不確かな約束
ちらちらと、雪が降る。
空中を舞うそれは、花びらにも似て。
感覚を失うほど冷えてしまった手のひらに乗せても、すぐには解けない。
周囲はまるで音を失ったかのように、しんと静まりかえっている。
「きっと、また会おうね」
あの日、そう約束した。
君はもう憶えてはいないかもしれないけれど。
***
街外れの寂れた公園。
日も暮れて、街灯がぼんやりと辺りを照らす。
人影は無い。
クリスマス・イヴの夜は、きっと誰もが暖かい場所で、大切な人と、美味しいものを食べて、楽しく過ごす。
僕のように、雪が降る中、待ち人が来るという確たる保証もなく、缶コーヒーを片手に寂しく過ごす人はそう多くないだろう。
子供の頃の約束。
引っ越していった幼馴染み。
彼女がどんな顔をしていたか、それも朧げで。
それでも、なぜか忘れられない。
恋というには幼く。
しかしあれを何と呼べばいいのか、僕にはわからない。
あれから何年もたって、恋人も何人かできた。
それでもこの日は、あの不確かな約束を優先してしまう。
だから結局、彼女たちは僕に愛想を尽かし、毎年一人この場所で、来るかどうかもわからないあの子を待ち続ける。
***
腕時計に目を遣る。すでに夜八時を回った。
靴底は冷たい。足元は寒さで痛いぐらいだ。
缶コーヒーでは、体を温めるには足りない。
息は白く、降り続く雪も止みそうにはなかった。明日には辺り一面を銀色に染めるだろう。
今年も、彼女は来なかった。
不確かな約束は、不確かなまま。
残っていた缶コーヒーを飲み干し、近くのクズ入れに投げ入れた。
コートのポケットに手を突っ込んで、トボトボと公園の入口へと歩き出す。
強い風が雪と一緒に吹きつけた。凍てつく空気に思わず目を強く閉じる。
しかし、風が運んできたものはそれだけではなく。
「……ユウちゃん?」
微かに響く、優しい音色。懐かしいあの子の声音。
目を開けるとそこには。
柔らかい髪が暴れまわる風に乱されるのもそのままに、僕を見つめる女性の姿。
「……ユウちゃん、だよね?」
再び問いかけた彼女は、ふわりと口の端に笑みを浮かべる。
「……美和?」
こんな優しい柔らかい顔立ちだっただろうか。
ああ、でも、こんな日に、ここに現れるのは彼女しかいない。
「久しぶりだね」
「……ずっと、待ってた」
僕の声に、うん、と頷く美和。ありがと、と頬を染めながら。
「……その、寒いから、どこか喫茶店にでも行く?」
「そうだね」
なんとなく、彼女に右手を差し伸ばす。美和は黙って左手を差し出した。
握った手は、僕の手と同じように冷たい。
でもきっと、それほど時間もかからずにお互いの温もりで温まるだろう。
不確かな約束は、果たされた。
不確かな約束