4年3組!今日も晴れ!―7,8,9月編―

4年3組!今日も晴れ!―7,8,9月編―

「…暑い。」

そう言いながらアタシ、
紀田四季(キダシキ)は窓の外を覗き込む。

今は9月。
夏休みが開け、運動会の練習が始まる少し前の日。

担任の小倉(オグラ)先生がこんな事を言いだした。

「席替えをします!」

黒板に席を描き、1つ1つ番号を降る。
番号順にクジを引き、番号が決まる。

アタシは引いた番号は…、17。
なんて半端な数字なんだ…。

しかも最悪な事に席は教卓の目の前…。
あーあ。終った。本当、最悪。
しかも隣はアイツかぁ、

本当、最悪。

7月・蝉奏―ゼンソウ― ゼン

―、一ヶ月前。

長い夏休みが始まる前日、1人の転校生がやって来た。

名前は確か、葛原純也(クズハラジュンヤ)。母親と2人暮らしで、母親はここらでお店を開くとかで。

…訂正します。母親はウチの〝隣〟でお店を開くとかで。


アイツは教室に入った時から、不機嫌な顔だった。無愛想に挨拶するなり、アタシを睨んできた。


勿論、アタシは即座に睨み返し、いつも通りに窓の外を眺め続ける。


…そのまま小倉先生の他愛ない無駄話を聞き、大量の夏休みの宿題を受け取り、靴箱に向かう時、

ピンポンパンポーン♪ 校内放送が学校中に響いた。

『4年3組の紀田四季さん。4年3組の紀田四季さん。至急、職員室まで、来てください。大事な話があります。』
ピンポンパンポーン♪

うわ、最悪!いきなり呼び出し食らったし。

「うわー、四季。いきなり呼び出し食らったねぇー?」
明るく聞いてくるのは、重福茉耶(ジュウフクマヤ)。3年の時に仲良くなった子で、ある意味目立ちたがり。

「紀田さん。急がなくて大丈夫ですか?」
こっちは、小学校に入ってから仲良くなった石川乃経瑠(イシカワノエル)。静かで優しい。

「うん。大丈夫だよ。あ、でも、帰るの遅くなりそうだから、
 先に2人でマキドナレド行ってて。後から行くから。」

アタシは笑顔で言うと小走りで職員室に向かう。まったく、あの教師め。何て事をヤラかしてくれるんだ。

…、アタシには性格が2つある。

1つはこういう〝ウラ〟のアタシ。言葉使いが悪くて、性格も悪いほう。

もう、1つは〝オモテ〟のアタシ。明るくて、元気で、どっちかっていうと、アネゴ肌の頼れるお姉さん…みたいな。

皆と話すときは大抵が“オモテ”。心の中で思っている事は“ウラ”。


なんやかんややっていると、職員室が既に目の前に見えて来ていた。

「おお、待っていたよ。紀田くん。」

笑顔で出迎えてくれやがったのは、担任の小倉勝利(オグラカツトシ)先生。20年以上教師をやっているベテラン。

アタシは「ども。」と言い、職員室のなかにある相談室に向かった。

「んで、小倉先生。要件て、例の転校生の事ッスか?」
アタシは相談室のソファに腰を落とし、軽い口調で小倉先生に問う。

「さすが紀田くん。話が早いね。そう。その、転校生の葛原くん。
 君の近所に引っ越してきたんだって?」

小倉先生は元々物腰の柔らかい人だから、結構話しやすい。だから、ついつい軽い口調になる。

「あー。確かここらでカフェか何かを母親が開くとかなんとかで来たんスよねー?
 んで、その母親は5回の離婚を経験。いまはシングルマザーで、葛原と2人。
 おまけにその母親はまだ27歳、と。今回は結構面倒ですね。」

アタシはアタシが知っている事を全て話し、小倉先生に現状を伝えた。

「やっぱりすごいですね。それで、親しみも予て、今日は街の案内をしてもらいたいのですが…。いいでしょうか?」

え?は?ん?何?街の案内?この街を!?アタシと葛原の2人で!?
最低でも4時間はかかるんですけど!?というか今日は茉耶達とマキドナレド行くんですけど!

「あら、探検ですかー?」

コーヒーカップを持ちながらやってきたのは、4年3組の副担任、赤石莉沙(アカイシリサ)先生だった。
莉沙さんはアタシの兄貴・未来(ミキ)の彼女さん。いつも家に来てくれて家の事を色々とやってくれる。
だからアタシは莉沙さんの言った事には絶対に歯向かえないのだ。

「へー、そうなんですか。じゃあ、いい機会だし、四季ちゃん、行ってきちゃいなさいよ☆」

え?何?説明してる間に話進んでる?何か莉沙さん語尾に☆ついちゃってるんですけどっ…。

「え?あー、んとー。自分、今日飲みなんで☆」

と、よくオヤジが言うようなセリフを言ってみる。

「あんた未成年でしょ?ていうか、語尾に☆付いちゃってるわよ?」

莉沙さんは呆れたような顔で言う。アンタもさっきご丁寧に☆ついてたけどね!


そして莉沙さんは何かを思いついたかのように、自分のカバンの中から、1本のペットボトルを持ってくる。

「はい、コレッ。アンタ四ツ矢サイダー好きでしょ?」

莉沙さんは笑顔でアタシに手渡す。ていうかヌルいんですけどっ…。

「あれ?赤石さん。炭酸なんてどこで買ってきたんですか?」

小倉先生は驚いた様子で莉沙さんに問う。この学校は教師であっても炭酸などのジュース系統のものは禁止されているからである。

「あ、あはは…。実は算数担当の村岡(ムラオカ)先生にパシられちゃった時、
 自動販売機のもう1本チャンスに当たっちゃって…本当は家に行ってから渡そうと思ったんですけど…」

莉沙さんは小倉先生に説明する。

「て、莉沙さん。これ物凄くヌルいんですけど…。」

アタシは莉沙さんに呆れながら言う。

すると、莉沙さんは「まぁ、頑張って☆」と、言い相談室から出ていったのだった。…、ていうかまた語尾に☆ついてる…。

「んーじゃあ面倒なんで、ちゃっちゃと街探検済ませてきますね。」

そう言うと、アタシはカバンを持ち、四ツ矢サイダーを一口飲む。 そして、こう言う。

「じゃあ、小倉先生。手っ取り早くその葛原に早く会わせてもらえます?」

アタシはそう言いながら相談室から出る。

「そうですね。葛原くんは、なかなかいい子なので、すぐに仲良くなれると思いますよ」

小倉先生は笑顔で言う。え?あの睨み野郎が?
―、『先生の目は真珠かナニかなんですか?』アタシはそう、心で叫んだ。

「葛原くん。入ってください。」

小倉先生がそう言うと、葛原純也は相談室に入ってきた。

「葛原くん。こちらは紀田四季くんです。今日1日、この街の案内をしてくれるので、2人とも仲良くよろしくお願いしますね。
 あ、紀田くんは、葛原くんに夏休みの宿題を教えてあげてください。紀田くんは学年トップの成績を持ってるので安心してくださいね。
 突然だったので先生、葛原くんの分をもらい忘れてしまったので☆」

てへ☆とでも言うような表情で小倉先生は去って行った。

え、ちょ、待ってェーーーーーーーーーーーーーーおーぐーらーせーんーせーいー。
たーすーけてェェェェェエ。イヤァァァアアアァアァァァァァァァッァァァアァァァ!

もう!とにかくやるっきゃない!
アタシ達(達って言い方ヤだな。)は学校を出て、まずは河川敷に向かった。
アタシは通いなれた河川敷までの道のりを歩く。(無理矢理葛原を引きずって。)

「えと、初めましてー。紀田です。んとー、なんて呼べばいいかなっ☆」

ヤバイ!今、絶対に顔引きつった!ていうか語尾に☆つけちゃったしぃぃぃいいいいいぃ!
と、とにかく!いまは話すしかないよね!?そうなんだよね!??

「ア、アタシも、元々ココの学校だったんだけど、家の都合で2年生のときに
 隣町に引越しちゃって、また、3年生のときに戻ってきたんだ~」

ヤバイ!またひきつった!

「……。」

え?ShiKaTo?いくらアタシでも怒こるよ?いや、マジで。だいたい何なんだよ。
謎の転校生Xみたいなノリできやがって!そもそも、「俺…実は、」みたいなノリで…

河川敷についた辺りで葛原はゆっくりと口を開く。

「…、霧島小の鬼姫伝説。」

っ!!コイツ…、知ってたんだ…。アタシは驚きながら葛原を見つめる。

んーと、簡単に説明すると、アタシは不良だったってーことよ。
霧島小は結構頭の悪い人達とか不良とかが通うための学校だったとか。

それで、アタシがその“荒れ”を消しに行ってきてたんだよね。

えーと、まぁ、ハイ。ワケありなんです☆てへっぺろ☆

…、もう、やめようか。
アタシは無視して河川敷の向かいにある街のマップを指さす。

「んじゃあ、まぁ、この街の紹介は…、」

アタシが紹介しようとした時、1発の強烈な蹴りがアタシの腹をえぐる。

アタシの体は軽々と川に放り込まれる。だが、アタシはただ無言でいた。

「マジかよ…。お前、男?」

葛原はアタシに近づいてくると、いきなり胸ぐらを掴んで一発顔にお見舞いしてくれやがった。

アタシはその勢いでまたも体を川に投げつけられ、唇を切る。

すると、今度は髪の毛を鷲掴みにし、アタシの体を引っ張り上げる。


葛原は無表情のままでアタシの顔や体を殴りつけてくる。

アタシはバカじゃないからやられてもやり返さないほう。

かと言って葛原もバカじゃない。

相当有名なやり手がいれば、殴ってくるのが常識。

アタシが耐えていられるかが勝負。耐えていられなかったら、葛原の負け。


多分アタシは葛原を殺しちゃう。

…でも、殴られすぎると未来とか莉沙さんが心配するんだよねぇ。
一応ここら辺で歯止めを打っておこうかな。

「あのー。葛原?なんでそんなに殴っちゃってるの?痛く無いの~?」

馬鹿にした口調でアタシは葛原の胸ぐらを掴んで一発殴る。
葛原は川の中へと倒れるかのように投げこまれた。

「いや~痛い、痛い。うお!血ぃ出てた!??あ~びくったァ。」

またも馬鹿にしたような口調で、切れた唇から滲み出る血を拭う。
葛原はアタシを睨み、殴りかかろうとするが、意識が朦朧としてしまい、その場に倒れ込んでしまう。

葛原は口を開く。

「痛、くなんか、無い……!殴ら、れた…傷も、何もかも!」

葛原は息を途切れさせながら、一言、一言に怒りを込めて言う。
アタシは無言で葛原に手を差し出す。だが、葛原が手を取らないため、無理矢理引き上げる。

「アタシが言いたいのはその痛みじゃない。ここの痛みなの。」

そうしてアタシは葛原の心臓あたりを指でさす。



―そしてあれからも殴り合いを続け、日が暮れる頃、買い物帰りの莉沙さんから拳骨を
二発(葛原は一発)食らったあとウチで葛原と2人で夕飯を(何故か)食べ、1日を終えたのだった。

次の日アタシは切り傷や打撲などで一日中休んでいた。

そしてその次の日、七月二十三日。

お昼前に大倉先生から電話が来て、24日と25日の町内夏祭りの手伝い兼警備を任されてしまったのだ。
それも、

『葛原と2人で。』


嗚呼、蝉の鳴き声がとても五月蠅い。蝉って、早朝でも鳴くのか。

無駄なことを考えながら、アタシはお決まりのインナーにパーカー、スパッツ、ハイカットスニーカーを纏い
二の腕に巡回と書かれた腕章をつけて、髪を結い、赤いはちまきを軽く首に巻く。

…よし、準備完了!一度深呼吸をし、葛原邸の呼び鈴を押す。

もともと葛原には24日と25日の日程を教えておいたから準備はしてるはず。


数分経ってから勢い良く扉が開いた。そして出てきたのは何故か上半身裸の葛原純也だった。

「なに?」

なに?じゃなくて。今日祭なんですけど。

アタシは怒りをどうにか押さえ込み、恐ろしいほどの微笑みを作る。

「葛原君。昨日電話したでしょう?今日はこの街のお祭ですのよ…?」

あ¨ー『ですのよ』とか言ったし、まぁ、結果オーライを望むか。

「『ですのよ』とかキモイな。祭って何時からだよ。」

「お前アホか?いやアホだな。あと15分で各区の御輿上げが始まる御輿上げは約45分各区を巡回し、
 その45分で泉町祭本部及び警備班は泉町の真ん中にある国道を一切車両停止にし、歩行者天国を作る。
 出店の販売開始は一斉に10時から。11時から山車の巡回が始まって2時には町内マーチングクラブの
 パレードや町内道場の披露など。午後4時から歩行者天国で山車披露。午後8時には町長の演説と男気祭。
 午後10時に祭は終わる。」

何故かアタシは祭の日程を教えていた。

多分葛原にこう言われるな。

「別に日程聞いてないし。」

…皮肉にもアタシの予想は大当たり。それにいつの間にか葛原はいつものインナーによれよれの半袖を着ていた。

「んじゃまぁひとまず本部に向かうか。」

アタシは葛原に腕章を手渡し歩き始める。

「…アンタ、イヌ飼ってる?」

突然葛原が話し掛けてきた。アタシは驚き、葛原のほうへ振り向く。

確かにアタシは犬を飼っている。シーズーという犬種で名前は『カルタ』とても大人しく吠えることはあまり無い。
だが何故解ったのだろう…?

「飼ってる、けど…。」

アタシは恐る恐る答える。

「やっぱり。アンタ、イヌ臭い。」

葛原は腕章を着けながら笑う。なんだか懐かしそうな顔をしている。
…あれ?葛原ってこんなに優しい?皮肉っぽいこと言ってるけど、

「てかアンタって、イヌみたいだよね」

葛原は微笑みながらアタシの頭を撫でる。なんか、懐かしい。昔も、誰かに…。

そう思っていると何故か体から力がすっと抜けていく。

気がつくとアタシは見慣れない家のリビングにあるソファに横になっていた。

まだ体がだるくもうろうとするなかで瞬時に起き上がる。窓を見ると空が暗い。
葛原の家に行ったのが早朝だったから、きっと相当眠っていたはず。

パーカーのポケットから携帯を取り出し時間を確認する。携帯の時計は23:26を表していた。

「やっと起きたか。イヌ。」

ん…?え!!?この声、葛原!?振り返るとそこには葛原が呑気に麦茶を飲んでいた。

「何で葛原がいんの…?」

「ここオレの家だから。当たり前だろ。」

「何でアタシが葛原の家にいんの?」

「アンタが急にぶっ倒れたから。」

「何でこんな時間まで?」

「アンタが全然起きなかったから。」

……成る程。信じたくは無いがまぁつまり、そういう事なのだろう。

というか小学生がこんな時間に起きていていいのだろうか。

その前に莉沙さんと未来はどこへ行ったのだろう?

携帯を見てみると54件着信が入っていた。それは全て莉沙さんからの着信だった。

…なんだか、とても絡み辛い。この状況をどう回避すればいいんだ?

というか莉沙さんは自宅だろうし、未来ももう仕事に行ってる時間。

まず家の鍵持ってない!

つまり…まぁ、いや、、、もう…、寝てしまえ!!

アタシはソファに顔をうずめ、必死に眠ろうとする。だが眠れない。

そこで、仰向けになり、葛原に何気なく話をかけてみることにした。

「葛原、そういえば母親は?」

「…………。」

長い沈黙。すでに10分が経過。

「……母親は海外に出張している。」

27分後。葛原は消えそうな声で静かに呟いた。

「じゃあカフェはやってないの?」

「…カフェは8月オープンだ。」

「宿題で解んないとことかあった?」

「無い。全て答えをうつした。」

「葛原は眠くないの?」

「…、、、、、」

「ん……?」

「…葛原って名前嫌いなんだよ。」

くだらない会話をするなかで、突然葛原は座っていた椅子から立ち上がる。

「純也って、名前で呼べよ。」

驚きのあまりソファから起き上がったアタシを葛原は押し倒し、至近距離で見つめられる。

…?ほぁ?ん?え?ちょ、ま、え…。なんかどんどん葛原の顔がせまってくる。

…アタシは怖くなり、目を瞑る。少し経ったあと目を恐る恐る開けると、アタシの唇が葛原の唇と重なっていた。

葛原は一度唇を離しこう呟いた。

「なぁ、呼べよ…。」

すると葛原はまた唇を重ねた。

嗚呼、もうどうにかなりそう。じたばたしても動きは止められてしまう。

吐息が近い…。
アタシは押さえきれなくなり、いつの間にか、無意識に涙が流れていた。

「純、也……。って、呼ぶ…から……!」

何故だろう、本当のアタシじゃないみたい。
こんなに必死になって、涙を流して、なんで、コイツの前だと、こんなに…っ


「…悪い。」

純也はアタシの涙を拭いながら言った。

「階段あがって右側に部屋が在って、そこにベッドがあるからそこで寝て。」

純也はそう言うと風呂場へ消えていった。なんで家の鍵が無いのが解ったんだろう?


…でも、いまは優しさに甘えていたい。

言われた通りに階段をあがり、右側の部屋に入る。
そこは六畳ほどの広さで小さなテーブルとベッドだけの殺風景な部屋だった。

アタシはゆっくりとベッドのなかに入った。
そしてそのままゆっくりと眠りに堕ちていった。

次の日、7月25日。アタシは驚きのあまり目を覚ました。

―それは、純也がアタシにキスをしたから。

それも舌まで入れるなんて…。有り得ない、でしょ。

いやいや、無いでしょ。

もう、頭が上手く回らない…。ヘンな事あり過ぎ…!昨日のキスだって!

って、ん?もしかして純也ってどうしようもなくスーパーキス魔!???
いやいやいや、なおさらありえないでしょ!
もう、どうなってんの!

4年3組!今日も晴れ!―7,8,9月編―

掲載している絵は自分で描いてます

4年3組!今日も晴れ!―7,8,9月編―

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-10-08

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