三題噺「消しゴム」「鉛筆」「答案用紙」
「みなさんには殺し合いをしてもらいます」
高校入試の試験会場にいる俺たちを前にその教官は事務的に言った。
ルールは三つ。制限時間は一時間。その間に誰かを殺すこと。教室から逃げることは禁止。
「それでは始めてください」
目の前に座っていた女の子が奇声をあげながら、突然持っていたシャーペンを隣の男の子の喉目がけて突き出した。男の子は喉から血を吹き出しながら崩れ落ちる。おそらく即死だろう。
廊下側の離れた席の男の子も座っていた椅子を振りかぶりそのまま叩きつけた。前に座っていた女の子が避ける間もなく殴り倒される。彼女の開いた目が閉じることはなかった。
窓側に座っていた女の子は、横に座っていた男の子の目を鉛筆で突こうとして失敗した。彼女は蹴り飛ばされて砕けた窓ガラスと一緒に窓の外へ姿を消した。しばらくして何かが潰れる音がした。
教室は殺し合いの場となった。
少数だが逃げ出そうとする子もいた。しかし、みんな教室の出入り口にいる教官に問答無用で首を撥ねられた。静かな白い教室は今は悲鳴と咆哮の混じり合う真っ赤な殺戮場へと変貌していた。
俺はしばらく動けなかった。
「……なんてこった」
俺は静かに教室の出入り口に向かった。血にまみれた消しゴムが足に当たって血だまりに落ちた。
教官が無言で構える。その両手には巨大分度器を模した双剣が握られていた。
気付けばその刃が目の前に迫っていた。
「やめ。試験をやめてください」
誰も何も言わなかった。答案用紙はどれも赤く染まっていた。
教室に入っていった40人の受験生がわずか10分で半分以下に減っていた。
教室の出入り口を見る。そこには双剣を持ったまま倒れ伏した同僚がいた。息はもうない。
「筆記試験教官の分際で……映画の見すぎだ」
そうして俺は目の前にいる殺し屋の卵たちへ、本来やるべきだった実技試験への案内をするのだった。
三題噺「消しゴム」「鉛筆」「答案用紙」