俺とクー太の銀河物語(仮)
こんにちは、私の小説を読もうとしてくれてありがとうございます。ここは私が書いている小説のまとめUPです。
現在、リアルタイムで連載しているのはアメブロで個人的自作小説のブログhttp://ameblo.jp/myshousetuburogu/で最新話をUPし続けてます。
それが溜まり次第、ここでまとめてうpという形式をとってます。
過去に今まで見て下さった方は申し訳ありませんが、ブログの方に移動してください。
序章 出会いと別れ 1話
「俺とクー太の銀河物語」
序章 出会いと別れ
桜が蕾を付ける頃、世の中は卒業シーズンを迎える。
卒業は誰もが迎える人生の数少ないイベントだ。
最近では、何かを辞めたりする事を卒業と言ったりするけど、学生での卒業は一生に数回しかない。
学生での卒業式では、みんな家族や知人に祝ってもらえる。
でも・・・・それは親しかった友人との別れの時でもある。
いつか、別れの日が来るとわかっていても、みんな当然のように親しくなってしまう。
それは、一緒に過ごした日々が、人と人の関係を強く、そして、より重くしていくからである。
学生の間に一緒に過ごした友人との時間は、それはもう、家族といっても過言ではないのかもしれない。
たとえ、いずれ別れが来て涙を流すことになっても、積み重ねた時間と記憶が心の中にいつまでも残る一生の宝物になるからだ。
そして、人は別れを惜しみつつも、また次の新たな出会いに心をときめかせる。
ほら、見てごらん?
あそこに立っている卒業生たちの笑顔を・・・まだ見ぬ未来に向かって輝いている・・・。
学校の卒業風景が街角でみられる中、悲しそうに卒業風景眺めている青年がいた。
年の頃は卒業生と同じ十代だが、卒業する彼らに比べると、少し大人びている。
それに、何かを悟ったような雰囲気を醸し出している。
悟ったといっても、何か宗教的な悟りを開いたわけでもない。
また、精神的に老け込んでいるわけでもない。
ただ・・・どことなく寂しげで、もの憂げな感じで眺めているのである。
その雰囲気は、老人が若者を見つめるようではなくて、何かとても悲しい出来事が起こったような悲しげな顔をしていた。
その青年は、卒業生を眺めた後、名残惜しそうにその場を離れていった。
「先輩?!」
校門の前で、多くの卒業生が花束を持って記念撮影をしている中、ある卒業生が、さっきまで青年がいた場所に走り出していた。
「真司!!どうしたんだよ!」
後から追いかけてきた友人が声をかける。
「いや、今さっきここに西田先輩がいたような気がしたんだけど・・・」
「西田先輩が?まじで?だったら何で声をかけてくれなかったんだ?」
その友人は首をかしげた。
「そんなの分かる訳ないだろ?先輩にだって色々あるんだろ?」
「そういえば、去年はここで西田先輩を見送りに来たんだよな、俺達・・・」
「ああ、あの時は先輩も俺達も、バカばっかりしていたな・・・」
真司は過ぎ去った青年の方向を眺めてつぶやいた。
「そうだな・・・そういえば、あれから⒈年が経ったのか・・・」
「そうだな・・・色々あったな・・・」
二人はいつまでも過ぎ去って行った方向を眺めて、去年の西田先輩の卒業式の事を思い出していた。
序章 出会いと別れ 2話
一年前の卒業式
「はああああああああああー・・・!!」
ある高校の桜が蕾を付け、晴れやかな天気の中、勝彦はただ一人、ため息をついていた。勝彦はたった今、卒業式を終えて体育館から出てきたところである。
卒業証書授与もおわり、在校生の見送りの言葉も終わり、何事もなく式は終わっていた。
すべての行事が終わった後、卒業生は記念撮影など、皆、思い思いに自由に楽しんでいる。実際、勝彦もさっきまで友人達との写真撮影も終わったばかりだ。
だが勝彦は、そっとその友人達と離れる事になった。別に、喧嘩した訳でもボッチ(一人ボッチ)にされた訳でもない。自分から気を利かせて離れたのである。
何故なら、卒業生のイベントの告白や、彼女との記念撮影が始まったからだ。
彼女のいる友人は「ちょっと悪い!」と言って彼女の方に行き。もう一人の友人は、後輩の女の子が「お話があるんです・・・」と言ってどこかに消えていった。
一人ポツンと残った勝彦に、ため息が出ないはずがない。唯一の救いが(救いか?)一緒によく遊んだ後輩の男二人が、勝彦を見送りに会いに来た事位である。
「どうしたんですか?西田先輩!!」
そばにいた後輩の男は、けだるい感じで勝彦に尋ねてくる。
この男は、門脇真司と言って一年下の後輩である。勝彦と真司との関係も早2年、いつの間にか先輩としての威厳はなくなり、同学年の友人といった関係になってしまっていた。
「うるさいな!ため息も出てしまうんだよ!」
イライラした気持ちを爆発させ、その気持ちを真司にぶつけた。もちろん、ただの八つ当たりである。
「はあ・・・・で、それは何でですか!?」
それでも真司は、うんざりと言った感じで聞いてくる。真司自身も、何故イライラしているのか分かっているが、一応聞いてみる。
「あっちを見てみろ!あのリア充どもを!」
指差した先には、卒業生のお決まりのイベントである、制服のボタン争奪戦が行われていた。
また、その周りでも、女子生徒からの男子生徒への記念撮影や花束の贈呈なども行われていて、ごくありふれた卒業風景が繰り広げられている。
「別に・・・何か問題でもあるんですか・・・?」
真司は、一応指差された所を見たが、うんざりといった感じで答えた。どうやら、真司には勝彦が何を考えているのか、もうすでに分かっている感じだった。
「な、なんだと?お前はあの光景を見て、何も感じないのか!?」
「別に・・・なんていうか・・・あえて言うならほほえましい光景ですよね!」
そう言って真司は、後頭部を少しポリポリと掻きながらしれっと答える。
その姿に、先輩としての尊敬の念は感じられない。ただでさえイライラしているのに、真司のそっけない態度に、勝彦の怒りは頂点に達しようとしていた。
「ぐううううう!お前という奴は!」
勝彦は、地団駄を踏み、真司のそっけない態度に全身を震わせて悔しさをにじませていた。
「先輩!!俺は・・・俺は・・・ぐやじいです!!」
真司の横に立っていた、もう一人の後輩が目に涙を浮かべて悔しそうに勝彦に言った。
この男は高橋孝司と言って、一学年下のもう一人の後輩である。つまり真司と同級生であり、勝彦の事を尊敬しているので真司と違って尊敬する先輩として接してくれている。
「そうだろ!そうだろ!お前ならわかってくれるよな孝司よ!」
同意してくれた孝司と目を合わせ、勝彦と孝司は真司を睨みつけた。
「お前みたいなリア充にわな!モテない男の気持ちなんて分らないんだよ!」
勝彦と孝司の、二人の鋭い目つきが真司に対して注がれる。
「そうだ!そうだ!リア充は爆発しろ!!」
孝司は、勝彦に同調するように真司に言葉を浴びせた。勝彦達の顔は、真司に対する恨みと憎しみで一杯な形相をしていた。
傍から見たら、モテない男がモテる男にひがんでいる状態である。そして何よりも、真司自身が本当に自分はモテていないと思っている事が勝彦達の怒りを増大させていた。
「爆発って・・・・俺は別にリア充じゃないんけど・・・」
真司はまた二人の意味不明な逆恨みが始まったといった感じで、不満そうに答える。この様なやり取りは、数ヶ月前、勝彦が在校中でも頻繁に見られた。
「嘘をつけ!!お前は立派なリア充だろ!!お前は・・・お前は・・・俺達の女神様・・・霧條様と・・・うぐっううう!」
すぐさま真司の言葉を否定して、血の涙を流しながら悔しそうに言葉を絞り出した。
「うっ、キ、キモイ・・・」
と、言って真司は勝彦達から後ずさりをする。
だが、勝彦達には真司の言葉を否定する明確な理由があった。真司には、霧條彩夏という少女の幼馴染がいて、どこかのハーレムアニメの主人公ばりに天然ジゴロなのである。
本人はいつも否定しているが、霧條彩夏を始め、複数の女子との接点を持っているのを、勝彦と孝治は知っていた。
(これをリア充と呼ばずして、なんと呼ぶか!?)
勝彦と孝司は心の中で真司に突っ込んでいた。
だが、声に出して言えない。言えば、それを認めた事になるからである。
さらにそんな二人には、どうしても認めたくなかった理由があった。高校生活の2年間、霧條彩夏のファンクラブであるKS団を作り、同志を募ってアイドルオタクばりの活動をしていた。
なので、勝彦達にとって、真司に対する敵対心はとても大きかったのである。
「西田先輩、何度も言ってますけど、俺と彩夏はそんなんじゃないって、何度言えば分かるんですか!?」
真司はやれやれといった感じで、力強く答える。そんな二人の気持ちもお見通しで、これまで何度も真司は二人に訴え続けて来たからだ。
「うるさい!!お前の言うことなんか信じられないんだよ!!この裏切り者!!」
「うらっ、裏切り者!?何言ってるんですか先輩!?勘弁してくださいよ!」
真司はやれやれといった態度を示している。
「おのれー!」
そう言って勝彦は、真司をじろりと睨みつける。
「で、何で裏切り者扱いなんですか?まったく・・・・」
だが、真司は睨まれても、ほとんど気にせずに呆れ果てている。
「うぐぐぐ・・・」
その真司の冷静な返事に、勝彦は即座に答える事が出来ずにいた。完全に勝彦の八つ当たりなのだが、勝彦はもう一つ秘密を隠し持っていたからである。
実はほんの数日前・・・・もうすぐ卒業ということもあり、霧條彩夏に思い切って告白をしていた。
序章 出会いと別れ 3話
勝彦は、真司と彩夏は付き合っていないという事を何度も聞かされていたから、それを信じて思い切って告白したのだった。だが、見事に玉砕。そして、勝彦はその時に聞いていたのである。
『霧條彩夏の好きな人物を!』
それは、もちろん真司の事だった。
勝彦は、二人の関係が今のところ何もないという事は解っていたし、真司のいう通り、霧條彩夏には浮いた話の一つも上がってこなかった。
でも、それと同時に二人の関係が近いものである事は誰の目から見ても明らかだった。霧條彩夏と真司の仲の良さは、知人としての関係を超えていた。
ただの友人知人が、男女で一緒に登下校したり、一緒にいる所を一日に何度も見かけるはずがない。
それは、霧條彩夏が故意的に真司に近づいている証拠でもあり、仲の良さを強調していた。
それでも勝彦は、一縷の望みに託して告白したのだった。
(分かっていた・・・分かっていたはずなのに・・・)
なのに、何故か裏切られた気分だった。勝彦は、自分でもこれは単なる八つ当たりだということは十分承知していた。
(だから何も言えない・・・)
もちろん、霧條彩夏に対する気遣いもある。でも、ここで霧條彩夏の気持ちを真司に伝える訳にもいかない。
「・・・・・・・・」
何か言おうとするが言葉が出ない。いや、むしろ出せない。真司は、そんな勝彦の姿を見て、おもむろに喋りだした。
「はあー・・・まあいいですよ。それにしても西田先輩だってモテるんですから、もう俺につっかかってくるのは辞めてくださいよね!」
「はああああ?な、何を言っているんだ?チミ!?」
勝彦は、真司の思いがけない言葉に驚いた。いや、むしろ恋愛事に疎い真司からそういう言葉が出て来た事の方にも驚いていた。
『勝彦がモテる』という事と、『真司が恋愛事を言う』ことの、この二つのあり得ない言葉が出てきたことで勝彦の頭の中はパニくっていた。
「俺、知っていますよ・・・西田先輩バレンタインデーの時、告白されたんじゃないんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
勝彦は頭の中は真っ白になり、目が点になり、口をパクパクさせて、一瞬だけだが、永遠に思えるほどの沈黙が続いた。
「せ、先輩いつの間に!?」
真司の言葉に驚き、孝治は裏切られたといった感じで喋りかける。
「は、はあああああ?されてないわ!何言ってんだよ!?俺にそんなリア充な展開が起きるはずがないだろ!ふざけるな!」
勝彦は孝司への弁明は後回しにして、真司に激しく抗議する。本当は、内心はそんな展開起きてほしいとさえ思っていた。だが、残念ながらそんな事は一度たりとも起きてない。
すると、真司は不思議そうに考え込んでつぶやく。
「え?じゃあ、あの時のあれは・・・?」
真司は、何かあるみたいな事を言って考え込んでいる。
「西田先輩、ホントに何もなかったんですか?」
そう言って真司は、もう一度念を押して聞いてきた。よほど何か確信的なことを知っている素振りである。
だが、勝彦にはこれといった記憶がなかった。だからすぐに真司のいう事を否定する。
「断じてない!!バレンタインデーなんか・・・うぐ・・・チョコ1個ももらってない・・・うぐぐ・・・!」
勝彦は過去を思い出して涙ぐんだ。その表情には、誰の目から見ても分かる位に悲壮感があふれている。
実は勝彦は、本当は高校最後のバレンタインデーに密かな期待を寄せていた。高校3年間、一度も女子生徒からチョコレートをもらっていない事に焦りを感じていたからだ。
普通は、義理チョコの一つでも貰えるものである。だが、勝彦は霧條彩夏ファンクラブKS団の会長であり、その他の女子との接点がまったく皆無だった。
なので、同級生の女子達は常に勝彦の事を変な事をしている近寄りがたい奴。と、認識されていたのである。
「うぐっぐぐぐ・・・」
ここで勝彦は、思い出したくなかったが、バレンタインデーの痛すぎるチョコ争奪作戦を思い出した。
「せ、先輩・・・キ、キモイです・・・」
勝彦の悲しんでいる姿を見て、真司はかなり引いていた。
「うるせー!お前に言われたくないんだよ!で・・・何で、バレンタインデーで俺に何かあると思ったんだよ?」
勝彦は涙をぬぐって、気を取り直した。真司が何故?そのような事を言ったのか気になったからだ。
「いえ、確か・・・バレンタインデーの時、チョコを持った女の子が、先輩の事を聞きにきたから・・・」
と、思い出したかの様につぶやく。勝彦は、そんな真司を見てすぐにピーンときた。
「おい、それはお前に渡そうと思って来た子じゃないのかよ・・・・?」
と、俺は真司に突っ込んでみた。
真司は、いつも女の子にモテモテで、バリバリのリア充である。勝彦には、どうしても自分にチョコ渡そうっていう女の子がいる事を信じられなかった。
「ホントですよ!俺、その子としばらく話したけど、しきりに先輩の事聞いてきたし、先輩に付き合っている女の子はいるんですか?とか聞いてきましたし・・・・・」
と、思い出しながら真司は答える。
「マ、マジで!?それはいつ!?どこで!?そいつは誰だ!?」
勝彦は、すぐさま真司の肩をつかみ、揺さぶりながら聞いた。
(もしかして俺に隠れモテ期来てたのかああああああああああ!?)
勝彦は確信的な真司の姿を見て信じ込んだ。勝彦にとって女の子にチョコを貰うという事は初めてである。
(いや、実際にはもらっていないが・・・)
でも、貰えるチャンスがあったという事に驚いていた。
「い、いや・・・知りませんよ!そもそも、制服違いましたから、多分その子は違う学校だったと思いますよ!」
と、真司はすぐに勝彦の手を振り払う。
「違う学校・・・?」
勝彦は深く考えた。勝彦にはまったく心当たりが全くなかった。
そもそも、ほかの学校の女子とは全く接点がなかったし、出会った事もない。中学の時も、大して高校生活と変わらない生活をしていた。なので、中学校時代の女子ではないはずである。
(じゃあ、いったい誰だ・・・?)
序章 出会いと別れ 4話
「とにかく!先輩はもうすぐ大学生なんだから、バカばっかりしてないで、少しは大人になってくださいよ!」
と、真司はあきれながら言う。勝彦は、真司のバカにした様な声ですぐに冷静になった。
(そもそも、こいつの話を信用した俺がバカだった!まあいい、それよりも・・・)
勝彦の頭の中に、ある計画の事が思い浮かぶ。
「ふふふふふふふふ・・・・貰えなかったチョコの事なんて、もうどうでもいい!!どうせお前がらみの何かの間違いだろうしな!」
と、勝彦は真司に向かってビッシッと指をさす。
少し考えてみたが、勝彦にとって真司の言った事を信じる事が出来なかった。勝彦は、霧條彩夏の件の事でもう懲りていた。
それに、どう考えても、その女の子は真司狙いなのは明白であり、大方、勝彦の話題を出して真司に近づくのが目的だという事が予想された。
(真司がモテるのは、今に始まった事じゃない!)
勝彦はもう、わずかでも自分がモテていたという可能性を諦めていた。
「はいはい、信じてくれなければ、別に結構ですよ・・・」
と言って、真司は勝彦に信じてもらえなかった事なんてもうどうでもいいよといった感じに呆れている。
「それよりもだ!!今さっき、お前「大学に行っても」って言ったか?」
「はあ、いいましたけど・・・?」
真司は不思議そうに勝彦に聞き返す。
「ふふふふ・・・いいか?聞いて驚くなよ!俺はな、もうすぐ大学デビューをするのだよ!ふははははは・・・!」
勝彦はふんぞりかえって大笑いしてみせた。
勝彦にとって大学デビュー・・・それは、大学に進学する事によって生活を一変させ、モテライフを歩む勝彦の計画の事である。。
「はあ・・・大学デビューですか・・・で、何するんですか?」
真司はあきれた感じで尋ねる。
「ふ、俺はな!春から一人暮らしを始めるのだよ!ふははははは!」
勝彦はさらに大きな声で、ふんぞり返ってみせた。
「はあ・・・それが大学デビューと一体何の関係が?」
と、真司は冷静に質問を返す。
「ふん、まだわからないのか!!仕方がないな、じゃあ教えてやる。つまり、こういう事だ!一人暮らしをするという事は、サークルに入って、可愛い女の子と出会い、そして、部屋に連れ込み放題という事だ!どうだ、すごいだろ!ふははははは・・・!」
勝彦は、一つ一つの言葉にいちいち『ジョジョ立ちポーズ』を決め、最後に真司に指をさしてドヤ顔で言い放った。傍から見ていたらホントうざい男である。
だが、そんな男に賛辞を贈る男がいる。
「おお!先輩すげー。大人だ!そこに痺れる憧れるー。その時はぜひ俺も呼んで下さいね!」孝治は勝彦を尊敬していたから、すごくノリノリだった。
「ふははははは!よかろう、よかろう!任せておけ!どうだ?真司よ、恐れ入ったか!ふははははは!」
勝彦は、さらにふんぞりかえって笑ってみせる。
しかし、真司はまた呆れた顔をして見ていた。
それは、勝彦が無理に強がってふんぞりかえっている事がバレバレだったからである。
「一人暮らしをするからと言って、女の子が近寄ってくるわけではないと思うけどな、俺・・・」
と、真司は冷静に問題点を指摘する。もちろんそんな事は勝彦自身も何となく気づいていた。
でも、ここはどうしても夢を持たなければ、やっていられない気持ちだったのだ。
(おのれー!生意気な奴め!)
「ふん、可愛い女の子が来ても、お前は部屋に呼んでやらないからな!」
と、腕を組んで背を向けた。
「別にいいですよ・・・・どうせ俺も、もうすぐ一人暮らし始めますし・・・」
と、ぼそっと勝彦に聞こえるようにつぶやく。
「何!どういう事だ!?」
それを聞いて、すぐに真司の方に振り返り問い詰めた。
「先輩・・・こいつん家。来月から親が海外出張するらしいですよ!」
と、すぐさま孝治が真司についての詳しい情報を教えてくれる。
「でもまあ、俺は日本に残るから結局一人暮らしになりますけどね・・・」
と、真司は付け加えた。 真司の態度に、勝彦の怒りがもう一度こみ上げてくる。さっきから真司は、普通に喋っているだけなのに、勝彦には自慢している様にしか聞こえなかった。
「ぐぬぬぬぬぬ。高校生のくせに、生意気にも一人暮らしを始めるのか?・・・生意気な奴め!」
勝彦は悔しさで真司を睨みつけた。
そもそも勝彦の一人暮らし計画は、バイトで貯めた金で、親に土下座をし「自分を成長させたい為」と言って、やっとOKしてもらえたのである。そういった勝彦の苦労を、ものともせずに気軽に達成する真司に心底怒りを覚えていたのだった。
(おのれ・・・このアニメの主人公補正が!)
「そういう先輩だって入学する大学ですけど・・・確かA大ですよね!?A大なら実家から通えるんじゃないんですか?」
と、鋭い突っ込みを入れられる。
「うっ・・・!?」
実は、真司に言われるまでもなく、親に土下座した時、指摘された事だった。
「クー、お前はわかっていないな。一人暮らしをするからこそ、女を部屋に連れ込めるのではないか?」
「何で、そんな単純な考えになるんですか!?俺にはそれが分からないんですけど・・・?」
と、すぐさま真司は首をかしげて勝彦の言葉を全否定した。
「うるさい、うるさい。今に見てろよ!俺は必ずバラ色の大学生生活を歩んで、ウハウハになってやるんだからな!」
と、勝彦は真司に怒鳴りつけたが、真司はまったく気にしておらず、ため息をついて目を逸らしていた。
「もういいですよ!好きにしてください・・・」
と、真司はあきれ果てている。
(くそー、今におぼえていろよ!)
序章 出会いと別れ 5話
「真君―!」
向うの方で真司を呼んでいる女の子がいる。それを見て勝彦は、「霧條様!!」と、すぐに反応してしまった。
向こうの方で呼んでいる少女は、間違いなく全校生徒のアイドルである霧條彩夏だった。
彼女は、現在の生徒会長で、今日の卒業式も彼女の努力のたまもので行われていた。そんな彼女を、勝彦は尊敬と親しみを込めて「霧條様」と呼んでいた。
だから、勝彦にとって、この日に彼女に出会えた事はとても喜ばしい事なのである。
(でも、彼女が呼んでいるのは俺ではない・・・)
「うん?なんか、彩夏が呼んでいるみたいだから、俺はこれで失礼します。じゃあ先輩!大学行っても頑張ってくださいね!」
そんな霧條彩夏の事を、真司は呼び捨てにする。もちろん幼馴染だから、当然と言えば当然の事なのだが、勝彦はそれが許せなかった。
(くぞー!さ、彩夏だと!俺なんか恐れ多くて霧條様と呼んでいるのに・・・)
真司は、やっとこの場を離れれるチャンスが来たと思ったのか、そそくさとこの場から離れていった。
(やっぱかわいいなー霧條様・・・)
霧條彩夏の姿を見て、しばらく見惚れていたが、真司と霧條様が話す姿を見ると、すぐに我に返って怒りがこみ上げた。
「けっ!!何が『真君!!』だよ!!見せつけやがって!今に見てろよ!」近くにあった石ころをけっ飛ばした。
「孝治!何が何でもあいつらを絶対くっつけるなよ!」
孝治の両腕をつかみ、頼み込む。今日で、勝彦はもう卒業してしまう・・・明日からは在校生ではない。
「了解です先輩。我らKS団に誓って必ずやり遂げてみせます!」
孝司は、勝彦に向かって敬礼をした。
そして、勝彦はその言葉を聞いて空を見上げた。
(そうだよ!どうせ俺は、KS団とも、高校生活とも卒業したんだ・・・明日から俺には新しい生活が待っている。俺は生まれ変わって、必ず彼女を作って、バラ色のキャンパスライフを送るんだ)
周りで、同級生がちやほやされている中、勝彦は一人、新たな志を抱いていた。
この頃の俺は・・・まだ、これから起きる幾多の苦難をまだ知らなかった・・・・。
第1章 地球の危機!? 6話
卒業式から数週間後・・・・。
勝彦は大学からすぐ近くの、学生が多く住むワンルームマンションに引っ越していた。
卒業式から数日の間、卒業旅行や引っ越し先の契約などで忙しくて大変だったが、それが過ぎると早く大学が始まらないかと待ち遠しかった。
そもそも、勝彦は自分がモテないのは、高校時代の地味な生活が原因だと思っていたので、大学が始まれば払しょくされると考えていたのだ。
もし、自分の事を知っている人間が誰もいない真っ白な状態からなら、きっと自分にも彼女が出来て、きっとバラ色の大学生活が送れるはずだと未来に希望を輝かせていたのだった。
それから、ワンルームマンションに引っ越して翌日。
勝彦は気分よく引っ越しの荷物も綺麗にまとめ、部屋の掃除も終わらせ、あとは入学を待つのみになっていた。
「よーし!まずは近所を探検でもするかな?」
これから4年間の大学生活を過ごす場所である。勝彦は、食べ物屋さんについて調べておきたいと思っていた。一応料理をしようと考えているが、今はまだ何も作れない。食料だけは先に確保しておかないと生きてはいけない。
まず、生きていくにはコンビニ、定食屋、スーパーなどの店舗を見つけるのが絶対条件である。
勝彦は、タブレット端末で近隣の地図を検索し、それを持って出かける事にした。周辺を探索して、商品の品ぞろえのチェックをしようと考えていたのである。
そして、出かける準備の出来た勝彦は、靴を履き、ドアを開け、鍵を閉めて「さあ出かけるぞ!」と、横を向くと驚いてしまった。
隣の住人だろうか?鍵を開けて中に入ろうとしている人がいるのである。
「あ・・・、こ、こんにちは・・・」
勝彦はとっさの事で、声がうわずってしまった。出てきた声はいつもの自分の声ではない。とっさの事で、かなり動揺してしまっていた。
ここは学生が多く住むワンルームマンションである。当然、隣に住む住人も学生のはずだ。
いずれ、住んでいる住人とも出会う事は分かっていが、思いがけずここで出会ってしまった。近いうちに菓子折りでも持って、ちゃんとした挨拶を考えていたのにいきなりの事で驚いてしまった。
(ど、どうしよう・・・)
「こ、こんにちは・・・・」
勝彦の挨拶に反応するように、隣の住人も可愛らしい声で挨拶をしてくれる。その声を聴いて女の人?と、勝彦は思って彼女をよく見てみると、さらに衝撃が走った。
そこに立っていたのは、今まで見た事もない位美しい美少女が立っていたのである。黒髪がすらっと長く、目はパッチリしていて、肌が透き通るように綺麗だった。その場ですぐに勝彦は一目惚れしてしまっていた。
(よ、世の中にはこんなに綺麗な人がいたのか?まあ霧條さんも綺麗だったけど・・・)
そんな事を考えて、しばらく見惚れて呆然としていると、痺れを切らした彼女が話し掛けてくる。
「あの・・・ど、どうかしましたか?」
と、勝彦の顔を覗き込む。
「あ、いえ・・・別に何も・・・」
勝彦は、その美少女に声をかけられてようやく我を取り戻した。
「あ、あの・・・隣に住んでいる西田勝彦と言います。こ、これからよろしくお願いします!」
と、勢いよく声をあげて深くお辞儀をする。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね。あの・・・私は結城菜緒と言います。昨日、引っ越して来たばかりで、A大の一回生です。これから、よろしくお願いしますね!」
と、彼女も丁寧に深々とお辞儀をする。
「お、俺も!今年からそこに通うんです。こ、こちらこそよろしくお願いします!」
二人は互いに目が合って笑顔になった。
(か、可愛い・・・こんな子が世の中に存在していたなんて!ああ、生きていてよかった!!)
勝彦は、結城菜緒の笑顔を見て天にも昇る気持ちになっていた。しかも、同じ大学である。これから何かありそうな予感に期待をときめかせていた。
(ついに俺にも運が向いてキターーーーーーーーー!のか?)
心の中で叫び、気持ちを切り替えて結城菜緒の方を見る。
「そうなんですか?よかったー。私、田舎から出てきたから友達いなくて・・・。でも、西田さんみたいな人が隣に引っ越して来てくれて安心しました」
と、彼女は笑顔でそう答える。
(だ、駄目だ!可愛すぎるー)
「お、俺も、初めての一人暮らしで不安に感じていたんです。お互い頑張りましょうね!」
「はい、そうですね!西田さんもこれから色々大変だけど頑張ってください!」
そう言って彼女は深々とお辞儀をして、自分の部屋の中に入っていった。
そして、彼女が部屋に入るのを見てから勝彦はその場を離れた。
(はあー・・・いきなりこんなに可愛い子と知り合いになれるなんて、引っ越してよかったー!)
勝彦はルンルン気分で、自然と足取りが軽くなる。そして、そのままエレベーターホールに向かった。
エレベーターホールに来ても、勝彦は気持ちが高揚していて、そのままルンルン気分でエレベーターに乗り込んだ。
「さあ、いよいよ来たぞー。俺のモテライフが!!」
エレベーターの中で気分を高ぶらせ、これからの未来に勝彦は希望を膨らませていた。
だが、しばらくエレベーターに乗っていると、少しグラッと揺れた感じがした。
地震かと思って心配になり、目線をエレベーターのメーターに移すが、階数はどんどん下がっていく。特に問題があるようには見えない。
一瞬の出来事なので地震ではないはずだが・・・・?
「ん?めまいでもしたかな?」
そのまま気にせずに待っていると、一階に到着してようやく扉が開く。
「さあ、行くぞ!俺の新世界へ!」
と、勝彦の気分はエレベーターに乗る前と同じで、やる気満々で満ち溢れていた。
そして、勢いよくエレベーターから降りると、思いがけない光景が広がっていてびっくりした。
エレベーターから出ると、何もない無機質な20畳くらいの広々とした部屋に立っていたからである。
「あれ!?」
(ん?ここは何処だ!?マンションの1階にこんな所あったかな?もしかして・・・俺は押す階数を間違えたのか・・・?)
第1章 地球の危機!? 7話
勝彦が深く考え込んでいると、目の前に一人の少年が現れる。
「お、おまえは・・・?」
その少年は、髪は短く目はパッチリしていて背は低い。何処にでもいる普通の高学年の小学生と言った感じである。
さらに特徴的なのが、少年だとはっきり分かるのに、可愛らしい顔立ちをしていた。
一瞬、女の子と見間違えてもおかしくないくらい可愛らしい顔なのだが、体の体格と風貌でようやく少年だとはっきりわかる感じである。
「勝彦君・・・!?勝彦君―!!」
その少年は、勢いよく勝彦に飛びついてきた。
「ちょ、ちょっと待て!お前は誰だ!?」
勝彦はその少年をすぐに引きはがして、すぐに問い詰める。今、置かれている自分の立場が全く分からなかったからである。
「え?あ、ああそうか。僕はクー太だよ!」
と、少年はすぐに自己紹介をしてきたが、勝彦には全く心当たりがなかった。
そもそも、小学生と接点は無いし、親戚にも小学生はいない。勝彦はすぐに否定しようと少年を見つめたが、『早く自分の事を思い出して!』というような期待に満ちた目を見て考え直す。
(はて?クータ・・・?そんな知り合い、俺にいたっけそんな奴?)
まったく心当たりのない勝彦は、やっぱり直接問いただす事にした。あれこれ考えてもラチがあかない。直接聞いた方が早い。そう思ったのだった。
「誰だ!お前?俺にはクータなんて名前の知り合いなんていないぞ!」
「いやだな、忘れちゃったの?12年前に一緒に住んでいた、クー太ですよ!」
と、自信満々で言う少年に勝彦は。
(俺の記憶が間違っているのか?)
と、思って一生懸命考えてみる。
すると、一つの記憶が思い出される。
「うーん・・・12年前・・・12年前と言えば、確か、俺が6歳の時か、うーん・・・クー太と言えば・・・昔飼っていた犬の名前だけど・・・?」
と、半信半疑でつぶやく。
勝彦が一生懸命考えて頭の中に思い出されたのは、昔飼っていたラブラドールレトリバーの犬の名前である。
クー太は、勝彦が6歳の時まで兄弟のように一緒に育った家族の一員で、勝彦が生まれた年に引き取られた。
特に子供の頃は、勝彦と仲良く兄弟の様に一緒に育った仲である。
だがある日、謎の光が勝彦の家に落ちた時、クー太は死んでしまった。
その謎の光を見たのは勝彦だけだったので、突然倒れたクー太に家族は皆驚いた。
その時の勝彦は、子供ながら「変な光にクー太が殺された!」と言って泣きわめいていたが、誰も信じてくれなかった。
結局家族は、「大型犬の寿命は短いから老衰だろう」と、言って最後まで死亡原因は不明だったのである。
当時の勝彦は、その言葉を信じておらず、あの光のせいでクー太が死んでしまったのだと言い続けていた。
あれから12年・・・勝彦も、もう忘れ始めていた頃だった。
「そうそう!それ!」
自称クー太は、両手を合わせてまるで女の子の様に全身で喜びを表現する。
そんな少年を見て、勝彦は男の子なのか女の子なの分からなくなってきていた。
「へ?お前がか?」
勝彦は、自称クー太に指差して驚く。
「うんうん」
「あのクー太・・・?」
「うんうん!」
自称クー太は目一杯の笑顔を勝彦に向けてくる。
だが、勝彦はその少年に対して疑いの目で見つめる。
何年も前に亡くなったクー太が、人間の姿で目の前に現れているという事は、幻覚を見ているのだと勝彦は思ったからだ。
ちょっと前にグラッと揺れた感じがしたのは、きっとめまいがしたからであり、自分でも気づかない体調の変化が幻覚を見せているのだ・・・と勝彦はそう思い込んだのである。
「あー、駄目だ!どうやら俺は体調が悪いらしい・・・。早く帰って寝ないといけないな・・・」
片手を頭にのせ、天を仰ぎ、エレベーターにもう一度乗り込もうとする。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
自称クー太は、あわてて勝彦の腕を引っ張り、引き留めてくる。幻覚だと思っていたクー太が、実体を伴って引き留めてくる事に驚いたが、それでも勝彦はすぐに反応した。
「放せ、俺は夢を見ているんだ!そう、これはきっと幻覚を見ているんだ、早く家に帰って寝ないといけないんだよ!」
と言って、勝彦はあくまで少年を振りほどこうとする。
だが、少年はしがみついて離れない。
勝彦は心の中で(幻覚なのに何故実体があるんだ?)と、思っておかしいと思いつつも、しがみついてくる少年はやけにリアルな人間の感触がする。
「違いますよ、幻覚じゃありませんよ!勝彦君!!は、そうだ!アルテミス!転送装置を早く消してよ!」
と、その少年は、焦る様に誰かに叫ぶ。
すると「了解しました!」と、どこからともなく校内放送のような声が聞こえる。
そして、乗り込もうとしたエレベーターが目の前で消える。
「え!?き、消えた・・・?」
(これは夢だ!きっと夢だ。早く夢からさめないと・・・)
消えてしまったエレベーターを見て、自分自身が幻覚か夢を見ている事を確信してほっぺをツネってみたが、ものすごく痛いだけだ。思いっきり力強くほっぺをつねったので、ほっぺがジンジンして痛みがこみ上げてくる。
(夢じゃないのか?)
「ご、ごめんなさい勝彦君、急にこんな所に呼び出してしまって・・・でも、ちゃんとした理由があるんです。話を聞いて下さい!」
少年は目をウルウルさせながら懇願してくる。その少年の、少女の様な瞳を見ていると、勝彦はなんだか分らない感情がこみ上げてきたのだった。
(何故こんな子供にときめいているんだ?)
と、勝彦は自分に言い聞かせ、首を横に振り気持ちを切り替える。
(あぶなかった!)
少年の目には、願いを聞いてあげたいと思わせる何か不思議な力があった。
だが、気持ちを切り替えても状況は何も変わらない。
どれだけ気持ちを落ち着かせても、目の前に立っている自称クー太は消えてくれない。
勝彦は少し悩んだが、結局目が覚めない以上その少年の話を聞いてみる事にした
第1章 地球の危機!? 8話
「うぐ・・・まあいい、どうせ夢だしな!こうなったら何でも聞いてやろうじゃないか!?」
と、覚悟して気構えた。
「本当に夢じゃないんだけどな・・・」
と、自称クー太も不満そうにぼそりとつぶやく。
「でもまあいいか、それじゃあ勝彦君!いきなりでびっくりさせたけど、たしかに私・・・いや僕は、12年前、西田家で飼われていた犬のクー太なんですよ!」
「それにしても・・・・よくできた夢だよ。あのクーちゃんが夢に出てくるとはね、しかも人間の姿になって・・・」
あくまで信じられない勝彦は、スタスタと少年に近づき、自称クー太をまじまじと見つめた。
「・・・いや、夢じゃいないですから!それに人間の姿なのは、ちゃんとした理由があるんですよ。うーん、そうだな・・・どうしたら信じてもらえるのかな?」
自称クー太は、腕を組み真剣に考え込んでいる。
「そうだ!犬だった頃、よく散歩に行った川の堤防を覚えていますか?」
そして、自称クー太は思い出したかのように堤防の話を始めた。
「ああ、覚えているとも。確かボールを探すのが大好きで、いつも何処からともなく見つけてきたよな!」
「そうそう、僕も楽しくてついつい、怒られながらもボールを見つけて来たものさ!」
「だよなー、今でも実家の倉庫には、クーちゃんが見つけてきたボールが山積みになっているしな!」
「本当?いやあ、懐かしいなあ、まだ残っているなんて、とってもうれしいよ!」
「で、そのクー太が何で化けて出てきたんだ?」
勝彦はテンポよく自称クー太に質問する。鋭く質問すれば、すぐにボロが出るはずだと思った。急に質問を振れば、もしかしたら何かしらの本音と確証が出るかな?と思ったからである。
「・・・いや、だから、お化けでも夢でもないんだってば!今、一緒に思い出話したじゃないですか!?」
と、自称クー太はすぐに突っ込む。
「そりゃ俺の夢だからな、そういう記憶もあるだろ!」
と、ぷいっと顔を背けて、勝彦はあくまで信じないそぶりを見せた。
「そんなあー、どうしたら信じてもらえるんですかああ・・・?」
自称クー太は、信じてもらえなくて悲しそうな顔をしている。それを見て、勝彦はすぐに顔をそらした。
(ダメだ!こいつの目を見てはいけない・・・)
勝彦は自称クー太の悲しそうな顔を見て、少したじろいでしまう。
勝彦はあくまで信じるつもりはなかったのだが、自称クー太という少年の悲しそうな顔を見ていると、どうも何だかチャンスを与えてやりたくなってしまうのだった。
「そ、そうだな・・・、じゃあ俺の質問にちょっと答えてもらおうか?」
と、つい勝彦は自称クー太に心動かされてしまった。
気づかないうちに、勝彦は自称クー太の術中にかかってしまっていた様である。
だが、それと同時に、みすみす純粋な自称クー太の術中にかかってしまった勝彦では無かった。
逆に質問を多く出せば、逆にボロが出るんじゃないかとも思っていたからである。
もし、本物のクー太ならば自分の知らない記憶を知っているはずである。
それを聞けば、逆に自称クー太が言っている事が本当か嘘か分かるチャンスだとも思っていたのだった。
「わかりました。いいですよ!」
自称クー太は自信満々で答えた。
そんな自称クー太をよそに、勝彦は自称クー太からボロを出させるため、テンポよく多くの質問を浴びせる事を考えていた。
そして、勝彦は一息深呼吸をして身構えた。
「じゃあ、言うぞ!」
「はい、いつでも!」
「クー太が好きなドックフードは?」
「A社の骨太君!!」
「好きな散歩コースは?」
「山池公園!!」
それから、勝彦は何十個かの質問を繰り返した。
その中で、勝彦が(どっちだろう?)と、悩むような質問も少年はすらすらと答えていく。
その的確な受け答えを見て勝彦は(もしかしたら、こいつは本物なのか?)と、少しだけそう思えるようになっていた。
「どうですか?満足していただけましたか?」
クー太は、ここまで勝彦の質問を数多く答えている。そして、そのすべての答えは的確だった。
「むむむ・・・なかなかやるな!この俺の妄想め!」
「だから、妄想じゃないってば!!」
クー太は激しく否定をする。
ここで勝彦は、とっておきの最後の手段を取ることにした。
昔の質問をするにつれ、クー太との昔の思い出がよみがえり、昔のクー太の癖を思い出していたからだ。
「よーし、これならどうだ!ハイ!お手!」
と、手を差し出した。
すると、「わん!」すぐに自称クー太は手を差し出した。
その動きはなめらかで、とても人間の動きとは思えない。
「はいお座り!」「わん!」「伏せ!」「わん!」クー太はすぐに座って、すばやく伏せる。
「おおおおおお!」
勝彦は手を叩いて感心した。
滑らかに動くこの少年は、確かに今、クー太のような動きをしていた。
「もうー!何をさせるんですか!?」
と、自称クー太は抗議した。
(でも、そういう割には、かなりいい線いってたぞ・・・!?)
この少年は、確かにクー太と言ってもいいようなクセっけのある動きをしていた。感心しながらも、勝彦はもうクー太という事を信じ始めていたのだった。
第1章 地球の危機!? 9話
「わかった!わかった!悪かったよ!・・・・じゃあ最後の質問だ!いいか?」
もうすでにこの時点でクー太である事を確信していたが、どうしても聞いてみたかった事があった。それは、死んでしまった今だから聞けることであり、最後の心残りである。
別にあの日に死ななくても、犬だから聞けるはずも無いのだが、確認しておきたかったのだ。
「わかったよ・・・・」
勝彦の真剣な顔つきを見て、クー太はすぐに真剣な顔つきになった。
「西田家で一番好きだった人は?そして、その理由を述べよ!」
クー太との別れは突然であり、心の準備が出来ていなかった。クー太が死んでから、勝彦はずっとその事が気がかりだった。仲は良かったが、実際はどうだったのか?である。
自分の中で美しい思い出として残っているが、結局独りよがりだったのじゃないのだろうか?と、思っていたのだ。
「それは・・・もちろん勝彦君だよ。だって、僕を一番多く散歩に連れて行ってくれたしね。それに、僕達はまるで本当の兄弟のように一緒に育ってきたからね。僕が犬であった時代でも、一番幸せな時間だったよ・・・」と、クー太は恥ずかしそうに答えた。
(こいつは何を言っているんだ?犬だった時代だって・・・?)
また理解しがたい答えが出てくる。でも、答えた質問はどれも的を得ていた。
何よりも一番好きだった人が自分だと聞いて、勝彦は嬉しくて涙が出そうだった。たとえ嘘だったとしても、その当時にどうしても聞きたかった言葉なのである。嬉しくない訳がない。
話を聞くにつれ、頭の中にクー太との昔の思い出が少しずつ思い出されていた。散歩に行ったことや、一緒に眠ったこと、それに旅行に行ったことなど、そのすべての思い出が何もかも懐かしかった。
勝彦は、この少年を信じたい。いや、信じてあげたいと思っていた。
「じゃあ聞くけどさ、仮にお前がクー太としてだ!何故?お前は人間なんだ?それに、ここは何処だ?俺は外に出かけようとしていたはずだけど!?」
勝彦は、もうすでにこの子供をクー太として信じてはいたが、それと同時に、今置かれている自分の状況も確かめたかった。
さっきクー太は「犬だった時代」と、言っていた。そこに、今の状況の真実が隠されていると思ったからである。
勝彦は、確かに外に出かけようとエレベーターに乗ったのに、何故こんな所にいるのか不思議に思っていたのだ。その理由も知らなければ完全には信じられない。
そんな勝彦の質問に、クー太は真剣な顔つきなりゆっくり話し出す。
「僕は・・・、僕は本当にクー太の生まれ変わりなんです。信じてください。そして、信じてもらえるかどうか分かりませんけど、僕は、たまたま地球に来ていたUFOに魂が連れて行かれて、ここから直線距離で約6万光年先のベルウイング星というところで生まれ変わったんです」
「・・・・・・・・」
勝彦は目が点になって、何も言えなかった。頭が真っ白になってすべての思考が止まってしまった。自分が考えていた予想を上回る返事が返ってきたからである。
(ん?これは新手の宗教勧誘か?クー太の生まれ変わりだって!?)
今までの話で、勝彦はクー太の事を完全に信じ始めていたが、ここでまた疑いが深くなった。そう簡単に、宇宙人やUFOなんて話を信じられる訳がなかった。
「じゃあ、お前は宇宙人って事か!?」と、尋ねる。
「そ、そういう事になるのかな・・・」
「はあー。だめだ、頭が痛くなりそうだ・・・。で、それでお前は、何でこの地球に来たんだよ?」
と、呆れて果てて、手を頭に乗せて天を仰いだ。
(何だこの状況は?やっぱり俺は夢か幻覚でも見ているのか?)
「その事なんですけど、勝彦君・・・落ち着いて聞いて欲しいんだ!実は・・・地球は、後一年で滅んでしまうんですよ!だから、僕は、君を・・・勝彦君を助ける為に迎えに来たんだ!」
(ああ・・・駄目だ!もう完全に何を言っているのか分からない。悪い宗教につかまっているみたいだ。やっぱり早く夢から目覚めないと・・・)
立て続けに起きる意味不明な状況。クー太の斜め上を行く発言。すべての出来事と話の内容が現実からかけ離れていた。
勝彦は、せっかくクー太への疑いが解け始めていたが、もう完全に疑い始めていたのだった。
「じゃあ、何で俺だけを迎えに来たんだよ!」
と、疑いつつも質問を続ける。
「新銀河連合同盟の憲章で、地球人を救ってあげれる人数は、決まっているんです。だから・・・僕は勝彦君を救いたくてここまで来たのです!」
と、クー太は真剣なまなざしで訴えた。
(また、訳の分からない事を言いやがって・・・)
「それで、その銀河なんちゃらって、一体何だよ!それは!?」
「新銀河連合同盟評議会。銀河系の中にある高文明惑星の連合同盟です。ちなみに、地球は文明レベル3なので、準文明惑星になります。だから、今の地球は加入出来てないのですね。もし、地球がこの連合同盟に参加する為には、あと数百年必要ですね」
「銀河連合?文明レベル?」
「文明レベルは人類が住んでいる惑星のランクの事ですよ!」
(なんだよそれ、中二病全開のようなSF設定は!!ゲームのやりすぎか?まったく、俺にそんな妄想力があったけか?)
もう話の内容は完全に勝彦の想像を超えるところまで来ていた。夢や幻なら自分自身で見ている事になる。そうすれば、おのずと自分の知識が妄想していると判断できる。
だが!今、目の前でクー太が言っている事は勝彦の知識と妄想力を完全に超えていた。
実際クー太が発言すればするほど怪しくなっていく。
勝彦は、自分自身の夢や妄想の可能性を疑い、別の理由を考え始めていた。
「それじゃあ聞くけど、宇宙には地球以外にも人類がいるっていう事になるのか?」
「そうです。実は、地球人類を含めて、銀河系にいる人間は、今から1億2千年前に銀河系の中心で出現した知的生命体の子孫なんですよ。だから地球に人間が住むようになったのは、今から6500万年前に、私達の祖先が地球に隕石を落として、人類の敵となる生物を絶滅させた後に、人類を移住させたのが今の地球人なんです。銀河系の星々には、そういった数多くの人類が移り住んでいるんですよ」
と、自称クー太は笑顔で答える。
(うーん、やっぱり話が飛びすぎている・・・)
やはり勝彦の妄想や、夢っていうレベルを完全に超えている。
勝彦は自分自身の夢や幻覚では無いという事は完全に理解していたが、何故こういう状況が起きているんだろうか?と思っていた。
夢や幻覚ではないなら、他にどんな可能性があるのだろうか?勝彦は、頭の中で知識をフル回転して考えを巡らせた。
(まず、クー太だっていう事に関しては信用出来るとは思う。でも、宇宙人になって生まれ変わったという事と、あと一年で地球が滅びる事に関しては現実として信じられない・・・)
勝彦は、何か確証できる証拠を見せてもらおうと思った。妄想ではないなら、何か物的証拠があれば、判断のきっかけになるかもしれないと思ったからだ。
第1章 地球の危機!? 10話
「それじゃあ、証拠を見せてくれよ、証拠を!!お前が宇宙人っていうなら、UFOを見せてくれよ!出来るだろ!」
「見せるも何も、今いるここが、そのUFO中です。つまり宇宙船の中ですよ!」
クー太は手を広げ、辺りを見渡した。そこには何もない真っ暗な空間が広がっている。
「え!?ここが・・・?いや、でも俺はエレベーターに乗って一階に降りたはずだけど・・・・」
「はい、ですから、そのエレベーターから勝彦君を宇宙船に転送したのですよ」
「はあ?転送・・・?じゃあここが!?ここが宇宙船の中なのか!?」
あたりを見渡してみるが、やはり何もない。よく目を凝らしてみるが何も見えない。どう見てもただの無機質な真っ暗な部屋である。
確かにここは、不思議な空間だけど夢と考えれば説明はつく。勝彦は、本当に夢じゃないと判断のつく物的証拠が欲しかったのにこれでは証明にならなかった。
(質問の仕方を間違えてしまったのか?)
すると、自称クー太は上を向き、誰かに話しかける。
「アルテミス、船体を可視モードにして!」
「かしこまいりました・・・」
と、またもや館内放送のような声がどこからか聞こえる。
勝彦はどこかに別の人間がいるのか?と、あたりを見渡してみたが誰もいない。一体誰と話しているんだ?と、不思議に思っていると、周りの景色は一瞬で変わってしまった。
何もなかった無機質の部屋が、一瞬で宇宙空間に浮かぶ一つの小部屋になったのである。
「・・・・・・・・・」
勝彦は言葉を失った。部屋の中は真っ暗になり、星々がきらめいているのが見える。そして、下を見ると写真や映像で見る様な綺麗な地球が青々と光っていた。まさしくTVでみる宇宙ステーションから見る地球と同じ光景が眼下に広がっていたのである。
「これが勝彦君の星、地球です。そして、僕の元生まれ故郷でもある地球ですね!」
そう言うクー太は笑顔で地球を指さした。
勝彦は、あまりの光景に口をパクパクさせていた。もはや、クー太の言葉は頭の中に入ってきていなかった。ただ、ひたすら青く輝く地球を眺めていたのだった。
「これが地球・・・?」
信じられないくらい幻想的な光景が目の前に広がっていた。眼下に広がっている地球は神々しく輝いている。TVの映像で見る姿よりも何倍も美しかった。
今、自分が夢や幻覚を見ているという疑惑なんか、忘れてしまうくらい美しさに圧倒されてしまっていたのである。
「す、すごい・・・」
「綺麗でしょ?地球の美しさは、銀河系でも上位に入るんですよ。新銀河連合星系内の高度な文明惑星の間では、お忍びで訪れる観光客が絶えないんですよ。ちなみに、地球に現れるUFOのほとんどが、新銀河連合星系の観光客なのですよ」
と、クー太が横から説明してくれる。しかし、そのクー太の言葉も、勝彦の耳には届いていない。
そして、美しい地球を眺めて勝彦はふと思った。
(これは・・・やっぱり現実なのだろうか?いや、この美しい地球を眺めていたら、クー太が言っている事がすべて真実だと思えてくる。何故なら、俺はこんな美しい地球を知らない。というか、TVで見た事ある映像よりも100倍美しい。こんな光景は見た事がない、見た事ないものを妄想できるはずがない。という事は・・・やっぱり俺の夢じゃなかったのか・・・?)
と、そう思うようになっていたのである。
地球を眺めた後、気持ちを切り替えてクー太の方に向く。勝彦は今までの疑いに満ちた表情を改めて、真剣なまなざしでクー太を見つめた。
「やっぱり・・・お前・・・クー太で、宇宙人なのか・・・?」
勝彦は、クー太を眺めてそう言った。その表情にはもうクー太を疑うような様子は見られなかった。勝彦は内心まだ信じられない部分があったが、これだけの現実を見せられて信じざるを得なかったのだ。
「うん、やっと信じてくれたんだね!」
と、クー太は笑顔で微笑む。
(信じるも何も、こんな光景を見せられて、信じない訳にはいかないじゃないか・・・)
それと同時に、勝彦は今置かれている自分の状況をようやく理解することが出来た。今まで、すべての事を疑ってかかっていたので、受けた説明もすべて完全否定していた。
でも、クー太が言った事がすべて真実だとしたら、勝彦も地球も全世界の人々の置かれている状況は、非常に危機的な状況だということである。
勝彦は、もう一度地球を眺めて状況を整理してみた。
(地球で死んだクー太は、宇宙人に生まれ変わった。そして、後一年で地球が滅亡する事が分かったから、俺を救う為に地球にやって来た。という事は、俺はこの地球から離れるという事になる・・・・)
一応そこまでは理解した。
だが、地球を眺めていて、勝彦に一つの気持ちが生まれていた。今さっき聞いた、地球が滅びるという言葉を聞いて、この美しい地球が愛おしく思えていたのである。
勝彦は、クー太の気持ちを嬉しく思いつつも、とても地球を捨てて逃げようという気持ちにはなれなかった。親兄弟や友人を見捨てて、自分ひとり助かってもまったく嬉しくない。
勝彦は、一息いれて、気持ちを切り替えて、見つめていた地球からクー太の方に視線を移す。
「クー太・・・迎えに来てくれてありがとな、でも・・・悪いけど俺、地球に帰してくれよ!」
と、まっすぐ面と向かって言ってやった。こういう事は正直な気持ちを打ち明ける方がいいと思ったからである。
クー太は善意で勝彦を救いに来た。それは分かる。だったらその善意には、真っ直ぐな正直な気持ちで言わないと伝わらないと思ったからである。
「え・・・・!?」
クー太はキョトンとしていた。
「地球は滅ぶんだろ?だったら俺は、最後は地球で死にたいんだよ!」
それが、勝彦の正直な気持ちだった。こんな美しい地球を見て、見捨てて逃げられるはずがなかった。
(俺は、この地球で生まれ育ったんだ。俺が死ぬのは此処だ!馬鹿な事ばっかりやっている俺でもれくらいの愛着心はある)
そんな勝彦の決断に、クー太は動揺を隠せない。
「駄目だよ!私・・・、いや、僕は勝彦君を救うために、ここまで来たんだ!そんな事言わないで一緒に行こうよ!」
そういってクー太は尚も食い下がってくる。その姿を見て、クー太の必死さが分かった。そして、本気で勝彦の事を心配してくれているのが見て取れて分ったのだった。
だが、それでも勝彦の決心は変わらない。
第1章 地球の危機!? 11話
「クー太・・・お前・・・あのさ・・・」
ここで勝彦は、クー太に断る理由を考えた。クー太は、勝彦を地球滅亡から救い出そうとわざわざやって来てくれた。今の反応からみて、そう簡単には引き下がらないだろう。
(さて、困ったぞ!)
勝彦は、地球が滅ぶなら自分だけ助かりたいとは思っていなかった。
(どうせ死ぬなら地球で死にたい・・・)
勝彦はそう思っていたのだ。
そして「はあー」と、大きなため息ついて、頭をポリポリと掻く。そして、軽い感じでクー太に告げた。
「悪いなクー太!俺は地球でウハウハな大学生活が待っているんだわ!」
勝彦はわざと軽い感じでそう答えた。始めは真面目に言ったが、クー太は尚も食い下がって来たから、今度はふざけた感じを出して軽い感じで言う事にしたのだった。
ふざけた感じで言えば、クー太は自分の事を見損なってあきらめてくれるかもしれないと思ったからである。
そして、そんな勝彦の突然の豹変にクー太はポツンとし驚いている。
「へえ!?な、何を言っているの勝彦君・・・?」
そして、勝彦はクー太の正面に立ってクー太にゆびを指して言った。
「ふ、お前には悪いが、俺にはモテモテな大学生活が待っているんだわ!悪いけど地球の女の子が俺を待っているんだよ!ふあっはははは・・・!!」
と、悪態をつく。
勝彦は、ようやく自分の言いたい事をはっきり言えて気分的にすっきりした。
今まで、ずっと驚かさられて、自分らしさを出せずにいた事もあったから、なおさらである。
「か、か・・・勝彦君の馬鹿!!」
そう言ってクー太はそう叫んで別室に走って行った。
(さすがに嫌われたかな?でもまあいい、その方が俺をすんなり諦めてくれるだろう。あくまで俺の事を諦めてもらう為だ・・・)
走り去って行くクー太を眺めて、勝彦は少し胸がズキンとして痛んだが、(本来、俺はこういう人間だ!)と、言い聞かせて気にしない様にした。
でも・・・・勝彦は地球が一年で滅びるという事実も正直ショックである。地球に住む人間の一人として、重く受け止めいてないわけではない。あと一年で自分達の未来が無くなるなんて考えたくもなかった。
「悪いな・・・クー太・・・」
勝彦は、地球が滅びると聞いたからこそ、何としてもこの一年間で彼女を作らなければいけないと思った。
ついさっき出会った、結城菜緒さんの事を少し思い出して、早く地球に戻って残りの人生を彼女と思い出を作りたいと思ったのである。
(せめて、最後の思い出に彼女を作らねば死んでも死にきれん!)
実はそれが本音だった。すると、どこからともなくクー太以外の声がまた聞こえてくる。
「勝彦殿もお人が悪いですね・・・」
「誰だ!?」
勝彦はすぐに反応して、あたりを見回したが誰もいない。
でも、勝彦はもう空耳だと勘違いしなかった。
誰も居ないけど、間違いなく声が聞こえた事に確信を持っていたからだ。すると、勝彦の声に反応して語り掛けて来る。
「どうも、お初目にかかります。私、宇宙船アルテミス号の人工知能のアルテミスと申します。どうぞ、以後お見知りおきを・・・」
その正体不明の声は、機械的な声で部屋全体から聞こえてくる。
「人工知能?そうか、さっきからクー太と喋っていたのはお前だな!?」
勝彦はピンときた。やはり空耳ではなかったのだ。勝彦はその声が、この宇宙船全体から聞こえている事をすぐに理解したのだった。つまり、この宇宙船は自分で考えて喋る事が出来るのである。宇宙のSF映画やアニメにはよくある設定だ。
「はい、私がこの宇宙船のコントロールをしている人工知能です。勝彦殿、どうでしょう?地球にはいつでも帰ることはできます。少し、私達に付き合ってみませんか?」
挨拶もそこそこに、人工知能のアルテミスは勝彦に対して提案を持ちかけてくる。
「付き合う・・・?」
(それは一体どういう事だろう・・・?)
勝彦はその言葉の意味を考えてみたが、まったく見当もつかない。
アルテミスが何を考え、何を求めているのか?今の話を聞いた限りでは判断できなかった。
「そうです。この太陽系のはずれに、冥王星という星があります。そこでは、地球への入国基地みたいな所がありまして、そこで手続きをすれば、あなたが地球に戻ってしまった後、滅亡の日の直前にあなたが望めば地球から脱出する事が認められます。せめて、手続きだけでも受けてもらえませんでしょうか?」
しかし、勝彦はその提案を受け入れるつもりはなかった。
「だけど・・・俺は・・・」
「御心配には及びません!あくまで手続きだけです。別に勝彦殿が望めば、そのまま地球と共にしていただいても構いません!」
今度は、宇宙船が食い下がって勝彦をしきりに説得してくる。話の内容は理解して、一応信じてはいるが、一度決めた考えを簡単には変えるつもりはない。
それに・・・・一度地球を離れてしまったら、そのまま連れて行かれるじゃないかと、勝彦は何気に警戒していた。
昔見たTVでは、宇宙人は地球人を人体実験するという先入観があったから、心の中のどこかで恐れていたのである。
「なあ・・・お前にとってはさ、地球人である俺の事なんて関係ないだろ。何で俺にこだわるんだよ?」
勝彦は、何故しきりに自分を冥王星に連れて行こうとするのか不思議に思った。
このアルテミスは人工知能であり、ただの宇宙船である。勝彦との関係は全くないはずだ。
そんなアルテミスが、勝彦にしつこく食い下がる理由が見当たらなかった。
「そ、それは・・・・」
アルテミスはすぐに答えられず、何かを隠している様にみえる。
(やっぱり俺を連れ去るのが目的なのか?)
「・・・もしかして、俺を連れ去って人体実験でもするつもりか!?」
勝彦はそんな事は無いと分かりつつも、話半分で言っていた。
「いえ、そんな事しませんよ!」
と、アルテミスは鋭く切り返す。
勝彦は、心の中で(なかなかいい突っ込みだ! )と、思って感心した。
第1章 地球の危機!? 12話
「はあー・・・わかりました。すべてをお話します。実は、あの子はあなたを救う為にやって来たのもありますけど、あなたに会うのを物凄く楽しみにしていました。この地球に来るまで、勝彦殿の話をしなかった日は一日もありませんでした。あなたに会う為に、あの子は2年間の旅を経て、ようやくこの地球までやってきたのです」
と、アルテミスはゆっくり丁寧に事の顛末を語りだす。クー太がどれだけ勝彦を思い、考え、思いを巡らせてこの地球まで救いに来た事を訴えだしたのだった。
そして、勝彦はアルテミスの言葉を一つ一つ聞いて少しずつ胸が詰まっていった。クー太の自分に対する愛情が胸に突き刺さり、少し泣きそうにもなったのである。
何よりも、勝彦に会う為にクー太が2年間もかけてここまで来た事に感動した。
(あいつ、2年間も・・・そんなに長くかけて地球まで来たのか・・・?)
アルテミス話を聞いて、勝彦はクー太から慕われている事に感動して、今まで思いっきり疑っていた自分を恥じていた。
「クーちゃん・・・」
勝彦は地球を眺めてそう、ぼそりとつぶやく。子供のころのクー太との思い出が少しずつ思い出される。
勝彦の心の中には、今でもあの当時のクー太の姿が思い浮かぶ。
「どうか、あの子の為にも、冥王星だけでも行ってもらえませんでしょうか?せめて、あの子に勝彦殿との思い出を少しでも残してあげたいのです。私は、あの子が悲しむ顔を見たくないのです」
と、丁寧なアルテミスの言葉が勝彦の心にさらに突き刺さる。クー太が勝彦の事を思ってくれているのと同じように、アルテミスはクー太の事を思っている。アルテミスが、勝彦の事を説得するのは、すべてクー太の為だったのだ。
(人の気持ちや思いは・・・・こうやって伝染していくのかな?)
と、心の中でしみじみ思った。
(いやいや、駄目だ!流されるな俺!)
と、自分に言い聞かす。アルテミスの言葉を聞いて、自分の中の気持ちが変わっていくのが自分でも分かって、自分が洗脳されたんじゃないかと思ったのだ。
これでは、アルテミスの思う壺である。もし、アルテミスに悪意があったら完全に落ちていたぞ。
(だけど・・・・)
それでも勝彦の気持ちは揺れ動いていた。
『勝彦君!!』と、クー太の笑顔が勝彦の頭の中に浮かぶ・・・。
勝彦は、本当は地球を離れるつもりはなかったが、アルテミスの言葉を聞いくと、クー太の笑顔を思い浮かべてしまう。否定しながらも、勝彦の気持ちは少しずつ変わっていた。
勝彦は・・・・こういう感情的な訴えに弱かったのだ。
「わかったよ・・・冥王星までなら行くよ、俺!」
と、絞り出すように勝彦はつぶやく。
少し考えたが、クー太の気持ちを考えるとつい返事をしてしまった。
半ば勢いで言ってしまった所が大きいが、もはや勝彦は後悔していなかった。
「ありがとうございます」
アルテミスは嬉しそうに感謝を述べる。機械であるはずのアルテミスの、その感情的表現は人間のそれと一緒だった。
「ほら、リリア様!勝彦殿もそう言っていますから、戻ってきてください!」
と、アルテミスは聞き覚えのない名前を言って誰かを呼び出す。
「ん?リリア様・・・?」
勝彦は聞きなれない言葉にすぐに反応する。
すると、クー太が奥の部屋からひょっこり現れた。ここでクー太が現れたという事は、リリアという名前はクー太だという事になる。
勝彦の頭の中は一瞬真っ白になった。
(今、アルテミスはクー太とは呼ばずに、リリアと呼んでいた。よくよく考えてみれば、生まれ変わっても、クー太という名前のはずがない。ということは、リリアってクー太の生まれ変わった名前なのか?)と予測した。
そう思った勝彦は、早速聞いてみる事にした。
「クー太、お前リリアって名前なのか!?」
すぐさま勝彦はクー太に質問をする。勝彦にとって、さっきのアルテミスの話よりも、今知ったクー太の名前の方が衝撃を受けた。アルテミスの話も、確かに胸にきて感動したが、それとこれとは話は別である。
(それにしても、リリアって・・・女みたいな名前だな・・・)
「それは・・・僕の生まれ変わった星での名前です。でも、僕はあくまで勝彦君にとってはクー太ですから・・・」
と、恥ずかしそうに答えた。その仕草はまるで女の子みたいである。ここで、自分の中でクー太女の子説が浮上した。
そもそも、クー太は会った時から、『僕』と言っていし、体格が男の子ぽっかった。もちろん犬だった時代もオスである。
だが、目の前に立っている少年はとても中性的だ。
(もしかして、こいつは女の子なのか?僕っ子だったのか?)
勝彦はクー太をじろじろ見つめる。
「まるで女の子みたいな名前だよな、お前の星では普通の事なのか!?」
勝彦の質問に対して、クー太はもじもじとして答えようとしない。やっぱりそうなのか?と思っていると、横からアルテミスが説明をしてくる。
「勝彦殿、我々ベルウイング星では、特に男女の性別が決まってないのです。と、いいますか、自由に男にもなれますし、女にもなれます。リリア様はどちらかと言えば女性としての生活が長かったので、女性のほうが慣れていらっしゃるのですよ」
と、勝彦の質問にアルテミスがあっさり答えてくれた。
「もう、アルテミス!余計な事は言わないで!」
クー太は勝彦の目の前であたふたとしている。自分の秘密がばらされた様に戸惑っていた。そして、気持ちを切り替えて勝彦の方に向いた。
「それよりも・・・ほんとにいいの?」
と、クー太は話を変えて恐る恐る勝彦に聞く。勝彦は、すっかりクー太の本当の名前に気を取られて本題を忘れていた。
そういえば、先ほどクー太が怒ってこの部屋を出て行って、アルテミスに説得されて冥王星まで行く事を約束していたのだった。
「ああいいぜ!!俺とクー太の仲だろ!わざわざ地球まで来てくれたのに悪いしな!」
さっきまで思い悩んでいたが、決断した以上は完全に行く気満々になっていた。クー太の自分に対する気持ちを知って、何かクー太の為にしてあげたいと思うようになっていたからだ。
「ありがとう・・・勝彦君・・・」
勝彦の返事に、ようやくクー太は笑顔になった。そして、クー太の目からは一筋の涙が流れ落ちていた。
「おいおい、泣くなよ!」
「あは、嬉しくてつい・・・・」
クー太は涙を拭いながら、満面の笑顔を勝彦に向ける。勝彦は、その笑顔を見て微笑み返した。クー太に喜んでもらえて本当に良かったと思っていたからだ。
しかし、そう思いながら勝彦はさっきからどーしても気になっている事があった。
途中でクー太に話を変えられたが、アルテミスが言っていた、男にも女にもなれるという発言がどうしても気になっていたのである。
「それよりもさ・・・俺はお前が自由に男にも女にもなれるほうが気になるんだが・・・?もしかして・・・お前って今、女なのか?」
地球でも、ニューハーフという概念はあるし、タイなどでは性転換手術をする事も出来る。
勝彦は、別に性別に関しては寛容のつもりだったが、クー太の率直な気持ちを聞いてみたいという衝動を抑えられなかったのだった。
勝彦は思っている疑問を素直にクー太にぶつける事にした。自由に男でも女でもなれるという夢の技術に、かなり興味深々だったのだ。
俺とクー太の銀河物語(仮)
今後の予定
第一章 地球の危機
登場人物
西田勝彦・・・地球の危機を救うことになった大学生(入学前)普通の青年。
クー太(ベルギロス・ルード・ウイ・ウイングリリア)・・・勝彦が昔飼っていた犬の生まれ変わり。地球を救う為、ベルウイング星からやってきた。
アルテミス・・・宇宙船アルテミス号人工知能。人間としての感情があり、知識は全銀河の知識を保有している。
門脇真司・・・勝彦の後輩高校2年。しっかりしていてすごくモテる。勝彦をいつもたしなめる。
高橋孝治・・・勝彦の後輩高校2年。真司親友でもあり、勝彦の親しい後輩でもある。勝彦と一緒にいつもバカな事をする。
霧條彩夏・・・勝彦の後輩高校2年。生徒会長で学園のアイドル。勝彦の憧れのマドンナ。卒業前に振られてる。真司の幼馴染。
結城菜緒・・・勝彦が引越ししたマンションの隣に住んでいる、超美少女。
アーロン・・・冥王星在住の地球人。母親が地球にいる。
キャロリン・・・冥王星在住の地球人。父親が地球にいる。以前から勝彦の事を知っている謎多き女。
ロイヤル・ブレッド局長・・・・新銀河連合第一地球管理局長。地球の宇宙人の管理保護、地球の進化の監視など行っている。
第二章 サルガスの悲劇
西田勝彦・・・地球の危機を救う為に旅を決意した普通の青年。
クー太(ベルギロス・ルード・ウイ・ウイングリリア)・・・勝彦と一緒に旅をする少年。勝彦が昔飼っていた犬の生まれ変わりである。
アルテミス・・・宇宙船アルテミス号人工知能。人間としての感情があり、知識は全銀河の知識を保有している。
コウサイ・ロンベルク・ツキタカ・・・・クー太の婚約者。クー太を連れ戻すために地球までやってきた。
ジャネイロ・カタ・ルー・・・アントフェス帝国皇帝の弟で貴族。シンシアと恋仲である。
シンシア・アルゼン・・・アントフェス帝国グランデ将軍の妹。ジャネイロと恋仲である。
アレス・アルゼン・・・アントフェス帝国グランデ将軍の弟。ジャネイロの親友。シンシアのお兄さん。
カタリーナ・カタルーアルゼ・・・皇帝の妹で、ジャネイロのお姉さんで、今はグランデ将軍の妻になっている。
グランデ・アルゼン将軍・・・アントフェス帝国の将軍、アレスとシンシアのお兄さん。数年前に両親を殺されてから、アントフェス帝国を怨み、反乱を画策している。
ジェンリック・ネコウネ・・・・ジャネイロの使用人。諜報術、暗殺術能力の高い優秀な人。密かにジャネイロの事が好き。
皇帝陛下・・・ジャネイロの兄でアントフェス帝国の皇帝。ボトル宰相の操り人形になって権力を握られている。
ボトル宰相・・・アントフェス帝国の権力を握る男。
ジェンッリク・アルゴ兵団長・・・ネコウネの父親で宮殿で皇帝陛下の護衛をしている。
第3章 宇宙の漂流者
西田勝彦・・・地球の危機を救うことになった大学生(入学前)普通の青年。
クー太(ベルギロス・ルード・ウイ・ウイングリリア)・・・勝彦が昔飼っていた犬の生まれ変わり。地球を救う為、ベルウイング星からやってきた。
アルテミス・・・宇宙船アルテミス号人工知能。人間としての感情があり、知識は全銀河の知識を保有している。
ギン・・・コールドスリープされた少女
シバ・サダール・フェン・・・ユークレース銀河帝国157植民惑星総督
ルオン・トレーヌ・・・連合と帝国をまたにかける宇宙海賊。特別な力(超能力)異空間能力を使いこなす。得意技は炎。その中でも炎を爆発させる煉獄炎を得意技にしている。
???・・・謎の仮面をつけた女
第4章 古代人の記憶
西田勝彦・・・地球の危機を救うことになった大学生(入学前)普通の青年。
クー太(ベルギロス・ルード・ウイ・ウイングリリア)・・・勝彦が昔飼っていた犬の生まれ変わり。地球を救う為、ベルウイング星からやってきた。
アルテミス・・・宇宙船アルテミス号人工知能。人間としての感情があり、知識は全銀河の知識を保有している。
ギン・・・
少女・・・・
白竜・・・
青竜・・・
赤竜・・・
黒竜・・・
女神・・・
第5章 ユークレース帝国からの逃亡
西田勝彦・・・地球の危機を救うことになった大学生(入学前)普通の青年。
ギン・・・
皇帝・・・
将軍
参謀・・・
王子
王女
地方諸侯
第6章 革命の日
西田勝彦・・・地球の危機を救うことになった大学生(入学前)普通の青年。
ベルギロス・ルード・ウイ・ウイングリリア・・・勝彦が昔飼っていた犬の生まれ変わり。地球を救う為、ベルウイング星からやってきた。
アルテミス・・・宇宙船アルテミス号人工知能。人間としての感情があり、知識は全銀河の知識を保有している。
第7章
第8章
第9章
第10章
第11章 ??????
第12章 もう一度君に会いたくて(終章)
という予定になってます。ではお楽しみに・・・・・