偽りの優しさが
札幌駅できみと待ち合わせした。
控えめのダイヤのネックレスがかっこよかったね。
ドトールでコーヒーを飲んだね。
いつもと変わらず何気ないきみに満足して、でも、きみの瞳を直視できず、
それぞれがそれぞれに急ぎ足の駅北口の人の流れを見つめていた。
「きっとぼくはきみの優しさを誤解している。」
こころの隅のそんな思いを簡単には消すことが出来なくて、真実を知るのが怖かった。
きみはこれまで夢中になったかれがいるけれど、
その恋の残り火を消すつもりだ・・・と、話したね。
多分、それはぼくへの偽りの優しさなんだと思う。
きみも自覚しない驕慢な優しさなんじゃないかな。
でもさ、
きみの過去なんてどうだっていいじゃない、
いま、他の誰かを引きずっていたって、それはそれでいいじゃない・・・。
いまこのときが大切なんだよね。
必死にそう思ってた。
タール1mgのプレミアの煙を吸い込んで、
きみの横顔を見つめ、やっぱり楽しい時間を作るしかないと決心した。
北の街の曇り空から、束の間の鋭い明るい陽光が差し始めていた。
駅地下の駐車場においたクルマの中で、きみの唇に触れた。
きみの優しさが偽りであっても、それが刹那のものであっても、
きみのこころが欲しかった。
それこそが真実なんだと・・・
海を目指して石狩街道を北上して、麻生のダイエーで買い物したね。
二人で果物や野菜やオードブルやワインを買い物篭に入れるのはとても新鮮だった。
ワイングラスやワインオープナー、そしてお皿も買ったね。
そんな時きみはいつも控えめ、ぼくの行動になにも口を挟まない。
遠慮深さが、相手への思いやりなのかい?
ぼくへの忠誠が愛なのかい?
21歳のきみに、ぼくはそんなことを望んではいないさ。
もっとわがままに自由に振る舞まうきみが欲しい。
一緒にどこか遠くを旅行したいね。
それは旭川や札幌じゃやっぱりつまんなくて、
静かな自然があるところがいいなー
例えば朱鞠内のように・・・
少しの悲しみとたくさんの優しさで、二人だけの時間を過ごしたい。
ただ、これって現実になると、やっぱり現実なので日常的な感覚に支配されて、
どうしたって無理のような気もする。
今のぼくには多分時間が取れそうも無いし、全てが夢の中なのかな。
朱鞠内湖はぼくにとってなぜか昔から神秘的で、
多分朱鞠内という漢字だとか、言葉にしたときの響きだとか。
何も無い寂しげな湖にたたずむ少女。
そこで待ってる少女に会いに行くのはぼくにとって夢だったのかな・・・
風がそよぐ湖岸沿いのプロムナード
君の声が携帯電話から聞こえ
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落ち葉の気配を感じながら
二人で漂った季節はずれの湖面
冷たい波が二人をすり抜け
君の優しさだけがぬくもりだった
ボートを漕いでみたいときみ
心もとない低い空が湖水に映って
バランスを取りながらすれ違うと
淡いボンベイサファイアの香りがした
遠い世界に行きたいときみ
揺れつづける波に戸惑いながら
きみのとび色の瞳に
答えを出せず目を閉じた
いつか再会したいときみ
残り少ない陽射しの光と影
白い貝殻が封印されたガラス瓶
乗り手のいないボートたち
偽りの優しさが