこと思いもしなかったのに。キミのおかげで、賑やかなのも悪くないと思えるようになったんだ。パタパタとキミが近づいてくる。さあ、狸寝入りをしておこう。ボクの一番好きな音を聞くために。ポンっと肩にキミの温度が伝わる。
「ご飯できたよ。ほら、起きて。」

叶わない相手

 「好きだ」なんて簡単に言わないで。期待してしまうから。アナタの「好き」と、ワタシの「好き」は違うのよ。そんな甘く可愛いものじゃないの。アナタを独り占めして誰にも触らせたくない。仕事だろうと他の女と関わらないで欲しい。どこか閉じ込めて離れないようにしたい。他人は狂気だと言うのだろうか。それでも構わないわ。ワタシにはアナタだけ。狂わせたのはアナタなの。責任、とってくれますか?
 「なんてね。ワタシってすごい独占欲の塊だわ。自分でもひく。」
書き出した手紙をくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に放り投げる。その先に見える眩しすぎる笑顔にワタシは苦笑いを浮かべる。
「アイシテル」
もう一度ペンを手に取り手紙を書き始める。「いつも応援しています。」
 画面越しから狂気―アイ―を込めて。

きっと運命

 まるでおとぎ話みたい。素敵な王子様が現れてアタシを退屈な毎日から連れ出してくれる。キラキラでカラフルな世界を見せてくれるのよ。
「いつまで夢見る夢子ちゃんでいんのよ。」
「いいじゃない夢子ちゃんだって。妄想することは誰にも止められないんだから!」
「もういい大人なんだから、そろそろ現実みたら?」
 真っ当なことをグサッと言われると、正直
「へこむよね…。そりゃいい大人だし。でも、諦めたくなーい!」
「うわぁ!」
言葉と一緒に思い切り振り上げた腕の先には男性が。思いがけず当たってしまったらしい。焦って謝るアタシに「大丈夫」って微笑んでくれるカレ。
まさかカレと結ばれることになるなんて、この時のアタシは知る由もない。
おとぎ話は意外と傍にあるものなのだ。

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Manuscript paper Short story = 原稿用紙1枚分の短編小説

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  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-06

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  1. 言い訳
  2. 笑顔
  3. 叶わない相手
  4. きっと運命