『クリスマスの馬鹿野郎』

クリスマス終了のお知らせってな感じのはっちゃけた作品を書いてみたいが、まだちょっと無理かなあ。

今作は全体シリアスです。
心をえぐるようなシリアスはまだ書けそうにない。

 クリスマス前日。
 空は雲に覆われ、吹きすさぶ冷たい風に一人の男が震えていた。
 地面に体を突っ伏して、必死に背中に手を回しながら、もう一方で救急車を呼んでいた。
 口から吐血し、痛さに必死に耐える。
 男の目の前にはフードで顔が隠れた男が立っている。
 奴に気を払っている場合ではない。
 いますぐ、いますぐに!
 119番を押したところで、その通り魔の男に携帯を蹴りはらわれる。
 そして男はお腹を蹴られた。
「ぐ……くそ」
 コートの男はそれをじっくり観察したあと、ナイフで男をめったざしにした。
「次の獲物まで、また待つか」
 滅多ざしにした男はすぐさま走り去る。
 もうこの男は長くない。
 遠くからサイレンの男が響いてくる。
 男はそれを少し聞いたあと、絶命した。

 夜が明けた。
 今日は楽しい夜になるはずだった。
 俺に名前は立花正一。高校生。受験生でもある。
 でも、イブぐらいはゆっくりしたい。そんな思いから、今日クリスマスイブは楽しくゆったりし

ている夜になるはずだった。
 クリスマスイブはけたたましい電話音から消え去った。
 突然の夜の来訪者。
 病院。警察、その他もろもろ、あっという間だった。
 親父が通り魔に殺された。その事実が重くのしかかる。
 男手ひとつで育ててくれた父が、通り魔に殺されたのだ。
 進路を決めて相談し、それが快く迎え入れられ、明るい未来に目を向けられたのに。
 親父は居なくなってしまった。
「うう……くそ」
 もう高校は冬休みだ。それに受験生。
 だからなにかやれるかと言えば、勉強しかない。
 勉強で気持ちを逸らすしかない。
 だが、その勉強に手がつかなかった。
 頭の中の葛藤が、勉強へ気持ちを向かわせてくれない。
 俺はふとんを被って考える。
 このままじゃだめだ。
 それはわかってる。
 でもどうしたら良いんだ?
 ――ピンポーン
 チャイムだ。今は昼過ぎだ。
 いったいだれだ?
 だるい体を押し上げて玄関に向かう。
 ドアを開けると、幼馴染菊川 恵美が立っていた。
「……なんだよ」
 ついぶっきらぼうに言ってしまう。恵美だって受験生だ。俺に構ってる暇なんてない。
 なのに、俺の一言を気にせず、部屋へ入っていく。
 彼女はドッカと俺のイスに座って言った。
「おじさん。どうして」
 恵美がもらした言葉は俺がもっとも言いたいことだった。
 俺も知りたい。真相を知りたい。
「おじさん」
 恵美は思い返すように、頭上を見上げる。
 彼女も俺の親父と仲良かった。
 いや仲がいいだけじゃない。勝手に俺との婚姻まで話を進めてやがった。
 当然、俺は思いとどまらせるが、もはや決まったも同然で恵美と親父は話していた。
 どうやら俺の意見は無視らしい。
 もちろん、恵美の両親も半ば公認扱い。逃げ場がもはやなかった。
 で、大学で、という矢先で、親父が殺された。
 突然終わってしまった。
「なあ、恵美。俺にできることってなんだと思う?」
「……勉強」
「そうだよなあ」
 親父との約束。必ず決めた大学に行くこと。これは絶対だ。
 でも、心の奥底に一つの考えがくすぶっている。
 犯人を捕まえたい。
 俺のこの手で捕まえたい。
 それを恵美に言ったらどんな顔するだろうか。
 たぶん、烈火のごとく怒るに違いない。
 なんせ危険なことに違いないのだから。
 恵美を横目でチラっと見る。
 彼女は唸るように考え込んでいた。
 今はまだ昼だ。
 俺の親父が殺されたのは、夜中の十一時。しかも俺の近所だ。
 そんな奴がいまものうのうと生活をしていると思うと、怒りが湧いてくる。
「お昼だね。今日は作ってあげるから」
 そういうと、俺の返事を待たずに一階へ降りて行った。
 それを確認し、俺は懐中電灯を探し始める。
 探しながら考える。
 俺は犯人をどうするのか? 何がしたいのか。
 ただ、もし行く気になったなら、懐中電灯などは絶対に必要になる。
 行くか行かないかはそのあとで決めよう。
 俺は懐中電灯や使い捨てカイロを用意し、一階へ降りて行った。

 味がしない昼食を食べながら、俺は聞いてみた。
「恵美は、家で食べないで良いのかよ」
 言外に帰れと言ってみる。
 恵美は首を横に振って言った。
「ううん。もう話してるから」
 恵美はそれからじっと俺を見て言った。
「ダメ。危ないからあほなことしちゃだめ」
 恵美はやっぱり幼馴染だ。俺がやろうとしてることに気付いてる。
 でも俺はすっとぼけた。
「なんだよ勉強か? 勉強は当たり前だろ」
 綺麗に食べ終えて、二階へ向かう。
「どこ行くの?」
「勉強だよ。それ以外ないだろ?」
「じゃああたし、下で勉強してるね」
 そう言って、バッグから勉強道具を取り出してみせる。
「絶対勉強だよ」
「分かってるっつーの」
 俺はすぐさま二階の部屋へ閉じこもった。
 出口はこれで閉ざされた。
 だが、恵美は甘いな。
 俺はもう一つ、出口のルートを隠している。
 それは二階の窓から隣の木を伝って降りる方法だ。
 これは恵美にも言ってない。
 遠い小学生時代、俺がひそかに見つけたルートだ。
 鍵をなくしたときはなんどもお世話になった。今思えば、家のセキュリティー事情が心配になる

がな。

 夜になった。
 こっそり下に降りてみると、恵美は勉強している。
 このまま動かないらしい。
 俺はすぐさま脱出ルートを目指した。
 慎重に慎重に屋根を降りて、木に乗り移り、庭に降りた。
 そして親父が通り魔に刺された周辺の道路へ向った。
 俺は親父の恰好を似せて、コートを羽織って歩く。
 すでに季節は冬だ。
 吐く息が真っ白になる。
 こんなことしてなんになるだろうか。
 第一、通り魔が現れるとは限らない。
 もし現れたとしても、とっさに対応できないかもしれない。
 これじゃあ、親父の二の舞だ。
 現れなければいい。
 でも、現れてほしい。
 俺は複雑な気持ちを感じながら歩いていく。
「ふぅ」
 帰るか。そう思って、帰ろうと振り返ろうとしたとき、
「ばかやろう」
 小さい声だった。でもこの声は、俺の親父の声だ。
「え」
 足がもつれ、その場にへたり込む。
 すると、そこへナイフが通り抜けた。
 目の前には、フードから顔を出した近所の男が立っていた。
「なっ」
「チッ」
 俺はすぐさま2撃目を交わして、立ち上がって距離を取る。
「くそっくっそ」
 通り魔は悔しそうに俺をにらんでいる。
「なんだよ。こっちの方こそ、くっそ、だろ」
 まさか通り魔があいつだったなんて思いもしなかった。
 それに、親父の声だ。
「まあいい。お前を殺せば終わりだ」
 なぜこの男が通り魔になったかなんてわからない。
 でも許せなかった。
 しかし、俺は今武器を持ってない。
 あいつはナイフを持ってる。
 これは徹底的な差だ。
 俺は後ろ歩きでジリジリと距離をとってから、走った。
「待てえええええ」
 待つか馬鹿野郎。
 とにかく通り魔と距離を開けるためにめちゃくちゃ走ったのがまずかった。
 路地の奥は行き止まりだった。
 周囲は高いビルに囲まれて、空が遠い。
「はあはあ。ハハッ、これで万事休すだ」
 通り魔の男は出口をふさぎこむように手を広げ、右手にはナイフ、左手には鉄パイプを持ってい

た。
 路地の出入り口近くには、たくさんの長い鉄パイプが立てかけられている。
 奥へ行く前に取れば良かったと後悔するがもう遅い。
「くっ、ちくしょ」
「そうか、あんた、あいつの息子か」
 そう言って、通り魔はおかしそうに笑った。
「いいねえ、親子ともども殺す。最高だわあ」
 通り魔はそこから一歩もうごかず、手まねきする。
 俺は怒りで拳を握りしめる。
 挑発に乗るわけにはいかない。
「なんで殺した?」
「なんで殺した? ははっ、そこらへんにいる野良猫を殺すとどう違うんだ?」
「て、てめえ」
 俺は考えた。武器はこれしかなかった、
「あいつの死に顔、面白かったぜ」
「ちくしょおおお」
 俺は男へ向かって、鞄を投げる。そして全力疾走した。
 わずかな隙をついて逃げるんだ。
 しかし、鞄はあっさりとよけられる。
「馬鹿野郎」
 しかし、急には止まれない。
 あと2、3歩というところで、足がなにかに引っ張られるような気がしてもつれる。
「ははっ、しねえ」
 ――ガラガラガラガラ
 そこへ大きな音が響いた。
「うわあああああ」
 大きな鉄パイプが倒れる音。
 鉄パイプは通り魔に向かって奴の足を押しつぶした。
「ぎゃあああああ」
 ――ピーポーピーポー
 警察のサイレンだ。あれ、俺が連絡したか?
 そこへ、遠くから恵美の声が聞こえてきた。
 そしてすぐさま俺の頬を叩いて、抱きしめる。
「馬鹿」
 そう言って、俺を抱きしめる。
「あんたのこと、みんな心配してるんだよ。隣の家のおじいちゃんが、いつも世話になっている正

一坊主が、真剣な顔して屋根から伝って降りたって連絡いてきたんだから」
 ああ、そうか。俺の脱出ルート、いつも見逃されていたんだな。
「私が正一を見つけた時には、通り魔と対峙していて、慌てて警察に連絡したんだからね」
 なんだ、そうだったのか。
「こっぴどく叱られなさい」
 恵美は涙目で、俺をにらんだ。
 俺は腰をおろして座り込む。
「はは、親父ぃ」
 恵美に親父のことを話すべきだろうか?
 話しても笑って澄ましてくれるに違いない。
「恵美に感謝しなくちゃな」
「そうだよ」
 恵美は怒った顔をして言う。
 でもその顔を見ると、なんだか安心してしまう。これが俗に言う、運命かもしれない。
 その運命を考えると、どうやら俺は恵美の尻にしかれる運命かもしれない。
 そういう予感がしてくる。
 親父の小さな声の件は、その時話そう。
 俺はそう決めた。
 明日はクリスマス。その時に親父に謝ろう。
 無茶してごめんなさいと。
 男同士の約束、かならず守るからな。
 時刻はすでに12時を過ぎている。
 すでにクリスマスだ。
 おごそかで、でも楽しいクリスマス、そうなるようにしたい。       END

『クリスマスの馬鹿野郎』

もうちょっと深く書きたいな。
そろそろ、設定について取り入れてみようと思う。

ちなみに、明日明後日はクリスマス中止にはなりません><

『クリスマスの馬鹿野郎』

少しシリアス 親父の死と事件をきっかけに、決意を新たにする主人公のお話。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • アクション
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-22

CC BY
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