初恋
あの、土砂降りの雨の日。あの日、君に出会えて本当によかった。
・第一話・
「あの...大丈夫ですか?」
家_ここら辺では結構有名な高級マンションの入り口に
喧嘩をした後のように、傷だらけの男の子がどこかの学校の制服で座り込んでいた。
今日は委員会で帰るのが少し遅くなってしまい
もうすでに空には月が出ている。
まだ晩御飯の用意もしていないのに。
いつもならこういう男の子は怖いので近寄らずに、すぐ中へとはいるのだけど
今日は土砂降りの雨も降っているし、こんな真冬に外で傘も差さず座り込んでいるのは風邪を引きそうだ
と思ったから思い切って声をかけてみる。
けれど、返ってくるのは荒い息遣いだけでこちらの質問が聞こえていないのかもしれない。
かといってこのままここに置き去りにしては確実にこの人は管理人さんに怒られてしまう。
ここの管理人さんは厳しい人だからこんなに傷だらけでも、こんなに苦しそうな息遣いをしていても
こんなにびしょぬれでも、きっとここから離れろといって適当にあつかうだろう。
そうなると選択肢は一つ。
__私の家に連れて行くこと。
しばらく考えてからそれしかないと心を決めもう一度男の子に声をかけた。
「聞こえてますか?今から私、家に帰るんですけど、一緒に来ませんか?このままだと手当てもできない し、風邪ひいてしまいますから」
返事は相変わらずないので、勝手に連れて行くことにきめた。
しかし、すぐに疑問にぶち当たることになる。
いったいどうすれば40階立てのマンションの最上階まで自分よりもはるかに重く、さらに意識を失っている男の子を運べるのだろうか。
・第二話・
結局、たまたま通りがかった管理人さんに頼んでエレベーターまで運んでもらい、そこから最上階まで一気に上がって自分のベッドへ寝かせることにした。
このマンションは、35階から上は専用のエレベーターがあり、それで上まで上がって、降りると直接家になっているようなつくりをしているので、とても広い。管理人さんが通らなければ、どうすることもできなかっただろう。
男の子の様子を改めて見ると、制服は所々血で汚れているし、さっきから右のわき腹をおさえたまま青い顔に眉を寄せ、冷や汗を額いっぱいにためて荒い息をはいている。顔も唇のはしが切れていた。
こんな状態の人なんて見たこともない彼女_広海 梓(ひろみ あずさ)はどうしていいかわからず部屋の中を行ったりきたりして落ち着かずに居た。
(と、とにかく.......えと、服!そう服がぬれているから体温を吸収されて余計にさむいのかも..!脱がさなきゃ)
「あ、あの、その、服、ぬれてるんで脱がしますね?さすがに下着までは替えられないですけど」
言ってもおそらく聞こえてないのだろうが、一応聞いておいた。
それから梓はシャツのボタンを上から順にはずしていき、器用に脱がせていく。そして、息を呑んだ。
男の子がおさえていた右のわき腹には、梓が手をめいいっぱい広げたとしてもとうてい覆い(おおい)切れそうもないほどの大きさの痣があったのだ。
青黒く変色してしまっているそれは、骨折しているんじゃないかというぐらい痛々しいものだった。
ほかにも何箇所か、これほどではないにしろ内出血のあとが多くみられた。
汗をたくさんかいていたので拭こうと思い、水でぬらし、固く絞ったタオルでそれらに触れていく。
傷のちかくを通るたびに男の子は小さなうめき声をあげる。
それも終わり、自分の服ではサイズが入らないと思ったので、たまに家に来る親戚の大学生のお兄ちゃんのジャージを着せておくことにした。
まだ目を覚ます気配はなかったので、そのあいだに晩御飯の用意を済ませてしまう事にする。
今日のメニューは自分用に昨日煮ておいたビーフシチューと買ってきた野菜のサラダ。
男の子用におかゆを作っておく。
すると、ベッドの部屋から物音が聞こえた。
ここは40階なので1フロア全てが自分の家。部屋から部屋への移動もなかなか歩く。
向かうとベッドのサイドテーブルに置いておいた薬のびんが、床に転がっている。さっきの物音はこれが落ちる音だったらしい。
「あの、目、覚めました?」
これが落ちているということは当然、落とした人がいるということだ。つまり、目を覚ましたのではないか。そう思い、ベッドの横まで行って声をかけてみた。
「お前誰?ここ、どこ?」
はじめて聞く、男の子の声だった。
「ここは、私の家です。あなたが倒れていたマンション。それと、私は、広海 梓っていいます」
「倒れてた?マンション?」
しばらく考え込むように黙り込んだあと、
「ああっ!!!思い出した!悪ぃ、今何時?」
と大きな声をだしながら、ベッドから飛び起きたがわき腹の痛みにうめいてまた倒れこんだ。
「あ、う、動かないでくださいよ?立派な病人なんですから」
あわてて声をかけながら毛布をかけなおす。
「俺が病人?なの?」
自分でわかっていないらしい男の子は相変わらず青い顔をしている。
「はい。あの、病院とかいったほうがいいと思いますけど...今からここに呼びましょうか?」
一瞬きょとん、とした顔になったあと、笑い出してしまった。
何故笑うのか訳がわからないので不思議そうな顔をしていると、男の子は悪ぃ悪ぃといいながら笑いやんだ。
「いや、なんていうかさ、家に医者呼ぶってどんな発想の仕方だよ!って思って」
梓にしてみれば、それが普通なのでよくわからなかった。
「あ~、ま、いいや。助けてくれてありがとな!俺の名前知らない?かな」
もちろん会ったことも、話したこともない男の子の名前なんて知ってる筈がない。
「いえ、知りませんが。どこかでお会いしましたっけ?」
「いや、全然初対面だぜ?」
もっと訳がわからない。初対面で名前など知っているほうがおかしいのではないか。
「まあ、あんた見るからに優等生っぽいしな。しらなくて当然か」
「?」
「俺の名前は、藤崎 大地(ふじさき だいち)。まあ、ここらへんでは結構有名人かな~♪」
有名人とは言われても、全然しらない人。
「ごめんなさい、有名人なのに全然わからなくて...」
その言葉にまた大地、と名乗った男の子は笑い出して
「有名人っつてもヤンチャで、だからな。あんた_梓だっけ?がしらなくても無理はねえよ」
同年代の男の子に名前で呼ばれたことなんて幼馴染の千葉 友兎(ちば ゆうと)ぐらいしかないので、無意識のうちにちいさく心が弾む。
「ヤンチャ?ってことは、もしかして、ここで倒れてたのも喧嘩ですか?」
「ん~?喧嘩っていうか_弟人質にとられてたからこっちからは手だしてねえよ?あっちが一方的に俺に手出してただけ。多分、俺がどっかでなんかしちまったんだろうな。それの仕返し?みたいな」
笑った顔のまま、それでも少しさびしそうに話す顔はみてて切なくなってしまう。
「あ、そうだ!おかゆ作ったんですけど、食べられそうですか?あと、これで熱も測ってください」
そんな切ない感情をかくすように明るくいった。
「ああ、食う!ありがとな」
言った大地の顔には、先ほどまでのさびしい面影は全くなくて太陽みたいな笑顔だった。
初恋
まあ、なんというか長く続きそうな予感...。よんでくだされば幸いです!こんな駄文ですが、ありがとうございました☆