電話女

一人暮らしを初めて一ヶ月も経つと、
毎日の生活にも慣れた頃ネットを使ってある人と知り合った。
そんな男の話。

仕事ばかりの毎日から一時の至福の時間。
そんなちょっとした安らぎを求めて最近流行って、
簡単に登録できるというアプリに手を出した。

始めはうまくいかずにイライラもしたが、
すぐに数人の人と通話するまでの仲にはなれた。
それまでに無かった癒しの時間ができたことに、
男は満足していた。

満足していたが次第に話せない日があると、
寂しさで不安にかられる衝動。
手当たり次第に通話の出来る人を探していた。

時にはそれに耐え切れず休暇を取ってまで、
相手を探す日まであった。

誰でも良い。
そんな状況に陥る日が続くと、
取っ替え引っ替え毎日電話をしていた。

それでも徐々に満たされなくなる。
理由はわかる。
どれだけ話していても充実感はない。
他愛もない話ばかりで飽きる。
もっと意味のある会話のできる相手を探した。
知的で思いやりがあり楽しめる相手。

そんな相手はすぐには見つからない。
そう思っていたのだがその時は突然やってくる。
向こうから直接挨拶をしてきた人がいた。
ほとんどの場合男から送っていた自己紹介の文。
女から来ることなんてそれまでに無かった。

それだけでもテンションが上がりすぐに打ち解けた。
とても話しやすくまるで昔からの知り合いと、
隣り合って座って話しているように思えた。

男はその女に夢中になり毎日通話をした。
他愛もない話から仕事の愚痴。
なんでも聞いてくれるし相手の女も様々なことを話した。

時間を忘れ明るくなるまで毎日話した。
眠たいまま仕事へ出かけても、
頭の中は女とのことばかり。
帰るとすぐに通話。
そんな毎日が続いた。


その日も朝。
既にでかけなくては行けない時間ではあるが、
女はいつになく男を行かせようとはしない。
仕方なく男も休みをとって、
一日中通話を楽しむと次の日も同じ態度を取る。
二日三日となるとさすがに仕事も休めない。
それに今まで無かった眠気が一気に男を襲う。

「それなら今日はお休みにして寝た方が良いわ。」

女の言うとおりどうせ仕事へ行っても、
この状態では何もできそうにない。
男は女の言うとおりに仕事を休み眠ることにした。

静かな日中。
窓の外からは賑やかな声が聞こえ皆楽しそうにしている。
男は布団をかぶって眠ろうとするが寝付けない。

「うるさいっ。
静かにしろ!?」

思わず窓を開けて叫んでしまった。
こんなことができる性格ではなかったのだが、
それよりも早く少しでも眠りたかった。


結局一睡もできないまま再び夜が来て、
女との通話の時間がやってくる。
いつ眠っているのかと思うくらいに元気で、
男はテンションをなんとか上げる。
しかし女が言う会話にはほとんど返答ができない。
頭には入ってきても何を言っているのか理解できなかった。

頭の中がぐるぐると周り始めた。


男は死体で発見された。
その死体はまだまだ二十代で若かったはずなのだが、
どう見ても年寄りで死因も老衰だったという。

男は時を超え一生の楽しい時を、
一瞬のうちに過ごしてしまったのかもしれない。

電話女

電話女

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-31

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