ヤモリ

   
   風の音 囁き声
   空耳 空目 空頼み
   研ぎ澄まして ココロを
   研ぎ澄まして ココロを

夜、キッチンの型ガラスの向こう側。

灯りに誘われて小さな羽虫たちが集まってくる。

ハタハタヒラヒラ淡い影を踊らせている。

そこにヤモリが現れる。

小さな手足の吸盤をピタッとガラスに貼付けて。

ときどきしっぽを渦巻いたりのばしたり。

まるで遊んでいるようで。

まさか遊んではいないでしょうが。

そして息を潜めて羽虫を狙っている。

ハタハタヒラヒラと彷徨う羽虫の動きが止まると。

スッと鼻先を近づけて。

羽虫の淡い影はヤモリに吸い込まれるように消える。

トントン。

ガラスの内側から指先で叩いてみた。

その白い面影のふくらんだお腹を。

身じろぎせずヤモリはじっとしていた。

しばらくすると辺りを探るように。

身体をよじらせしっぽまで顔を寄せて円を描いた。

ごめんね。

驚かせてしまったかな。

この世界には人間だけが暮らしているのではない。

この世界は人間のためだけにあるのでもない。

命はいつも次の扉を開こうとしている。

それは小さな小さな生き物も人間も変わらないもの。

ただ彼らがいないと私たちは生きて行けないだろう。

でも私たちがいなくなっても彼らは生きる。

いつか時空の向こう側からトントンと。

人間のその足元を叩く音がするかもしれない。

気づいてと。

そっと、キッチンの灯りを消した。

オヤスミナサイ。

ヤモリ

ヤモリ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-10-06

Copyrighted
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