365Ⅱ

365Ⅱ

…話をしよう。とある旧約聖書の偽典を下敷きにした某・国産神ゲーの、発売前後の公式発表情報のみから触発されたインスパイア二次創作シナリオ風小説だ。発売の半年も前からキャラ捏造妄想が炸裂したせいで、後になって見たらゲーム本編にはほとんど準拠していないとか…あいつは話を聞かないからな。え?私が誰かって?それは昨日言っただろう。ろっとぉ…これは君たちにとっては明日の出来事か。
まあ、思い当たる節がある人は公式サイトの方にも参拝しに行くといいんじゃないかな。私も嬉しいしね。> http://ow.ly/5ekDM  

ゲーム「El Shaddai: Ascension of the Metatron」の発売前後から構想された妄想捏造二次創作シナリオ風小説です。
この原作に関しては製作サイドの中の人みずからインタビューとかで「二次創作歓迎です」と何度か仰っていたので、調子づいてピクシブで連載みたいにした後、自著の電子書籍公開後特典アップデート付録として全話収録したものです。→ http://p.booklog.jp/book/70410
ゲーム本編冒頭と資料集で軽く触れられただけの、主人公イーノックが堕天使達のタワーを探す「365年の旅」を妄想して描いているうちの後半です。(※書かれた時期は原作小説発売より前)
物語内には主人公イーノックと大天使ルシフェル、あとはイーノックが道中出会う筆者オリジナル設定の人間達が出てきます。


あらすじ、と解説2
あらすじ
重大な「使命」を帯びた旅人の「彼(イーノック→文中略称イノ)」を見守る「私(大天使ルシフェル→文中略称
ルシ)」の解説というかたちで場面進行する。天界から帳の下に降りて、タワー直前の道のりまでを描く。主人公の心理
の変遷。
■公式設定集情報(※数字は旅を始めてからの年数)
旅 の始まり0→旧師との邂逅1→初めての仲間3→小さな声援3〜5→長旅の暗示6→特異なる占い師(東洋)7→忍びよる追
手10→離れゆく心17〜21→ アークエンジェルの加護23→それぞれの人生25〜34→不審の眼差し42〜53→目障りな旅人56
〜60→友の墓前で72〜89→助言者からの贈り物 92〜99→百年目の手掛かり100→終着地からの来訪者200〜227→立ち塞
がる刺客284〜365

この物語はシナリオ形式で、「365 Ⅰ」の続きです。(※後のストーリー展開については、あとがきをご参照下さい)

第九章 国王の胸飾り

とある国の、国境近くの小さな村に、不似合いなほどの立派な行列がやってくる。「国王の使者だ!」
行列から着飾った偉そうな使者が進み出てくる。向かう先は粗末な家。中ではイノが近くで魔物の呪いに掛かってしまったという村人を浄化してやったばかり。使者の登場にも特に変わった様子はない。
使者 「お前が近隣の国々で奇跡を起こすという噂の、旅人のエヴェドか。これは我らが国王の有り難いお召し出しである。これより案内するゆえ、謹んで宮殿へ参上するように!」
村の高い木の上に寄り掛かって、面白そうに行列を眺めている黒い影。
ル シ・語り 『あいつの教えてやる薬草や治癒の知識や、呪いを浄化する力が、この頃にはすっかり諸国に知れ渡っていてね…おまけに、その彼は「不死身だ」とい うから、権力者どもが放っておくわけがない道理か。しかし、この時点ではまだ「名高い英雄を出来れば己の懐に引き入れたい」「あわよくば、その不老不死の 力の謎を解明し、我がものとしたい」…そんな打算まみれの逡巡がこういう召集令状だ。』
村の者たちが、さっき浄化された怪我人も含め恐れ入りまくっている中で、一人平然としているイノ。
イノ 「…大変申し訳ないが、私のただ一人の”あるじ”は既に別の高き場所におられるので、貴国の国王陛下からのその召し出しに応じることは出来ない。他を当たってくれ。」
予想外の答えに使者はぽかん…とし、周りの者がぎょっとなる。慌てた様子で行列に戻り、「…しかし何としても連れて参れと命じられている!」とかごにょごにょ話し合った後、ゴホン、と会話を再開する。
使者 「…エヴェド殿を、尊い教えをたずさえた”賢者”として我が国の宮殿にお迎えしたい、との王のたっての願いである。どうぞ我らとともに宮殿までお出で願いたい。」
イノ 「そういうことであれば、私もやぶさかではない。神の教えはまことに尊いものだ。では参ろう。」
あっさりと返事するイノ。木の上で聞いていたルシがあーあ、と苦笑する。
ルシ 『…こんな風に、神の威光をいや増すため、と言われると簡単にコロッと警戒心を無くしてしまう所は、もう少し何とかならないものかと思うんだがね…憎めないというか、実に彼らしい、というか…。』
威圧するような豪華な宮殿に入る行列一行。その中で、粗末な旅のローブの大柄なイノは、丁重にもてなされているようにも、逃げ出さないよう監視されているようにも見える。
謁見の間にすぐ通されるのかと思いきや、それとは違う窓の無い空間に案内され、目の前には何人もの装飾過多な服を身に付けた神官たちがいる。一様に厳しい表情をしている。
ル シ・語り 『…この王宮付きの神官たちの目的は、彼にいわば「神学論争」をけしかけ、その矛盾や裏を暴いて国王に密告し、神がかりの英雄としての彼の権威を 地に叩き落とすことだった。…連中にしてみれば、神に仕える自分達を飛び越えて直接、神と交信を持てる者など断じて居てはならないんだ。』
神 官た ちが執拗に問いを投げかけ、それに淡々と平然と、端的に答えを返すイノ。あまりに自然な様子で「それには神はこう仰られた」「それは神の御意志に沿わな い」等ストレートに言ってしまうので、次第に神官たちの方が焦って、不安げになってくる。とうとう論争は中断。イノには豪華な宴が用意される。
論争の模様を別室から覗き見ていた王に、神官たちが口々に例の旅人の危険性を説く。
神官 「王こそは地上における神!あのように不遜なものを生かしておいては国を危うくします!」
神官 「左様!あ奴は全く王の権威を認めてもいなければ、恐れもしていない。邪教の徒に違いない!」
それを聞いている王自身もひどく不快げな表情。いらいらと玉座の前を歩きまわる。…壁際に腕を組んで立っていたルシが、あからさまに軽蔑するような視線を投げた後、指を鳴らし部屋から姿が消える。
宴の席のイノ。目の前で肌を露出させて華麗に踊る一人の踊り娘に目を奪われる。あまり熱心に見ていたので、侍従が気を回して「そんなにお気に入りでしたら…(にやにや)」と別室を用意される。
イノ 「え、いや…その、別にそういうつもりでは…参ったな。(汗)」
踊り子 「…賢者さまは、あたしがお嫌いですか?(うる)」
イノ 「ち、違う。君をあんなに見ていたのは…昔の”友達”を思い出したからなんだ。踊りが好きでね…」
踊り子 「その方も、踊り子だったの?」
イノ 「いや。彼は…何と言えばいいのかなぁ?でも、踊りや人間の文化が大好きで、それに心惹かれるあまり、道を踏み誤ってしまった…早く彼の魂を救って、元の道に戻してやりたい…。」
聞いていた踊り子が急に興ざめしたような顔で、目を伏せながら言う。
踊り子 「…ふうん。じゃあ、その友達はずいぶん”お馬鹿なひと”ね…。」
イノ 「…え?」
踊 り子 「だって、”好き”ってだけで毎日踊りを踊っていられる人なんか、いやしないわよ。皆、おまんまを食べなきゃならないんだから。一回ごとに人にお代を もらって頼まれた節を踊るか、さもなきゃ、あたしみたいに…金と力のある偉い人の持ち物になって、その人を喜ばす為だけに、その人らの好きな曲を踊り続け るか…。それが人の世の中ってもんよ。だから、その友達は”お馬鹿”だっていうの。」
イノ 「…。」
踊り子 「今のあたしのあだ名、知ってる?”国王の胸飾り”っていうのよ。これってお気に入りの証拠だって思えば有り難いような気もするけど、でも、”モノ”なのよ。奴隷の鎖が金で飾ってあるっていうだけ。」
イノ 「君は…いま、幸福ではないのか?」
踊り子 「さあ…そんなの考えたこともなかった。でも、もし自由の身になれたら、もっと別に踊りたい演目はあるかな。さっきの宴会見たでしょ?誰も、あたしたちの踊りなんか本気で見てやしないのよ。」
ニコッと踊り子が神妙な顔になったイノに笑いかける。
踊り子 「だから、あなたが踊るあたしをあんなに見つめてくれて嬉しかった!もっと踊ってあげようか?」
イノ 「…ああ、そうだな。せっかくだから今一度お願いしようか。今度は君の好きなのを…」
そこへ突然扉が開いて、ドカドカと衛兵がなだれこんでくる。驚いている女の目の前で、先程とは打って変わった敵対的な態度でイノに武器を突き付けて、牢へと連行する兵士たち、侍従。
玉座の間では王が猛り狂ったように吼えている。
王 「神官らによる神学論争の結果は明らか…奴の正体は「神の僕を詐称する者」に過ぎぬ!永遠の命を持つ者などいるはずがないのだ。…エヴェドを抹殺せよ!決して生かして城の外へ出すでないぞ!」
兵士たち 「おおお!」
既に牢に囚われているイノは何も知らないが、何となく城内があわただしいな…とは思っている。と、見張りの兵士の交代の隙を見て、人影が滑りこんでくる。あの踊り子だった。
イノ 「君は…!あぶない、こんなところで何をしている?」
踊り子 「待っててね、今助けるから…まかせて。伊達に長くお城で暮らしちゃいないわ!」
どこからくすねてきたのか、合鍵で牢を開ける。続いて薄重ねの衣の裾に隠していたアーチを手渡す。
イノ 「ありがたい。どうして私の為に、こんな…?」
踊り子 「ふふっ、何でかな…きっとあなたが放っておけない感じのする人だからね。それに、私の踊りを気に入ってくれた大事なお客さんだし。」
と、背後が騒がしくなって兵士たちに発見される。観念したように踊り子がイノに叫ぶ。
踊り子 「…さぁ何してるの、早く行って!このままじゃ二人一緒に殺されるわ!」
イノ 「いや、駄目だ。ここから逃げるなら君も一緒だ。」
踊り子 「えっ?え…?」
そ のまま当然のことをするようにイノが踊り子を腕に抱き、窓を突き破る。城のそれなりに高い階だったので、兵士たちは「あぁ落ちて死んだな…」と下を見るが その痕跡がない。「おい、あれ!」誰かが大声を上げ、その方向を見ると、女を胸に抱えたまま、アーチを体の前に構えて滑空していくイノの姿。
後ろから見るとそれが「白い翼を広げて空を滑るように飛んでいく」ように見える。
兵士たち 「翼が…あれは…天使か?そんな馬鹿な…」
呆然とする兵士たちの頭上、石造りの縁に腰掛けていたルシが薄く笑っている。
ル シ・語り 『…この後、彼らは旅人に追手を掛ける暇を無くしてしまう。脱出の一部始終を見ていた者が城内に結構な数いてね…その者らは”純白の翼を持つ神の 御使いを刃に掛けるなどとんでもない”と、激しい論争になったんだ。やがてそれは日頃の支配層への不満と結びつき、ついには宮廷内の内紛にまで発展して、 他国の武力による干渉を招くことになった…。』
ル シ・語り 『…んっ?私?はは、私は何もしてやしないよ。神を畏れぬ愚かな王が自滅しただけの、よ くある話さ。民にとっては支配者が入れ換わるだけ。別に大したことじゃあない。…こんな取るに足りないつまらぬ者たちが「我こそは地上の神である」なんて 諸国で競い合ってるなんて笑えると思わないか?』
川べりの岩に腰掛けてルシが目を向けた先には、顔を洗ってさっぱりした表情で空を見上げるイノの姿が。そのつかのま長閑な様子に目を細めつつ、すぐ表情に憂いを漂わせるルシ。
ル シ・語り 『…ただ、あいつにとって気の毒だったのは、この騒動の噂が周辺諸国にも広まって、一気に「神秘の力を持つ、不老不死の旅人」を危険視する権力者 が増えたってことだ。エヴェドの名は目の敵にされてるから、もう使えないね。…それに、嫌われるだけならまだしも、懸賞金を掛けられ、追手まで仕掛けられ る身分になろうとは、あいつは夢にも思ってなかったんじゃないかな。…本人は誰に恥じることもなく、あくまで正しいことをしているのにね。』
ル シ・語り 『…少なくとも、彼の何番目かの偽名であるエヴェドという名前をずっと忘れず、感謝し続けた者がいるとしたら、それはあの踊り子の彼女だろう な。…無事に彼と離れた後、別の国の都に移り住んで、そこで孤児を集めて養育しながら舞踊を教える施設を始めたそうだ。王侯だの神殿だの豪商だのから運営 資金をひっぱってくる手腕は、なかなか女だてらに大したものだったね…感心したよ。』

第十章 なつかしい墓の前で

森の中。ザザザッ!と草を踏み分けながらイノが走って来る。大きな木 のうろを見つけ、とっさにそこに身を潜ませる。 息を殺していると、直後に武装した大人数の兵士が「あっちだ!」「逃がすな!」と叫びながら通り過ぎる。イノは辺りが静かになるまで動かず、緊張した表情 を崩さない。
イノ 「…ふぅ、行ったか…。」
ようやく身を起こし、その場に座り込む。喉がカラカラになっていたので革袋を取り出して上に向けるが、ぽたぽたっと水滴が垂れただけだった。
イノ 「水を補充しないとな…それに食料も…」
ぼんやりと呟いた顔には重い疲労が滲んでいる。目の下には隈も出来ている。
少し離れた木に寄りかかってイノを見つめている黒い影。無表情に。
ル シ・語り 『…地上で神を僭称したがる国王たちが、本物の神の使いである彼に追手をさし向けるようになってから、大分経っていた。それでも、追跡の手は緩め られることなく、王たちの恐怖心の深さを物語っているようだった。そして兵士たちによる追跡以上に、彼を追い詰めていたのは…人々の”欲”だ。』
イ ノが森の中の清流に降りて水を汲んでいると、何処からか悲鳴が聞こえた。ハッ?となってそちらへ駆け出す。少し下流の開けた場所で、一人の老人が大きな熊 に圧し掛かられていた。今にも喉に食いつきそうに興奮している熊の様子にイノ「いかん!」と思ってためらわずに猛然とタックルを掛ける。
巨大な熊と正面から組み合う形になる。全身で重量を受け止めつつ、熊の目をキッと見据えて言う。
イ ノ「…気を静めてくれ!この人はお前の縄張りを荒らす者ではないし、私もお前の敵ではない!森の食物が豊富なこの時期に、お前たちが無闇に人を襲う理由が ないことくらい、分かっている。お前は神が山の自然の秩序のもとにお造りになった、仲間なのだから。…お前を殺したくないんだ、頼む…!」
その必死の訴えが聞こえたのかどうか、急に熊が大人しくなってイノの体を放す。向きを変えて歩き出すと、どこからか子熊が姿を現し、二頭で挨拶するように頭を下げて森の奥へ去って行く。
イノは老人を抱き起こすと、目立った傷が無いことを確認してから、小さな体を背負って山を降りる。
老人 「…旅のお方、申し訳ねえ。私ゃこの通り目がよくねえものだから、熊公が近付くのに気付かなくて…うちの婆さんの体が悪くなって、ここの水場に生えていた薬草がよく効くのを思い出してなぁ…。」
イノ 「そうか。目が不自由では薬草を処方するのも難儀だろう。私に出来ることがあれば手伝うので、何でも言ってくれ。…家は里にあるのだろうか?」
老人 「いえ。里を少し外れた、山の入り口にあるんでさ。どうも私ゃ付き合いの悪い性分でして…」
人里の中では無い、と聞いて少しほっとしたように見えるイノ。その背中を呆れたように見送る黒い影。
老 人の家につくと、薬草を処方してやる。老夫婦は訪ねてくれた親切な旅人に心から感謝して、さっきの熊と組み合った時の傷を見つけると恐縮がって、しばらく 滞在して体を休めて行くように訴える。イノもそれを有り難く感じて、かわりに薪割りや屋根等の修繕をすることにする。久しぶりの平穏な日々。
老人 「あんた、ほんとに心の綺麗な、良い人じゃ…あんたのような息子がいたらなあ…。」
イノ 「お二人には、子は、おられないのだろうか?…もし、失礼でなければ…」
老人の妻 「…いえ。昔はね、うちにも立派な息子がいたんですよ。でも、何年も続いた他国との戦争に駆り出されて、それっきり…あの子が生きていたら、もう孫だって何人もいる年かねぇ…。」
イノ 「…そうか…つらいことを思い出させてすまなかった…。」(そういえば庭に小さな墓石があった)
老人 「いや、もう過ぎたことですよ。さいわい里には親類の者もいますし、妻と二人でここで平和に余生を終えようと思ってたことです…あんたのような方に会えたことは、きっと神様のお引き合わせじゃ。」
老人の妻 「そうですよ、そうですよ。どうぞ気の済むまで英気を養って行って下さいな。」
イノ 「…有り難い。恩に着る。」
部屋の外で、壁に寄りかかって会話に耳を傾けている黒い影。口元は穏やかに微笑している。
ルシ・語り 『あいつにとっては、追手がかかるようになって以来の、久しぶりに心休まる時間だったが。それがもうあまり長く続くことが無いのは、あいつ自身もとっくにわかっていたんじゃないかな…?』
数日後。この冬の分の薪割りを全て片づけ、水で汗をぬぐいながら老人と談笑しているイノの姿を、里からたまたま訪ねてきた老人の親類の者が見つける。あわてて老人の妻のところに行き、
親類の者 「…おい、ばあさん!外に居るあの男は何者だ?」
老人の妻 「ああ、あの方は親切な旅の人で…熊に襲われたうちのお爺さんを助けてくれたのよ。それに、あの人の作ってくれる薬湯のお陰で、私も最近すっかり体の調子がよくなってねぇ…」
親 類の者 「間違いない!あの男は、あちこちの国から懸賞金が掛けられている、あの”偽りの神の使いを名乗り、あやしい神秘の技を行う旅人”だろう!…俺にも 運が向いてきたぜ。婆さん、なんかうまいこと引き止めて絶対に奴を逃がすなよ!今、町の衛兵詰所に知らせてくるから!」
興奮して飛び出して行く相手を、おろおろしながら止められない妻。半分泣き顔になりながら、外の老人とイノを呼ぶ。老人の妻 「ああ、どうしましょう…」
老人 「こいつぁいけない!早く逃げて下さい。後のことは私らが何とか…」
イノ 「…しかし、それではお二人に迷惑が掛かってしまう。私は衛兵が到着するまでここに居よう。」
老人の妻 「そんな、無茶ですよ!すぐに殺されてしまいます…あなたには懸賞金が掛けられていると!ああっ神様、何て惨いこと…(さめざめと泣く)」
イノ 「大丈夫だ、問題ない。私は慣れているし、こういうことも覚悟してここへ来たのだから。」
焦 る二人を逆に慰めるようなイノの言葉を、戸口でやれやれ…という顔で聞いている黒い影。ふと眼を上げると、さっそく坂道を昇って来る完全武装の兵士たち が。不愉快そうな顔で舌打ちしようとして、家の横の方で別の何かの動きに気づくと(おやっ?)とニヤリと笑って手を降ろし、姿を消す。
物音を潜ませて家の周囲を兵士たちが取り囲んだ時、家の中でアーチを構えて緊張していたイノの耳に突然の騒音が飛びこんで来る。”これは、悲鳴か…一体何が?”外を覗いて、ハッとなる。
あの時の水場にいた大熊が、兵士たちの群れに突っ込んで手当たりしだいに噛んだり爪を立てたりして襲っている。その勢いに兵士たちは完全に不意を突かれて腰砕けになっている。”…今だ!”
イノ 「お二人とも、大変世話になった。どうかいつまでも息災で…。」
老夫婦 「ああ、お気をつけて…きっと神様が、あなたを守って下さいますように!」
バ ン!と扉を開けてイノが飛び出す。騒然となる兵士たちの主力をアーチを構えて軽々と飛び越えると、囲まれて武器をけしかけられている熊の方へ向かう。神業 じみた体術で一瞬に四、五人の男たちを吹き飛ばすと、待っていたかのような熊にまたがり、そのまま風のように山の奥へと走り去る。一瞬取り残された格好の 兵士たち、我に返るとあわてて「にっ、逃がすなー!」「追えー!」と叫んで走り出す。
ルシ 『一説に、灰色熊の最高時速は60km/hとも言われているからね…彼らがいくら追ったところで、間に合わないだろう。それに、この形ならば老夫婦に危害が及ぶこともない。悪くないんじゃないか?』
そっと振り返ると、戸口のところでは老夫婦がイノの消えた山の奥に向かって一心に祈り続けている。
ルシ 『…そうだな。あいつにしては上出来な絞め方だったんじゃないか?功労者はあの熊だけどね…』
森の奥深く。数本の矢傷を負っていた熊に傷の手当てをしてやってから、イノは彼女に別れを告げる。
イノ 「有り難う。おかげで無益な殺生をしないですんだよ…お前たち親子に神の御加護があるように。」
熊は嬉しそうにイノの手に鼻をこすりつけると、子熊のところへ帰って行った。熊と別れたイノはさらに山の奥へ奥へと進み、時折、老夫婦から貰った保存食を食べて休息し、大きな山脈を越えて行った。
ひときわ高い山脈の稜線に出て、周囲を見晴らしたイノが、あることに気づく。見覚えのある景色。
イノ 「あの山々の形、ここは…ということは、もしかしたら、あの山の向こうには…」
懐かしい何かを思い起しているような、遠いまなざしになっている。誰にともなく呟いている。
イノ 「…少しだけ、ほんの少しだけ…自分の心のままに、寄り道をすることを許して貰えるだろうか…?」
答 えが無いので黙ってまた歩き出す。森を越え、沢を渡り、イノが辿り着いたのは、山を越えた隣の国にある、一見なんの変哲もない高台にある崖だった。その景 色の良い場所に、すっかり苔生した小さな石が明らかに人の手で置かれてあった。イノはその石の周りを綺麗にし、水と僅かな食糧を供える。
そして、ひざを付くと、まるで生きている人間に語りかけるように、小さな石に向かって微笑んだ。
イノ 「…昔、君はよく”物心ついた時から奴隷の身分だったから見下ろされるのが嫌いなんだ”と話していたね…だから、いつも雲が掛からず、眺めの良いこの場所に、君の亡骸を運んで葬ったんだよ…。」
じっ とその古びた石―墓石を見つめるイノの脳裏には、かつて自分に、忠実な犬さながらに最も長い間、過酷な旅の道連れであった一人の男の姿があった。最後に見 守った、弱り切った老人の姿に重なって、まだ若かった頃の、ちょっと卑屈だが気のいい笑顔が浮かぶ。愛おしげに目を細めるイノ。
イ ノ 「…もう何年 になるのだろう?あの時、君を見送ってから…とうとう私は、本当に独りぼっちになってしまったんだよ。多くの国から追われる身の私は、誰の近くにいること も出来ないし、誰も、私を手助けしてくれたりは、もう出来ない。今の私は…一体何のために戦っているのだろう?誰を救うために…?」
どこか放心したような、哀しげな表情のイノ。がくりと首を項垂れて、下の地面にぽたり、と滴が落ちる。
イノ 「…これからも、私は一人なのだろうか?…何だか、酷く疲れたよ…いっそ君の近くへ行けたら…」
そ のまま何時間も座り込んでいる。やがて日が傾き、影が長くなった頃に、ようやくイノが顔を上げる。それでも表情は暗く虚ろなままで、やっと立ち上がる脚も 鉛を引きずるように重そう。…ふと、前を見たイノが心底意外そうな、はっ?とした表情になる。夕日になかば溶けるような光を浴びながら、森の木に寄りか かっている黒い影をまとった男を見つける。まっすぐこちらを見つめる目はどこまでも穏やかだ。
イノ 「…ずっと、見ていたのか…?」
ルシ 『ああ。…お前があの墓の手入れを始めてから、ずっと、な。そうか…あの男の墓参りだったのか。お前がわざわざ寄り道を宣言して、ここへ来た目的は。』
イノ 「…。」
さっきの弱音も聞かれていたのか…と思い、いたたまれない顔になる。相手は全く気にする風もなく、歌でも歌うような調子で言葉をつむぐ。
ル シ 『いいんだよ。お前が望むとおりにすれば。そういう存在であるお前を愛でたからこそ、”彼”はお前を召し上げ、通常の人間とは異なる使命を与えた…そし て、”彼”がそのようにして選んだお前を、私は好ましく思っているよ。迷い、嘆き、さんざん回り道をしつつ自由な選択をする、人としてのお前を。』
イノ 「え…?」
ルシ 『自由に選択して行け、と言ったんだ。』
急にイノがそわそわと思い悩む風になり、意を決したように問いかける。
イノ 「あなたは…どうして私を見ていてくれるんだ?以前、託宣を受けた時に、私には”四大天使の加護がある”とは言われた。しかし、その中にはあなたが含まれていない…何故だろう?あなたは一体…」
ルシ 『うん、私か?…何だ。そんな話か…わかりきったことだよ。私が、この私であるからだ。』
イノ 「…?」
ルシ 『言っただろう?お前を気に入っていると。素朴で、親切で、正直で…誰よりも信仰心が篤い。そのようなお前を好ましく感じる、そういう存在として”彼”に創られたから、私は、それに素直に従うんだ。…”彼”は、絶対だからね。これでも、まだ疑問があるか?』
イノ 「うん。わかったような…わからないような…。」
ルシ 『わからなくていいんだよ。”彼”の考え行うことを全て理解出来る者などこの世にいるものか!ただ一つのことだけ、お前はわかっていればいい…。つまり、私が私である限り…』
子供のような真剣な目で自分を見つめるイノに、影の中でひっそりと微笑を返す。優しく、包み込む瞳。いたずらっぽくひょいと片眉を上げる。
ルシ 『…私は、いつまでもお前の側に居るよ。』
イノ 「…!」
ルシ 『だから、お前も、お前でいればいいのさ。』
イノ 「…”在るがままで在れ”、ということか?」
ルシ 『そういう言い方をする場合もあるな。』
イノ 「そうか…そうだな。」
どことなくホッとしたような、何か重いものから解放されたような表情で何度も繰り返すイノ。その様子に目を細めながら、さらに影が言う。
ル シ 「お前の心の赴くまま、自由に行け。お前を迫害する愚か者たちまで無理に救いたいなどとは思わずとも、きっと”彼”は許してくれるだろうさ。…そのへん は放任主義だからな。それに、世界の全てが敵に回ったように見えたとしても、あの老夫婦やお前の友のように、私欲なくお前を助けようとする者は、これから も現れるだろう。そういう者たちだけを救い、守ってやりたいと思うことも、お前の自由だよ。」
じっとその言葉に聞き入っていたイノ、やがて迷いが晴れたような澄んだ目できっ、と顔を上げる。
イノ 「…いや。やはり私はみんなを、全てを救いたい。この世界に生きる、全てを…。」
ルシ 『ふうん…いいんじゃないかな。それがお前の選択なら、私は全てを見守るだけだよ。』
イノ 「有り難う。こんなに沢山あなたとじっくり話を出来たのは初めてだな!何だか嬉しい…」
ルシ 『そうか?私は、いつもお前の”心の声”を聞いているけどね…そうそう、随分昔の女のことを考えている時なんか…』
イノ 「う、うわぁぁっ!?やめろ!頼むからやめてくれ…!(汗)」
フッへへ嘘だよ、と言われても赤面が戻らない。「ああ、神よお許し下さい…」とか天を仰いでいかにもクソ真面目に懺悔している。
最後にもう一度だけ懐かしげに墓石を振り返り、高台を降りて行くイノの足取りは、以前のしっかりしたものに戻っていた。やさしく見守る影は宵闇にほとんど溶け込み、頭上には星が輝き始めている。消える間際に影が小さな墓を振り返り、親しげに、そっと囁くように言った。
ルシ 『…私は死神ではないが。お前との約束は、果たしたよ…あまり私の冗談はウケなかったがね。』

第十一章 天空からの贈り物

妖しげな装飾品に満ちた天幕の中。男と女が向き合っている。
女 「ミドラーシュ、あなたに大天使ラファエルからの贈り物があるそうです…」
儀式によってトランス中の占い師の女が渡したのは、透明な液体の入った小瓶。
ルシ・語り 『…それは体力を回復させるアイテムだった。ちょうどその直前に広大な砂漠を越えて、疲労が溜まっていた彼を心配したのだろうな。…なかなか良い選択だと思うよ…。』
イノが液体を口にすると、がさがさだった唇や皮膚が潤いを取り戻す。体力回復し、眼にもまた輝きが戻っている。驚いている彼の耳に、珍しく見えない大天使の声が。
ルシ 『それを持っていれば渇きとは一生無縁でいられるぞ。液体が減ることは無いが、大事に使えよ。』
イノ 「ああ…これは有り難い。」
占い師の天幕を後に、一人旅を続ける。途中で立ち寄ったオアシスの町でなにやら人々が沈痛な顔。
事情を聞くと、大事なオアシスの水源が急に枯れ始めていると。
それを聞いたイノ、「よし。何とかしてみよう。」と言ってジーパンひとつになって井戸掘りを始める。
イノ 「…みんなも手伝ってくれ。ここにある道具だけでも深く掘ることが可能な採掘方法だから。」(イノは気づいてないが、だいぶ未来の「上総掘り」的な技術)
ルシ 『やれやれ…あいつ、また回り道か…ホント物好きな奴だよ。』
何日もみんなで掘り続けて、もうとっくに水が出ても良い深さまで達したのにまだ出ない。訝しがるイノ。
イノ ”これは…もしかしたら、「あの者達」のたくらみのせいで、何処かで水脈が断ち切られて…?”
町の人々も掘り疲れて絶望し始める。沈鬱なムードが町を覆っている。
人々 「ああ…水が出ないのでは、もうこのオアシスは駄目だ…中継地である此処が途絶えてしまえば、この街道筋そのものがお終いだろう…みんなで何処かへ移住するしかない…。」
落ち込む人々の様子を、高い場所からまったく他人事のような顔で見守る、黒い影。
イノ、空の井戸を覗き込んでいたが突然、何か決心したようにキッと顔を上げると、懐からあの贈り物の美しい小瓶を取り出し、そのまま井戸の底めがけて投げ込む。遠くでガラスが割れる小さな音。
ごぼっ!と水音がして、いきなり大量の水が井戸の底から溢れてくる。驚いて覗きこみ、歓声を上げる人々。何もわからないながら、イノの手を取って嬉し涙を流している者もいる。そのままお祭り騒ぎに。
その夜。井戸が完成したお祝いの宴に主賓として招かれた後、疲れながらも嬉しそうにしているイノ。
ルシ 『…まったく。大事にしろと言ったのに、あんな簡単に捨ててしまって。お前と言うやつは…。』
イノ 「捨てたんじゃない。それに、きっと神もこうした方がお喜びになると思うよ。」
ルシ 『まあ…”彼”は、確かにそうかもな…ふうむ。』
ふと、暗い部屋の中で身支度を始めたイノにまた声を掛ける。
ルシ 『もう出るのか?町の者達はまだまだお前をもてなし足りないだろう?』
イノ 「…でも、明日になるとまた他所から人が集まって、無用な騒ぎになってしまうかも知れないし…。」
ルシ 『へえ。大して考えてない様に見えて、だんだんと学習してるじゃないか、お前も。』
黙って眼を伏せると、そのまま外へ出て行くイノ。町を出て遠ざかって行く後ろ姿。
ル シ・語り 『…既に、諸国で彼がお尋ね者に手配されてから、相当な年月が流れていたが、いまだその追手は完全に無くなったわけではなかった。”神秘の力を持 つ、不老不死の青年”はなかば伝説になりつつも、権力者たちが忘れてしまうどころか逆に民衆への影響力は増しているかのようだった。そんな状況なのに、思 い立ったらすぐにためらわず人助けに出て行ってしまう所が、実にあいつらしいよ…』

第十二章 七つの湖の見える丘

照りつける日差しの下、一人の少年が家畜を追っていた顔をふと横に向ける。視線の先、陽炎の彼方から、ローブをまとった大柄な人影がこちらへゆっくりと歩いて来る。思わずくぎ付けになる少年。
ルシ・語り 『…この日、幻影のように現れた旅の男の姿を、少年は一生、忘れることが出来なくなる…』
すぐ近くまで来て足を止めた男の顔を見上げる。フードの影から緩くうねる金髪と、神秘的な碧色の瞳が見え、男らしい口元が静かに言葉を発した。
イノ 「…この近くに、君たちの住んでいる村があるのだろうか?少し話を、聞かせて欲しいのだが…。」
場面転換。上からの構図で、一本道を進む少年とローブ姿の大柄な男。
目の前の白く乾いた道を、少年が軽やかに駆けて行く。丘を登り切ったところで振り返り、ぶんぶんっと大きく手を振って、背後を歩くイノに明るく声を掛けた。
少年 「こっちだよ!早くおいでよ!」
イノ 「ああ…今行く。」
わずかに緊張した顔のイノ。ごくり、と唾を飲み込む。
ル シ・語り 『彼は、この砂漠に近い辺境の土地へ着いてから、長いあいだ追っている者らの「手掛かり」かも知れない、と本気で思える情報に接していた。しか し、それでも、やはりこれまでのように空振りに終わる可能性もある。心の逡巡を抑えかねて、自然と坂を登る足どりが速まっていた。』
少年 「これだよ!きれいだろう!」
急に360度の視界が開けて、抜けるように晴れた真っ青な空を幻想的に映しこむ、巨大な七つの湖が現れた。湖面にはさざ波一つ無く、白い砂地の中に神秘的な蒼い鏡のように静まり返っている。
イノ 「これ…は…」
少 年 「この湖は、百年前に出来たんだってよ。村の長老様が言ってた。その年、空から馬鹿でっかい真っ赤な星がここを目掛けてまっしぐらに落ちて来て、何百と いう雷をいっぺんにならしたような凄い音が響いてから十日後、炎と煙がおさまったんで村の人が来てみたら、こんな大きな穴があいてたって。」
呆然と見つめながら、少年の話をなかば上の空のように聞きつつ、イノがぽつりと呟く。
イノ 「…百年だ…やっと、見つけた…。」
少年 「えっ、なに?何のこと?探してたのは、ここじゃないのかい?」
イノ 「いや…何でもない。ここでいいんだ…有り難う。本当に、教えてくれて…やっと見つけられた…。」
ルシ 『…なるほど。ここに降りたのか…。』
イノ 「っ!」
珍しく唐突に自分の前に姿を現した黒い影に、ハッとなるイノ。すぐに表情を引き締めて。
イノ 「…では、これは、やはり”彼ら”と関係のあるものなんだな?」
ル シ 『ああ…いわゆる「クレーター」だよ。隕石の落下点に出来るアレと同じ…っと、これはずいぶんと先の用語だったな…。ともかく、非常に高い空の上から、 極めて大きな力で地面に叩きつけられた物体の周囲には、その影響でこのような地形が作られる。水の底には衝突時の衝撃によって深くえぐられた穴があるだろ う…この湖の幅と等しい程の途方もない深さの穴が。』
イノ 「…!そ、そんなに深いのか?!それほどの、地を割くほどの巨大な力で、”彼ら”はここに…。」
独り言のようなイノの話の流れが理解できず、ぽかん…とする少年。その存在を忘れているようなイノ。慎重に、遠くの何かを手繰り寄せるような表情で、湖にむかって数歩進む。
イノ 「これほどの…これほど、凄まじい行為を実行させるほどの、”彼ら”の強い思いとは一体…?」
見上げる青年の、何かを痛ましく感じているような横顔に、ふと少年は強い不安を覚える。
ル シ 『単なる衝撃だけじゃない。大気圏突入の摩擦熱によって…いや、とにかく全身を灼熱の炎に包まれるんだ。本当に何人生き延びられたかどうか、怪しいもの だな。その後の”奴ら”の行方について、もう少し近隣で情報を集めてみるといい。生きているとすれば…恐らく、誰かが連中を介抱した筈だ。』
イノ 「ああ…そうする…。」
ルシ 『だが、あまり期待はするなよ?どのみち、”奴ら”の側に引き入れられている人間たちだとしたら、何も話す筈が無いからな…。まあ、案内してくれたこの少年とその一族は信用しても良さそうだが。』
そこまで言って、黒い影は用が済んだとばかりに消える。残された思案顔のイノ。
少年 「…あの。どうかしたのかい?おじさん…急に一人でしゃべり出して…暑さにやられた?」
イノ 「あ、いや…すまない。少し、考え事をしていたんだ…。そうだ、君たちの先祖は、昔この穴のことについて何か他に言い伝えてはいなかったか?例えば、中から人が出てきた、とか…」
少年 「うーん、知らないよ。だって大昔のことだし…。あぁでも、ここには昔は、もっとたくさんの人が住んでたんだ。湖の向こうにも、村がいくつもあって…けど、いつの間にかみんな消えちゃったんだってよ。」
イノ 「消えた…?」
少年 「うん。まるで砂をかぶせるみたいに、一夜で影も形も無くなっちゃったんだって。…昔話だけど。」
イノ 「そうか…教えてくれて、有り難う。」
クレーターの縁を下り湖に背を向けて歩き出した男に追い付いて、少年が急に大きな手にしがみつく。
イノ 「…どうした?」
少年 「だってさ、おじさんが急に怖い顔でわけわかんないこと喋り出すから、近くに”悪霊”でも居たのかと思って、おいら怖くなっちゃったんだ!で、でも手をつなぐのは村の入り口まででいいからね!(汗)」
イノ 「ははっ、そうだな。男の子がみんなの前で怖がってる姿を見せるわけに行かないな…いいよ。」
大きな手がぎゅっと握って来る。その温かさと、力強さ、見上げる視線の先の穏やかな笑顔に、少年は覚えのない不思議な安心感を感じている。突然、”この人のようになりたい!”と思った自分に驚く。
大きな歩幅に、ぴょんぴょん飛び跳ねて一生懸命に合わせながら、少年は憧れる目で見上げている。
少し離れたところからその様子を眺めつつ、黒い影が謎めいた表情で目を細める。
ル シ・語り『…この無邪気だった少年が果てしなき戦いに身を投じ、いまだ長い旅を続ける”彼”の面影を追いかけて行くことなるのは、これから…さて、何十年 後のことだったかな?ま、たまには自分での目で確かめるのもいいだろう…そんなに先じゃないさ。…そう。「ほんの百年足らず」先のことだよ…。』

第十三章 「不夜城の街」の住人

乾いた景色。街道筋から見捨てられかけたような小さな村に、ローブ姿のイノが近付いて行く。
ル シ・語り 『…風の噂に彼が「奇妙な行き倒れの女」のことを聞いたのは、ここからずっとl離れた、もう少し賑やかな町でだった。それは数年前からちょっとした怪談噺 のたぐいのように、人々の間で語られていたが、まさかそれが現実にいる誰かの体験した実話であると、思う者はほとんどいなかったんだ。…そう、少なくと も、あいつを除いてはね。』
フードの下のイノの顔、淡々としているがどこか厳しい目つき。焦りにも見える。
ルシ・語り 『…七つの湖を発見してから、また何の新しい有用な情報もなく、数十年が過ぎていた…。』
村の一軒の雑貨屋に入る。声を掛けると埃をかぶった雑多な商品の棚の間から、退屈そうな顔の主人が出て来て、訪ねてきた用を知ると奥に誰かを呼びに行った。
店の主人 「ああ、ちょっと待ってて下さいよ旦那…まったく、あいつときたら、暇さえありゃあすぐに横になって寝ちまうんだから…だらしのねえことで。っとに、どういう変な育ち方をしたんだか…おーい!」
女房 「…なんだい、うるさいねぇ…起きてますよ…」
奥から現れたのは、まとめ髪が明らかに寝乱れていて、服装も何となくだらっとした中年の痩せた女。いかにも胡散臭そうな探るような目つきでイノを見ている。
店の主人 「こら、なんて口のきき方だ。この旅のお方が、お前の話をお聞きになりたいそうだ。」
女房 「…へえ…それはまた奇特なことですねぇ。男前のお兄さん…こーんなシケたおばさんの話なんか聞いても、何にも面白いことなんかありゃしませんよ…。お愛想なら他を当たって…」
イノ 「いや。私はあなたの話が聞きたくて、峠の向こうの街からここまで来たのだ。」
店の主人 「えっ?旅のお人だとは思ってたが、そんな遠くからはるばるこいつの話を聞きに来たんで?驚いたな…おい、こりゃお前、きちんとお話してさしあげろよ!じゃ、この椅子を…どうぞごゆっくり。」
客のいない店の中で、蔓を編んだカゴだのランプ用の土器の皿だの木の枝のほうきだのに囲まれて、しぶしぶといった感じの女と向き合って座る。しばらくじっと黙って見つめているイノ。
女房 「…何なんです?そんなに見ないでよ…あたしに聞きたいことがあるんなら、さっさとお聞きな。」
イノ 「ああ。では、遠慮なく聞かせて貰おう。ここへ住む前に、あなたは何処から来たのだろうか?」
女房 「…そんなこと聞いてどうするのさ?」
イノ 「聞きたいだけだ。この村へ嫁に来るまで、確かあなたは別の街にいた。そして、さらにそこへ来る前には…誰も知らない”何処かの街”にいた、と。そこはとても不思議な街だった、とも…」
女房 「嫁じゃありませんよ。後妻ですわ…」
俯いたまま、ぼそり、とやさぐれたように答えた女が、ふと真顔になってイノをまじまじと見る。
女房 「…じゃ、お兄さんは、本当にあたしの”あの話”をお聞きになりたいの?これまでに話して聞かせた誰一人、頭っからホラ話だと決めつけて、とても真面目になんか受け取ってくれなかった、あれを…?」
黙ったままじっと真っ直ぐに見つめるイノの目に気付くと、女がわずかに体を震わせる。頬が少し赤い。
女 房 「ええ…そうですよ。あたしは、”こっち”の人たちが誰も知らない街にいた…そこで育った…けれど、其処のことでハッキリと思い出せることって、実を言う とあんまり無いんです…。行き方はもちろん、どうやって抜けだしてきたのかも…ただ、覚えているのは、闇の中にこうこうと光り輝く街の道々と窓…」
そこまで言って、急にぼうっとした陶酔したような目になる女。記憶を見ているらしい。
女房 「大きな…とても大きな、光る”眼”…全部で七つあって、時々こっちを見てる…歌う声が響いて…」
イノ 「”眼”が、七つ…?それは誰の、だろうか?」
女房 「わ、わからない…とにかく大きくて、みんなに崇められて…お祝いのある時は、空に花火が…」
イノ 「はなび?」
女房 「あっ…え?今あたし、何かおかしいこと言いました?」
イノ 「…いや、すまない。何でもないんだ。続けてくれ。」
女房 「ええ、すいません、うまく話が出来なくって…何しろ、あすこに居た時あたし、まだ子供だったからねぇ…あのまま大人になり切ってたら、たぶん、今ここには居ないでしょうよ。疑問なんか持たずに…」
イノ 「…疑問?とは…?」
女 房 「ええと、そのう…私の親が、いたんですけどね、あの街に…一緒に、そりゃあ幸せに暮らしていたんですけど…母が、ある時どこかへ消えてしまって…その後 で、父も何だかおかしくなって…だんだん普通に話も出来なくなって…そしてやっぱり、どこかへ消えてしまったんです…。みんなは褒めてくれたけど…やっ ぱりあたしは、どうしても…」
イノ 「待ってくれ…”褒める”?いなくなったことをか?それは何故…?」
女房 「え…だって、それは…ああ。またあたし、変なこと言っちゃったんだわ…すいませんね…。」
イノ 「いや、いいんだ。あなたの話は、別に変ではないよ。きっと私が知らないことが多すぎるせいだ。順を追って、少しずつ説明してくれればいい。…何故、住人が居なくなると”褒められる”のだろう?」
女、しばらく眉間にしわを寄せて考え込んでいる。いちいち聞かれる度に怯えていたのが、徐々に心を許して、素直な少女のような態度になってきている。イノは辛抱強く待つ。
女房 「…それは、やっぱり”お役にたてる”から…かしら?」
イノ 「役に立つ…?一体誰の…」
その先を聞こうとした途端、急に女が苦しそうに呻き出す。痛むのか、頭を押さえて俯いてしまう。
女房 「うう、だ…駄目です、これ以上は…思い出そうとすると、いつもこんな風に、頭が割れそう…」
あまりに苦しそうなので、慌てて話を中断する。女はしばらく休んでいるとけろりと回復する。亭主が顔をのぞかせたのを潮時に、イノは最後に質問する。
イ ノ 「…体もきついのに、どうもご苦労だった。あと一つだけ、聞いてもいいだろうか?…話している間、あなた自身はその育った街に対して、全く悪い感情を持っ てはいなそうだった。それなのに、あなたは何故、一人でそこを抜けだして”こちら側”へ来ようと思ったのだろうか?私にはそこが、わからない…」
すると女は、ぼんやりと遠くを見るような目で、しばらく考えた後、ぽつり、と呟いた。
女房 「…お日さまが、見てみたかったから。」
イノ 「お日さま?太陽のことか?」
女 房 「…大人たちの中には、あすこへ来る前に”外”の世界に暮らしてたっていう人が結構いて…ほんの時たま、いやに懐かしそうに”お日さま”の話をするもんだ から…あたしは、暗い空に紫や緑や赤の光しか知らないから…だから、一度でいいからこの目で見てみたいなって思って…それで…。親がどこかへ行ってし まって、一人きりになっちゃったから、えいやっ!て…」
だんだんと、素直な少女のようだった顔が、元のつかれた中年女のそれに戻っている。
女 房 「…でも、初めてこの目で見たお日さまは強すぎて、あたしはくらくら来て、倒れてしまった。ずっと歩き詰めだったから、腹も減って…そこを通りかかった 隊商の人達に拾われて、大きな街に連れて行かれた。あたしの話すことは余程変わって面白かったらしくて、見世物みたいに扱われた。…そして、皆があたしの 話に飽きて耳を貸さなくなった頃、今の亭主に後妻として買われたのよ…それだけ。」
長い回想を終えた女が深い溜息をついて、独り言のように言った。
女房 「…時々、なんであすこから出て来ちまったんだろう?って思うわ。何にも疑問なんか持たずに、ずっとあすこで暮らして居れば…もっと幸せだったのかしら?って。…たまにね、戻りたくなるの…。」
イノ 「…。」
複雑な表情で女を見守るイノ。ふと、気配に気づいて振り返ると、亭主が鉢に水と手ぬぐいを入れて、そわそわとこっちを気にしている。「…?」
女房 「ちょっと、まだ御客人との話は終わってませんよ。何ですか?」
亭主 「いや…だってよぉ…お前、また具合が悪いんじゃないのか?ほら、これで頭冷やしたら…」
女房 「何だい。子供じゃないんだから、自分の具合くらいわかりますよ!恥ずかしいから止して頂戴!」
本当に心配そうな店の主人の様子を見てちょっとホッとするイノ。”よかった。大事にされてるようだ…”
店の玄関先で、別れ際に女がイノに言う。
女房 「…あなた様は…旅を続けて、いつかは”あすこ”へお行きになるの…?」
イノ 「…ああ。そうするつもりだ。」
女 房 「そう…。もし、本当に、もう一度”あの街”に行けたら…そしたらあたし、やっぱりすぐに戻って来るでしょうね。ここは田舎で不便だし、気候も厳しいけ ど…でも畑仕事の後や、夜明けに見るお日さまは、そりゃあ素敵な眺めなんだから。温かくて、力強くて…まるで、神様の腕に抱かれてるみたいなの…。」
イノ 「…そうか。それは良かった。…あなたとあなたの親しい人々に、末長く神の御加護があるように。」
村はずれに繋いでいた馬のところに戻ったイノ。柵に腰をおろして脚を組んでいる黒い影に気付く。
ルシ 『久しぶりに、脈のありそうな情報が手に入ったんじゃないか?良かったな…。』
イノ 「…ああ。」
ルシ 『に、しては浮かない顔だが?』
イノ 「私は…さっきの話をきいて、わからなくなってきたんだ。話だけでは、”彼ら”の行いは、本当に滅されなければならないほどの悪事であるとは、到底思えなくて…どういうことなんだろう?」
ルシ 『ふうん。そういうことか…ならば、やはり早く現地を見つけ出して、本人たちに直接、尋問してみるしかあるまい?第一、小難しいことを考えるのはお前のガラじゃないだろう…フッへへ。』
イノ 「うん…それは、確かにそうなんだが…。」
考え込む表情のイノに、首をなでてもらった馬が嬉しそうに鼻先を擦り寄せている。乾いた風が吹く。

第十四章 黒髪の司祭王

風をいっぱいにはらんだ帆を広げた船の上に、相変わらず厚ぼったいローブを羽織ったイノの姿。
イノ 「…不思議だな。こんな大きなものが、風の力だけでこんなに速く動いているなんて…」
ル シ 『この大河には河口に向かって海からの強い風が一年中吹き込んでいる。だから、河を上る時は帆を張るだけで、下る時は流れにまかせるだけで効率的な水上 輸送が可能なんだよ。後に高度な文明が発達するのも頷けるというものだな…ろっとぉ、これはお前にとっては遥か先の話だった。』
舳先に腰掛けて楽しげに喋っている黒い影が、いつものように解説してはフッへへとか笑った。それを見て少しだけ自分もくつろいだ表情になっている。河岸には農地や住居がのんびりと広がっている。
イノ 「これだけ探し求めても”タワー”の手掛かりにはいま一つ迫り切れない…。海を越えて、こんなに遠くまで足を延ばしてみたが、無駄足にならなければいいと思う。あなたは時間は幾らでもあると言うが…」
ルシ 『ったく…こんな良い風が吹いていて、リゾート気分な眺めが広がってるというのに、お前はホントに堅物だな…もう少し旅を楽しんだって、別に罰なんかは下らないと思うぞ?もちろん使命は大事だが。』
イノ 「…りぞーと?」
ルシ 『それは、まぁ、いい。…とにかくここはもう別の大陸で、文化圏もかなり異なる。…などとお前に言ってもわからないだろうから、せいぜい気を楽に持って用心しておけ。…加護はどこでも有効だ。』
イノ 「うむ、有り難い。ひとまず一帯を治める有力者に面会を求めてみようと思う。」
水面を渡る風が重そうなローブを揺らして行く。
ル シ・語り 『…彼は海を越え、隣り合った別の大陸にまで探索の範囲を広げた。もちろん、彼の時代に「大陸」などという概念はまだ存在しないが、それでも、部 族社会のしきたりなどに文化の違いは垣間見えてことだろう。そして、「神と人の在り方」も、彼の故郷と、この地では少し異なっていたかな…?』
船を下りて、都らしき賑やかな街並みに入って行く。流石に遠方のここまでは、自分の手配書は回っていないのがわかっているので、見まわす表情も少しリラックスしている。…と、屋台で熱々の豆のスープを頬張っていたイノの前に、突然、この国の役人と思しき数名が立ち止まる。
イノ 「…!」
役人 「旅のお方に申し上げる、我らが司祭王があなたをお待ちです。宮殿においで下さいますよう。」
思わず警戒しているイノに、相手は腕を広げて敵意が無いことを示す。
イノ 「あなたがたの王は…何故、私をご存じなのか…?」
役人 「当然です。予言がありましたから。」
イノ 「…予言?」
何か感じるものがあり、おとなしく同行するイノ。石造りの像に寄りかかってそれを眺めている影。
あたりで一番大きい建物に招き入れられる。中に入って気付いたのは、イノ以外に立ち働いている者たちが全員「女」だということ。質素で、神官や巫女のようなゆるやかな格好をしている。
柱の並ぶ長い廊下を抜け、大広間に通される。石造りの玉座の正面に膝を付くと、その前にうやうやしく掲げられていた大きなヤシの葉が両側から上げられ、玉座に腰掛けた黒髪の美しい女が現れた。
イノ 「これは…女王陛下…?」
司祭王 「国の者たちは、わらわのことを司祭王と呼ぶが。この国の祭祀を全て取り仕切っておるゆえな。しかし、お前は旅の者。好きに呼ぶがよい。」
イノ 「お眼にかかれて光栄です…お招きに感謝し…」
司祭王 「堅苦しいな。そんな話をするために呼んだのではない。…そうだな、まず戦って貰おうか。」
イノ 「…は?」
突然、開いた扉から異様に大きな黒い豹が現れ、唸り声を上げてイノに飛びかかる。
ルシ 『気をつけろよ。そいつは強力な呪術で操られているぞ。』
イノ 「…!」
な らば、と瞬時の判断で腰に下げていたアーチを引き抜き、一回目の攻撃を受けると、光の刃を広げてズダンッ!と黒豹の胴体を真横に薙ぐ。見たことのない武器 に一瞬にして広間が騒然となるが女王は平然と眺めている。短い鳴き声を上げて黒豹の体が床に落ちるが、血は一滴も出ていない。
イノ 「穢れていないものは、この武器では傷つけられることはありません。…気を失っているだけだ。」
司祭王 「成程…呪いの力だけを斬ったと言うのだな?そなた、中々面白いのう…よい。客人を奥へ!」
ふと、女王が美しい黒髪をなびかせながら振り返り、「…そちらもな…」と壁際のルシに声を掛ける。
ルシ 『…私を感じられるのか?あの女…どうやら祭祀を司るというのは伊達じゃないようだ。気を緩めるなよ…あの手合いは、油断のならない女だぞ。』
明らかに面白くなさそうなルシを見て、ちょっと”…おやっ?”となるイノ。
謁見の間のさらに奥、女王の私室らしき小奇麗な部屋に通される。(傍目には二人きりだが、実際は影のように控えるルシと、女王の肘かけ代わりに蹲っている先ほどの黒豹がいる。)
女王 「…そのように畏まらずともよい。あと、その暑苦しい外套は脱いではどうか?それとも、わらわに肌を見られるのは不都合か?」
イノ 「いえ…では、御言葉に甘えて。」
人前ではあまり外すことのないローブを脱ぐ。見事な筋肉質の体に、不思議な構造の白い鎧。
女王 「ほう…。思った通り、美しいな…見事なものだ。」
イノ 「私をご存知であったのは…予言があったため、と伺いましたが…?」
女王 「そうだ。我はこの地の王である前に、巫女たちの長であるゆえな。ときおり我が神よりの予言を聞く。この度は、遠き地の神と天使に守られし白き翼の美しき男がここを通過する、と告げられた。」
真意がつかめずにイノが黙っていると、それを気にもせずに女王があでやかに微笑する。
女王 「まこと予言の通り、お前は強く、清らかで、美しい。遠き地の神に祝福されているのもわかる。…が、どうじゃ?ここでわらわと暮らしてみる気は無いか?」
イノ 「と、申されますと…?」
女王 「わらわの夫にしてやろう。この地は女系社会でな、「女王」もしくは「王の妃」を娶った者が、次の王になる資格を得る。…お前を王にしてやろう、と言っておるのじゃ。どうだ?」
片膝をつくイノの後ろで、ルシがおやおや…と肩をすくめている。女王が悠然と立ち上がって、薄絹から透き通るのびやかな肢体を見せつけるように、イノの傍らに立ってその肩にほっそりした手を置く。
何と答えたものかわからず、イノが口ごもっていると、迷っていると勘違いした女王がさらに体を近づけてくる。耳に甘い息を吹きかけながら低い声でささやく。
女王 「…お前は、お前の神から、何やら辛く苦しい使命を受けておるのであろう?それを捨てることも、出来ないことではないのだぞ?我が神はもっと生を楽しめと教えておられる…何故、拒むのだ?」
イノ 「私は…申し訳ない。有り難き御言葉なれど…やはり、お受けすることはできません。この旅は、我が神に命じられたというだけではなく、私自身の意志でもあるからです。」
女王 「わらわのたっての頼みを断ると申すか…?」
イノ 「はい。申し訳ありません…罰せられるというなら、鞭でも何でも甘んじて受けましょう。」
それを最後まで聞かずに、女王は面白くなさそうに黒豹のいる長椅子に戻る。くだけた姿勢で寄りかかる姿は、どこか疲れているようにも見える。
女 王 「…なんだ、つまらぬ。ようやく骨のありそうな男が見つかったと思うたのに。…国をまとめ、部族の者たちの平和な暮らしと安全を守り、舵取りをしていく のは傍で見ているより重いものよ。支えてくれる男、それも強く、神に祝福されていれば尚良い…などと探したのだが、中々条件には合わんのでな。」
そこへ扉の隙間から小さな男の子が走り込んで来る。珍しい格好をしたイノに興味しんしんで、眼を輝かせながら周りを歩き回っている。女王が愛おしげにその子を見つつ呟く。
女王 「…わらわの亡き夫との子じゃ。いずれわらわが死に、この子の代になれば国は大いに乱れる…それが予言によって分かっているゆえ、優れた後見人が欲しかったのじゃが。徒な望みだな…。」
イ ノ 「それは…確かに、神のお告げとあれば起こることではあるのでしょう。ですが、その結末までが、全て決められた通りとは限りません。我が神は、私を見守 る者の口を通じて、こう仰られた…人の力は”選択”にこそあると。未来は、心がけと行い次第で望む姿へと変えて行けるものと存じます。」
無邪気にひざに乗って来た男の子にニコッと笑いかけながら。
イノ 「それに、王子はまことに賢いお顔をされておられる…いずれ、民を守る強き王となられましょう。」
女王 「…それは、お前の予言か?」
イノ 「いえ。私にそのような才はありません。思ったことを申し上げたまでです。」
それを聞く女王は神秘的な瞳でじっとイノを見つめた後で、ふっと小さく息をつく。切なげに少し笑う。
女王 「予言の通りだな…”ハヤブサの翼を持つ神の使者”。やはりお前は、留まってはくれぬようだ…」
再び立ちあがった女王、イノにも立つように促すと、その首に腕を回す。焦るイノを全く気にかける様子もなく、美しい瞳を半眼にして、肩越しに遠くの何かを見ようとする。
女 王 「…お前の背中の向こうに、闇をまとった大きな”塔”が見えるぞ。邪悪な姿だ…お前はあれを止めに行くのか…成程な。どうやら遠く離れた我が民も、無関 係ではいられないらしい…。そうか…お前は、わらわよりもずっと重いものを…”世界”を、背負っているのだな…。ならば、仕方があるまい。」
イノ 「…!それは、塔は、いずこにあるのでしょうか?!」
女王 「場所はわからん。この世の外にあるようにも…この世の裏にあるようにも見える。確かなのは、お前がいずれ必ず、そこへ辿り着くということだ。わらわに見えるのはここまで…。」
ふっと腕を外し、女王が疲れたように長い睫毛を閉じた。そのままイノの腕の中で気を失ってしまう。
王子 「ははうえー…」
イノ 「…大丈夫。疲れてお休みになっているだけです。長椅子にお運びして…」
黒豹と王子に見守られて眠っている美しい女王に、うやうやしく片膝を付いて別れの挨拶をするイノ。
イノ 「有り難うございました…あなたの善き治世が長く続きますように。神々の祝福を…。」
部屋の外に控えていた女官たちに女王の就寝を告げて、イノは宮殿の外へ向かって歩きながら、興奮を抑えきれない様子。”私は…塔に辿り着けるのだ!女王の予言はそう告げた…”
隣を見ると、珍しく一緒に並んで歩きながら(といっても周囲に姿は見えない)ルシがにやついている。
ル シ 『…あの女と契れば、お前は一国の王になることも可能だったんだぞ?いかなる贅沢も、権力も、美女も望みのまま。…人の世のほとんどの者が狂おしい程に 欲しがるものを目の前にぶら下げられて、全くグラリともしないとはね…恐れ入ったよ。お前の朴念仁ぶりには。”彼”が面白がるわけだ…』
イノ 「仕方が無い。だって、私にとってはそれらの全てよりも、我が神の御信頼こそ尊いものだから。」
宮殿の外へ出ると、頭上高くに、いかにも速そうなとがった翼を持つ鳥が円を描いている。
イノ 「あれは…ハヤブサだろうか?」
ル シ・語り 『この地で彼に告げられた予言は、厳密には”我々の”神によってもたらされたものではなかったが…まあ、正直どっちでもいいさ。そのおかげで、あ いつがまた元気になったようだから。はるばると海を越えて来た甲斐があったよ…とはいえ、やっぱり私には、どうにも居心地がよくないね…ははは。』

第十五章 遥かなる「塔」への道

街道からやや外れた灌木に挟まれた道の途中で。見るからに暑苦しい格好をした屈強な男が二人で向き合っている。その一方、フードを外しながら、イノが信じられない、という口調で問う。
イノ 「…いま、何と言ったんだ…?」
相手の男の表情は強い日差しと目深なフードの陰になっていて見えない。
男 「私は、”タワー”から来た。…あんた、”永遠の若き賢者”とか”白き衣の英雄”とか言われてる人だろ?色んな偽名を使ってるが…本当の名前は…いや、それはいい。とにかく私の話を聞いて欲しい…」
イノ 「…!…”タワー”と言ったのか…?やはり、実在するのだな!?」
男は無言でうなずくと、すっぽりと顔を覆っていた布を外す。ひどく用心深い仕草。歴戦の兵士のような精悍な顔が現れる。よく見るとあちこちに細かい傷もある。
男 「…我々「自由の民」を統べる者、シンの使いとして私はここへ来た。シンはあんたを知っている。旅の手助けをするよう、あんたに我々の得た情報を与えるように言いつかっている。」
そう言って男は懐から何かびっしりと書き付けた羊皮紙を取り出す。イノが受け取ると、そのまま無言できびすを返そうとする。
イノ 「ま、待ってくれ!もう少し話を聞かせて欲しい…タワーへの道は、何処に…?」
男 「…悪いが、それをあんたに告げることは禁じられている。」
イノ 「?!何故だ…?」
男 「知らん。それがシンの意志だ。ひいては、我らが崇める”勇者イシュタール”の。」
イノ 「イシュタールの…?」
いかにも意志の強そうな鋭い目付でそう言われ、早々イノは道案内を請うことは出来ないと判断する。
イノ ”…それは自分で探せ、ということか…?”
と同時に、彼らの長であるというシンという男も、きっとさらに強固な意志の持ち主なのだろう、と思う。
イノ 「…ならば、せめてこれだけ教えてくれ。タワーのある場所には、普通の人間もいると聞いた…そこはどんな場所だ?人々はどんな風に生きている?…酷い迫害や虐待を、されているのだろうか…?」
聞かれた男は、何か含むところあるような表情でじっとイノを見た後、やがて重々しく口を開いた。
男 「…”タワー”のもとで、人々は狩りや農作業といった過酷な労働から解放されている。街々の通りは闇の空の下でも極彩色の人工の光によって真昼のように明 るく、煮炊きの火も水も、わざわざ遠くまで採りに行かずとも、思うがままに手に入る。あらゆる生命は不可思議な術によって操作され、生まれてすぐに死ぬ赤 子も無ければ、重い病人も無く、老人さえもが考え得ないほどの長生きをする…。」
不意に、イノがひどく戸惑ったような顔で問い掛ける。
イノ 「すまない…それは何と言うか…まるで、人にとって良いことばかりのように聞こえるのだが…?」
その反応を予想していたように、鋭い視線を一瞬も外さずに男がイノに答える。
男 「…本当にそう思うか?ならば実際に自分で足を運んで彼の地を見るがいい。その有様が、如何に神の作った自然の摂理に反し、傲慢かつ異様なものであるかを。…あんたにも、じきに分かる…。」
イノ 「…傲慢で、異様…?」
それだけ言うと男は今度こそきびすを返して去って行った。
イノ ”…まるで、誰かに見られることをひどく警戒しているようだな…では、彼らにも、追手が…?”
と、そこへ場違いなのんびりした声が降って来る。
ル シ 『彼ら「自由の民」は神に対しても信仰深くて忠実だが、何より、彼らの部族の間に昔から”伝説”として伝わる”勇者イシュタール”を崇め、その復活を期 しているとか。堕落が生んだ終末の劫火から世界を救おうとして、しかし、あと一歩、力及ばずに倒れた、気の毒な女性だよ…』
イノ 「あなたは知っているのか…?」
ルシ 『ん、まあな。伝説は伝説として、ね…。』
考える風に手の中の羊皮紙に視線を落とすイノ。荒涼とした乾いた風が灌木を揺らしている。
自由の民と別れた後も、黙々と旅を続ける。常にじっと何かを考え続けている様子。
古い廃墟での野営中。たき火を見つめながら、イノがぽつりと呟く。
イノ 「なぁ聞いているか?…何故、伝説の勇者は…女性なのに、”世界を救うため”に戦ったのだろう?」
廃墟の崩れた石柱に寄りかかって、黒い影が、しばらく間を置いてから、ひっそりと答えを返す。
ルシ 『…何故、そんなことを思った?』
イ ノ 「いや…不思議なんだ。私の中で、女性がそんな風に自ら戦いを求めるとは、どうしても思えなくてな…。男は、もともと腕っぷしを競うことが大好きで、戦い を求める生き物だと言う者も多いが…女性はそうではないだろう?例えば、自ら戦いを求めたことはない私の旅が、神の御意志に従うものであるように…私の 知る範囲で考えられる限り、女性が自ら戦うのは…愛する人と、自らの子の為だけだ…。」
たき火の向こうで黒い影が謎めいた笑みを口元に浮かべている。
ルシ 『ほう…お前は、そう感じたのか…。いいんじゃないか?伝説の解釈は人それぞれにあっても。』
イノ 「やはりわからない…女性である勇者が…自分の子供や家族が不幸な事故や、病気で死ぬことの無い、”安寧の世界”を拒絶し、その支配を覆そうとする者たちの象徴であるのが…何故なんだろう?」
苦悩がきざまれた額を俯かせ、独り言のように続けて呟いている。
イ ノ 「…もう、遠い昔のことだが…私の幼い子が流行病に掛かって苦しんでいた時に、もし、その苦痛をたちどころに除いてくれる方法があったとしたら…間違いな く、私と妻は歓喜したことだろう…。子供を救うためなら喜んで自分の身を代わりに差し出したいとすら思うのが親だから。…これには男女は関係ないと思う。 それに、毎日煮炊きの水汲みや薪集めに苦労していた妻を重労働から解放する方法があったなら…私はきっと歓迎した筈だ。それが神の道に背くかどうかなど、 気付きもしないだろう…。」
生真面目に考え続けるイノを、黙って眼を細めて見ている黒い影。好ましそうな笑顔。
イノ 「わからない…。彼の地にはあるのは…”タワー”とは、一体何なのだろうか?…確かめなくては。」
ルシ 『…ああ。自由に選択するがいい…お前の心のままに…。』
場面転換。果てしない大地を、一人で旅を続けるイーノック。背後には様々な情景。
ル シ・語り 『こうして彼の旅は最終的な局面を迎えていたが、それは早い決着を意味していなかった。旅を続けることは、彼にとっていつしか考えることと同義になってい た。眼に映るもの全てを記憶し、考え、咀嚼しては、また新しい意味と未知なる光景に出会う…。彼は、次第に言葉に出して語らなくなったが、しか し、頭の中では常に無数の疑問や思念が渦巻いていた。…成程、彼は賢者になりつつあった。』
ル シ・語り 『百年がたちまち過ぎた。そして、さらに数十年が…。その間、彼は多くの光景を見た。旅の出発点の空を覆っていた”帳”…今やそれは遥かに広い大地を覆う ようになっていた。その帳の下の、いくつもの場所で、彼はかつてとは異なってしまった景色に出会った。”傷跡”と言ってもいい…』
大きな岩が転がる崖の下で見上げているイノ、眉をひそめている。”ここは、大きな滝だったはず…?”
ル シ・語り 『…彼は全ての”答え”に辿り着いたわけではなかったが、そのいくつかに、肉薄してはいた。上流の水を根こそぎ奪われた不毛の土地。無理な採掘のせいで垂 れ流された鉱毒で死滅した野山。定められた命によって死すべき筈のところを、歪んだ欲望のためにキメラ化しても生き永らえる者共。…タワーが作ら れたことで、周辺の元々肥沃で無い土地に、都市を存続維持させるために掛け続けられる大地へのおびただしい負荷…。それら全ての暗黒を、彼はまだ完全に理 解してはいなかったが、しかし本能的に感じ始めていた。確かにこれは、タワーとその意思は、神の摂理に背くものであると。』
雪をかぶった山脈の峠を越えているイノ。ふと見ると、谷底の川に鹿の親子が見える。子鹿が冷たい水中に落ちて動けなくなってしまったらしい…。迷いもなくローブを外して投げ、助けに向かうイノ。
イノ 「動くな!大丈夫だ…きっと助けてやるから…そら、もう少し…」
自 分も歯をがちがち言わせながら子鹿を抱いて岸に上がる。震える手で火打石を打って火をおこすと、心配そうに舐めている母鹿から子鹿を火の側へ移動させ、自 分のローブで拭いてやる。しかし、子鹿はぐったりして動かない。懸命に体をさすってやるが、次第に冷たくなって行く…。
イノ 「頑張れ…あきらめるな、生きろ…生きるんだ…!あぁ…。」
とうとう眼を閉じて、氷のようになった子鹿の体をぎゅっと抱きしめると、母鹿の足元にそっと返す。
イノ 「すまない…出来れば助けたかったが、間に合わなかった…すまない…。」
母鹿はまだ子鹿の体に鼻先をこすりつけて、起こそうとするように揺すっている。辛そうに見るイノ。
が、自分のほうも体がガタガタ震えていることを思い出し、たき火に薪を足そうとするが、足がもつれて倒れる。ひざが震えて立ち上がることが出来ない。次第に視界が狭く、暗くなって来る…。
イノ ”ああ、まずいなこれは…。”
低体温症のようになって、そのまま意識を失ってしまう。
イノが目を覚ますと、自分の体にぴったりと密着した母鹿の姿を見つけた。頭上から声。
ルシ 『…まったく、少し油断するとこれだ。この鹿が自分の体温でお前を温め続けてくれなかったら、今頃はとっくに凍死してるぞ?礼を言うんだな…』
イノ 「あ…そうか…。すまない。有り難う…」
感謝をこめて鹿の首筋をなでる。鹿はすっと立ち上がり、すぐそばに横たわったままの子鹿の体に身を寄せた。じっと眼を閉じて長い首を垂れている姿は、動物でありながら死者を悼んでいるようだった。
イノ 「…そうだったな。この子を、温かい土の中に早く埋葬してやらないとな…。」
ふらつく足で立ち上がると、アーチの柄の部分をシャベルのように使って地面を掘り始めた。
ルシ 『お前な…神の叡智をそんなとんでもない使い方して、イイと思ってるのか?』
イノ 「後でちゃんと洗って浄化するから…今だけ許して欲しい。」
ルシ 『第一、だ。”それ”には、もう魂など何も残っていないぞ。ただの抜け殻だ…』
イノ 「…私は人間だから、こうすることが必要なんだ。」
珍しく強い口調で言うのを見て、ルシは口を噤む。やれやれ…という顔で、母鹿とともに見守っている。
夜になって、一人洞窟のような場所でぼんやりと火に当たっているイノ。ふと、小さな声で呟く。
イノ 「…イシュタール…。」
ルシ 『彼女が、どうかしたのか?』
急に隣に座っていた影に驚くでもなく、どこか遠くを見るような目つきで答える。
イノ 「ああ…急に、考えたんだ。勇者イシュタール…彼女には、生前に子はあったのだろうか?と…。」
ルシ 『さあ、どうだかな。何せ伝説上の人物だからな…まあ、女性ならば好きになった男の一人や二人くらいは、普通にいたのじゃないかな…?とはいえ、子供となるとまた別だろうが。』
イノ 「…彼女は…一体、何を守ろうとして…自ら戦いに赴いたのだろう…?どうして、彼女でなければならなかったのだろうか…伝説、とは……」
そのまま、話しながら眠りに落ち始めている。座った姿勢でローブにくるまったまま、静かな寝息を立て始めたイノの横顔をしばらく眺め、ふっとルシが密やかな微笑を浮かべる。天空から見下ろすように。
ルシ 『…お前になら、いつか分かると思うよ…全ての答えが、ね…。』
洞窟の外、空には満天の星が”帳”で滲んだように光っている。

終章 はじまりの終わり

とらえどころのない乳白色の空の下に、荒涼とした灰色の大地が広がっ ている。そこに地平線まで延びる一本道があり、遥か彼方に不思議な建造物のシルエットがおぼろげに見えている。その長い一本道に正対するように、神の武器 を携えたイノがしっかと大地を踏みしめて立っている。
ルシ 『…行くか?あの先には、何かがありそうだな…』
イノ 「ああ。とっくに準備は出来ている。」
深い緑色の瞳に、落ちつき払った光を浮かべて。長い旅の間ずっと身に着けていたローブを、強い風にまかせて宙空へと投げ捨てる。バサアッ、と大きな鳥のようにそれは舞い飛んで背後に消える。
ルシ 『ならば行け。…自由に選択するがいい、未来を。』
一瞬、黙ったまま視線を合わせた後で、前を向くと勢いよく金髪をなびかせて走り出した。

ルシ・語り 『…こうして、彼の”最後の旅”が今、始まった。』



<365・完>

365Ⅱ

この物語は、ゲーム本編の展開をはさんだ後、ふたたび妄想捏造二次創作シナリオ風小説「ながいながい旅の終わるとき」に続きます。出来れば、筆者が別サイトにて公開している同テーマの妄想捏造二次創作漫画シリーズを先にお読み頂けると、そちらもさらに楽しめると思います。こちらで無料公開してます(※別サイト)→ http://t.co/v0QhIxk6mo

(※この物語はファンによる二次創作活動であり、ゲーム・周辺小説等の公式とは一切関係ありません。)

365Ⅱ

”ならば自らの眼で見るがいい。その世界が如何に傲慢で、神の意志に背くものであるかを―。” ゲーム「エルシャダイ」の発売前後からの妄想捏造二次創作シナリオ風小説です。ゲーム本編冒頭と資料集で軽く触れられただけの、主人公イーノックが堕天使達のタワーを探す「365年の旅」を妄想して描いているうちの後半です。(※書かれた時期は原作小説発売より前) 物語内には主人公イーノックと大天使ルシフェル、あとはイーノックが道中出会う筆者オリジナル設定の人間達が出てきます。 永遠に続くかのような地上界をさすらう長い旅の果てに、義人イーノックが見出だしたものとは…?

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-19

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 第九章 国王の胸飾り
  2. 第十章 なつかしい墓の前で
  3. 第十一章 天空からの贈り物
  4. 第十二章 七つの湖の見える丘
  5. 第十三章 「不夜城の街」の住人
  6. 第十四章 黒髪の司祭王
  7. 第十五章 遥かなる「塔」への道
  8. 終章 はじまりの終わり