ストリート ファンタジスタ
日本サッカーが輝いていた、日本代表が初のW杯の切符を手に入れたころから、自国開催の日韓W杯までの時代に、架空の人物の主人公である倉木飛馬(くらき・ひゅうま)を登場させた作品です。
「何やってんだよ!!」
彼の名前は倉木飛馬(くらき・ひゅうま)。1981年生まれの16才。この物語の主人公である。
彼は毎年、正月に行われている全国高校サッカー選手権をテレビの前でみていた。彼が所属している高校も、全国高校サッカー選手権に出場している。
それは全国の常連である、長崎県立見国高校(みくにこうこう)。
見国高校は、長崎県の島原半島の北部に位置する、見国町にある学校で、その高校は、全国でもサッカーの名門校として名が馳せている。九州はもとより全国からでも選手が集うことで有名だ。
倉木もそこの出身である。その見国高校が、選手権で負けた。
それを倉木が、テレビで見ていたのである。
見国高校は、選手権の一回戦で負けたことはなかった。つまりそれは、見国の歴史の上ではじめての一回戦負けであった。それで倉木は、正月を待たずしての選手権敗退という憂き目にあったのだ。見国の初戦の対戦相手は、千葉県代表の市立船柱高校(いちりつ・ふなばしらこうこう)だった。
試合後、史上初の一回戦敗退という結果に終わった見国高校サッカー部の、大嶺忠(おおみね・ただし)監督は語った。
大嶺忠。「もう、私の時代ではないのかもしれない・・・。」
大嶺忠監督は見国高校で教員をしていて、中年の小太りで威厳が感じられる人間だ。しかし今の大嶺監督からは、そのような厳格さは感じられなかった。これを期に、全国でも有名な見国高校の大嶺監督はサッカー部の監督を辞めた。
二年前には、真崎秀斗(まさき・しゅうと)を擁して全国を制した見国の名将も、時代の流れには逆らえなかったのか・・・。
全国から慕われた大嶺監督は、自分の後任に見国高校サッカー部出身の、牧島将(まきしま・まさる)氏を指名した。これは大嶺監督の最後の名采配であった。
この出来事は、1997年の大晦日。日本がジョホールバルでフランスW杯の切符を手に入れて、日本のサッカー熱が盛り上がっているときでした。
その二ヵ月後。倉木は横浜にいた。
倉木はイケメンの顔をしていて、身長は175メートルくらいの高さをしている。
小さいころからサッカーに慣れ親しんでいて、若いころから長崎県の選抜に入っている地元では有名な選手だった。
しかし見国高校に入ってからは、大嶺監督の掟である全員坊主に反対した。
倉木は地元の見国町の人間で、いくところは見国高校敷かなかったので見国を選択したけれど、坊主は選んではいないと主張して自慢の長髪を貫いた。
それが原因で倉木は一応、見国高校サッカー部員だが、高校二年生にもなるのに、大嶺監督からは一度も試合に使ってもらえていなかった。倉木がサッカー部員の中で、一番うまいのにも拘らずだ。
そして今日、倉木たちは見国高校の修学旅行で横浜にきている。
しかし倉木だけは別行動で、修学旅行に参加している同級生の恋人に逢いにきていた。その付き合っている彼女の名前は、風間(かざま)あかね。風間あかねも、見国高校の二年生である。
二泊三日の横浜の旅。倉木の同級生たちが泊まる横浜のホテルに、倉木飛馬はいた。
「ここだな・・・」
そういって、倉木は風間あかねがいるホテルの一室を訪ねた。『コンコンコン・・・』
倉木が部屋のドアをノックすると、部屋の中から長い髪をした女性が現れた。その女性はすこし驚きながらいいます。
「あっ!? 倉木くん!!」
その女性は、恋人の風間あかねでした。あかねは色白で大きな瞳をした、身長が低い控えめな女性です。
倉木は、そのあかねの顔をみていいました。
「明日のあかねちゃんの17才の誕生日を、一緒にお祝いしたくて・・・」
そういって倉木は、突然にサプライズで、一輪の花を持ってやってきたのです。
あかねは、倉木のそのようすをみて少し安心したかのようにいいました。
「倉木くんって、最近ぜんぜん学校に登校してなくて、修学旅行もサボったとおもっていたから私・・・」
と、あかねはすこし涙目になっていいました。
それをみた倉木は、自分も反省したかのように、あかねの頭をそっとなでました。
そしてその後、あかねはハっと思い出していいました。
あかね。「明日が私の誕生日ということは、今日が倉木くんの誕生日じゃない!?」
そうです。
今日、2月28日は倉木飛馬の誕生日で、明日、3月1日が風間あかねの誕生日なのです。倉木とあかねは、昭和55年度の同級生。しかしあかねは、遅生まれとして特別に一学年繰り下げて入学した昭和55年の3月1日生まれ。だから倉木とはほぼ一才違いの、一才年上になります。
このことに二人は、運命的なものを感じていました。
そして、あかねは慌てていいます。
「私も、何かお祝いしなくちゃ。」
すると倉木は、それを待っていたかのようにいいます。
「横浜の夜に外出しよう!!」
しかしあかねは、「修学旅行中は、勝手に外出しちゃいけないんだから。」と、マジメにこたえます。
しかし倉木は、そんなこともお構いなしにいいます。
「いいじゃん、いいじゃん、ちょっとの間だけなんだから。」と、いつもの倉木らしい返事です。
それを聞いたあかねは根負けしたかのように、シブシブついていきます。
「もう、勝手なんだから・・・。」
あかねは倉木に強引に押し切られるかたちで、見国高校の修学旅行生たちが泊まっているホテルから外出しました。
倉木は、明かりが照らす都会の横浜の夜景をみながらいいます。
「やっぱ見国町と比べるとぜんぜん違うなー。横浜の夜に乾杯。」
倉木とあかねは、明かりが灯す人通りが多い夜の公園をみつけました。その公園のベンチに二人は座って、恋人らしく手を握ります。
暗い夜の公園に、若い男女が二人。
そこで二人は話します。
「俺、学校やめるわ。」
そう倉木は突然に切り出しました。
あかね「え!?」
それを聞いたあかねは、驚いて動揺しています。
そして倉木は、心の内を話し出しました。
「サッカーだって自身があるのに、大嶺監督が全然使ってくれなくて・・・。俺、W杯に出場することが夢だったけれど、ゆめって叶わないから夢っていうんだろうなぁ。」
その倉木の弱音を聞いたあかねがいいます。
「だけど学校を辞めて、人生これからなのにどうすんの? サッカーまで辞めちゃうの? ここでサッカーを辞めちゃったら、もったいないよ!!」
そういって、あかねはすこし感情的になりました。それでもあかねは続けて告白します。
「倉木くんって、サッカーをしているときが一番輝いているんだよ。」
それを聞いた倉木には、すこし考えたような間がありました。しかしまた倉木は得意の調子で、口が開きます。
「大丈夫、大丈夫。俺のこの身体能力さえあれば、仕事なんていくらでもあるでしょ。」
そういって倉木は話をかえました。
倉木飛馬。「今日は俺の17才の誕生日。これでようやくあかねちゃんに追いついて同じ年。だからあかねちゃんを呼び捨てしちゃおうかなぁ?」
そういうと倉木は、あかねの顔をみつめていいました。
「あかね、好きだよ。」
といって、倉木とあかねが良いムードになっていたときでした。
「おい、ふざけんな!!」
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この作品は、実際のサッカー界とは試合結果や時代背景が異なっているシーンが含まれています。