暮色
人の命。
命を持たない自然。
それを比較した時に、 大いなる自然の営みに畏怖する瞬間が有る。
しかし、その雄大さを前にしても、命の儚さを想っても、
なお自分の命に重みを見出すのも、また人の営みだろう。
もう永くないと医師に宣告された叔父を、聖者の名のついた病院に見舞う。
帰路についた私の前に移り行く風景が広がる。
高層ビルの谷間の刺すような橙色の夕日を網膜に焼きつけながら西へ走る。
雲が茜色に染まり、空が菫、紫、薄墨と刻々と色を変える。
山が暮色へと様を変え、宵闇に沈むまで、雄大さを見せつけ、やがて宵の明星が瞬く。
一枚の写真も撮らず、記憶だけにその風景を焼き付け、心の片隅に仕舞い込む。
美しさに凌駕され圧倒される。
その生命を持つはずの無い自然の美しさと、失われつつある彼の生命を比べ、人の命の儚さを思う。
やがて彼も、そして私も、あの風景の一部として溶け込むのだろうか。
それは、幸や不幸では言い表せない喜びのような気がした。
帰宅すれば、もう三年間寝たきりの父が待っている。
それもまた命。
暮色
実際に東京の聖××病院へ、叔父の見舞いに出かけた時の情景です。
東京から首都高4号線を経て中央道へと走る私の目の前に広がる
スペクタクルは、人の命の営みを凌駕するような迫力が有りました。
「かなわない」 どんなに人間が足掻こうとこれを超えるのは困難だ。
そんな心の動きを、そのまま文字にしてみました。