結音眺月

UTAU音源、結音るう・結音りりをメインに書いた短編小説です。

UTAUの詳細に関しましては本家様等をご覧下さい。
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結音りり、結音るうに関してはこちらのサイトをどうぞ
http://sugata-musubi.jimdo.com/

登場人物

結音(むすびね)るう
・シオンにより配布されているUTAUキャラクター。結音りりの双子の兄。

結音りり
・シオンにより配布されているUTAUキャラクター。結音るうの双子の妹。

『約束、してください……』

息も絶え絶えに少女は俺を見つめ、懇願する。

紫翠の瞳は哀しみに揺れているのに、その唇は柔らかな笑みを浮かべていた。

その様子が一層、彼女の力ない身体を抱く俺の胸を打つ。

『もし……もし、生まれ変わったら……』

ずっと、一緒に、と。

そう告げて伸ばされる少女の手を、俺は握った。

『ああ…約束する』

震える声で、囁いた。

在天願作比翼鳥、在地願為連理枝。

空に住まう物に生まれ変わっても、地に住まう物に生まれ変わっても、共にいる、と。

その言葉を聞いて、少女は安心したのか眠るように目を閉じる。

その身体からは、力が抜けていき、そしてーー。


「……っ!!」

自分の慟哭が聞こえたような気がして、俺は飛び起きた。

むき出しの上半身はうっすらと汗ばんで、息は異様に乱れている。

額を拭ってみれば、予想通り汗で濡れていた。

そんなふうに俺を乱したのは、先ほどまで見ていた夢に違いない。

あの夢を見るのは今日が初めてではない。

もうずっと昔から、何度も何度も、繰り返しあの夢を見ている。

夢の少女が誰なのか、夢の中の「俺」は誰だったのか。

そんなことはもう知っている。

ふと見ると、白く明るい月明かりが部屋の中を照らしていた。

今日は、満月か。

思い出すと、月明かりを浴びたいという思いが沸き上がる。

散歩でもしてこようか。

そう考えて、俺は夜気に耐えられるように寝間着の上と、さらにコートを纏って、外にでた。


外にでると、月明かりは本当に明るかった。

街灯は少ないにも関わらず、道を歩くのに不自由は感じられない。

そうして歩いていると、懐かしい声が耳の奥によみがえる。


『るう、知ってるか? 
男女の双子は、前世で結ばれなかった恋人の生まれ変わりと言われているんだ』


いつかの夜の散歩中、ムーンストーンの揺れる右手で俺の手を引きながら、親父がそう言った。


『そうなの?』

『言われている、てだけだけどな。
だから、もしかしたらお前とりりも恋人だったのかもしれないな』


ははは、と笑いながら言う親父の言葉に、小さい頃の俺は妙に納得してしまった。

たびたび夢に見る、あの悲しそうに微笑む女の人は、りぃの……。


『……どうして、双子になっちゃうんだろうね。兄妹じゃ、また結ばれなくなるのに』


ぽつりと、疑問を口にした。

兄と妹、もしくは姉と弟では、結婚なんかできなくて。

誰かと巡り会えばそちらに行ってしまって、結局離れてしまうのに。


幼い俺の小さな疑問を聞いて、親父は『そうだなぁ』と空を仰ぐ。

つられて上を向けば、冴え冴えとした白い月が俺たちを見下ろしていた。


『誰よりも繋がるため、かもしれんなぁ……』

『つながるため?』

『うん。同じ時間に生まれて、同じときを過ごして。
……そうして、もし前世で果たせなかった約束があったら、それを叶えることが出来るように』


「果たせなかった約束、か」


ぼそりと呟いてみた。

吐かれた息は白く視界を曇らせて、消えた。

あの夢が本当に前世のことなら、俺たちが果たせなかった約束は、ずっと一緒にいること。

つらつらと、夢のことを考えてみた。



どこかの国の宮廷。

前世の俺は王の側近で、りぃは公主に仕える女官だった。

二人は立場柄会うことが多く、お互いの人柄に惹かれていった。

だけど、女官は例外なく王の女。

ほかの男との恋愛は許されない。

前世の俺たちは重々承知していて、互いの気持ちに気づきつつも沈黙を通した。

たまに、ごくたまに、月の綺麗な夜に四阿で二人で歌うという逢瀬を交わしただけ。

そんな関係を続けてどれくらいかした頃に、宮廷内に賊が入った。

それを目撃したのが、りぃの前世だった。

賊は口封じにと彼女を手込めにした。

辛かっただろうに、彼女はそれを警備の長に話した。

どこから入ったのを見たとか、何を盗ろうとしたかなど、全部。

それなのに。

長は、警備の者たちの不手際であるのに、彼女が賊と通じていたと、関係を持っていたという罪状を仕立てあげた。

王を二重に裏切った罪で、彼女は、毒を賜った。

地方の視察にでていた前世の俺が知らせを受けて戻ったときには、もう彼女は毒杯をあおったあとで。

その続きが……。


はぁ、と何度目かわからないため息をついた。

俺とは違って、りぃにはそういう記憶も、夢に見ることもないみたいだ。

だけど、どこかに残っているんじゃないだろうか。

それがあるから、男が嫌いなのかもしれない。


そんなことを考えながら歩を進めていると、家が見えてきた。

知らない間に地区内を一周していたらしい。

よく見てみると、月を見上げている後ろ姿が佇んでいる。

月明かりに照らされてきらきらと輝く、青みがかった銀髪の後ろ姿。


「……りぃ?」


声に反応して、りぃが振り返った。

風に遊ぶ髪を押さえて、ふわりと優しい微笑みを俺に向ける。


「おかえり、るうくん」


その姿が夢の人と重なった。

清冽な美しさに、思わず息をのむ。

ずっと一緒にいて、ずっと傍にいて、りぃの微笑みなんか見慣れているはずなのに。


「どうしたの?」

「いや…りぃこそ」

「ん、なんか、目が覚めちゃって。
るうくんのとこ行ったら、いないんだもん。
それで外見たら、月がすごく綺麗で。
きっとお散歩にいったんだろうなって。
だから、待ってたの」

「うん、正解」

「でしょ?」


ふふ、と微笑んで、りぃはまた月を見上げる。

その唇がゆっくりと開き、歌を紡ぐ。


『天に在りては願わくは比翼の鳥となり、
 地に在りては願わくは連理の枝とならん』

「りぃ、それ、どこで……」


驚きで目をみはりながら、俺はりぃに尋ねた。

りぃはきょとんとした顔で、どこだろう、と返す。


「どこかで、聞いたんだと思う。……生まれ変わっても、ずっと、共に」


ね、と。

りぃは俺に抱きついてくる。


「私たちきっと、一緒にいなさいってことで双子に生まれたのね」


……親父との話を、りぃは知らないはずだ。

だからきっと、本心からこう思っている。

俺はりぃを抱きしめ返して、うん、と頷いた。


「そうだな。……きっと、そうだ」


双子に生まれる理由って、それ以外にもあるんじゃないだろうか。

たとえば、自分がかつて愛した人が、今度こそ愛する誰かと結ばれるのを見守れるように、とか。

そう思うと、いろんなことが腑に落ちる気がした。


(それなら、それで……)


りぃが本当に好きな人と巡り会えるまで、俺が守ればいい。

前世の自分がそうできなかったぶんも。



『また、共に歌ってくださいますか? 月を眺めながら』

『もちろん、何度でも。音を結んで、月を眺めよう』



ーー耳の奥で、夢の二人の声が響いた気がした。


ーfinー

結音眺月

結音短編です。
タイトルは「音を結び月を眺む」と読みます。

設定なんか全く考えてはなかったのですが、
「男女の双子は(以下略)」を聞いたこと、
ふと月を背に微笑むりりのイメージが浮かんだことが結びついてこうなりました。

あくまで非公式短編なので、それぞれの結音像を想像してくだされば幸いです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

結音眺月

ある夜、結音るうは夢を見た。 息も絶え絶えの少女を腕に抱き、その最後を看取るという、幼いころから何度も見てきた夢だ。 夢から覚め、ふと思い立った。 月の下、散歩に出てみよう、と。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-02

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  1. 登場人物
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