The Scar Face 〜最後の希望〜
どーも、晴れ時々くもりです。
今までは読む専門だったのですが皆さんの素晴らしい作品を読み進めて行くにつれて創作意欲を抑え切れませんでした。
初の連載小説なので上手く書けるかは分かりませんがどうぞよろしくお願い致します。
プロローグ
悪夢は突然訪れた。
柊彰(ひいらぎあきら)はちょうど遅めの昼食をとっているところで、彼の好物のカレーをいただこうとしていた。
彰は今年で齢30になる少しかわった警備会社員だ。何がかわっているのかと言えば、彼が日本人とアメリカ人のクォーターというところと、5年ばかりフランス外国人部隊に所属していたことくらいか。
彼の容姿は黒髪黒眼で日本人とそっくりなのでまずクォーターと思われることはない。身長は180cm前後で顔右半分には火傷跡が残っている。彼の現役時代のあだ名が"The Scar Face"だったのはここから来ている。
彰がフランス外人部隊を除隊して日本に帰ってきたことには理由がある。一つは生涯大切にしたいと思う女性ができたから。そしてもう一つは暫らくの間戦場に派遣されることが無くなったからだ。戦う場所が無くなれば外人部隊に残る必要も無い。
今日も昼食をとった後に恋人と町の方に出かける予定だった。
恋人の名前は田野口碧(たのぐちあおい)。今はインテリアデザイナーとして生業を立てている。
碧との最初の出会いは従軍中の休暇で日本に一時帰国した時のことで、偶然のことだった。彼女と彰は高校で一緒になったことがあり、たまに会話を交わす程度の仲であったと本人は思っているが、当時恋愛に疎かった彰はなかなかどうして碧の思いに気付くことはなかった。
そんなこんなで約10年の時を経てようやく自分の思いを伝えることが出来た碧は晴れて彰の恋人となったのだ。
彰が最初の一口を頬張ろうとした時、窓の外から見える町の上空で、彼は何かが光るのを見た。彰はそれが最初、何かはわからなかった。
「……はて?花火大会でもやってるのかな?」彰は何となく呟いた。
彼の家は小高い丘の上にあり、かなり遠くの方まで見渡す事が出来る。彰はよく碧を夕食に誘って夜景を楽しんでいたもので、その夜景は碧のお気に入りだったりもする。
彰は窓の外に顔を向けながら、真昼間の花火大会なんて聞いたことが無いが……と、呟こうとしたが、出かかった言葉は喉の奥に消えた。
霞むほど遠い方角、彼がたった今閃光を見たその場所に、縁の赤い小さなキノコ雲が現れたのだ。
彰の脳がまだその事を理解出来ずにいると、別の場所に小さな光がちらついた。こちらの方がさっきのよりもずっと明るい。彰はまだキノコ雲を見つめながら呆然としていた。
「あれはまさか……!?」彰は自分の声が酷く動揺していることを感じながら混乱する頭をどうにか整理しようと試みた。
「……いや、待てよ?」冷静に考えて今見えているキノコ雲の方角には人口数十万の地方都市があるだけでわざわざ核ミサイルを浪費にしてまで攻撃する特別な施設は無い筈だ。
だとしたら何故だ?特に軍事的脅威も政治的な重要性も無いただの地方都市を攻撃するに足る理由は何だ?
ここで彰は気付いてしまった。この状況を説明するのに最適でなおかつ最悪な結論に。
ーー核保有国同士による最終核戦争。
彰は恐怖であまり動かない体を無理やり動かして何か情報が得られないかとラジオのスイッチを入れた。
「……わが国は現在、核兵器……撃を受けています。通信が著しく損……ており、死傷者の数……害状況は……明らか……いませ……屋外に出る………放射性降下……身をさら………なり、非常に危険で………このラジオ局に……ヤルを合わ……冷静に屋内にと……ってくだ……配給された飲料……節約……飲料と調理目……に使用……トイレを流す……に使わないようにして…………」暫らくするとアナウンスは雑音に掻き消されて聞こえなくなった。
「まるで地獄だな」彰はそう呟くとのろのろと家の物資を集め始めた。恋人の安否も確認しなければ、と思ったが彼女が住んでいる地域は攻撃の被害を受けてないように見える。だが、このとんでもなく異常な事態の中では何も信用は出来ない。
たった今3発目のミサイルがここの辺りに撃ち込まれない可能性はない。彰は電話を碧にかけようとしたが案の定受話器から聞こえてくるのは不愉快な雑音だけだった。
窓の外には地獄が広がっていた。彼の家から見えていた町の中心部は、いまや馬鹿でかいクレーターがまるで悪夢のように存在しているだけだった。
そしてそれは勿論、窓の外だけのことではなかった。ありったけの物資を車に詰め込んだ彰は、碧の安否を確認する為に狭い舗装路を全速力で運転していた。
彼女の家は彰の自宅より少し町に近い位置にあったのだが、それだけて十分だった。爆風で完全に崩壊した木造アパート、建物の窓という窓は全て割れ、辺りには折れた電柱や木などが散乱している。
ここらの建物の中にはまだ人がいるのだろうか?それとも既に避難し終えたのだろうか?恐らく前者の可能性の方が圧倒的に高い。
彰も彰の自宅もあの地形が無かったらただでは済まなかっただろう。もしかしたら、碧もーー。彰は極力そのことを考えないようにしながら、一心不乱に碧の家に向かった。
彰はこの時さっき自分が言ったことが間違いだったと気付いた。今日は地獄ではない、天国だ、と。
地獄はまだ始まったばかりだ。
The Scar Face 〜最後の希望〜
ファンタジー要素がまったく無い…( ´・ω・`)