ジゴクノモンバンⅡ(5)

第五章 コスチュームジゴク

「ほんま、さっきは、もうちょっとで、貴重な時間をつぶすとこやった」
「人間って、することないんでっか」
「することないんとちゃうんか」
「それやったら、人間やのうて、ひまじんや」
「上手いこと言うな。ひまほど、高いもんはないで」
「ほんまでっせ」
 青太たちはさっきのうどん行列とは別の商店街を歩いていた。この商店街も人通りが多かった。特に、人が広場に密集していた。
「ここも、うどんがあるんかいな」
「ちょっとさっきとは様子が違いまっせ」
「ちょっと、覗いてみよう」
「パパたちおりまっかいな」
 青太たちは、輪の中に入った。
「ここは、ジャングルガーデンやて。看板に書いてある」
「ほんま、人間で溢れていまっせ」
「それも、みんな、普通の服やないで」
「たぬきやきつねの着ぐるみがおりまっせ」
「ここは動物園かいな」
「警察官に看護師さんもおりまっせ」
「俺、制服に憧れるんや」
「僕もそうでっせ。虎柄のパンツでは寂しいおまっせ」
「正義の味方のウルトラマンやファイブレンジャーもおるなあ」
「テレビの収録でもやっとんですかね」
「野球やサッカー、バスケットボールのユニフォーム姿の奴もおるわ」
「バスや消防車、飛行機もおりまっせ。なんや、バラバラですねん」
 青太や赤夫が立ち止って、周りを眺めていると
「青鬼に赤鬼か。これは、いい。他の誰も、鬼のかっこうはいないよ。君たちも参加してくれるんだね」
 青太たちに話掛けてきたのは、胸に大きなSの字をつけた服を着た若い男だった。
「僕がこのイベントの仕掛け人なんだ。今日は、みんなに好きなかっこうをしてもらい、日々のストレスを発散してもらうんだ」
「ストレス?」
「発散?」
「そうだよ、現代人はストレスがたまるばかりで、発散する機会が少ないんだ。人類は、これまで、どこかで、ストレスを発散して、生きてきたんだ、そう、 昔の祭りのように。君たちも、学校や勉強で日頃から、ストレスが溜まっているんだろう。だから、そんな鬼のかっこうをしているんだろう」
「鬼のかっこう?」
「かっこうやのうて、僕たち、ほんまの鬼でっせ」
スーパーマンが目をまるくして、二人の姿を見る。
「あっはっはっは。そうだ。そうだ。本当に鬼だ。これは大変失礼した。今日、集まってくれた人は、身も心も本物になりきっているんだ。主催者の僕としたことが、大変失礼な発言だった。今日一日、君たちも、鬼として楽しんでくれ。じゃあ、僕は、ここで失礼する。イベントを運営しないといけないからね。青鬼君、赤鬼君、それじゃあ」
 スーパーマンは、広場の舞台に駆けあがると
「みんあ、盛り上がっているか!」
とマイクを片手に右手の拳を宙に向かって突き上げた。
「おおおおー」
 様々なコスチュームや着ぐるみの人々が、同様に右手を挙げて、その声に応える。
引き続き、舞台では、お化け姿とセーラー服姿との司会者が「ただいまから、仮装大会を開催します」と宣言していた。
 商店街には、マスコットキャラクターなのか、おさげ髪の女の子や年寄りの猫、ひよこの着ぐるみがチラシを配っている。青太たちはジャングルガーデンの広場から出て人ごみを抜けて、商店街に戻った。
「にぎやかやなあ」
「にぎやかや言うよりも、じゃかましいと言ったほうがいいんと違いまっか。誰が誰かわかりまへんがな」
「着ぐるみやコスチュームで素顔がわからんからなあ」
「みんな楽しいんでっかなあ」
「こんだけたくさんの人が集まっとんのや、楽しいんやろ」
「裏を返せば、集まらんかったら、楽しいんないんとちゃいまっか」
「そりゃそうや。普段の生活は、寂しいんと言うことかいな」
「みんなの本音は着ぐるみで隠されてわかりまへんけど、そうちゃいまっか」
 青太と赤夫は、腕組みしながら、この風景を眺めている。
「さあ、君たちも一緒に行こう」
 誰かが青太と赤夫の腕をとった。振り返ると、さっきのスーパーマンだった。
「今から、街を練り歩くんだ」
「練り」
「歩くんでっかあ」
「練り」
「ようかん食べたいなあ」
「練」
「馬は大根や」
 青太たちも父親捜しを兼ねて仮装行列行進を始めた。
「よtしゃ。よっしゃ」
 大きな掛け声とともに商店街に現れたのは、たぬきの形をしたふわふわドームだった。その中では、お面を被った子どもたちが、赤や黄色、様々な色の声を上げながら飛び跳ねている。
ドームを、お内裏様やお雛様、鯉のぼり、水着姿、ハロウィーン、サンタ、メイド、レースクイーン、チャイナドレス、アニマル柄など、思い思いのコスチューム姿に変装した人々が周りを囲んで動かしている。
「なんや。季節感や統一性はないなあ」
「ほんまでんな。ええよういに言うたら、全ての季節や世界を包含しているのと違いまっか」
 行進している者は、踊ったり、沿道の人に手を振ったり、飛び跳ねたり、知人に合わないようにか、何もせずに俯いたりしている。無理やり、お祭りに参加させられた青太と赤夫。
「何やわからんけど、みんな盛り上がってるなあ」
「楽しいと違いまっか」
「無理やり喜んでいるような気もするけど」
「生きることも無理やりでっせ」
「死ぬんも無理やりやなあ」
「ジゴクに登るんも無理やりでっせ」
「それは、自業自損や。これで、友だちができるんかいな」
「みんな、仮面なんか被って、誰が誰かわからんから、友だちになりようがないんと違いまっか」
「いや、誰が誰かわからんから、友だちになれるんや」
「ほんまでっか」
「そうや。ここに来たら友だちになれるんやろ」
「ほな、普段は?」
「赤の他人や」
「たまには、青の他人と言うてえたあ」
「青じゃなく、黄や紫でもええんかいな」
「どうせなら、虹色の他人はどうでっか。全て含みまっせ」
「意味がおかしくなるんと違うか」
「意味なんて、後から付けたもんが勝ちでっせ」
「そんなもんかいな」
「そんもんでっせ」
 青太たちと虹色の他人とたぬきのふわふわドームの山車は進んで行く。
「ゴール」
 拡声器から大音量が流れた。さっきの、スーパーマンの声だ。参加者や沿道からはやんやの拍手。3つの商店街が交わる屋根のドームが終着点だった。参加者は、あっと言う間に散っていった。主催者だけが山車の片付けをしている。
「どうだった?」
 スーパーマンが青太と赤夫に尋ねてきた。
「どうって言われても、なあ」
 赤夫に同意を求める青太。赤夫は
「いやあ、楽しかったです。
と、スーパーマンに調子を合わせる。
「また、来月もやるから、是非、参加してね。僕は片付けがあるから」
と、チラシを渡し、仲間の元に向かう。残った二人は、
「なんや、終わった後が寂しいな
「祭りの後でっせ」
「山車の中に、父ちゃんいなかったなあ」
「パパも参加しているかと思ったけど・・・」
「気を取り直して、父ちゃんを探すか」
「そうしまひょ」

ジゴクノモンバンⅡ(5)

ジゴクノモンバンⅡ(5)

第五章 コスチュームジゴク

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-21

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